第22話 正しい順番
剣の街、グランツェルの人口は約四万。
王都の四分の一程度の街だが、その熱気と活気は並び立つと言ってよく、こと鍛冶職人の数だけなら王都すら凌ぐ。
馬車がそんなグランツェルの中心街へ入る頃には、昨夜回収した素材の運搬先も決まっていた。
アイアーベアの素材は、一旦この街にあるヴァルディア商会の倉庫へ預けることになった。
流石は大商会。
国中の主要都市に支店や倉庫、工房まで持っており、地下の氷室まで用意してくれた。
「これなら一週間から十日は保つ。……助かる」
カイルは素直に礼を言った。
素材を持ち帰ることばかり考えていたが、今の簡易的な防腐では三日が限界だ。
王都へ着く前に腐る。
そのため、こちらで長期保管できる状態まで追加加工することになった。
「ただし、こちらでもトリニティ・クロスの商品加工はしているが、流石にアイアーベアの素材は扱ったことがない」
エルマーが肩を竦める。
「だよな。俺とルークでやる。場所の案内だけしてくれれば十分だ」
その返事に、エルマーは頷いた。
「まぁ、ゆっくりやればいい。この街には二週間滞在するからな。まずは街を見て回れ。素材の整理は、それからでも間に合う」
ルークは分かりやすく安堵した顔になる。
「よかった。せっかく街に着いたのに、すぐ倉庫籠りかと思ったっす」
カイルは小さく笑った。
「言っとくけど、遊びに来たわけじゃねぇからな」
「分かってるっすよ!」
そう言いながらも、ルークは完全に旅行気分だった。
やがて馬車が止まり、カイルは勢いよく地面へ飛び降りる。
着地した瞬間、全身に鈍い痛みが走った。
「――っ」
肩、脇腹、太腿。
打撲や擦り傷が、一斉に存在を主張してくる。
「……痛ぇ……」
小さく息を吐き、顔をしかめる。
包帯の下はまだ熱を持ち、頬の浅い裂傷だけはどうしても隠しようがなかった。
後ろから降りてきたルークが、その顔を見るなり眉をひそめる。
「……坊ちゃん。それ、屋敷戻ったら執事長に怒られますよ」
カイルの動きがぴたりと止まった。
「あー……」
白髪に髭を蓄えた老齢の男――父の右腕として屋敷を管理するギルバート執事長の顔が頭に浮かび、露骨に嫌そうな声が漏れる。
幼い頃、木から落ちて腕を擦りむいた時も。
兄と喧嘩して額を切った時も。
決まって最後に現れるのは、あの静かな声だった。
――「カイル様。またですか」
怒鳴りはしない。
逃げ場もない。
淡々と説教され、手当てされ、反省文を書かされた記憶が一気に蘇る。
ルークが苦笑した。
「騎士学校の訓練傷とは訳が違いますからね。今回は長いっすよ」
「……親父より面倒なんだよな、あの人」
流石に帰る頃には大丈夫だろ。
そう思いながらも、カイルは不安そうに頬の傷を指でなぞる。
だが、視界いっぱいに広がる剣の街を見た瞬間、それすらどうでもよくなった。
歩き出すと、すれ違う人々の多くが剣を腰に下げていた。
重厚な大剣を背中に担ぐ男。
細身の刃を何本も吊るした傭兵。
異国風の装束を纏った旅の剣士。
誰もが当然のように剣を身につけている。
「……本当に剣だらけの街なんっすね」
ルークが呆然と呟く。
カイルは知らず唇を吊り上げていた。
「……夢に出てくる街、そのまんまだ」
この世界に冒険者はいない。
それでも――ここには、夢で知る“武器に集う熱”が確かにあった。
エルマーが笑う。
「お前さんには、ここで得られるものが多いはずだ。剣も、そして……出会いもな」
「あぁ、楽しみだな」
そう言って歩き出した瞬間、グランツェルの熱気が全身を包んだ。
あちこちの鍛冶場から立ち上る煙と、赤々と燃える炉の熱。
剣を打つ音は幾重にも重なり、まるで街そのものが巨大な鍛冶場だった。
