表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/44

【41】 アオハル・エンディング

〈カケル視点〉


「うおおおおっ! アイツ、またやりやがった!」「2ターンキル、これで何回目だよ!?」「やってんなあッ!」


 超速攻決着《2ターンキル》を、初見した人も。


 実際にトーナメントで、くらった人も。


 決勝戦で、またしても僕が成立させた自傷突撃スーサイドアタックに、沸き立っている。


「は? え、もう終わったの!?」


 僕たちを囲う、観客ギャラリーたちに混じって。


 幼馴染の応援をしていた、ジュリアちゃんは。


 あまりの瞬殺劇に、納得がいかないようだった。


「なんか、ズルくね!? オニーサン、ズルしてね!?」

 

「いや……ギリギリ、ズルでは、ないと思うよ」


 憤るジュリアちゃんの、すぐ隣で。


 渋い表情を浮かべる、リュウセイくんは。


 現状を正確に、理解してくれている。

 

「はあ!? なんだよリュウ、オニーサンの味方かよ!? だってヒカ、まだ土地を1枚出しただけじゃん!? あんな状態で、何かできるわけねえじゃねえかよ!? あんなの、ぜってーズルだって!」


「そりゃあまあ、流石に2ターンキルは、出来過ぎだと思うけど……でも夢尾さんの使った【憎愛】って、決まるヤバいけど、外すと、今度は自分が即死しちゃうっていうリスクを背負ってからね。わかりやすい、諸刃の剣(デッドオアライブ)だよ」


 その通り。


 ジュリアちゃんからの、非難に。


 リュウセイくんが、答えてくれたように。


 この【憎愛】って瞬間呪文インスタントは、理論上こうした2ターンキルを可能とする、浪漫砲台なんだけど。


 例えば、相手が火力バーンデッキの場合。


 今回なら攻撃宣言前に、1点でも火力を本体プレイヤーに撃ち込まれた時点で、僕は負けちゃうし。


 青の送還バウンス否認カウンターなんかでも、ライフの支払いは『使用コスト』に含まれているため、対象のクリーチャーが戦場からいなくっても、呪文その者が打ち消されても、支払ったライフはしっかりと消費されてしまう。


 なんなら肉盾ザコで、足止め(チャンプブロック)されただけで。


 衰弱した本体ボディに、次のターンにでも逆襲カウンターされて、ズドンである。


 斯様に、超火力の代償として。


 様々な問題リスクを抱える【憎愛】のような。


 自らの生命力ライフ戦場配置札パーマネントを犠牲にすることで、暴力的な攻撃力を発揮するカードたちを主軸とした、自傷スーサイドデッキであるのだが。


 やはり、背負った代償リスクの相応に。


 ぶん回ったときの破壊力は、他の追随を許さない。


 それに一応、今回の大会におけるデッキ分布は。


 環境メタである、補充デッキと否認デッキが。


 大半を占めると、予想されていて。


 それらに対しては相性が不利とされている、自傷スーサイドデッキからすれば天敵となる、火力バーン速攻アグロなどとったデッキが。


 相対的に、少なくなるのではないかという。


 僕なりの、推測もあった。


 そして黒のお家芸である、手札破壊ハンデスは。


 最大勢力メタに対しては、気持ちいいほどにブッ刺さる。


 総じて、決して安全な道ではないが。


 あえて選択するだけの、魅力メリットがあると。


 信じた、僕の直感センスが。


 結果として、決勝ここまでなんとか。


 か細い道を、繋いでくれたかたちだ。


 何よりも。


(人間……波の乗ってるときは、イケイケどんどんなんだよね)


