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第20話 魔物は狩ってからが本番

歓声が上がる中、カイルはルークとノエルに手を貸してもらい、ゆっくりと立ち上がった。


喉元に刺さったままの木剣を引き抜き、肩に担ぐ。


焚き火の向こうでは、笑う者、泣く者、その場に座り込み呆然と空を見上げる者がいた。


誰もが、生き残ったことをようやく理解し始めている。


「怪我人はいないか?」


勝った直後とは思えぬほど落ち着いた声だった。


近くにいた傭兵が、カイルの全身を見て鼻で笑う。


「お前が一番怪我してんだろ」


乾いた笑いが漏れた。


カイルは改めて自分の身体を見下ろす。


血と泥にまみれ、服は裂け、頬にも腕にも脚にも細かな傷が走っていた。


打ち身も多い。


意識した途端、痛みがじわじわと存在を主張し始めた。


「痛っ……」


カイルはその場へ座り込む。


また周囲から笑いが漏れ、「大人しくしてろ!」と声が飛んだ。


ヴァルディア商会の後方支援をしていた護衛たちも、慌てて救急道具を運び始める。


「俺は後でいい。動けねぇ奴から手当しよう」


見渡せば、酷い重傷者こそ少ない。


それでも、無傷の者はほとんどいなかった。


腕を押さえる者。


足を引きずる者。


服へ血を滲ませている者。


誰も彼も、満身創痍だった。


その様子を見た護衛が、険しい顔で口を開く。


「……ここにある分だけでは足りませんね。退避させた荷馬車にまだありますので、すぐ取ってきます」


踵を返しかけた護衛を、カイルは呼び止めた。


「ルークも連れてってくれ」


名を呼ばれたルークは、重い瞼を瞬かせた。


あれだけ気を張り続け、合図を待ちながら瓶を構え、最後はカイルと共にアイアーベアの喉へ木剣を押し込んでいたのだ。


時刻は既に、深夜三時を回ろうとしていた。


今にも寝落ちしそうな顔になっていて当然だった。


「は? 俺もっすか……? いや、坊ちゃん、俺も普通に疲れてるんすけど……」


「お前じゃないと、どの荷物か分かんねぇだろ」


それでルークも察した。


この状況でカイルが自分に頼む理由は一つしかない。


あの目はもう、“戦いを終えた人間”のものではない。


“仕入れ前の商人”の目だ。


つまり、このアイアーベアを解体するつもりなのだ。


今回の荷には、解体用のナイフ、縄、薬草、防腐粉など様々な道具が紛れ込ませてある。


どの袋に何が入っているか把握しているのは、ルークだけだった。


「いやでも、今の俺に走れってのは、ちょっと人使い荒すぎるっていうか――」


「街に着いたら、とびきり美味いもん食わせてやるから」


ぴたりと止まる。


ルークは、じとりとした目でカイルを見た。


「……本当にっすね?」


「嘘ついてどうすんだよ。ちゃんと肉食わせる」


「……じゃあ、まあ……行きますけど」


完全に餌で釣られていた。


護衛は数名へ合図を送り、ルークを連れて荷馬車の方へ駆けていく。


その背中を見送りながら、カイルはふうと息を吐いた。


「……腹減った」


夕食は食べていた。


それでも、アイアーベアとの戦闘で体力はほとんど削り切られている。


その声に、すぐ近くにいたノエルが小さく笑い、腰の干し肉袋を差し出した。


「どうぞ」


「ありがとな」


カイルはそれを受け取ると、アイアーベアの亡骸の傍へしゃがみ込み、何のためらいもなく齧りついた。


裂けた肉。


溢れた血。


焦げた毛皮。


なお立ち上る、生臭く熱い臭気。


そんな凄惨な光景のすぐ横で、平然と干し肉を頬張る姿に、周囲の護衛たちの動きが止まる。


「……あの、少し離れませんか?」


困ったように言ったのはノエルだった。


カイルは首を傾げる。


「なんで?」


「その……普通は食欲なくなると思うんですが」


「いや、効率いいだろ。食いながら観察できるし」


返答は即答だった。


周囲の護衛たちは無言で顔を見合わせる。


やはりこの少年は、どこか感覚がズレている。


カイルは干し肉を噛みながら、黒鉄のような毛皮へ触れた。


