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突然の告白

 まばゆい光が私を包む。

……あ、エンジだ。エンジはこちらに向かって、笑顔で手を振っていた。

 エンジが離れていく。私が手を伸ばそうとしても届かない。

 ズキッ――心が痛い。

 いや。行かないで!

 お願い、行かないで!!


「エンジ!!!」

 そう叫びながらがばっ、と飛び起きた。そこはベッドの上、私の部屋だった。

 どうやら夢だったみたい。ひどい悪夢だよ。

 ふと見ると枕は涙で濡れていた。泣いていたんだ。最近何度となく同じ夢を見るようになっている。

 あの日以来、私はなんとなくエンジを避けていた。一緒にいると逆に辛くなるから。エンジの方もバイトで忙しいかったから、気付かれずに済んで良かったんだけど。


 季節はもう12月。今年は暖冬だからまだ雪は降っていない。

 最後の期末テストも無事終了。まだ結果は出てないけど、リュウのお陰で今回は手応えを感じていた。

 もちろんリュウはまた学年トップだろうなぁ。そしてエンジは英語以外ダメ。それがいつものパターン。


 ところでエンジはウェイターのバイトを辞めたみたい。私達はテスト勉強で行けなかったんだけど、最後の日は店中が女の子で溢れて大変だったって、駅で偶然会ったアンナさんが言ってた。

 辞めたということは例の指輪は買えたのかな?

 そう言えばもうすぐクリスマスだなぁ――。


 ある日、暇になったエンジの誘いで、合格祈願に神社までお参りに行くことになった。

「クリスチャンなのに神社に行っていいの?」って突っ込んだら

「みんなも仏教徒なのにクリスマス祝うだろ?」なんて切り替えしてきた。

 確かにその通り。こういうところは口が立つというか、頭良いよね。エンジは勉強嫌いなだけで頭は悪く無いんだと思う。


 少し人の少ない駅でバスを降り、歩くこと三分。樫木神社に着いた。

 ここは学問だけじゃなくて、どんな願い事をしてもOKという気前のいい神社だ。

 悪く言えば節操が無い。おかげで色んな人が絵馬に好き勝手な事を書いている。

「世界征服」とか書いてるバカもいるけど、こんな願いが叶ったら大変だよね。その横にある「地球を守ってください byタク」という絵馬といい勝負だけど、私はそっちの方が好き。できればこの願いは叶えばいいな。

 境内に行き、お賽銭を入れて手を合わせる。私はもちろん

「成星高校に合格しますように」と祈った。ふと横をみると、二人とも真面目な顔をしていた。

 リュウとエンジは何を祈ったんだろう?

 その後、絵馬や破魔矢、お守りなんかを売ってるところへ行った。そこでエンジはかわいいお守りを私達に買ってくれた。

「これ、俺だと思って大事にしてくれよな」

「何言ってるのよ。寂しい事言わないでよ」

「あはは、だって二人は一緒の高校じゃん。俺だけ別の学校だしさ」

 

 別の道を選んだのはエンジの方じゃない――?

 アイちゃんの事を思い出して私は胸が苦しくなった。

「ありがとうエンジ。大事にするよ」

 リュウは学生証にお守りを挟み込んだ。

 帰路に着いた私達。いつもの様にリュウを送り、エンジと二人で私の家を目指す。

 今日は歩いて来たから自転車は無い。二人並んで歩く。私はさっきの事を思い出してちょっと不機嫌になっていた。そんな私の雰囲気を察したエンジが聞いてきた。

「なぁ?なんかあったのか?」

「ううん。何も無いよ」

 ぶっきらぼうに答えた。

「絶対あるよ。だって変じゃんか」

 こういう時だけ勘の鋭いエンジが食ってかかってきた。真面目な顔でこっちを見てきたので、私も正直に答える事にした。

「だって、エンジ勝手すぎるよ。これから一緒にいれないのを悲しいと思ってる私に、アイちゃんの指輪選ぶ手伝いさせたりさ。そのくせお守り渡して俺の事忘れるなとか、人の気も知らないで勝手すぎるよ!」

