さようなら、私達の時間
次の日の放課後。いつものように図書室に行くリュウに、今日はゴメンと謝って学校を出た私。
勉強を教えるために、いつも時間を作ってくれてるリュウに悪くて、エンジの誘いに気軽にいいよなんて返事したのを後悔していた。
ウツボ公園の入り口にある、犬の銅像の前で待ち合わせをしていた私とエンジ。私が着いた時にはエンジはもう既にそこで待っていた。
「おっ、来たか。じゃあ乗れよ」
エンジが自転車の荷台に目をやる。
「うん。どこに連れてってくれるの?」
後ろから抱き付きながら尋ねた。
「まぁ、すぐだから待ってろよ」
歯切れの悪い言葉とは裏腹に、エンジが軽快にペダルを踏んだ。
んー、なんだか変。何か企んでる――?
私を背中に乗せたまま、自転車は無言で駅前の雑踏を抜けていく。
「もうすぐだぞ」
その声に私は顔を上げた。
ん、ここは――?
着いたところは見慣れない雑貨屋さん、いや、アクセ屋さんかな?
店内に入ると、インディアンジュエリーだとか、ドクロのネックレスだとか色んなモノが節操無く飾ってある。エンジはそれらには目もくれず、一番奥まで歩いていく。
「何してるんだよ?早く来いよ」
エスコートもせず勝手な口ぶり。まぁ、私は大人だから怒らないけどね。
「いらっしゃいませ」
ダンディーなおじさまが声をかけてきた。落ち着いた良い感じのコーナーにはシルバーアクセサリーが大量に並べられていた。
ああ、なるほどー!。
私はピンときた。エンジはおシャレなアクセも沢山持っていて、とくにシルバー系が好きなのだ。
また新しいのでも欲しくなったのかな――?
なんて思ってるとエンジは思いも寄らない言葉を発した。
「アイちゃんに指輪を買おうと思うんだけど、どれがいい?」
え……?
一瞬にして世界が固まった。
アイちゃんって、バイト先の女の子だよね? 最近熱心にバイトに行ってると思ったら、そういうことだったのか――。
ふい打ちを食らった私は、しばらく呆然としていた。そして大切な事を黙っていたエンジに対して、だんだん怒りが湧いて来た。
アイちゃんは悪くないのでちゃんと選んであげないと――。
何とか気分を立て直し、選ぶのを手伝う。
「ユキだったらどれがいい?」
私の気持ちも知らず、エンジがショーケースにかじりついている。
ざっと見回すと、すごくかわいい天使の羽根が付いた指輪が目に入ってきた。
エンジェルハイロウ――天使の輪をイメージしてるみたい。
「これ……かな」
自分だったら即決だけど、人様のモノを選ぶのは難しい。自信なく答えた。
「おおー、そうかぁ。俺もそれが一番だと思ってたんだよね」
エンジは相好を崩した。
ズキッ。
なんだろう。胸が痛い――。
「おっちゃん。これはめていい?」
「ええ、もちろん」
マスターはショーケースから指輪を取り出し、私にはめてくれた。簡単に素通りしたところをみると、少し大きいようだ。
「おっ、いいねぇー、ちなみにこれ何号ぐらい?」
エンジが勝手に話を進める。
「11号ですね。お嬢さんなら9号でも大丈夫でしょうね」
「じゃあ決まり。9号の下さい」
「え? アイちゃんの指の大きさ大丈夫なの?」
「ユキより太いなんてありえないからね」
屈託無くエンジが答えた。あとで回し蹴り決定。
値札付いてたから見ちゃったけど、かなりの額だった。高校生が買うような値段じゃない。
よっぽど本気なんだろうな――。
そう思うとまた胸が痛くなった。
「メッセージはお入れになりますか?」
「あ、はい。Forever with youでお願いします。それと……」
エンジはマスターにごにょごにょと何かを耳打ちをしていた。
フォーエバー・ウィズ・ユー。ずっと一緒……か。
私はずっとエンジとリュウと一緒にいれると思ってた。だけどそれはただの思い込みだった。もうすぐエンジは私達の知らないところでまた新しい繋がりを作っていくんだもの。それが人生ってやつなんだろうけど、今の私にはちょっと残酷だな。
メッセージカードに書かれた文字が遠く霞んで見えた。
「今月の給料入ったらすぐに来ます」
エンジが席を立つ。
「あ、はい。もちろんです。月末には仕上がりますので、いつでもお待ちしています」
マスターはにこやかに見送ってくれた。
「ありがとうな、ユキ。助かったよ」
帰り道。自転車を漕ぎながらエンジがそう言った。
「いいよ、頑張りなよー」
精一杯カラ元気を出した。
まさか三人での時間がこうして終わりを告げるだなんて思ってもみなかった。
エンジはエンジの道を歩いて行く。そんな現実を突きつけられて、何だか急に耐えられなくなった私は、エンジの背中にぎゅっ、と顔をうずめて、しばらくの間泣いていた。
自転車がギシギシと寂しそうに音を立てていた。
さようなら。私達の時間。




