第8話:本家の嫉妬と刺客の影
ある静かな夜。
アルス領の周囲を囲む高い岩壁の陰から、黒い装束に身を包んだ集団が滑り込んできた。
暗殺ギルド『黒蛇の牙』。
バルドとジュリアスが、領民から奪い取った巨額の金で雇った、三十名の精鋭暗殺者たちである。
「ターゲットは開拓領主アルス。首を持ち帰れば追加の報酬だ。住人を皆殺しにし、資料を奪うぞ」
頭領が冷酷に命じる。暗闇に紛れ、足音もなく首長館へと忍び寄る刺客たち。
だが——彼らは知らなかった。
この竜骨谷の「土」そのものが、アルスの身体の一部と同義であることを。
(……入ってきたな)
館の寝室で、アルスは静かに目を開けた。
【万物解明】の索敵網は、領内に足を踏み入れた瞬間に刺客三十人の位置、心拍数、装備を完全に把握していた。
アルスはベッドから起き上がると、静かに床に手を触れた。
「【地脈操作】——『サイレント・プリズン』」
忍び寄っていた刺客たちの足元の岩盤が、まるで生き物のように滑らかに沈み込んだ。
「なっ……!? 体が——」
悲鳴を上げる間すらなかった。
物理的な攻撃ではなく、足元の土と岩が刺客たちの全身を包み込み、首から下を完璧に固定してしまう。武器を抜く隙すら与えない、完全なる即死ならぬ「即捕縛」である。
わずか数十秒で、三十名の暗殺者全員が館の中庭で身動きが取れなくなっていた。
「な、なんだこのガキは……!? 魔法の詠唱すら無かったぞ!?」
頭領が戦慄の表情で叫ぶ。
アルスは松明を手にしたクラウスや従者たちを引き連れ、冷やかな視線で刺客たちを見下ろした。
【万物解明】を発動し、頭領の懐に入っていた密書を魔法で引き寄せる。
「……バルド兄さんと、ジュリアス兄さんからの依頼書だね」
密書には、アルスの殺害と、領地の全財産の没収。さらには『奪い取った資源の半分を、王都のゼノス公爵家へ横流しする』という恐ろしい取り決めが記されていた。
「ゼノス公爵……第6話の『黒い杭』といい、本家は王都の反乱分子と繋がっているのか……」
クラウスが密書を検分し、顔を青くした。
「アルス様、これは単なる本家の嫉妬にとどまりません。王国の根幹を揺るがす大罪です。すぐに王都へ告発すべきです!」
「そうだね。でもその前に……兄さんたちの暴走を止めなきゃ」
アルスは静かに拳を握りしめた。自分を捨てた本家への怒りではなく、これ以上領民や大切な仲間を傷させないという強固な意志を込めて。