 言いながらさらに悲しくなって、溢れてくる言葉を一気にまくしたてた。

 エンジはしばらく黙っていた。無言のまま坂を上っていく私達。冬の風がいつもより冷たく感じた。

 気が付くともう家の前に着いていた。お互い何も言えず、気まずい時間が流れる。耐え切れなくなった私は、そのまま家の中に入ろうとした。

 エンジが急に私の肩をつかむ。綺麗なダークブルーの目が強い意志を持って私を見ていた。

 

 その時は前触れもなく急に訪れた。

 

「好きだ。付き合ってくれねぇか?」

 

 え?

 意味がわからず、何も言えない。

「だから、俺はユキの事が好きなんだ。付き合って欲しい」

「え?なに?だってエンジはアイちゃんの事が好きなんじゃ……」

 私は混乱する頭を必死で整理しようとした。

「ユキの指のサイズが分からないからウソ付いてたんだよ」

 エンジは私の肩を掴んだまま、大きな声を出した。私はやっと意味を理解した。

「何よ、ホントに勝手なんだから。人の気も知らないで。エンジのバカ!」

 自分でも嬉しいのか悲しいのかわからない。ただ、感情を噛みしめる前に涙が出てきた。それはエンジが私の事を忘れた訳じゃなかったんだという安心感だったのかもしれない。

「そんなの、答えられるわけ無いじゃない。私達ずっと三人一緒だったのに」

「うん。わかってる。返事は急がないからゆっくり考えてくれ」

 ちょっと安心したらまた涙が溢れてきた。泣き止むまで、エンジはずっと優しく抱きしめてくれた。

 ドキドキする心臓を押さえてしばらく泣いていたら、次第に落ち着いてきた。

 よし、大丈夫――。

 私は改めてエンジの顔を見た。

「送ってくれてありがとう」

 エンジが私の手を取った。

「OKだったら、クリスマスイブの夜八時に駅前のツリーのところに来てくれないか? 俺そこで待ってるから」


             ―――――――――――――――――――― 

 その日から私は思い悩んでいた。

 私が望んでいるのはリュウと三人一緒に過ごす事。エンジだけと付き合いたい訳じゃない。でも、アイちゃんの事を知ってショックを受けたのは、私がエンジの事を好きだから……なのかもしれない。

 自分の気持ちと向き合った事が無かった私は、どう整理を付けていいのかわからなかった。エンジはあれ以来私をひとりにしておいてくれてる。気を遣ってくれてるんだろうな……。

 思い悩む私を心配したリュウが、学校帰りに聞いてきた。

「何か、あったの?」

 どこまでも優しいリュウの声は、一切を秘密にしておこうと思っていた私の心を溶かしていく。

「あ、うん。実は……」

 自然に言葉が出た。きっとこれもリュウの人柄のお陰なんだろうな。私はエンジに告白されて、どうすればいいか悩んでいるという事を正直に打ち明けた。


「そうだったのか……」

 今まで見た事が無いような表情でしばらくの間黙っていたリュウを見て、私は相談した事を少しだけ後悔した。でももう遅い。

「それで、ユキはどうしたいのかな?」

「わからないの。エンジをそんな風に見た事無かったから……。でも、あれからエンジの事ばかり考えてる……」

「そうか……」

 リュウは空を見上げて何か考えていた。

「でも私、三人一緒がいいの。エンジと付き合ってリュウと一緒にいられないんじゃ嫌だもん」

 正直に答えた。リュウは、ゆっくり私の肩を抱いた。

「僕は大丈夫。ユキが行きたいなら行ってあげてよ」

 どこまでも温かかいリュウの言葉。抑えていた感情が急に溢れてきた私は、リュウの胸の中に顔をうずめた。

「大丈夫。大丈夫だよ」

 リュウは私の頭を撫でながら、泣き止むまでそっと抱きしめてくれた。

 その優しさに癒されていただけの私には、その時、リュウの気持ちを推し量るだけの余裕はなかった。



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