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最弱スキルな貧乏貴族の六男の俺、隠しスキル【地脈操作】で成り上がる〜辺境の死の谷を開拓でスローライフをめざすことにしました〜  作者: 森羅万象


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第5話 異種族の誓いと地脈鋼

竜骨村が生まれてから、さらに月日が流れた。


人が増えるにつれ、村の景色も少しずつ変わっていった。


畑は広がり、家が増え、水路が伸びる。


アルスの【万物解明・地脈操作】は、開拓において圧倒的な力を発揮していた。


それでも――


すべてをアルスひとりで作れるわけではない。


石を加工する者。


道を整える者。


畑を耕す者。


それぞれの技術を持った人間が必要だった。


そんなある日のことだった。


「――ドゴンッ!」


谷の奥から、地面を揺るがすような轟音が響いた。


「……なんだ?」


村人たちが一斉に顔を上げる。


続いて。


「ドゴンッ! ガンッ!」


まるで巨大な岩を何度も叩きつけているような音。


アルスはすぐに立ち上がった。


「みんなはここにいて!」


「アルス様!」


「大丈夫。様子を見てくる!」


アルスは音のする方向へ駆け出した。


しばらく進むと、谷の境界付近に大きな岩場が見えてきた。


その向こうから――


「チクショオオオッ!」


怒鳴り声が響く。


「囲まれたぞ!」


「まだ戦える!」


「馬鹿言え! この数を相手にするつもりか!」


アルスは岩陰から顔を出した。


「……あれは?」


そこにいたのは――


数体の巨大な岩石の魔物だった。


全身が岩でできている。


二メートルを優に超える巨体。


太い腕を振り回し、地面を叩きつけるたびに大量の土砂が舞い上がる。


ゴーレム。


その周囲を、数人の小柄な男たちが取り囲まれていた。


いや――


囲まれているのは男たちの方だった。


「くそっ!」


ひとりの男が大槌を振り下ろす。


――ガンッ!


鈍い音が響く。


しかし。


ゴーレムの身体には、傷ひとつつかない。


「チクショウ!」


男が叫ぶ。


「ここまで追い詰められるとは……!」


立派な髭。


太い腕。


ずんぐりとした体格。


そして何より――


その手に握られた巨大な戦槌。


アルスには、その種族に心当たりがあった。


「……ドワーフ?」


男がこちらを見る。


「……なんだ、坊主?」


その瞬間。


一体のゴーレムが腕を振り上げた。


「危ない!」


アルスが叫ぶ。


「下がって!」


ドワーフたちが振り返る。


だが、もう遅い。


ゴーレムの拳が――


地面へ叩きつけられようとした。


アルスは地面に手をついた。


「……そこ」


見える。


岩石の構造。


魔力の流れ。


巨大な身体を構成している無数の岩。


その一つひとつを繋ぎ止めている――結合点。


「なら……」


アルスは手を握った。


「離れろ」


――バキィィィン!


ゴーレムの身体から、乾いた音が響いた。


「……?」


一瞬。


何が起きたのか、誰にも分からなかった。


次の瞬間。


ゴーレムの腕が崩れた。


いや。


腕だけではない。


肩。


胴体。


脚。


身体を構成していた岩石が、次々と崩壊していく。


――ザザザザッ!