指先で押し込み、硬さを確かめる。


「……やっぱり、この毛皮だな。コイツの魔能は硬化か……?」


刃をも弾くあの異様な硬さ。


普通の獣とは、明らかに別物だった。


次に爪を持ち上げ、厚みや湾曲を確かめる。


さらに口元へ回り込み、牙を覗き込んだ。


「……何してるんですか?」


ノエルが思わず声を上げる。


「牙を見る」


「まさか口に手を入れる気ですか?」


「死んでるだろ」


「そういう話じゃないんですが……」


カイルは気にした様子もなく、平然と牙の根元や顎の厚み、喉奥に残る木剣の跡を確認していく。


護衛たちは揃って微妙な顔になる。


「……怖いもの知らずだな、あの方は」


誰も否定しなかった。


カイルはそのまま巨体の横へごろりと寝転び、自分の身体と並べるようにして大きさを見比べた。


「……デカいな」


さらに前脚へ手を伸ばす。


「……肉球あるのか」


ぶに、と押すと、柔らかい感触の奥に分厚い筋肉と硬い骨格が詰まっているのが分かった。


「へぇ……」


今のカイルは、商人というより研究者に近い顔をしていた。


そんなやり取りをしているうちに、自警団の年長らしき男が歩み寄ってくる。


「……坊主、そろそろ燃やす準備に入っていいか?」


討伐後の魔物は焼却処理する。


それが、この世界では当たり前だ。


ここで“素材が欲しい”などと言えば、余計な詮索を招く。


だが、普段通り焼かれてしまっては意味がない。


寝転んだまま顔だけを向け、カイルは答える。


「まあ……手当てが終わってからな」


曖昧に濁した。


自警団の男は特に疑いもせず頷き、少し離れた場所へ戻っていった。


その時、遠くから荷馬車の戻ってくる音が聞こえた。


だが、戻ってきたのはそれだけではない。


商会馬車まで一緒にやってくる。


「カイル!!」


馬車が止まり切る前に、エルマーが飛び降りるように駆け出した。


その後ろから降りてきたルークも、状況を見て顔色を変える。


巨大な魔物のすぐ横で、カイルが地面へ横たわっていた。


「ぼ、坊ちゃん!!?」


ついさっきまで普通に喋っていたのに――。


ルークが悲鳴のような声を上げて駆け寄る。


エルマーも血の気の引いた顔で足を速めた。


だが次の瞬間。


地面へ伏していたカイルが、ごろりと転がり、そのままむくりと起き上がった。


「おぅ。来たか」


ケロッとした声だった。


ルークがその場で膝から崩れ落ちる。


「紛らわしいっすよぉぉぉ!!」


「は?」


「死んだのかと思ったじゃないっすか!!」


「いや、観察してただけだけど」


「観察を寝転んでやる人、初めて見たっす!!」


その横で、エルマーが深く息を吐いた。


本気で安堵した時にしか出ないような、長いため息だった。


そして次の瞬間には、エルマーは膝を折り、そのままカイルを強く抱きしめていた。


「……無事で、良かった……!」


「痛っ、痛いって! 締まってる! 折れる折れる!!」


「馬鹿者……! 無茶をしおって」


怒鳴るような声だった。


だが、その声はわずかに震えていた。


しばらくして身体を離した時、エルマーの目元はほんの少し赤かった。


「……大げさだって」


「大げさで済むか!」


即答だった。


だがその直後、カイルは親指でアイアーベアを示し、小声で言う。


「で、コイツ解体したいから時間くれ」


エルマーが固まった。


「……は?」


「毛皮も骨も爪も牙も、全部使える。血もな。早くしねぇと駄目になる」


カイルの頭の中では、どうやらもう戦いは終わっていたらしい。


目の前にあるのは、討ち倒した魔物ではない。


“加工前の資材”だった。


真顔で言い切るカイルを見て、エルマーは額を押さえたくなるのをどうにか堪える。


「その前に手当てだ」


「かすり傷だって」


「ここは大人しくしろ」


有無を言わせぬ声音だった。


さすがのカイルも一瞬だけ口をへの字に曲げたが、完全には諦めていない顔をしている。


護衛たちに座らされ、薬草をすり潰したものを傷へ塗り込まれた。


「っ……いてぇな」


