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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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最後の戦い2

——ザルツ帝国の辺境の小さな村。


 幼いエレーナは赤髪を風に揺らし、緑の瞳を輝かせて妹と遊んでいた。父はガーネット教の地方司祭で、毎晩のように説教をする。


「神の祝福は戦いと犠牲を通じて与えられる。試練を乗り越えよ」


 母は薬草を摘み、村人たちを癒す優しい女性。妹はいつもエレーナを「炎の姉ちゃん」と慕い、笑顔で追っかけてくる。貧しいながらも温かな家族。エレーナは父の言葉を信じ、神が守ってくれると疑わなかった。10歳のあの日、蛮族の襲撃がすべてを変えた。


 蛮族は、村を焼き払い、住民を皆殺しにした。父は司祭として祈りを捧げながら斧で斬り殺された。


「神は・・・・・・試練を与え・・・・・・」


 最期の言葉が、エレーナの耳に残る。母は妹を抱いて逃げようとしたが、捕まり、目の前で凌辱された。蛮族の笑い声、母の叫び——喉を掻き切られた母の血が、妹の顔にかかる。妹は最後に、エレーナの隠れていた納屋の床下の方を見て、泣きながら叫んだ。


「姉ちゃん・・・・・・助けて・・・・・・」


 蛮族の剣が妹の小さな体を貫き、血が床下に染み込む。エレーナは息を殺し、すべてを見ていた。震える手で口を押さえ、涙を堪える。助けられなかった。神はなぜ守ってくれなかったのか。試練を与えるなら、なぜ家族を?


 罪悪感が胸を締め付ける。生き残ったエレーナは蛮族に発見され、奴隷として売られた。闘技場で生き延びるため、初めて剣を取った。相手を斬り、殺し、血にまみれる。殺すたびに「これで仇を討っている」

「神は戦いを祝福してくれる」と自分に言い聞かせた。


 父の言葉を歪め、トラウマを封じ込めるための呪文にした。笑いながら殺す——それが、失われた温かさを埋める唯一の方法だった。機嫌が良い時は部下を可愛がるのは、無意識に家族の温かさを求めるから。残忍になる時は、トラウマがフラッシュバックし、「助けられなかった自分」を罰するように周囲を破壊するから。


 ——エレーナの瞳に現実が戻る。彼女は迫るジュリの剣を弾きながら、低く唸った。


「神は・・・・・・試練を与える。戦え、戦って・・・・・・祝福を」


 ジュリは一瞬、エレーナの瞳の異変に気づく。狂気が、ただの狂気ではなく、何か深い闇を帯びている気がした。


(こいつ・・・・・・)


 だが、構わず剣を振り下ろした。エレーナの剣が迎え撃ち、ふたつのオーラが激突。爆風が丘を震わせ、土煙が巻き上がる。お互いの身体を削りながら、壮絶な打ち合いが永劫に続くかのような戦いに両軍の兵士たちは息を飲んで見守った。


 エレーナの連撃に対し、ジュリも連撃で迎え撃つ。ジュリは重い剣圧で応じ、オーラを凝縮して反撃。エレーナの腕を裂き、血が噴き出す。エレーナは痛みを無視し、剣速を全開に。千変万化。まさに千に変じ万と化す剣筋でジュリの隙を突き、腹を浅く斬る。ジュリの息が乱れ、視界が霞む。


 エレーナのオーラが膨張し、剣速が限界を超える。連撃の嵐がジュリを包み、ジュリの剣がひび割れ始めた。ジュリは歯を食いしばり、ありったけのオーラを一気に剣先に爆縮させる。熱を帯びた深紅のエネルギーが渦巻く。


「紅蓮刃!!」


 剣からマグマのような熱を帯びた斬撃波が放たれた。放射状に極限まで圧縮された熱エネルギーが空間を焼き、炎の軌跡を残してエレーナを襲う。エレーナは剣で受け止めるが、熱が剣身を溶かし、オーラの壁を貫く。炎が彼女の体を焼き、血が蒸発するような痛みが走る。エレーナの叫びが丘に響く。


「ぐ、がぁぁぁああ!!」


 紅蓮刃の熱がエレーナの胸を貫き、オーラの爆発が彼女を吹き飛ばす。吹き飛ばされたエレーナは膝をつき、血を吐きながら立ち上がろうとするが、体が動かない。致命傷だった。紅蓮刃の熱と斬撃はエレーナの身体を既に裂いていた。エレーナはそれを見て、全てが終わったことに気が付いた。痛みはない。見上げた空は不思議なほど澄んでいて、丘の上を穏やかな風が吹き抜ける。いつの間にか、ジュリが見下ろしていた。身体に受けた傷からは、おびただしいほどの血が流れている。


「敵とはいえ、その戦技、修練の賜物だろう。おまえの剣、私の魂にしかと受け止めた」


 エレーナの心は驚くほど穏やかだった。


「・・・・・・そう、か。これ、で、やっと・・・・・父、さ・・・・・」


 狂気から解放されたように、エレーナは静かに目を閉じた。ジュリは自然と剣身を下に、柄を胸に掲げ敬意を表した。周囲からは、ファニキア兵士が歓声を上げる。一方で、エレーナの死を目の当たりにした騎馬隊の兵士たちは凍りつき、槍を落とす者、馬から落ちる者・・・・・・死兵の狂気が一瞬で萎え、残党は絶望に崩れ落ちた。

いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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