シャルとアイネの防衛陣
一方、本陣では、アルスに防衛を任されたシャルとアイネが、王家の旗の下で戦況を睨んでいた。
「シャル、南側は・・・・・・」
シャルは執事服の袖を払い、静かに答える。黒髪が風に揺れ、南の戦場を冷静な瞳が捉える。
「救援に行っても間に合わないでしょうね。第六師団長エレーナ――ガルダ、エミールから陣を奪い取っただけでなく、複数の助攻でこちらの注意を分散させ、的確なタイミングでの主攻。加えて驚異的な制圧速度。思った以上に手強い敵です」
南の防御陣は完全に食い破られ少数派散り散りになってしまっていた。エレーナは続々と丘の南側に軍を集結させつつ、足場を固めている。
「どうしたらいいかな?」
アイネの不安な呟きに、シャルは横目でちらりと見た。
「さて、私は自身の部隊を持ちません。それは、あなたが決めることです。敵軍は既に6000~8000はいるでしょう。対してこちらはミラさま麾下の兵と、アルスさまの残した魔素兵を合わせて5000。中途半端な動きは逆効果にしかなりません。ですが、それぐらいあなたもわかっているでしょう?」
アイネは黙って頷く。
「でしたら、自信をもってください。アルスさまがあなたをここに残したのですから」
「・・・・・・まぁ、そうよね」
アイネは両の頬をパンと手のひらで叩いた。
「よしっ!シャル、1000を預けるね。自由に動いて。相手の師団長が出てきたらお願い」
「わかりました」
「悔しいけど、私じゃたぶん止められないから・・・・・・」
「それで、いいんですよ。お互い出来ることをやればいいんです」
シャルはニコッと微笑んだ。
エレーナの軍勢は、丘の南端から中央へ雪崩れ込むように進撃を始めた。死兵の咆哮が風に舞い、槍の穂先が陽光を反射して揺らめく。彼女は馬上から全体を睨み、ファニキアの本陣を捉える。南の掃討を速やかに終えた彼女は、部隊長たちに指示を飛ばした。
「イーゴリ、ガラ、ヴァシリー!右翼2000、左翼2000を展開しろ。中央に予備2000を置き、私は1000の騎馬で左後方を控える。奴らの兵を潰せ!」
部隊長たちは即座に応じ、7000の死兵を三方向に散らす。右翼と左翼は槍と盾の壁を形成し、中央予備は睨みを効かせる。エレーナ自身は1000の騎馬兵を率いて中央左後方に控え、機会を窺った。
対するファニキア本陣は、アイネの号令で即座に陣を張った。全軍5000を右翼2000(魔素兵1000とミラ麾下の兵1000)、左翼2000(魔素兵2000)に分け、シャルに遊軍1000(ミラ麾下の兵)を預ける。本陣の兵たちは、王家の旗の下で盾壁を重ねる。アイネは中央に立ち、剣を構えて声を張り上げる。
「全軍、中央に防衛戦を張る!ここの結果が全体の成否の境目になる、死力を尽くせ!」
戦いは即座に激化した。エレーナの右翼2000がファニキア左翼にぶつかり、槍の突きが魔素兵の壁を削る。ヴァシリーの弓隊が矢の雨を降らせ肉を抉る。左翼の死兵は狂気に駆られ、体当たりで壁を崩そうとするが、魔素兵の反撃が容赦ない。金属と金属、雄叫びと悲鳴が交錯するなか、身体強化に勝る魔素兵が死兵を吹き飛ばし、血の霧が広がる。ファニキア左翼は魔素兵の強さで押し返し、死兵の死体が山積みになっていった。
一方、エレーナの左翼2000はファニキア軍の右翼に殺到。ミラ麾下の兵1000が盾を重ねるが、魔素兵1000の援護が薄い分、脆さが露呈する。ガラの槍隊が横薙ぎに突き、盾を貫いて胸を裂く。血が噴き出し、ファニキア右翼の前線がわずかに後退。斧隊が追撃し、斧の刃が鎧を割り、断末魔の叫びが響く。エレーナは馬上からその光景を観察し、口元を歪める。
(左翼・・・・・・半分は強いが、半分は脆いという感じか。奴らの頼りは右翼の精鋭・・・・・・。ふふっ、そういうことか)
彼女は直感で戦況を読み、即座に戦術を組み立てて中央予備2000に命じる。
「イーゴリ中央予備隊、全軍をもって敵右翼の側面を突け!敵精鋭の援護を剥がせ!」
2000の死兵が中央から飛び出し、ファニキア左翼の側面を薙ぎ払いに突進を始める。槍の波が魔素兵を貫き、血の川が流れ始めた。ファニキア左翼は混乱し、魔素兵が応戦するが、数で押され陣形が乱れ始める。アイネは中央から視線を向け、歯を食いしばる。
「左翼耐えて!」
それまでじっと戦況を見ていたシャルが、一気に動き出した。
「左翼に食いついた敵を分断します!」
遊軍1000を率い、ファニキア軍右翼の後方を通ってエレーナの中央軍2000の真ん中へ切り込む。執事服が風を切り、どす黒いオーラを纏った剣が閃く。死兵の間に突っ込むと、轟音が轟き中央軍の兵士たちがまとめて吹き飛び、黒い衝撃波と共に塵となって消えた。そうかと思えば血飛沫が上がり、死兵たちの体がまとめて真っ二つに裂ける。
「このまま敵中央軍を分断します!」
エレーナの中央軍2000は二つに引き裂かれ、前半がファニキア軍左翼に絡みつき、後半が混乱してバタバタと倒れていく。
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。




