【40】 決勝戦
〈ヒカル視点〉
(凄い、威圧感だ……っ!)
対面しているだけで、ビリビリと。
肌を、突き刺すような。
凄まじいほどの集中力が……炎が。
目の前の対戦相手から、噴出している。
(流石……夢尾さん! 決勝戦までに、キッチリと仕上げてきましたねっ!)
普段のような。
集中をしていても、どこかに余裕を残しているような、飄々とした態度ではなく。
限界まで、己を研ぎ澄まして。
余分を、削ぎ落としたような。
日本刀のごとき、鋭利な存在感。
(嗚呼あ……たっ、たまらない……っ!)
ゾクゾク、と。
ヒカルは、頬を吊り上げる歓喜を。
抑えることが、できなかった。
あたかも、全身全霊でヒカルを圧し潰さんとするような。
殺意の如き、重圧が。
生物の本能に、警鐘を鳴らせて。
生きているという、実感を。
抱かせてくれる。
魂が燃える。
(勝つ……絶対に、この夢尾さんを、踏み潰して……この感動《喜び》を、今度は僕が、お返ししてあげるんだ……っ!)
それは、常識の範疇から逸脱した。
常人には理解し難い、感謝の気持ち。
しかし紛れもない、ヒカルの本心であり。
事実、その集中力は、最高潮へと達していた。
(……ふう、落ち着け。ちょっと興奮、し過ぎだ)
頭に熱が、溜まり過ぎている。
深呼吸で、それを排出しながら。
気持ちを落ち着かせようと、周囲を見渡すと。
(……)
このゲームは、今大会の決勝戦。
今更に、盗み見の危険性もないので。
ヒカルとカケルが対峙する長机の周囲には、多くの見物客たちが、集まっていた。
「ヒカ、やっちまえ! オニーサン相手でも、ビビんなよっ!」
「いやホント、夢尾さんと勝負しているヒカルって、楽しそうだよねえ……僕たちのときとは、違って……」
今日も朝から、応援してくれている。
頼もしい、幼馴染たち。
「カケルくーん、頑張っってねーっ!」
「……カケルさん、ふぁいと、です」
「……頑張れ」
こちらは、カケルの応援に駆けつけらしい。
カードショップの、女性店員や。
小柄な常連客と、護衛の大男。
「あーもー、けっきょく最後の試合しか、見れなかったじゃん! あっくんのバーカっ!」
「ああん? ホントならウチに強制連行するとこを、こうして見逃してやってんだぞ? むしろ俺の優しさに、感謝しろし」
途中から、見かけなくなっていたキララと。
その同伴者らしい、見慣れない少年。
「さてさて、一体どうなることやら……」「今大会は補充と否認の二大勢力がぶつかり合うと思っていましたけど、これまた意外な組み合わせになりましたねえ……」「……あ、こらこら! まだネタバレ禁止ですって!」
この大会に出場していた、名前も知らない、カードゲーマーたちと。
(……うん、ちゃんと周りも、見えている。僕は冷静だ)
最初から、前髪を上げていても。
魂は熱く、思考は冴えている今の自分は、最高潮だ。
(勝たせてもらいますよ……夢尾さんっ!)
様々な人間たちの、興味や関心を。
一身に集めた、その中心で。
「……悪いけど」
周囲には、目もくれず。
ただひたすらに……対戦相手だけに。
視線を注でいた、中年のカードゲーマーは。
「手加減は、しないよ? 僕はもう、負けられないんだ……何がなんでも、絶対に、キミに勝つっ!」
「……ッ! の、望む、ところですっ!」
やはり、ヒカルの一番欲しい言葉を、与えてくれるのだ。
(絶対に……勝つっ!)
抑えようとしたけど、駄目だ。
この炎はもう、止められない。
早く。
早く……
(……この人と、戦いたいっ!)
直後に……ビビビビーッ!