「……見てるだけで暑いっすね……」
ルークは襟元をぱたぱたと引っ張る。
通りには見事な剣がずらりと並び、店ごとに特徴も違った。
細身で舞うように扱えそうな剣。
分厚く豪快な斬撃を叩き込めそうな剣。
宝石をあしらった華美な儀礼剣。
どこを見ても刃で溢れている。
「見ろよ、ルーク。こっちの剣、刃の色が違う。たぶん鉄じゃなくて鋼だな。折れにくいし、刃こぼれもしにくい」
展示された剣を光へかざしながら、カイルは目を輝かせて言った。
「えっ? 見ただけで分かるんすか」
ルークは目を丸くする。
職人たちは面白そうにこちらを見ていた。
「ほう……いい目をしてるじゃねぇか」
男の視線が腰の木剣へ落ちる。
「騎士学校の学生か? それとも鍛冶見習いか?」
「剣を見る目は悪くねぇな」
この街では、身分よりも“どれだけ剣へ熱を向けているか”の方が重要らしい。
相手が貴族だろうと商家の坊ちゃんだろうと、剣好きと分かれば職人たちは妙に距離が近かった。
男はそこで、ふとカイルの顔を見て眉をひそめた。
「……随分やられてるな」
カイルは無意識に頬へ手をやる。
「ああ、ちょっと訓練で」
咄嗟にそう誤魔化した。
周囲の職人たちが低く笑う。
「“ちょっと”でその傷は出来ねぇだろ」
「学生ってのも楽じゃねぇな」
「いや、こいつは騎士ってより職人側の目してる」
好き勝手な声が飛ぶ。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
剣へ向ける熱を認めた相手には、この街の職人たちは妙に気さくだった。
カイルは肩をすくめる。
「本の中だけの知識ですけどね」
「なら、実物を嫌ってほど見ていけ」
そんな言葉を残し、職人たちは再び仕事へ戻っていった。
金床を叩く音が響き、火花が弾ける。
熱気と鉄の匂いに背を押されるように、カイルは無意識に歩き出していた。
さらに進むと、大きな広場へ出る。
そこでは公開の剣比べが行われていた。
分厚い丸太を軽々と切り裂く剣。
何度叩きつけても刃こぼれしない剣。
歓声とどよめきの中で次々と披露されるそれらを見て、カイルの瞳が獣のようにぎらりと輝く。
「……ははっ、こりゃ面白ぇ」
その横で、ルークは小声でため息をついた。
「また坊ちゃんの悪い癖が出てきた……。“絶対何か作りたい”顔してる……」
そして、その予感が的中するまで時間はかからなかった。
カイルは並ぶ剣を食い入るように見つめていた。
目に映るのは華美な装飾ではない。
形。
重心。
柄の長さ。
厚みと反り。
視線は自然と、“巨大な獣を断つための剣”へ吸い寄せられていく。
人を斬るためではない。
獣の骨を砕き、分厚い肉を裂くための一本。
本来は、大型獣の解体や狩猟を想定した剣なのだろう。
だがカイルの頭の中では既に、それを魔物相手へ転用出来ないかという考えが回り始めていた。
――あの“冒険者”たちが持っていたような武器がいる。
「……ルーク」
小さな声だった。
だが、その声には抑えきれない熱が滲んでいる。
「作るぞ。剣」
「はぁ!?」
ルークの声が裏返った。
「魔物用の剣だ」
カイルは展示された剣から目を離さないまま当然のように言う。
ルークの顔色が一気に青ざめた。
「坊ちゃんそれはマズイっすよ! 旦那様にバレたら怒られるじゃ済まないっす――」
いつも無茶ばかりのカイルに振り回されてきたルークだったが、今回ばかりは冗談では済まされない。
真剣という言葉が持つ重さは、この国で暮らす者なら誰でも知っている。
未成年が許可なく持っていいものではない。
それでも、カイルは涼しい顔だった。
「対魔物専用だ。“人を斬るための剣”じゃない。狩猟に使うナイフと同じだろ?」
ルークが言葉に詰まった。
