執事シャルの出撃
「なるほどな。中途半端に勝てば、こちらが不利になるというわけじゃな」
「相手が緒戦で勝った今、勢いに乗って攻めてくるのは間違いない。もちろん、ガルダのこともある。だけど、僕らはここで焦ってわざわざ不利な戦いをする必要はないんだ。だから、ここに引き込んで徹底的に敵を叩く」
「と言っても、奴らは次から次へと予備兵を投入できるじゃろ。そうなれば、いくら地の利を得たとしてもジリ貧じゃと思うが・・・・・・」
「うん・・・・・・。いくらハイデ軍と後方で戦っているといっても、軍同士の体力勝負になれば向こうが圧倒的にある。だから、そのためにヴェルナーを先行させたんだ。まずはこの戦、戦略的に互角の勝負に持ち込む必要がある」
(頼むぞ、ヴェルナー・・・・・・)
アルスは丘の裏側に広がるであろう西の平原を睨みつける。
一方、リュドミラは軍を前進させ、北と南にある丘の上の陣地を本格的に攻撃しはじめた。槍の穂先がファニキアの盾を突き刺し、血が噴き出す。ファニキア軍は弓で応戦するが、数で押される。丘の斜面は死体で埋まり、土が血でぬかるむ。
そのとき、角笛が丘の裏側から鳴り響いた。と同時に、アルスの本隊の軍が側丘の北と南両側から挟み込むようにしてリュドミラ率いる騎士団を両側面から挟撃し始めた。
「急報です、ファニキア軍が丘の両側から現れ、我々の側面を突いています!」
リュドミラは混乱した。想定した敵の数が多かったこと。そして、完全に包囲されたこと。彼女の盾隊は重厚だが、側面を突かれると脆い。
「前面の敵の数は少ない、前に押し込んで陣を奪い取れ!」
リュドミラは、敵の陣地さえ取ってしまえば後方に控えるエレーナ、もしくは聖騎将ナタリアと逆に挟撃できると考えたのである。だが、その考えはアルスの想定内だった。丘の裏側からもファニキア軍の増援が現れたのである。リュドミラ聖盾隊長の前に立ちはだかったのは、ファニキア軍屈指の盾。鉄壁の盾部隊を率いるガストンだ。ガストンの重装盾兵の壁に阻まれた誓いの騎士団は全く進むことが出来なくなった。盾の壁は鉄のように固く、槍が弾かれる。
このとき南側はアイネ、北側の攻めを任されたのが初参戦のシャルだった。本人にとっては迷惑な話である。アルスから北の攻めをお願いされた時、シャルは困惑した表情でミラに伝えた。だが、ミラからも行ってこいとの下知が下る。黒髪の美青年シャルは、あくまでミラの執事兼護衛という立場であり、ファニキアの将ではない。
「本来の業務ではないのですが・・・・・・。やれやれ、仕方ありませんね」
ルンデル防衛戦に続き、またも戦場にて執事の格好のまま返り血に塗れるというのは、あまり気が進まないというものだった。だが、その恰好ゆえに騎士団の格好の的となる。槍が突き出され、剣が振り下ろされ、矢が飛んでくる。そのすべてをシャルは、紙一重で躱し、受け流しつつ槍の穂先を斬り飛ばし、剣で薙ぎ払う。片手で斬り飛ばした穂先を宙で掴むとそのまま投げナイフのようにして、矢を射ようとしてる弓兵の頭に直撃させる。
極めつけは、どす黒いオーラを放ち、衝撃波を放つと騎士団が雲散霧消したかのように赤黒い粒子を残して消えてしまう。こうして、北側からの騎士団側面に対する攻めは苛烈を極めた。触れるもの全てが一瞬で塵と化すのだ。シャルはこのとき、戦場の死神として、騎士団にとって恐怖の対象となるに十分すぎる存在となっていた。
「急報です!左翼第一陣、半壊!救援を求めてます」
「急報!左翼第三陣、持ちません!」
急報に次ぐ急報が入り、リュドミラにもシャルによる北側の被害を無視出来なくなっていた。
「リュドミラさま、このままでは――」
「くそっ、私が出る!」
リュドミラはシャルに向かって馬を飛ばした。彼女の盾は巨大で、槍を構え、馬を駆る。戦場を駆け抜け、血の海を越える。シャルは執事服のまま、静かに立っていた。黒髪が風に揺れ、瞳は冷たく輝く。リュドミラの馬が近づき、彼女は槍を振り上げて突進した。
「異教徒の悪魔め!死ねぇぇぇ!」
槍の穂先が風を切り裂き、オーラを纏ってシャルを狙う。シャルは微動だにせず、ただ剣を抜いた。剣身は黒く輝き、魔素が渦巻く。リュドミラの槍が突き刺さる寸前、シャルは一歩踏み込み、剣を閃かせる。
ギィィィィィィィィィィィン!!
金属の絶叫が響き、槍の穂先が吹き飛ぶ。リュドミラの目が驚きに見開いた。シャルは流れるように反転し、剣を逆袈裟に振るう。オーラの衝撃波がリュドミラの盾を砕き、馬ごと吹き飛ばした。リュドミラは馬から落ち、転がりながら立ち上がる。巨大な盾は半壊し、槍は折れていた。彼女は剣を抜き、咆哮する。
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