規定時間を告げる警笛が、鳴り響いた。
「それでは時間になりましたので、これより本日の決勝戦を、開始しますっ! それでは互いに、賽子を振ってくださいっ!」
「……6ですね」
「僕は4です」
「では夢尾さんの先攻で、試合時間は、3試合ぶんを含めて合計50分。本日最後の勝負なので、お互いに、悔いの残らないゲームをプレイしてくださいね。それではゲーム、スタートですっ!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますっ!」
審判の進行を受けて。
挨拶を交わした、カケルとヒカルは。
互いのデッキを交換して、シャッフル。
所有者の手元に戻った山札から、7枚の手札を、補充して。
先手番から順に、確認する。
「……すいません、マリガンします」
ここで初手が、悪かったのか。
カケルが引き直しを、申告して。
手札を山札に戻してから、シャッフル。
「お願いします」
不正防止のために、もう一度ヒカルが。
手渡された山札をシャッフルしてから。
引き直しルールに基づき、前回より1枚ぶんを減らした6枚の手札を、カケルは改めて補充。
「……うん、大丈夫。これで行きます」
今回の手札で、納得したようだ。
「カードチェック……はい、僕も問題ありません」
ヒカルは初手から、問題なかっため。
このままゲームを開始する。
ゲーム1ターン目の、ドローの有無を加味すれば。
この時点で、カケルの手札は6枚。
ヒカルは8枚と。
大きく優位している。
(手札が事故ったのは、残念ですけど……勝負に、容赦はしませんよ!)
カードゲームの勝敗は、如何に相手より、多くの優位を積み上げるか。
思わぬ幸先に、勝負の流れを感じつつも。
油断なく、驚異的な集中力を以てして。
ヒカルは強敵を、観察する。
その手札を。
内心を。
読み解こうとする。
「では……【沼】をセットランド。1マナで【邪教団の騎士】を召喚します」
だがそこは、流石は歴戦のカードゲーマーと言うべきか。
マリガンの際から、カケルの表情は、一切変わらない。
理想的なポーカーフェイス。
不動の精神。
結局その内心を、読み取れないままに。
相手のデッキについても、何もわからない状態から。
始まった、1ターン目の初動とは……
【邪教団の騎士 〈黒〉
レアリティ……レア
カードタイプ……召喚生物『吸血鬼・騎士』
1/2
〈黒〉②;ターン終了時まで、これは+3/+3の修正を受けるとともに『接死』を獲得する。
あなたのターン終了時に、プレイヤーがこのターンにライフを4点以上失っていた場合、これの上に+1/+1カウンターを一個置く】
……というもの。
1マナにして1/2という上質な生体骨格に加えて、マナを注ぎ込むことによる骨格強化と、戦闘の勝敗に関わらず、ダメージを与えたクリーチャーを問答無用で破壊する『接死』という誘発能力の付与。
さらには『吸血鬼』に『騎士』という、種族強化を受けやすいカードタイプの上に、対戦相手と自分、どちらであっても4点以上のダメージが削られていた場合、それが戦闘であっても火力であっても自傷であっても、関係なく『+1/+1カウンター』という『永続強化』を自動で獲得する、攻防に優れ、序盤から終盤まで活躍が見込める、非常に優秀なクリーチャーだ。
(初手から【騎士】ってことは、速攻かな? いやでも、普通に支配にも採用されるカードだから、まだ候補は、絞れないな)
ヒカルの扱う、銀弾デッキにとって。
大事なのは、相手の情報。
少しでもそこを読み違えると、途端にプレイングが噛み合わなくなってしまう危険性を、本人が一番よく理解している。
(……とりあえず、様子見だ)
現時点での判断は、時期尚早。
ここまでの判断が、時間にして、1秒未満の出来事である。
「ターンエンドです」
「では僕のターン、ドローカード」
そして巡ってきた、ヒカルの手番。
引いたカードは……
(……土地じゃ、なかったか)
この時点で、ヒカルの手札8枚のうち、土地は2枚。
基本地形の【沼】と、|使用不可状態で配置される《タップインランドの》【腐敗した産卵池】だ。
手札には【脅迫状】と【邪教の教示者】に、【爆裂樽】がある。
(ベストは、ここで【沼】とかを引いておいて、1ターン目に【脅迫状】から、2ターン目の【爆裂樽】に、繋げる動きだったんだけど……)
