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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 14

見よう見まねの極意と、ポンコツ女神の証明

赤黒い闘気の残滓が、チリチリと空気を焦がしながら霧散していく。

完全なる静寂がポポロ村の畑に降りた直後だった。

「はぁ……っ、はぁ……っ……ぐっ……」

龍魔呂の巨躯が、糸の切れた操り人形のようにグラリと揺れ、その場に崩れ落ちた。

両膝をつき、荒い息を吐く。初めて己の生命エネルギー(闘気)を極限まで引き出し、物理的な破壊力として放出した代償だ。全身の筋肉が悲鳴を上げ、視界が明滅している。

「龍魔呂さんッ!!」

潰れた太陽芋の山から身を起こしたキャルルが、自らの打撲の痛みも忘れて弾かれたように駆け寄ってきた。

泥と芋にまみれながら龍魔呂の太い腕にすがりつき、顔面蒼白になっている。

「えぇっと、えぇっと! やばいですぅ! 龍魔呂さんが死んじゃうですぅ!」

茂みから飛び出してきたリリスが、パニックを起こしてピンクのジャージを振り乱していた。しかし、彼女はハッとして両手を胸の前で組んだ。

「そ、そうです! 私、女神でした! せ、聖なる光よ! ……『ヒール』ッ!!」

リリスが祈るように叫んだ瞬間。

彼女の手のひらから、温かく、そして圧倒的に清らかな『黄金の光』が溢れ出した。

その光は龍魔呂とキャルルを優しく包み込む。龍魔呂の額から流れていた血がピタリと止まり、裂けた皮膚が瞬く間に塞がっていく。キャルルがホブゴブリン頭に叩きつけられた際の全身の打撲も、嘘のように痛みが引いていった。

「……ふぅ」

龍魔呂は重かった身体がふっと軽くなるのを感じ、ゆっくりと立ち上がった。首を回すと、いつもの調子でボキボキと小気味良い音が鳴る。完全回復だ。

龍魔呂は、涙目でゼェゼェ言っているピンクジャージをマジマジと見下ろした。

「リリス。……お前、本当に女神だったんだな」

「ひっどぉぉぉぉぉいッ!?」

リリスが両手を振り回して猛抗議する。

「今まで何だと思ってたんですかぁ! ちゃんと役に立ったでしょ!? 凄かったでしょ!?」

「あぁ。助かった。……ありがとうな」

龍魔呂が普段の凄みを消し、ふっと柔らかい表情で真っ直ぐに礼を言うと、リリスの動きがピタリと止まった。少しだけ頬を赤く染め、えへへと照れ笑いを浮かべる。

「えへへ♡ 分かればいいんですぅ。その代わり、今日の夜も最高に美味しいご飯作って下さいね! この前のチャーハン大盛りで!」

現金すぎる女神の要求に、龍魔呂は呆れながらも「分かったよ」と短く返した。

そこへ、算盤をカチャカチャと鳴らしながらニャングルが恐る恐る近づいてきた。

彼方まで吹き飛んだホブゴブリン頭の死骸と、目の前のヤンキーを交互に見比べ、その猫耳を戦慄に震わせている。

「りょ、龍魔呂兄貴ィ!? さっきのあの『赤黒い闘気』は何なんですのん!? あんなもん、到底人間技じゃありませんで!?」

獣人族であるニャングルだからこそ分かる。闘気オドとは己の生命力を燃やす技術であり、あそこまで高密度かつ巨大なエネルギーを放出すれば、普通の人間なら自壊して死んでいる。

だが、龍魔呂はポケットから新しい煙草を取り出しながら、至極当然のように答えた。

「さぁな。……さっき、キャルルが足に銀色の闘気を纏わせてんのを見ててよ。『面白そうだから、俺も使ってみたいな』と思って、ちょっと気合いを入れてみただけだ」

「は……? 『使ってみたい』……?」

キャルルの兎耳が、あり得ない言葉を聞いたようにピンッと硬直した。

「龍魔呂さん、使ってみたって……闘気オドは、何年もの血を吐くような修行を経て、やっとほんの少しだけ身に纏うことができるようになるものなんですよ!? それを、たった一回見ただけで……!」

キャルルの声が震えている。

東京のストリートで、数多の格闘技(柔道、空手、合気道)を極め、常に実戦の中で「相手の技を盗み、喰らう」ことで最強の座に君臨し続けてきた男。その圧倒的な格闘センスと規格外の生命力が、異世界の概念すらも『見よう見まね』でねじ伏せてしまったのだ。

「龍魔呂さん! 凄すぎます! しかも、あの桁違いな闘気の量……! やっぱり私の目に狂いはありませんでしたぁ♡」

キャルルは再びヤンデレの瞳を潤ませ、龍魔呂の腕にギュウウッと抱きついた。

「流石は兄貴やわ……! ワテ、兄貴に一生ついて行きますさかいな!」

ニャングルの頭の中で、パチパチパチパチッ!と猛烈な勢いで算盤の珠が弾かれる。

(この圧倒的な武力……天才的な学習能力……そして料理の腕! これはもう優良株とかそんな次元やない! 大陸の覇権すら握れる『超特大の金脈』やで!!)

「おう。ついてくるのは勝手だが、邪魔はすんなよ」

龍魔呂はキャルルを引き剥がそうともせず、ライターで煙草に火を点けた。

「それより、潰れた太陽芋を片付けるぞ。土に還して、次の作物の肥料にする。無駄にはしねぇ」

激戦の直後だというのに、彼の意識はすでに「次の農業」へと向かっていた。

最強の農業ヤンキーと、彼に胃袋と命(と算盤)を握られた異世界の住人たち。ポポロ村からの下剋上が、凄まじい熱量と共に加速し始めていた。

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