「沁みるのは、効いている証拠です」


「なら、もっと丁寧にしてくれよ」


包帯が巻かれていく間も、カイルの視線は何度も亡骸へ向いていた。


早く解体したい。


その焦りが、そのまま顔へ出ている。


手当が終わる頃には、自警団が再び亡骸へ集まり、薪や油壺を運び始めていた。


焼却準備に入ろうとしていた、その時だった。


「――待ってくれ」


静かな声が場を止める。


振り返った先で、エルマーが一歩前へ出た。


「この規模の魔物だ。このまま焼くには時間がかかりすぎる。商会側で解体してから焼却処理を行う。護衛の装備の方が切断にも向いている」


そして周囲を見渡した。


「諸君らは十分働いた。ここからは我々が受け持つ。全員、後方へ下がって休んでくれ。ただし、交代で見張りは頼む。森の夜が終わったわけではないからな」


その言葉に、一気に安堵が広がった。


「休んでいいのか……!」


「助かった……もう足が限界だ……」


「マジで喉がカラカラだ……」


護衛たちが数名進み出て、人員を割り振っていく。


統率された指示に、傭兵も自警団も自然と従う。


気づけば、死骸の周囲にはカイルとルーク、エルマーと数名の護衛だけが残っていた。


カイルは包帯の巻かれた腕を軽く回し、口元を歪める。


「よし。やるぞ」


それから先は、ほとんど彼の領域だった。


ルークがランプを持ち、手元を照らす。


「うわぁ……近くで見ると、本当にデカいっすね……」


「過去最大だな」


カイルはどこか嬉しそうに笑った。


「……まずは毛だ」


ルークが道具袋を開く。


解体用ナイフ、縄、薬草、防腐粉が次々と取り出された。


「……本当に、最初から解体する気だったんですね」


近くにいたノエルが小さく目を丸くする。


「当たり前だろ。こんな上物、焼くだけとか勿体ねぇ」


そう言って、カイルは迷いなく毛皮へ刃を入れた。


――ギギッ。


だが、刃は思ったほど進まない。


「……硬ぇな」


皮も筋も骨も、何もかもが異常に硬い。


カイルは眉を寄せた。


こりゃ専用の刃物がいるな、と直感する。


これまで解体してきた魔物とは、明らかに別格だった。


刃の角度を細かく変えながら、少しずつ毛皮へ切れ目を入れていく。


しかし、思った以上に進まない。


「……全部剥ぐのは無理か」


さすがに今の道具では限界がある。


カイルは小さく舌打ちすると、剥ぎ取れた分の毛皮を脇へ避け、巨大な牙へ目を向けた。


こちらの方が本命だった。


「ルーク。縄」


縄を受け取ると、今度は巨大な牙へ巻き付ける。


そして近くの護衛二人とノエルを顎で呼んだ。


「お前ら来い。引っこ抜くぞ」


「えっ? 私もですか?」


「当たり前だろ。働け」


全員が位置についたのを確認すると、カイルは当然のように先頭へ立つ。


「よし、せーの!」


一斉に力が入る。


だが――びくともしない。


「おい何やってんだ! 全然足りねぇぞ!」


「いやいやいや、十分引いてますよ!?」


ルークが悲鳴を上げた。


「だからもっと引けって言ってんだろ!!」


「さっきまで死にかけてた人間の台詞じゃないっすよ、それ!」


それでも抜けない。


カイルは一度縄を緩め、牙の根元を睨み込む。


そして後ろを振り返った。


「……おい、サボってんじゃねぇだろうな?」


空気が凍った。


「はぁ!?」


「きちんと引いておりますが!?」


「全力です!」


だがカイルは、ぼそりと呟く。


「……力ねぇな」


ぴきり、と護衛たちのこめかみに青筋が浮かんだ。


全員、ほぼ同じことを思う。


このクソガキ、と。


「よし、もう一回だ! 今度は本気でやれ!」


再び縄が張られる。


腕が震え、足が滑る。


やがて――ミシッ、と微かな軋み音がした。


カイルの目が鋭く光る。


「来てるぞ! そのまま止めんな! 揺らせ揺らせ!!」


全員で力任せに縄を揺らす。


ミシ、ミシ、と根元の音が大きくなっていく。


「よし、最後だ! 全力で持ってけぇぇ!!」


その号令と共に、全員が限界まで力を込めた瞬間。


――バキンッ!!