たしかに、貴族の間では狩猟も一般的な趣味の一つだ。
解体用の刃物を持つこと自体は珍しくなく、カイルも親の許可を得たナイフを持っている。
「でも剣っすよ!? “剣”は別物です!」
ルークは声を荒げた。
刃物か剣か。
その線引き一つで周囲の受け取り方はまるで変わる。
するとカイルは、腰の木剣を軽く叩く。
「今回ので分かったんだよ」
声は低く、静かだった。
「これ、普通の木剣より壊れにくく加工しただろ。でも――」
視線が遠くを見る。
森。
血。
爪の重さ。
焚き火の向こうで唸っていたアイアーベアの黒い巨体と、木剣では届かなかった致命打の感触が、まだ手の中に残っていた。
「狩れねぇからな」
それが、すべてだった。
短い一言だったが、その中には命を懸けて得た確信が詰まっている。
「打ち込めても、致命打が入らない。刃が入らないと戦闘時間が長引く。みんながいても、あれだけ泥臭い戦いになったんだぞ」
カイルは低く続ける。
「俺たちだけだったら、たぶん死んでた」
ルークの表情から色が消える。
「しかも今回、ナイフを馬車に置いたまま腰に差してなかった」
ルークがハッと顔を上げた。
「あ……」
「持ってれば多少は違ったかもしれねぇ。でも――」
そこで言葉を切る。
脳裏へ浮かぶのは、ノエルから借りた真剣が折れた瞬間だった。
「……たぶん、それでも足りなかった」
低く吐き出す。
いつものように罠とナイフを揃えていても、結果は大きく変わらなかった気がする。
「剥ぎ取りだって、ほとんどナイフが入らなかったしな」
あの硬い毛皮。
分厚い筋肉。
骨へ届く前に止まる刃。
思い出すだけで、普通の道具との相性の悪さが分かった。
「狩るにしても、解体するにしても……今の装備じゃ限界がある」
その言葉に、ルークも黙り込む。
アイアーベアの毛皮へ刃が止まり、解体ですら苦戦していた光景が脳裏に浮かんでいた。
「いや、だからって駄目っす!!」
ルークはぶんぶんと首を振った。
「坊ちゃんまだ学生っすよ! 学校に知られたら――」
「解体や討伐のための道具だって言ってんだろ」
だが、店先で交わされる二人の声は次第に大きくなり、通りを歩いていた護衛たちが何事かと足を止める。
「……どうした?」
「何かあったのか」
前を歩いていたエルマーも振り返った。
その視線に気づいた瞬間、ルークははっと我に返り、周囲を見回してから小さく舌打ちする。
「……ここじゃダメっす」
そしてエルマーへ視線を向けた。
「エルマーさん。少し……三人で話せませんか?」
声は低かった。
護衛たちを信頼していないわけではない。
だが、この話は別だ。
軽々しく共有していい内容ではなかった。
ルークの表情を見て、エルマーの顔つきが変わる。
ただ事ではないと察したのだろう。
「……分かった」
静かに頷き、護衛へ距離を取るよう指示を出す。
三人は大通りを外れ、人通りの少ない路地裏へ入っていった。
鍛冶場の音が少し遠ざかる。
ようやく落ち着いて話せる空気が生まれた。
エルマーは腕を組み、二人を見渡した。
「……それで。何の話だ?」
するとルークが、ずっと堪えていたものを吐き出すように叫ぶ。
「坊ちゃんが真剣作るって言い出してるんす!」
「違う!」
即座にカイルが割って入った。
「魔物用の剣だ!」
「刃があるなら変わってませんよ!!」
ルークが怒鳴り返す。
「剣は剣っす!」
「だから人に使うもんじゃ――」
「制度的にアウトなんすって!」
再び言い争いが始まる。
ギャーギャーと騒ぐ二人を見ながら、エルマーは深いため息をついた。
(……本当に兄弟みたいだな)
そう思いながら、軽く手を上げる。
「落ち着け」
低い一声だった。
それだけで二人はぴたりと口を閉じる。