巨大な岩の塊が、砂となって地面へ落ちていった。


「な……」


ドワーフたちが固まる。


「なんだ……?」


二体目のゴーレムがアルスへ向き直った。


「ギィィィィ!」


「……来る!」


ドワーフのひとりが叫ぶ。


だが。


アルスは慌てなかった。


ゴーレムを見つめる。


身体を構成する岩。


その結合。


内部を流れる魔力。


全部が見える。


「……同じだ」


アルスは手を伸ばした。


「崩れて」


――ズズズズッ。


巨体が揺れた。


そして。


二体目のゴーレムもまた、音を立てて崩れ落ちた。


岩が。


砂へと変わっていく。


最後に残ったゴーレムも――


同じだった。


数分も経たないうちに。


そこに立っていた巨大な魔物は、すべて砂の山へと姿を変えていた。


「…………」


静寂。


アルスは自分の手を見る。


「……うまくいった」


その言葉で。


ようやくドワーフたちが我に返った。


「お、おい……」


ひとりが震える声を出す。


「今……何をした?」


「え?」


「ゴーレムを……」


男は砂になった魔物を見る。


「一瞬で解体したのか?」


アルスは首を傾げた。


「解体……?」


「普通、ゴーレムを倒すなら魔核を破壊するか、何人もの戦士で何度も叩き続けるんだぞ!」


「そうなんですか?」


「そうなんですかって……」


男は頭を抱えた。


「なんなんだ、こいつ……」


アルスは苦笑した。


「とりあえず、怪我はありませんか?」


ドワーフたちは互いの身体を確認する。


幸い、大きな怪我を負った者はいなかった。


「僕はアルスです」


アルスは笑顔で名乗った。


「この谷を開拓しています」


「……開拓?」


「はい」


男は怪訝そうな顔をした。


「ここを?」


「そうです」


アルスは谷の奥を指差す。


「少しずつですが、村を作っています」


「…………」


ドワーフたちは顔を見合わせた。


やがて。


最も年長らしい男が前へ出た。


「俺はガルド」


立派な髭を撫でながら名乗る。


「ドワーフ族の鍛冶師だ」


「鍛冶師……!」


アルスの目が輝いた。


「それなら、ぜひ村に来てください!」


「……は?」


「鍛冶師なら、作ってほしいものがあるんです」


ガルドは困惑した顔をした。


「いや、坊主。俺たちは住む場所を探して旅をしてるんだ」


「だったら――」


アルスは笑った。


「ここに住みませんか?」


ガルドは目を丸くした。


「ここに?」


「はい」


「俺たちはドワーフだぞ?」


「知っています」


「人間とは違う」


「でも、鍛冶が得意なんですよね?」


「……まあ、それはそうだが」


「なら大歓迎です」


アルスは迷いなく言った。


「ここでは、人間だからとかドワーフだからとか、そんなことは関係ありません」


ガルドは黙った。


これまで旅を続けてきた。


住処を追われ。


仲間と共に各地を転々としてきた。


ドワーフだからと警戒されたこともある。


高い技術を持っていることを利用しようとする者もいた。


だが。


目の前の少年には、それがない。


あるのは――


ただ純粋な歓迎だった。


「……変な奴だな」


ガルドが呟く。


「そうですか?」


「いや」


ガルドは笑った。


「悪くねえ」


「本当ですか?」


「ああ」


ガルドは頷いた。


「世話になるぜ、アルス」


こうして。


新たな住人が竜骨村へ加わることになった。


だが。


アルスには、もう一つ見せたいものがあった。


「ガルドさん」


「なんだ?」


「実は……見てほしいものがあります」


「?」


アルスは村へ戻ると、倉庫の奥から一つの金属塊を持ってきた。


黒とも銀ともつかない、不思議な光沢。


ところどころに淡い青い筋が走っている。


「これは?」


ガルドが手に取る。


次の瞬間。


その顔から表情が消えた。


「…………」


金属を裏返す。


指で叩く。


耳を近づける。


もう一度叩く。


「……おい」


「はい」


「これ、どこで手に入れた?」


「作りました」


「…………は?」


「地中から採れた鉱石を精錬したんです」


アルスは何でもないことのように答えた。


「不純物を取り除いて、何度か加工したらできました」


「…………」


ガルドの手が震えた。


「おいおい……」


金属塊を握りしめる。


「なんだ、この純度は……」


「そんなに凄いんですか?」


「凄いなんてもんじゃねえ!」


ガルドが叫んだ。


「こんな金属――俺は見たことがねえ!」


「え?」


「硬いのに粘りがある。魔力の通りも異常にいい……」


ガルドの目が輝いていく。


「しかも、この不純物の少なさ……」


金属を何度も確認する。


「伝説の名工だって、こんなもんを安定して作れるか分からねえぞ!」


「へえ……」


アルスは首を傾げる。


「じゃあ、使えますか?」


「使えるかだと?」


ガルドが顔を上げた。


その目は完全に鍛冶師の目になっていた。


「使えるどころか――」


金属塊を両手で抱える。


「これを鍛えさせてくれ!」


「はい?」


「俺に任せろ!」


ガルドは興奮したように叫んだ。


「こんな金属があるなら……俺はもう一度、鍛冶師として夢を追える!」


アルスは驚きながらも笑った。


「じゃあ、お願いします」


「おう!」


ガルドは大きく頷いた。


「ところで、この金属……名前はあるのか?」


「名前?」


アルスは少し考えた。


地脈から採れた金属。


なら――


「地脈鋼」


「……地脈鋼」


ガルドがその名を口の中で転がす。


そして。


「いい名だ」


満足そうに笑った。


その日の夕方。


ガルドはアルスの前に立った。


そして。


ゆっくりと膝をつく。


「アルス様」


「えっ?」


アルスが驚く。


「俺たちドワーフ一族を、この村に置いてくれ」


ガルドは頭を下げた。


「鍛冶の技術も、鉱石を見極める知識も、全部この村のために使う」


「でも……」


「俺たちを受け入れてくれたのは、アンタだ」


ガルドは顔を上げる。


「なら、俺たちもアンタの力になる」


そして。


力強く拳を握った。


「この地脈鋼で――」


その目に、職人としての誇りが宿る。


「世界一の武具を作ってやる!」


「それだけじゃねえ」


ガルドの後ろにいたドワーフたちも声を上げる。


「最高の家を建てる!」


「橋も作るぞ!」


「鍛冶場も必要だ!」


「酒場もだ!」


最後の一言に、アルスは思わず笑った。


「酒場まで作るの?」


「ドワーフに酒場は必要だ!」


ガルドが胸を張る。


竜骨村に。


また一つ、新しい声が加わった。


そして――


その日を境に。


村の開拓速度は、目に見えて変わっていった。


アルスが大地を整える。


ドワーフたちが石を加工する。


地脈鋼を鍛える。


道を作り。


橋を架け。


家を建てる。


それまでアルスひとりでは時間のかかっていた作業が、次々と形になっていく。


竜骨村は。


ただの小さな集落ではなくなり始めていた。


人間とドワーフ。


異なる種族が肩を並べて暮らす場所。


死の谷の片隅に生まれた、小さな村。


その村には今――


確かな未来が芽吹き始めていた。

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