表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の途中―ある家族と過ごした春の記録―  作者: 種村朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/13

第六章   百点満点

その日の授業も終わりに近づいていた。

彼女は数学の問題を解き、弟は算数の問題に苦戦していた。

私は弟のノートをのぞき込みながら言った。

「途中式は消したらあかんぞ」

「なんで?」

弟は不満そうな顔をした。

「答えが合っとったらええやん」

私は少し笑った。


昔、自分も同じようなことを思ったことがあった。

数学の先生は、おとなしい人だった。

怒ったところを見たことがない。

授業中に騒ぐ生徒がいても、大きな声を出すことはなかった。


黒板に向かい、静かに途中式を書いていく。

わからない生徒がいても、嫌な顔ひとつしなかった。

私はその先生の授業が好きだった。

数学が好きになったのも、その先生の影響だったと思う。


高校へ進むと、数学の先生はまったく違う人になった。

高校の数学教師は、丸い眼鏡に大きな鼻をしていた。

手塚治虫の漫画に出てくるランプによく似ていた。


そして、

「プラース! プラース!」

が口癖だった。

問題が解けなくても、

「プラース!」

模試の結果が悪くても、

「プラース!」

何がそんなに前向きなのかは、最後までよくわからなかった。


高校二年の中間テストだった。

数学だけは自信があった。

問題を解き終えても、まだ時間が残っていた。


私は答案を見直した。

計算ミスはないか。

符号を間違えていないか。

問題の読み違いはないか。

最初から最後まで確認した。

それでも間違いは見つからなかった。


もう一度見た。

それでも見つからなかった。

何度も何度も見返した。

だが、間違いは見つからなかった。

そのときだった。

もしかしたら百点かもしれない。

そう思った。


すると急に胸の奥が落ち着かなくなった。

本当に間違いはないのか。

また最初から見直した。

それでも見つからない。

気づくと、少しだけ手が震えていた。


答案が返ってきた日。

赤い数字で、

100

と書かれていた。

私はしばらくその数字を見ていた。


嬉しかった。

けれど、それ以上に不思議だった。

本当に百点だったのかと思った。

期末テストでも百点を取った。

数学で満点を取ったのは、その二回だけだった。

後にも先にも、それが最初で最後の百点だった。


「先生?」

弟の声で我に返った。

いつの間にか手が止まっていたらしい。


「聞いとる?」

「聞いとる」

私は弟のノートを指差した。

「答えだけやなくて、途中式も残しとき」

「なんで?」

私は少し考えてから答えた。

「あとで、自分が何を考えたかわかるからや」

弟はよくわからないという顔をした。


右隣では、彼女が黙ってノートに途中式を書いていた。

私はその文字を見ながら、昔の先生たちのことを思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