 運命とか。


 確率論とか。


 普段はそんなのあまり、気にしない人でも。


 人生で、一度くらいは。


 自分が何をやっても不思議と『上手くいく』確信に、恵まれる瞬間が訪れるものだ。


 今の僕が、まさしくそうだった。


 不要なもの。


 無駄なもの。


 不純なものが。


 一切合切、消え失せて。


 極限の過集中ゾーンに入っている状態とでも、言えばいいのか。


 とにかく、デッキに触れるたびに。


 ピッタリと、指先に。


 カードが、吸い付いてくる感覚。


 こうなったカードゲーマーは、もう、負ける気がしない。


 さらに今の僕は、冴えに冴えていた。


 相手に手の内を読み取らせないのは、当然のこと。


 相手を『自分の意図通りに動かせる』ことすら、錯覚でなければ、できている。


 でなければ、これほどまでに。


 攻撃手段が偏ったデッキで、連勝を積み上げるなど、確率的に不可能だ。


 相手が自分を、どう見ているのか。


 相手は自分の一挙一動から、こちらの意図を、どのように汲み取っているのか。


 翻っては、自分がどのような動きをすれば、相手はこちらの意図を汲んでくれるのか。


 そういった、駆け引きが。


 面白いほどに、把握できてしまうほどの。


 極限の過集中ゾーン状態。


 自分で、自分自身のことが。


 客観的な視点で、手に取るように理解できてしまう。


(ごめんだけど……今はちょっと、負ける気がしないよ。このまま押し切らせてもらうからね!)


 当然のように。


 手番を入れ替えた2試合目でも。


 僕は早い段階で、ヒカルくんに【憎愛】をぶち込んで。


 堂々たる完封勝利ストレートを、成し遂げたのだった。


(どうだい、ヒカルくん! これが持っている者(リア充)と、持たざる者(非リア充)の、差なんだよッ!)


 だって。


 僕にはもう、他に何もないからね。


 キラキラと、眩いほど。


 アオハルに包まれている、現役中学生なんかに。


 人生崖っぷちの中年カードゲーマーが、負けるだなんて。


 そんなの物理的に、有り得ない。


 神が許しても、僕が許さないよ。


 絶対に。


(それに……やっぱり、ヒカルくんは、僕のこれまでの試合を、観戦していなかったんだね)


 これもまた、想定通りだ。


 いち、カードゲーマーの、マナーとして。


 対戦相手の情報を、一方的に盗み見する卑怯な真似など、するべきではない……と。


 そう、この子に教えたのは、僕だし。


 きっとそれを、守ってくれていると思っていた。


 その正しさに……今回は僕が、付け込んだ戦法プレイングだ。


 まさしく、汚い大人の所業である。


(こんな僕はきっと、主人公には、なれないよね……)


 そういう、誰もが憧れる立ち位置(ポジション)は。


 それこそ、仲間に恵まれて。


 才能があり。


 未来もある。


 ヒカルくんのような人間こそが、相応しい。


(……でも……それでも……)


 自分という、ちっぽけな存在を自覚して。


 現実を知って。


 身の丈を思い知って。


 それでも、一度でも抱えてしまった、届くはずのない『夢』を。

 

 どうしても……諦められない、人間は。


(……だったらもう、僕は、邪道でいい。どれだけみっともなくて、見苦しくても、自分が納得いくまで、足掻き続けてやるんだ!)


 誰もが、憧れる。


 人に、誇ることができて。


 人に、認められるような。


 輝かしい道を、歩めなくても。


 誰しもが、目を背けてしまうような。


 薄汚れていて。


 泥臭くて。


 見るに耐えない無様を、晒してでも。


 それでも、誰も選ばないような悪路を。


 自分だけが、馬鹿みたいに突き進んでいけば。


 いつかは……誰も見たことのない、景色へと。


 辿り着けるかもしれない。


 あるいはその途中で、力尽きて。


 誰にも気づかれることなく、埋もれたとしても。


 諸行は無常。


 一興である。


 ともあれ。

 

(でも……流石にちょっと、やり過ぎちゃったかな?)


