第17話:汚染岩竜の猛威と広域視界
ズズズズズズズズ……!!
地脈結晶から溢れ出した不浄なドス黒い魔力が、洞窟内の岩盤や土石、そして打ち捨てられていた古代の金属片を飲み込みながら、急速に巨大な質量となって蠢き始めた。
「な……なんだありゃあ!?」
ガルドックが目を見張り、巨大な戦斧を身構える。
紫色の禍々しい炎を全身から吹き出しながら姿を現したのは、全長三十メートルを超える途方もない巨躯を持つ巨大な竜——古代の防衛兵器が汚染物質と融合して変異した『汚染岩竜』であった。その眼腔には赤く血走った殺意の光が宿り、口からは触れるもの全てを腐濁させる黒煙が漏れ出している。
『ルァァァァァァオオオオオオオオン……!!』
洞窟の天井を激しく震わせるおぞましい咆哮。それと同時に、汚染岩竜がその巨躯からは想像もつかない速度で太い尻尾を振り抜いた。
「くっ……! 【地脈障壁】!」
アルスが咄嗟に手をかざし、土の防壁を隆起させた。しかし、黒い魔力を纏った尻尾の一撃は、アルスの防壁をまるで紙屑のように粉々に打ち砕き、強力な衝撃波となって弾け飛んだ。
「ぐはぁっ!?」
「きゃあああっ!?」
最前線にいたガルドックと、身体を庇うように前に出たレリアが衝撃波を正面から受け、激しく洞窟の石壁へと叩きつけられた。無情な鈍い音が響き、二人は血を吐いてその場に倒れ伏す。
「ガルドックさん! レリア!」
アルスが駆け寄ろうとしたが、二人とも全身の骨を打ち砕かれ、ぴくりとも動かない。息は絶え絶えで、意識を失っている。
「ハハハ! 無駄だ無駄だ!」黒狼隊の隊長が高笑いする。「我が帝国の錬金術が生み出した汚染エネルギーは、貴様のちっぽけな土魔法など遥かに凌駕する! 仲間もろとも、その黒泥の底で泥のように死ねぇっ!」
汚染岩竜が巨大な顎を開き、アルスに向けて凄まじい密度の汚染魔力砲を集束させ始めた。
(だめだ……このままじゃ、みんな死んじゃう……!)
倒れ伏すかけがえのない仲間たち。地上で悲痛な悲鳴を上げ続ける精霊と土地の生命。そして、自分を信じて領地を託してくれたレイモンド兄さんの顔が、アルスの脳裏を駆け巡る。
(嫌だ……! 僕は、大切なものを守るために強くなると決めたんだ! 本家の呪縛を払って、せっかくみんなとスローライフを送れる平和な街を作ってきたのに……! こんなところで、僕たちの故郷を踏みにじらせてまるかぁぁぁぁぁっ!!)
アルスの魂の底からの叫びに呼応するように、胸の中で熱く脈動していた『星輪の鍵』が、眩いばかりの純白の光を放って弾けた。
それと同時に、王都の遥か地下深くに眠る『アストラル・コア』、そしてアルスの全身の血潮が、完璧な一つの波長となって共鳴を果たした。
『——適合者アルス・ヴァルハイト。魂の覚醒を確認——』
脳内に、かつてないほど澄み切った、世界そのものの声が厳かに響き渡った。
『アルティメットスキル【創星領域】を解放します。個体能力の再構築を開始——』
ドクン……!!
アルスの心臓が大きく脈打った瞬間、彼の瞳が神秘的な青蒼色に輝いた。
【広域視界】:領地全体の地脈、全物質の分子構造、そして生きとし生けるものの命の配置を完璧に把握・知覚する絶対視界。
アルスの脳内に、竜骨領全体の高精度な立体マップが瞬時に展開された。枯れ果てた樹木の一本一本の細胞、洞窟内の空気の分子運動、そして襲い来る汚染岩竜の体内を駆け巡る魔力の「核」の位置が、まるで自分の手の中にあるかのように鮮明に視界に浮かび上がる。
「そこだ……!」
アルスが静かに呟いた瞬間、汚染岩竜の放った黒い魔力砲が、超音速で視界を埋め尽くした。