牙が勢いよく根元から外れた。


「うおっ!?」


「うわぁぁっ!!」


勢い余って、全員まとめて後ろへ吹っ飛ぶ。


ノエルまで地面へ転がり、周囲から笑い声が漏れた。


土まみれになったノエルは、しばらく空を見上げた後、小さく息を吐く。


「……解体するのも大変なんですね」


「まぁな」


カイルは抜けた牙を抱えながら、満足そうに笑った。


「いい素材だなこれ」


そして、縄を握ったままの護衛たちを見回した。


「……ありがとな。お前らのお陰で手に入った」


予想外の言葉だった。


ついさっきまで全員、口は悪いし、無茶ばかり言うガキだ、と思っていた。


だが、不思議と悪い気はしない。


その後も作業は続いた。


爪、骨、毛皮、脂、血。


次々と指示が飛び、護衛たちは完全に作業員化していく。


「そこ腐るの早いから防腐粉撒いとけ!」


「あっ! その爪、欠けたら価値落ちるから丁寧に持て!」


「血の袋そっち置くな! 熱入るだろ!」


夜の森へ怒号が飛び交う。


戦闘後とは思えない熱気だった。


護衛たちは汗だくになりながら、半ば引きつった顔で思う。


――やっぱりこのガキ、人使いの荒い鬼だ。


だが、ルークだけは妙に手慣れていた。


もう慣れ切っているのか、カイルの指示へ淡々と対応していく。


「……坊ちゃん、解体の方が元気っすよね」


ランプを持ちながら、ルークが呆れたように呟く。


カイルは振り返りもせず答えた。


「当たり前だろ。魔物は狩ってからが本番だ」


「普通は討伐終わった時点で本番終わってるんすよ……」


夜の森では、まだ慌ただしい作業音が続いていた。


その頃、エルマーは少し離れた場所で、護衛から戦闘内容を聞き取っていた。


カイルがどう前線を維持し、どう戦線を動かしたのか。


そして、見慣れぬ瓶を使っていたことも。


「炎を放つものと、氷を散らすものです。即席の投擲物には見えませんでした」


その報告に、エルマーの表情がわずかに曇る。


やはりか、と小さく息を吐いた。


カイルが手合わせや自主練をしている間、ルークが大切そうに抱えていた瓶。


あれは、旅の危険を見据えて用意されていたものだった。


エルマーは改めて、今回の旅にカイルがいて良かったと思う。


もし自分たちだけだったなら、何人が魔物に食われ、今こうして生き残れていたかも分からない。


だからこそ、先に塞いでおくべき口がある。


エルマーは、見張りに立つ者たちや、まだ眠らず戦いを語り合っている傭兵と自警団の方へ歩いていった。


疲労の滲む顔を一人一人見渡し、口を開く。


「諸君。本日は本当に見事だった」


商談の席で使うのと同じ、穏やかな声音。


「君たちの勇気がなければ、あの場を凌ぎ切ることはできなかっただろう。まずはヴァルディア商会を代表して感謝を伝えたい」


功績を認められ、場の空気が少し和らぐ。


そこでエルマーは声を落とした。


「そのうえで、一つだけ頼みがある。今日の戦闘内容、そしてカイルが使った特殊な道具については、外では控えてほしい」


「……隠せってことか?」


傭兵の一人が眉をひそめる。


エルマーは静かに首を振った。


「違う。守るためだ」


場が静まる。