仮にここで、手札破壊を使用して。
相手の急所を抜き取り、情報を盗み出したとしても。
次のターンで即使用可能な土地を引けなければ、そこから1ターン、その後の展開が遅れてしまう。
相手が仮に、速攻の場合。
1ターンの遅れは、致命傷になりかねないし。
便利な大量破壊兵器である【爆裂樽】とて、起爆には、相応の手間が必要になる。
1ターン目からの、手札破壊か。
2ターン目以降の、ゲーム展開か。
(……)
チラリ、と。
対戦相手に、視線を向ければ。
やはりそのポーカーフェイスから、内心を読み取ることはできない。
ただ、全身から撒き散らされる。
噴火山の如き、圧力が。
たとえ一歩でも、足を止めたなら。
すぐさまにお前を焼き滅ぼすと、告げていた。
(……うん。ここは着実に、土地を伸ばそう)
仮に、クリーチャー配分が多めな速攻に対して、【脅迫状】を使用した場合。
手の内を確認できても、対象がありませんでしたでは。
成果としては、マイナス寄りである。
そのうえ2ターン目も、土地を引けずに動けないとなれば。
この時点での、せっかくの優位が。
ほぼほぼ、相殺されてしまう。
一瞬で、損得の算盤を弾き。
合理性を算出。
結論。
「【繁殖沼池】を、セットランド。ターンエンドです」
この選択で、正解のはず。
おそらく十人中九人は、そう評価するだろう。
ただし。
「ああ……そうだよね。ヒカルくん、キミなら『そうしてくれる』と、思っていたよ」
十人のうち、残った一人は。
常識の外側を好む、狂人なのかもしれない。
「……どういう、意味ですか?」
「すぐにわかるよ……アンタップ、アップキープ、ドローカード」
ヒカルの疑問に、答えることなく。
カケルは淡々と、プレイを重ねる。
「セットランド……【背教者の都】」
「……っ!?」
何故なら彼は、カードゲーマー。
言葉よりも。
プレイングそのものが。
雄弁に答えを、物語っているからだ。
(ま、まさか!? 黒の速攻でも、このタイミングで、【都】使うようなデッキなんて……っ!?)
なにせ、たった今。
カケルが戦場に配置したのは……
【背教者の都
レアリティ……レア
カードタイプ……特殊地形
〈→〉;②マナを獲得する
あなたが別の土地をプレイしたとき、これを生贄に捧げる】
……使用不可状態で戦場に出る、デメリットがないくせに。
無色とはいえ、簡単に2マナを獲得できるという。
ここだけを見れば規格外と呼ぶに相応しい、ぶっ壊れカードと、呼べるのだが。
ただし、その代償が凄まじく。
使用プレイヤーが、新しい土地を配置したとき。
この土地は自ら、崩壊してしまうのだ。
ゆえに……このカードの。
正しい使用法とは。
もう戦場に、他の土地『を置くつもりがない』とき。
翻っては、土地を置く『必要がない』場合。
さらに、突き詰めて。
極論するならば。
このターンに『ゲームを決定づける』状況下での、最後の一押しとなる。
「この【都】から、無色マナを2点。さらに【沼】から生み出した〈黒〉マナで【邪教の儀式】をプレイして、追加の〈黒〉マナを3点。この合計5点のマナで――【憎愛】ッ!」
「――ッ!?」
繰り出されたのは、以下のカード。
【憎愛 〈黒〉〈黒〉③
レアリティ……レア
カードタイプ……瞬間呪文
あなたはこれを唱えるための追加コストとして、X点のライフを支払う。
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+X /+0の修正を受ける】
当然ながら。
「追加コストで支払うライフは、19点。対応はあるかい?」
「あり……ませんっ!」
「じゃあ【邪教団の騎士】で、攻撃だ」
まだゲームの、最序盤。
使用できる、土地がなく。
防御できるクリーチャーも、いない以上。
19点のライフを糧に、パワーが20にまで膨れ上がった【邪教団の騎士】を、ヒカルが阻める術はない。
考えうる限りの、現環境における最速決着。
超瞬殺劇《2ターンキル》の、成立であった。
貴方の身体から、皮膚を。骨から肉を。心臓から魂を、削ぎ落として。全部、飲み干して差し上げます。それでもこの渇きを満たすには、十分ではないのです。
堕天英霊ルシファルから、光輝英霊ジェラルドへ
――憎愛――




