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戦姫メイド  作者: 白彩
墓標の野原
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36/37

プロローグ:戦いの裏側

三日も空きませんでした。今日から4章始まります。

北の港街の外れ、窓のない石造りの建物の地下で、また一人、死んだ。胸を貫かれた傷が、肺にまで達していた。呼ばれた医者は、運ばれてきた時点で手の施しようがなかったと報告し、咎められることもなく、机の上に置かれた銀貨三枚を掴んで足早に去っていった。


地下の部屋に残ったのは、男と、顔の見えない者と、台の上の死体だった。


「峠の麓です。南の国境沿いの」


報告する男——かつて港町の酒場で噂を買った、あの旅装の男だった。


「荷馬車に匿って、連中の手から逃れようとした輩がいて。途中で気づかれて、埋められる前に、こちらが買い取りました」

「置いていかれたのではない、か」

「ええ。運ぼうとした者がいた。南では珍しいことです。戦死した駒を、わざわざ運ぶ風習はありませんので」


灯りの外で、老いた指が机を二度、叩いた。


「誰が殺した」

「剣による一突き。ただし、通常の剣ではありません。創傷の周囲に、焼けた痕と凍った痕が、同時に残っています。同じ傷の縁に、です」

「血の術」

「その可能性が高いかと。……戦姫の噂は、本物でした」


蝋燭の芯が、小さく爆ぜた。


「あの眼鏡は」

「生きています。南の街道を北上中です。こちらに戻るのは、あと二十日ほど」

「戻る頃には、次の手を決めておかねばならん。お前、これを見ろ」


灯りの外から、一枚の紙が机の上を滑ってきた。報告書の写しだった。


「先月、西の辺境で回収に失敗した件だ。対象は十二番。担当者は、戻ってこなかった」

「回収対象が、回収者を返り討ちに」

「翌月にも、東で同じ失敗が起きている。担当者はやはり戻っていない。……お前が見ていないだけで、北でも一件、同じ報告が上がっている」

「三件、ですか」

「ああ。どうやら我々の知らないところで、番号のついた者たちが育ち始めている。……育つ、などということは、本来ありえんのだ。温室を出た番号は、数ヶ月と保たない。保たないように作られている。……それが、保っている」


老いた指が、台の上の死体を指した。


「五番と銀髪。あの二つは同じ場所にいる。置いておけば、周りが真似をする。番号たちが、外の世界を生きられる場所だと知ってしまう。知られれば、温室の中の番号たちまで、色めき立つ」

「では」

「決まっているだろう」


灯りの外の声は、終始、事務的だった。


「次は、釣りだ。獲りに行くのではない。寄せる。……眼鏡が戻るまでに、餌の段取りを整えろ」

「餌、とは」

「番号が逃げてきた場所のことを、番号たちが一番よく知っている。……そこに、まだ残っている者がいるはずだ」


男は、その意味をすぐには飲み込めなかった。飲み込めた時、背筋に冷たいものが走った。


「まさか。温室の者たちを」

「ああ」


指が、もう一度だけ、机を叩いた。


「——温室を、動かす」


地下の廊下を出る頃、男の耳にはあの声の響きだけが残っていた。温室が動く、とはどういうことか。育てる場所が、育てた者たちを外へ出す、とはどういうことか。考えても、答えは出なかった。出なかったが、南のどこかで、まだ名前のない子供たちが、今夜も食事を待っていることだけは、男にも想像できた。


港では潮の香りが強くなっていた。南へ向かう船は、今週はもう出ない。

なんと1,000PV達成いたしました!

本当に感激です!次は2,000PVを目指したいと思っています!

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