「皆も知っての通り、あの子の父は王国騎士団長ラインハルト卿だ。あの子自身も、今その道を目指して歩く身だ。だが、この国の常識では、騎士は本来、魔物を狩らない」


エルマーは一人一人の顔を見ながら、静かに続けた。


「夜の森へ入り、民に混じって魔物を討ったなどという話が広まれば、それだけで立場が悪くなる。あの特殊な瓶も同じだ。軽々しく表へ出していい代物ではない」


真実は語らない。


それでも、嘘ではなかった。


「あの子は本来、こんな場所で目立つ必要などなかった。それでも皆を守るために前へ出た。だからどうか、このことは外では話さないでほしい」


しばし沈黙が落ちる。


やがて傭兵の一人が鼻を鳴らした。


「……んなもん、言われるまでもねぇよ」


別の男も苦笑する。


「つーか話しても誰も信じねぇだろ」


「木剣でアイアーベア倒したって?」


「作り話だって笑われるのがオチだ」


どっと笑いが起きた。


自警団の者たちも頷く。


「口の軽い真似はしねぇ」


「今日見たもんは、ここだけにしとくさ」


エルマーは静かに息を吐いた。


「……感謝する」


そうして厄介ごとの種を一つ潰し、ようやく安堵した頃、解体も終盤へ入っていた。


必要な素材はほとんど回収し終え、地面には焼却するしかない残骸だけが積み上がっている。


護衛たちが薪を運び、油を撒く。


火が放たれると、暗い夜空へもう一つ灯りが浮かび上がった。


ぱちぱち、と爆ぜる火。


黒煙がゆっくり空へ昇っていく。


その光を横目に、カイルは最後の袋の口を縛り、大きく息を吐いた。


「……よし。これだけあれば十分だな」


周囲には大量の素材袋が積まれている。


毛皮、骨、爪、牙、血、脂。


普通なら焼かれて終わるはずだった怪物が、今や山ほどの“資源”へ変わっていた。


毛皮は防具。


骨は補強材。


牙は加工次第で剣に。


血も薬に使えるかもしれない。


カイルの頭の中では、もう次の使い道が並び始めている。


その様子を見ていたエルマーが、半ば呆れたように笑った。


「……なんでも持って帰るな」


「当たり前だろ」


カイルは振り返らず答える。


荷馬車へ素材袋が次々積み込まれていく。


だが、それでも入り切らなかった。


余った袋は、豪奢な商会馬車の屋根へ縄で括り付けられている。


かつては宝石商の展示品のようだった美しい馬車が、今や完全に資材運搬車だった。


ルークがそれを見上げ、引きつった顔をする。


「……高級馬車って、こんな使い方されるもんなんすかね」


エルマーが即答した。


「されるわけないだろ。この馬車がいくらするか知ってるか?」


カイルは苦笑する。


「悪いな」


だがエルマーは不満そうではなかった。


「まあいい。商いとは、こういうものだ」


そう言って、エルマーは小さく笑った。


やがて、森の端がゆっくり白み始める。


湿った夜気が薄れ、長かった一夜が終わろうとしていた。


昇り始めた朝日が、素材を積み上げた荷馬車を淡く照らす。


そうして一行は、剣の街へ向けて最後の出発準備を始めた。

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