「まずは一人ずつだ。……カイル、お前から話せ」
促され、カイルは息を整えた。
「今の装備じゃ、強い魔物には対応できない」
迷いのない声だった。
「アイアーベア相手じゃ、加工した木剣でも致命打にならなかった。借りた真剣ですら折れたんだ」
エルマーは黙ったまま話を聞いている。
護衛たちから受けた報告を思い返していた。
正直、もしカイルが魔物へまともに刃を通せる武器を持っていたなら、単独でも討伐できていた可能性は高い。
それほど戦闘内容は常識外れだった。
「だから、魔物用の剣が欲しい」
カイルは迷わず続ける。
「今ならアイアーベアの素材もある。牙も骨も、あれだけデカいんだ。絶対すげぇもんが出来るって」
「あの素材を使う気か?」
エルマーが問い返す。
カイルは当然のように頷いた。
「当たり前だ。普通の鉄じゃ足りない」
エルマーは今度はルークを見る。
「次はお前だ」
ルークは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「剣は森へ行く時だけ使うつもりなんでしょうけど、どこからバレるか分からないんすよ!」
焦りがそのまま声に滲んでいる。
「今だってギリギリなんす! 学校にバレたら……それに旦那様が知った時、どう思うか……考えただけで怖いっす!」
貴族社会では噂一つが命取りになる。
「真剣を持ってたなんて広まったら、坊ちゃんの未来が潰れます。それが魔物用だって訴えても、今度は“魔物を狩ってる”ことまで責められる。今、商売だけでも危ない綱渡りしてるのに、坊ちゃんそれ分かってないんす!」
言い切ったあと、ルークは肩で息をした。
路地裏に沈黙が落ちる。
エルマーはしばらく何も言わず、二人を見比べていた。
そして、ゆっくり口を開く。
「……カイルの気持ちは分かる」
その一言に、カイルが顔を上げた。
「正直、昨夜の話を聞く限り、お前の言ってることは間違ってない」
「……なら」
「だが、それでもルークの言う通りだ」
声音が低くなる。
「何に使うとしても、“真剣に見えるもの”を持っていれば、お前の立場では危うい。学校も、貴族社会も、そういう部分は想像以上に面倒だ」
カイルは不満そうに眉を寄せた。
「……じゃあ、諦めろって言うのか?」
エルマーは小さく首を振る。
「いいや。必要だと思うなら、作ればいい」
その言葉に、ルークが「えぇっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
エルマーは落ち着いたまま続ける。
「隠し通せるなら、だがな」
それは、あくまで条件付きの話だった。
「ただし、順番を間違えるな」
静かな声が路地裏へ落ちる。
「アイアーベアの素材を使うつもりなら、なおさらだ」
カイルがわずかに視線を上げる。
「昨夜回収した素材だけでも、あれだけの量がある。まずは腐らせず、長期保存できる形へ落とし込め」
するとカイルは、間を置かずに言った。
「なら先に剣を作る」
ルークが露骨に嫌そうな顔をする。
「始まった……」
だが、カイルは真顔だった。
「武器に変えちまえば、腐る問題は消える。使わないやつだけ保存に回せばいい」
その返答に、エルマーは呆れたように息を吐く。
「簡単に言うな」
声には苦笑が混じっていた。
「お前みたいに、魔物素材を武器へ使おうなんて考える鍛冶師自体まずいない」
「……」
「この街には名工が集まっている。だが同時に、癖も誇りも強い職人ばかりだ」
エルマーは路地の向こうから聞こえてくる金床の音へ耳を傾けた。
「腕だけじゃない。手を貸したいと思える相手を、じっくり探すべきだ」
そう言ってから、エルマーは真っ直ぐカイルを見る。
