第七章 好きなん?
その日は、彼女は部活で遅くなるらしく、弟が駅まで送ってくれることになった。
駅までの道を一緒に歩く。
春の日は少しずつ長くなっていた。
夕方の道には、まだ明るさが残っている。
弟は機嫌よく話していた。
学校のこと。
友達のこと。
昨日やったサッカーのこと。
話題は次々に変わった。
私は相づちを打ちながら歩いていた。
「そういえばな」
弟が言った。
「先生」
「ん?」
「サッカーしたことある?」
「あるで」
「へえ」
弟は少し意外そうな顔をした。
そのあとも、しばらく他愛のない話が続いた。
そして、交差点の手前だった。
弟が急にこちらを見上げた。
「なあ」
「何や?」
少しだけ間があった。
そして、
「先生、お姉ちゃんのこと、好きなん?」
と言った。
私は思わず足を止めそうになった。
「何や、急に」
弟は肩をすくめた。
「別に」
別に、ではないだろうと思った。
けれど、それ以上は続かなかった。
私は笑ってごまかした。
そして、
「さあ、」
とだけ言った。
弟はもう前を向いて歩いている。
さっきまでの真剣さもない。
まるで思いつきで聞いただけのようだった。
信号が青になった。
私たちは横断歩道を渡った。
弟は次の瞬間には、
「今日な、友達がな」
と別の話を始めていた。
もうその話題には興味がないらしかった。
私は何も答えなかった。
春の風が吹いていた。
弟は少し先を歩いている。
私はその背中を見ながら歩いた。
さっきの質問だけが、なぜか頭の中に残っていた。