 昨日の一件から。


 もともと寝不足で、若干躁状態(ハイ)だったところへの。


 昼休み、アミさんからのご懐妊報告(サプライズ)という、過剰劇薬オーバードーズによって。


 過度な集中状態ガンギマリへと至った、僕だけど。


 それでもまだ……一応は。


 人の心が、残っているのか。


「お疲れ、ヒカルくん」


「……」


 長机の対面で……ガックリ、と。


 項垂れている、ヒカルくんに。


 優しい微笑みを、浮かべつつ。


 穏やかな声音で、語りかける。


「うん、ざまあ(グッドゲーム)だったよ」


 もう二度と、歯向かったりしないように。


 敗北者の傷口に、丹念に塩を。


 塗りこんでいく。


「キミは全然、弱くなかった。プレイングにも、ミスはなかった。ただただ僕が、強過ぎただけさ……なんか、ごめんね?」


 うん、全然反省してないよね。


 完全に、悪酔いしちゃってる。


 めっちゃ楽しい。


 死体蹴り(ディス)が止まらない。


「まあ、これに懲りたらもうしばらくは、僕のプレイングから学んで、もっと勉強を――」


「――うえっ?」


「ひいっ!?」


 不意に……ポタポタ、と。


 俯いていたヒカルくんが、顔を上げると。


 鼻筋から、鮮血が滴り落ちていた。


 そりゃ大人でも、悲鳴あげるよ。


「え、だ、大丈夫、ヒカルくん!? どこかケガしちゃったの!?」


「あ、い、いえ、大丈夫です……ちょっと、興奮、し過ぎちゃったみたいで……」


「……こ、興奮?」


 これは、あれかな?


 怒り心頭し過ぎて、血管が、破裂しちゃった的な?


「あ、その、ごめん……ね?」


 今度は本心からの、謝罪である。


 いや、流石にこれには。


 如何に有頂天ランナーズハイに陥っていた中年でも、冷静にならざるを得ない。


 急速に込み上げてきた、罪悪感に。


 責め立てられて。


 更なる謝罪を。


 口にしかけたところで……


「……え? なんで夢尾さんが、謝るんですか?」


 ヒカルくんの、特徴的なオッドアイの瞳。


 うち片方の、仄かに青みがかった、薄白の瞳に宿る……キラキラ。


 夜空を覆う、満天の、星空のような。


 とてつもない輝きに、気がついて。


「……っ!?」


 思わず、絶句してしまった。


「すごい……本当に、すごいですよ、夢尾さん! この土壇場で、あんなに大胆なプレイングが、できるだなんて! 僕の想像以上でしたっ!」


 そして薄白の瞳の、反対側。


 闇を煮詰めたような、漆黒の瞳には。


 ドロドロ、と。


 得体の知れない熱量が、渦巻いている。


「やばい……楽しいっ! 嬉しい、ですっ! サイコーですよ、夢尾さんっ!」


「は? え、な、何が……?」


「だって夢尾さんはこれから、まだまだ、どんどんと、今日みたいに強くなる……強くなって『くれる』んですよね……っ!?」


「……」


「嗚呼、だったら僕も、もっともっと、強くなれる……もっともっと、敗北《成長》を、味わえるんだ……そしていつかきっと……夢尾さんに、追いついて、追い越して……それまでに貯まった(もらった)、この敗北(感動)を、まとめて、お返しできるって、ことですもんねえ……っ! いやあ、サイッコーだなあ……っ♪」


「……」


 おいおい。


 おいおいおいおい。


 え?


 もしかして、ヒカルくん。


 僕が思っていたよりも数段、ヤバい子なのかな?


