悲劇が止まらぬ現実世界にて とある新人刑事(5)
愛する異性であったのか そうでもなかったのか
ともかく 外奈が紺を突き落とした事自体
彼の意思ではなく 『周囲の後押し』であった
「そしてもう一つ、この手紙で伝えたい事がある。僕が彼女を殺めてしまった、その『背景』について
だ。
正直、僕は彼女が好きだった・・・のかもしれない。
当の本人がいなくなった今、その心境を確かめる術はない。
でも、亡くなった後もこうして思い悩んでいる・・・という事は、好きだったのかもしれない。
・・・いや、きっとこれは、『同族』だから故に起きる心理なのかもしれない。
僕の家庭は彼女程ではないけれど、父子家庭で父は毎日仕事詰め、僕の為に働いてくれている事は熟知
していても、やっぱり寂しかった。
そして、彼女も寂しかった。彼女も僕と同じく、『愛』を求めていた。
その愛は、『友情』でも『愛情』でも構わない。とにかく、他者との繋がりで得られる温もりを、ずっ
とずっと求めていた。
しかし、そんな僕達の儚い希望ですら、無惨にぶち壊される苦しみと悲しみ、それは誰にも理解できな
いし、理解してもらいたくもない。
この感情は、彼女の地獄を終わらせた、きっかけにもなった感情。それは『怒り』と『哀しみ』が入り
混じった、混沌とした感情。
いじめをするような奴は、基本的に全員が暇人である。だからこそ、人を玩具にして時間を潰さない
と、生きていけない。
だからこそ、面白そうな話、気に食わない話は、俊敏に察知する。それから仲間内で情報を共有して、
また寄って集る。
まるで、甘い蜜を求めて地面を這い回る『蟻』の様に。そして僕達は、ずっと食われ続けたんだ、貪ら
れたんだ。
彼女が僕に好意を寄せいている話を、一体どこから聞きつけたのかは分からないが、とにかくその噂が
クラス中に広まった頃には、既に俺は『過激な冷やかし』を受けていた。
「根暗同士お似合い」とか「あんな疫病神に好かれて可哀想」なんて言われた。
そんな言葉を毎日聞くだけでも頭が痛くなるのに、僕の口に無理やり手を突っ込んで、それを彼女の机
の上に塗ったり、更衣室で着替えている写真をネットにばら撒かれたり・・・
もう、思い出すだけでも嫌だ。もう記憶喪失にでもなって、孤独になった方がまだマシと思えるくら
い、僕に飛びかかった飛び火は、みるみるうちに大きくなっていく。
そんな火で炙られる毎日が続けば、当然僕の心は擦り切れて、正常な判断ができなくなっていく。
赤信号と青信号の判断がつかなくなったり、包丁や鋏を見る度に、妙な多幸感を感じたり。
もうその時点で、僕はもうこの世界では生きられない事を確信した。でも、確信したその時には、既に
僕は彼女を突き落としていたんだ。
いっその事、彼女の遺体が見つからないままの方が良かったのかも・・・と思う。
冷たくなった彼女に対しても、まだ皮肉や陰口を叩くクラスメイトの連中は、笑いが込み上げてくる程
狂っていた。
僕は家庭の問題で、安易に転校する事はできない。どんなに手を尽くしても、奴らからは逃れられな
い。
これからも、コイツらと一緒に日々を過ごすくらいなら、いっその事、もう自分の手で全て終わらせた
かった。」