「素材が駄目になれば全部そこで終わる。鍛冶師は逃げん。だが素材は待ってくれないぞ」
カイルは黙り込んだ。
エルマーは続ける。
「それに、まだお前もどんな剣を作るか決め切れていないだろう」
「……」
「この街には、本や文献にも載っていないものが山ほどある。剣を見て回れば、考えが変わるかもしれんし、保存のやり方だって変わるかもしれん」
そして小さく肩をすくめた。
「だから、まずは見て回れ。焦って形にするには惜しい街だ」
その言葉に、カイルは考え込む。
剣の知識には自信がある。
騎士学校でも学んできたし、本も読み漁ってきた。
だが、それで全てを知ったと言い切れるほど、この街は浅くないのだろう。
そんな様子を見て、エルマーは口元を緩めた。
「焦るな。旅はまだ始まったばかりだ。三日後には、もっと面白い予定も用意している。せっかく外へ出たんだ。色々見て回れ」
その言葉に、カイルがわずかに眉を動かす。
「……面白い予定?」
「あぁ。簡単には行けない場所だ。楽しみにしてろ」
エルマーはどこか愉快そうに笑った。
カイルは息を吐く。
「……分かった。じゃあ先に街を見る」
「よ、良かったっす……」
ルークが途端に安堵した顔になる。
だが次の瞬間、カイルはぱっと顔を上げた。
「なら片っ端から回るぞ。工房も市場も全部見たい」
今にも駆け出しそうな勢いだった。
しかし、その肩をエルマーが掴む。
「待て」
「ん?」
「今日はここまでにしろ」
カイルが不満そうに眉を寄せる。
「まだ昼すぎだぞ」
「もう十六時だ」
エルマーは呆れたように息を吐いた。
昨夜の戦闘で、誰もまともに眠れていない。
昼食すらまだだった。
それなのに、店へ入るたびカイルは「あれは何だ」「これはどういう加工だ」と質問を始め、気になるものを見つければすぐ別の通りへ向かってしまう。
気づけば剣都へ着いてから、かなり歩き回っていた。
護衛たちも、流石に疲労を隠しきれていない。
それでもカイルだけは、まだ平然としている。
「俺はまだ回れるぞ?」
「お前はな……」
エルマーは頭を押さえ、それから隣のルークの肩をぽんと叩いた。
「……いつもこんな感じなのか?」
ルークは苦笑いを浮かべる。
「これが平常っす」
「…………」
エルマーは遠い目になった。
実際に長い時間行動を共にしてみて、初めて理解した。
この少年は、一度興味を持ったものへ走り出すと、本当に止まらないのだと。
エルマーは腕を組み、どうにか今日だけでも落ち着かせられないかと思案する。
――その時、ふと思い出した。
「……そういえば、泊まる宿には古い鍛冶資料室があったはずだな」
その瞬間、カイルの動きがぴたりと止まる。
「昔、この街の鍛冶師や騎士が残した本や図面を保管してるらしい。一般には出回っていない記録もあるとか」
「……資料か」
わずかに迷うような声だった。
するとルークが、慌てたように身を乗り出す。
「きっと珍しいもんもあるっすよ! 剣の街の資料室とか、絶対ヤバいやつあるじゃないっすか!」
その言葉に、カイルの視線が動く。
数秒考え込み――やがて小さく頷いた。
「……そうだな。今日はそっち見るか」
ルークはその返事を聞いた瞬間、心の底から安堵した。
(止まった……!)
エルマーはそんな二人を見て苦笑した。
一行は遅すぎる昼食をとり、宿へ向かった。
この資料室で、カイルは驚くべきものを目にすることとなる。
古い図面。
分厚い刀身。
異様な重心。
そして余白に残された文字。
――《大型獣討伐用》
カイルの指が止まった。
「……なんだ、これ」
人を斬るためではない。
巨大な獣を討ち倒すためだけに作られた刃だった。
ページをめくる音だけが、静かな資料室へ響く。
気づけば窓の外は、完全に夜へ沈んでいた。