「絶対に……見失い(逃し)ませんよ、夢尾さん。どうか僕が、貴方を超えるまでは、僕の目標で、あり続けてくださいね!」


「お、おおう……?」


 いや、嫌だよ、普通に。


 なんでいち、中年カードゲーマーに過ぎない僕が。


 中学生男子の、そんな。


 クソデカ重たい期待を。


 背負わなくちゃ、いけないんだよ。


 そりゃさっき、誰かに認めてもらいたい的なことを、言ったけどさあ。


 流石にこれは、違う。


 神様に、返品案件リコールだ。


「ウッスウッス! オニーサン、あーしからも、お願いします!」


 それなのに。

 

「ヒカのこんなに嬉しそうな顔……久々に、見ました! どうかこれからも、コイツの面倒、見てやってください!」


 感受性が、高いのか。


 何故か瞳を潤ませている、ジュリアちゃんからも。


 熱烈に、そんなお願いをされて。


 さらに。


「いやあ、流石ですねえ、夢尾さん」


 相変わらずの、正統派イケメンスマイルを浮かべたリュウセイくんが……スッと。


 近づいて。


 端正な顔を、寄せながら。


「ヒカルの心を、こんなに鷲掴みにするだなんて……本当に……羨ましいなあ……妬ましいなあ……僕のほうが、ヒカルのこと、ずっとずっと、大好きなのに……大切な、友だちなのに……」


「……え? リュウセイくん? え?」


 僕たちにしか聴こえない程度の、小声で。


 ねっとりと。


 まとわりつくように。


「だから……夢尾さん、ヒカルの期待を、簡単に裏切らないでくださいね?」


 熱を帯びた、言葉《猛毒》を。


 注ぎ込まれてしまった。


(おっ? これ、もしかしなくても、ヤバいヤツ? え、もしかして僕、地雷、踏んじゃいましたか?)


 そういえば。


 ヒカルくんたちが中学校で立ち上げたという、MTG同好会。


 そこに『何故』か、新人が定着しないという話を。


 ずっと不思議に、思っていたんだけど。


 ここにきて、理由の一端を。

 

 垣間見てしまった。


(うおおおおお! こいつが一番、ヤベーヤツかよっ!?)


 絵に描いたような、イケメンの抱える。


 底の見えない、暗黒面に触れてしまって。

 

 慌てて離脱を、試みるものの……ガシッ。


「……逃しませんよ、夢尾さん。そしてヒカルを傷つける人間を、僕は絶対に、許しません」


「あ、あば、あばばばばば……」


「おいリュウ、さっきから何をオニーサンと、コソコソ話してんだよ? いい加減、ヒカに譲ってやれって」


「ゆ、夢尾さん! もう一戦! もう一戦だけいいので、相手ゲームしてくれませんか!? 次はもっと、ちゃんと、食らいついてみせますので!」


「あ、あの……再戦希望は結構なのですが、その前に、大会を締めさせていただいても、よろしいでしょうか? 一応トーナメントの上位入賞者には賞品授与もありますので、そちらだけでも……」


「……っ! で、ですよねえ! すいません、すぐ行きますので!」


 気まずそうに。


 中学生たちに、囲まれていた僕に。


 声をかけてきてくれた、大会の進行係さんの助け舟に、飛び乗って。


 なんとかその場を離脱できた、僕だけど。


「……」


「……」


「……? おーい2人とも、何ボサッとしてんだよ、あーしらも行くぞー」


 なおも、背中に絡みつく視線を。


 容易には、振り解けそうにない。


(はあ……なんだか、面倒なことになっちゃったなあ……)


 僕はただ、この歳になっても定職に就かず。


 貯金を切り崩しながら、趣味に没頭する。


 冴えない中年のカードゲーマーなのに。


(……もう、この年齢で、アオハルは、いい加減に胃もたれしちゃうんだって! 勘弁しておくれよっ!)


 どれだけ、振り払っても。


 何故か付き纏ってくる、アオハルたちは。


 もうしばらくは僕を、自由にしてくれないらしい。


 戦場には、様々な側面がある。その全てが正しくて、全てが間違っているのだ。


 少なくとも兵士が掲げる正義などに、意味はない。


 ――背信者の都――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