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最弱スキルな貧乏貴族の六男の俺、隠しスキル【地脈操作】で成り上がる〜辺境の死の谷を開拓でスローライフをめざすことにしました〜  作者: 森羅万象


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第13話:王都地下の共鳴と古の記憶

頭蓋骨の裏側を直接叩かれるような、

硬質で規則正しい機械音が脳内に響き渡っていた。


王都の謁見の間。豪奢な金箔の装飾が施された高い天井と、

足元に敷き詰められた深紅の絨毯。審問を終え、

玉座の前で国王から新ヴァルハイト辺境伯としての戴冠を受けた三男レイモンドが、

晴れやかな笑みを浮かべてこちらへ歩み寄ってくる。


周囲には重臣たちの拍手が鳴り響いていたが、

アルスの耳にはそれらの音がまるで水中に潜っているかのように遠く濁って聞こえていた。


「アルス? どうした、顔色が真っ白だぞ。緊張が解けて疲れが出たか?」


レイモンドが心配そうに身を乗り出し、アルスの華奢な肩に手を置いた。

その手は温かく、しっかりと肉親の慈愛に満ちていた。


「……ううん、大丈夫だよレイモンド兄さん。少し、魔力を使いすぎちゃったみたいだ」


アルスは必死に頬の筋肉を緩め、努めていつもの穏やかな笑みを作ってみせた。

(大丈夫なはずがない……。さっきから、この音が止まらないんだ)


三千の傭兵軍を【流砂の大連動】で一人も殺さずに封じ込め、

長男バルドと次男ジュリアスを失脚させた。長年ヴァルハイト家に蔓延っていた暗雲を払い、

心から尊敬するレイモンド兄さんが新たな辺境伯となった。

本来ならば、これで肩の荷を下ろし、

念願の竜骨谷でのスローライフに戻れるはずだったのだ。



しかし、決着の瞬間に脳内に直接響いた不気味な合成音——


『——適合者アルス・ヴァルハイト。

第二段階認証へ移行。王都地下の『コア』が共鳴を開始しました——』という言葉。


アルスは密かに衣服の上から胸元へ手をやった。

寄子として竜骨谷へ追いやられた当初、

荒れ果てた古代遺構の最奥で手に入れた謎の金属片『星輪の鍵』。

冷たかったはずのその表面が、今はまるで生き物の脈動のように微かに波打ち、

王都の真下——遥かなる垂直の深度を指し示すように、熱を帯びて青く発光していた。


(僕が地脈を解放したことで……何か目覚めさせてしまったのか?)


「レイモンド兄さん。本格的に領地へ戻る準備をする前に……少しだけ、王都の地下を調べてみたいんだ。審問の時から、地下を流れる地脈の結節点に、見たこともない妙な波長が混ざり込んでいて」


「地脈の揺らぎか……? アルスがそう言うなら間違いないだろう。だが、絶対に無理はするな。お前は我がヴァルハイト家の、そしてこの国の命運を握る大切な存在なんだからな」


レイモンドの許可を得たアルスは、謁見の間を後にすると、長年の信頼を寄せる二人の従者——ドワーフの重装兵ガルドックと、精霊の射手であるエルフのレリアを呼び寄せた。


王都の華やかな中央通りを離れ、入り組んだ裏路地を抜けて最下層の旧市街へと向かう。石畳は湿り気で黒ずみ、泥とドブの臭いが立ち込めるその一角に、固く閉ざされた地下水路の鉄扉が存在していた。


「おいおいアルス坊主、こんなカビとドブ鼠の匂いが充満した地下になんの用だ? 地脈の調査なら、地上でどっしり腰を据えてやったほうが効率がいいだろうに」


ガルドックが背中に背負った身の丈ほどもある巨大な「地脈鋼の戦斧」をドスンと足元に降ろし、不満げにひげを擦った。彼の持つ戦斧の刃は、アルスが精錬した特殊な金属であり、うっすらと青い魔導光を放って暗闇を照らしている。


「ガルドックさん、ここはただの排水路じゃないんだ。ほら、見て……」


アルスは壁面に手を触れた。表面の湿った苔を削ぎ落とすと、そこには精巧に削り出された灰白色の特殊石材が露出していた。通常の王国様式の建築ではない。接合部に一切の隙間がなく、表面には極小の幾何学模様が刻まれている。


「これは……『古代構造物』だ。王都の街並みは、この巨大な古代遺跡の真上に作られている」


【万物解明】を発動させると、アルスの視界が一変した。

視界全体が半透明の青い空間へと切り替わり、目の前の分厚い岩盤を透過して、遥か地下数千メートルへと網の目のように伸びる広大な「魔導エネルギーの管(ライン)」が立体的に浮かび上がった。それらはすべて、王都のちょうど真下にある巨大な球状の空間へと集約されている。


「すごい……王都の地下全体が、膨大な魔力を循環させる巨大な心臓の上に乗っかっているんだ……」


「アルス、立ち止まらないで。気を引き締めて……」


レリアが背中の弓から一本の矢を引き抜き、弦に番えた。彼女の尖った耳がピクピクと細かく揺れている。


「この先から漂ってくる気配……人間のものじゃない。でも、私たちが知っている精霊の温かさとも違う。冷たくて、機敏で、まるで巨大な機械が呼吸しているような恐ろしい気配よ」


アルスは頷き、手の平に集中させた【地脈操作】で地下水路の行き止まりにある頑丈な石壁を溶解させ、奥へと続く未知の階段を出現させた。


ひんやりとした澄んだ空気が地下深くから吹き上がってくる。

階段を降りるにつれて、壁面に埋め込まれた青い『地脈結晶』が、

アルスの歩みに調律するようにひとつ、またひとつと怪しい光を灯していった。


そして辿り着いたのは、都市一つがすっぽりと収まるほどの果てしない大空洞。

その中央に、直径百メートルはあろうかという巨大な球体構造物——『アストラル・コア』が、青白いプラズマの環を纏いながら、静かに、しかし力強く回転していた。


(カチ……カチ……カチ……)


頭の中に響いていた音の正体は、このコアから発せられる空間そのものを揺らす不快な拍動だったのだ。


「ようこそ、導かれし『適合者』よ。……まさか私以外の人間が、自力でこの絶対領域に到達しようとは」


遺跡の巨大な柱の影から、静かな足音が響いた。

暗がりから姿を現したのは、黒い上質なローブを身に纏い、右目に精巧な単眼鏡を装着した細身の青年だった。二十代半ばほどの眉目秀麗な容姿だが、その瞳には底知れぬ狂熱的な知性の光が宿っていた。


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