番外編 だれも知らない3
リナとの出会い編です。
レイは物心着いた時から、自分がほとんどの人間に厭われていることがわかっていた。
見た目だけにキャーキャー騒ぐ人間などどうでもよく。
自分の一番近しい人間、例えば母親などに見るのもいやだという顔で何度も見られていることに気づいていた。
その理由は、どうやら母親の兄にあるらしいと知ったのは、身体の関係を持ったメイドの一人から聞いた情報だった。
そういえば、生まれ落ちた時から、抱き上げられた記憶もない。
エドアルド国王が即位したのも、ちょうど自分の生まれた年と同じ。
父親はすでに実の息子のフレッドによるクーデターで命を失っており、本当の父親は行きずりの男であると皆が信じていた。
レイも例外ではなく、ただ、それゆえに自分は嫌われているのだと思っていた。
だが、ある日、些細な出来事で怒りを覚えた自分は。
確かに怒りの目を母親に向けた。
チリチリと脳みそが目の辺りから焼け爛れていくような感触があった。
母親は、そんな自分に目を見張った。
その瞳に浮かんでいたのは紛れもない怯え。
母親の澄んだ瞳に映った自分の姿に、自分自身で動きが止まる。
なぜか赤い目の人間が立っている。
赤い目の人間などいないのに。
ヒィィィと甲高い声をあげて、母親が叫び始め。
レイはメイドたちが彼女を捕り巻き始めたのを見て、静かにその場を去った。
そして、足を運んだのはかつての魔王の居城。
国王がほとんどの魔を払ったため、今ではただの森となった場所だが、それでもかつての魔王の居城に好んで近寄る人間はいなかった。
「だぁれ?」
枯れ果てた城の庭のベンチに座って、涙など一滴も出ないのに両手で顔を覆っていると。
ふとそんな声が聞こえてきた。
空耳?
まだ幼い、舌足らずな声。
無視していると、ツンと服の裾を引っ張られた。
「おにいちゃま、どうしてないちぇるの」
ようやくレイはそれが幻ではないことを知って。
目を開けると、そこには幼いといえば幼すぎるおかっぱ頭の子供が立っていた。
真っ黒で溢れそうな瞳を自分に向けて、目をそらさない。
「おめめがあかいのね」
言われてはっとした。
まだ、変化したままなのだ。
隠そうとしたが、レイはなぜか自暴自棄になり子供を静かに見返した。
「かたほうはむらちゃきなのに」
くしゃりと子供の顔が崩れた。
泣かれる、と思った。
恐怖で、母親のように叫ばれると。
その瞬間を見たくなくて、目をつむりかけ。
次の瞬間の子供の仕草にレイは目を見張った。
「もっとみちゃい。だっこ」
そう言って、裾をツンともう一度引っ張ったのだ。
目の奥が熱くて。
レイは言われるがままに、子供を抱き上げた。
子供は恐怖に怯える様子もなく。
うれしそうに、笑ってレイの頬にその小さな手で触れた。
「おめめ、とってもきれいね。おにいちゃま」
レイはなぜか大声で叫びたい感情にかられ。
ぎゅぅと名前も知らぬ子供の身体を抱き寄せる。
やわらかな、小さなその身体は暖かくて。
今まで感じたことのない感情を胸の奥に感じる。
熱くて。
痛くて。
「レイ。レイって呼んで」
「れぇい?」
子供が名を呼ぶ。
レイの全身を走り抜ける感情。
これをなんと呼ぶのか、レイにはわからない。
ただ、この温もりを手放すことは二度とできないと…なぜか感じて。
無言のままにぎゅぅともう一度抱きしめたのだった。
クライ・マスターはこのお話でとりあえず完結したいと思います。
これまでお付き合いいただきありがとうございました。
また別の作品でもよろしくお願いします。