第18話:物質昇華と創星領域の奇跡
迫り来る死の黒い魔力砲。しかし、覚醒を果たしたアルスの視界において、その凄まじい攻撃はまるで止まっているかのように遅く見えていた。
「【創星領域】——第一階層展開」
アルスが静かに右手を開き、前方の空間へと差し出した。
『能力発動:【物質昇華】』
アルスの指先から解き放たれた透明な波動が空間を伝播する。すると、アルスの前に立ちはだかっていた単なる洞窟の土石や砕けた岩屑が、根源的な分子レベルで一瞬にして再構築(錬成)を開始した。
ズズズズズ……ッ!!
一瞬にして立ち昇ったのは、漆黒の光沢を放つ伝説の超金属——『神鋼』で形成された巨大な三重の防壁であった。
ドゴォォォォォン……!!!!
汚染岩竜の解き放った絶大な魔力砲がオリハルコンの防壁に激突し、凄まじい爆音と光熱が洞窟内を吹き荒れた。しかし、神の金属で作られた防壁にはかすり傷一つ付かず、不浄のエネルギーは完璧に散乱・打ち消された。
「な……何ぃぃぃっ!?」
黒狼隊の隊長が鉄仮面の奥で目を剥き、絶叫した。
「ば、バカな! 普通の土石を一瞬でオリハルコンへと変換しただと!? そんな芸当、神の領域の術式だぞ……!!」
アルスは冷ややかな、しかし絶対的な威厳に満ちた青蒼色の瞳で敵を見据えた。
「【創星領域】——『星脈浄化陣』!」
アルスが天に向けて両手を掲げると、洞窟の天井を突き抜け、はるか上空の天から圧倒的な聖なる光の柱が降り注いだ。
ズドォォォォォォン……!!
その光は洞窟内を満たしていた毒霧と不浄の魔力を一瞬にして消滅させ、光の粒子へと還元していく。光に包まれた汚染岩竜は、おぞましい悲鳴を上げる間もなく体内の汚染物質が根こそぎ浄化され、崩壊すると同時に清らかな古代の純白の石像へと姿を変えて静まり返った。
「ヒッ……! ヒヒィッ……! 化け物……化け物だぁぁぁっ!」
圧倒的な神威を目の当たりにした黒狼隊の兵士たちは戦慄し、腰を抜かして逃げ惑った。隊長もまた、自身の敗北を悟り、煙爆弾を足元に叩きつけるとほうほうの体で暗がりへと逃げ去っていった。
敵が去った洞窟内。アルスはすぐさま倒れているガルドックとレリアのもとへ駆け寄った。
「二人とも……諦めないで! 【物質昇華】——細胞再生!」
アルスの両手から溢れ出た温かい黄金色の光が、二人の傷ついた体を包み込む。折れていた骨が素早く繋がり、傷口がみるみるうちに塞がっていく。
「ん……ぐっ……!? お、俺は……一体……?」
「アルス……? あたたかい……森の悲鳴が……消えた……?」
ゆっくりと目を覚ましたガルドックとレリアが、信じられないといった様子で己の手を見つめた。完璧な治癒。痛みすらも一切残っていない。
「よかった……! 本当によかった……!」
アルスは緊張の糸が切れたようにその場に座り込み、涙を拭った。
洞窟の外へ出ると、そこには奇跡の光景が広がっていた。
【創星領域】の浄化光波は森全体へと伝播し、黒く枯れ果てていた『琥珀の森』の木々が一夜にして青々と蘇り、以前を遥かに凌ぐ豊かな生命の光を放っていたのだ。精霊たちが歓喜の歌を歌いながら、アルスの周囲を輝く光の粒子となって舞い踊る。
「アルス様……! なんという奇跡だ……!」
駆けつけたクラウスが単眼鏡を落としそうになりながら、震える声で感嘆の声を上げた。
「これが……【創星領域】。地脈の完全掌握と、物質の根源的変革……。アルス様、あなたは真の意味でこの世界の主となられた」
「ううん、僕はただ……みんなと、この街を守りたかっただけだよ」
アルスは蘇った森の木々に優しく触れ、微かな笑みを浮かべた。しかし、彼の瞳はすでに、北方の空——帝国軍の潜む暗雲の向こう側を見据えていた。




