最後の防衛線
エレーナは馬上で舌打ちし、シャルを睨む。
(執事・・・・・・?なんで執事が戦場に・・・・・・厄介ね。だが、奴が中央に食いついてる今がチャンス)
彼女はファニキア右翼の半分が魔素兵に比べて脆いことを直感で見抜いていた。ミラ麾下の兵1000の動きが、魔素兵の援護なしでは乱れている。エレーナは自軍中央から左翼外側を抜け、騎馬1000を率いて一気にファニキア右翼の外側へ迂回。馬の蹄が土を蹴り、風を切る。
「騎馬隊、全速力!敵右翼の外側を抉るぞ!」
中央にいたアイネからもその動きは見えている。
「大外から!?動きが速いっ!!予備隊200、右翼のカバーに入って!右翼側面の槍隊は密集して槍で固めて!!」
騎馬の突撃は雷鳴のように轟き、ファニキア右翼の外側を側面から抉る。
「ふふっ、対応が遅いんだよ!」
エレーナの剣が先陣を切り、オーラの斬撃波がミラ麾下の兵をまとめて吹き飛ばす。馬の体当たりが盾を崩し、槍が胸を貫く。血が噴き出し、ファニキア右翼の半分がずたずたに陣を切り裂かれる。兵士たちの悲鳴が連続し、土が赤黒く染まる。魔素兵1000が応戦するが、エレーナの騎馬旋回が速く、側面の脆い部分を執拗に突く。エレーナは深くまで斬り込み、馬を駆って陣の中心へ迫った。そこに、アイネが剣を構えて立ちはだかる。
「私が、止めないと・・・・・・!」
アイネの瞳に決意が宿り、身体からオーラが立ち昇る。
「エレーナ、私が止めるっ!」
エレーナはアイネを見て馬上から興奮気味に嘲笑った。
「いいわねぇ・・・・・・。こういうのよ、こういうの!こんな健気な子、ゾクゾクするじゃない?こういう感じのを待ってたのよ。おいで、めちゃくちゃにしてあげるわ」
エレーナは剣をゆっくりと構える。そこへアイネが飛び込んだ。剣を薙ぎ、手首を翻して袈裟で斬る。フェイントを織り交ぜながら相手の剣筋を読み取っていく慎重な剣捌きだ。アイネの剣の腕前は、以前と比べて格段に上達している。エレーナは、アイネの無駄の少ない剣筋に薄ら笑いを浮かべながら時折、「ほうっ」と感心したようにアイネの剣に合わせた。
「良い腕ね・・・・・・」
エレーナがそう評価を下した時、アイネは絶望を感じた。自分の剣が全く届いていない・・・・・・。最近はヴェルナーにも認められるほど、上達したと思っていた。でも、常人には届かない壁というのがあるのだとしたら・・・・・・。稀に、その壁を軽く超える人間がいることを私は知ってる。私の目の前にいるのは、間違いなくそんな怪物の、ひとり・・・・・・。
「どうしたの?剣筋が少し乱れたわよ。ほら、しっかり振らないと」
エレーナが言った瞬間、アイネは絶望より怒りが勝った。
「舐めるなっ!」
アイネのオーラが剣先に集束し、圧縮された光を放つ。だが、アイネの放った斬撃波はエレーナが僅かに剣の角度を変えただけで弾き飛ばされた。エレーナの身体から放出されるオーラが少し強くなる。一撃、一撃と受けるだけだったエレーナの剣が攻撃へと転じ始める。と同時に剣速まで上がり始めた。徐々に、徐々に攻撃と防御のバランスが変わり始める。時折、エレーナの剣筋がアイネの目では捉え切れなくなる。そのたびに、アイネの身体にエレーナの剣が刻まれていった。
「くっ・・・・・・!」
金属の絶叫が響き、火花が散る。エレーナの連撃がアイネの肩を裂き、血が滴る。アイネは反撃の斬撃波を放つが、エレーナは最小限の動きで躱し、逆袈裟に切り返す。アイネの鎧が裂け、息が荒くなる。エレーナの狂気が頂点に達し、「これで終わりねぇぇ!!」と叫びながら、袈裟斬りに斬撃波を放った。アイネは咄嗟にありったけのオーラで相殺を図る。アイネの馬の首が吹き飛び、アイネ自身も吹き飛んだ。剣は折れ、肩先から腰にかけて血が噴き出す。殺される寸前——剣先が喉元に迫る。薄れる意識が警告を発した。
(まずい・・・このままじゃ・・・・・・)
その瞬間、シャルが兵500を連れて引き返してきた。遊軍の残りを率い、どす黒いオーラを爆発させてエレーナの背後から割り込む。剣による衝撃波がエレーナに押し寄せた。ギィィィィィッという奇怪な音が響き、咄嗟に受けたエレーナの剣先が黒い粒子に飲み込まれそうになる。
「お、重い・・・なんだこのオーラは・・・・・・!?」
「アイネ、動けますか?」
シャルはアイネに馬を寄せる。アイネは痛みで顔をしかめながら頷いた。
「あなたは下がっててください」
エレーナのオーラが爆発する。
「ざ・け・る・なぁぁぁぁぁぁ!!」
シャルの黒いオーラに浸食されかけていた剣先に、莫大なオーラを流し込んで弾き飛ばす。ドンッ!!という重く内臓を震わせるような重低音が響き渡ると、シャルの放った衝撃波は空の彼方に消えていった。
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