ジュリの救援
(いったい、どれだけのオーラを・・・・・・力負けしてる・・・・・・!?)
だが、ジュリの圧倒的なオーラはナタリアの「玉閃」を徐々に浸食。飲み込もうとしていた。と、同時にナタリアの足元が後ろに押し流されていることに気付く。ナタリアは剣を「正対」から「流し」へと瞬時に切り替えた。
「くっ・・・・・・!」
ビリビリと剣身から伝わってくる暴竜のようなジュリの斬撃波を、外側の方向へと僅かに逃がした。赤黒い魔素の塊がナタリアの横を吹っ飛び、後方の岩を真っ二つに斬り飛ばしながら空へと消える。衝撃で岩屑が飛び散り、土煙が舞い上がった。ナタリアは肩で荒い息をしながら横目で周囲に視線を移す。彼女が引き連れた3000の兵は各所でジュリの兵に背後から突かれ、崩壊していた。
ファニキア兵が斜面を駆け上がり、剣を振り下ろすたび、悲鳴と血飛沫が上がる。騎士団の兵は統率を失い、盾を投げ捨てて逃げ惑う者、仲間を踏み台にして這い上がろうとする者、ただ呆然と立ち尽くす者。頂上は混乱の渦と化していた。ナタリアは歯を噛み締め、剣を握る手に力がこもる。彼女の瞳に、焦りと悔しさが混じっていた。
「退け!全軍、下がれ!」
ナタリア隊は仕方なく山の北側から撤退を始めた。隘路へ向かい、転がるように逃げ下りる。ジュリの追撃が容赦なく背中を斬り、悲鳴が連続する。エミールが声を掛けなければ、ジュリはこのままナタリア隊を全滅させるつもりだった。
「ジュリ・・・・・・待って!」
ジュリは剣を振り上げたまま振り返る。
「なんだ、エミール!今、奴らを・・・・・・」
エミールはジュリに現在の状況を端的に説明した。ガルダのこと、エレーナのこと。ジュリは、驚きの表情で聞いていたが、その話を聞いて追撃は諦めることにした。急いで衛生兵にガルダの治療を指示する。幸い、ガルダの怪我は見た目ほど重症ではなかった。無意識に致命傷は避けたのかもしれない。ジュリはガルダを後方に運ばせると、正面の弓部隊を救いに行こうとした。だがそのとき、正面から歓声が聞こえ、旗が立てられた。騎士団の旗だ。そして、その隣には槍が掲げられた。槍の先には見覚えのある顔。サンドルの頭が掲げられていたのだった。
エミールの視線が頂上に釘付けになる。風に翻る騎士団の旗の下、槍が掲げられていた。槍の先には、サンドルの首。血が滴り、目が虚ろに開いたまま、空を睨んでいる。エミールの息が止まった。
「サンドル・・・・・・!!」
言葉が喉に詰まった。視界が揺れ、膝がガクッと折れそうになる。ジュリはギリギリと歯を噛み締めた。
「やってくれたな・・・・・・仇を取ってやる!」
彼女は剣を振り上げ、再び頂上へ向かおうとする。だが、エミールは首を振った。声は震えていたが、言葉ははっきりしていた。
「ジュリ・・・・・・気持ちはわかるけど、ダメだよ。弓隊は・・・・・・」
エミールはゆっくりと立ち上がり、弓を地面に立てかけた。矢筒は再び空になっている。地面に散らばった矢の羽根が、血と土にまみれて惨めに見えた。
「ほとんど矢を射尽くしちゃってる。それに恐らく向こうにいた弓部隊も全滅だ。いくらジュリが強くてもさすがに装備も兵の数も足りない。このまま一旦退こう」
ジュリの肩がわずかに震えた。彼女は剣を地面に突き立て、金属が岩に食い込む鈍い音が響く。
「だが、このままここを取られるのを指を咥えて見てろというのか?」
ジュリは騎士団の旗を睨み続け、旗の下に掲げられたサンドルの首を、視線で焼き付けるように見つめる。風が旗をはためかせ、首がわずかに揺れる。エミールの胸が締め付けられた。
「わかってるけど・・・・・・一旦陣を取られたなら10万以上もの兵が後ろに控えていることを忘れちゃだめだよ。ごり押しは危険すぎる」
「・・・・・・くそっ」
ジュリは小さく呟き、剣を地面に突き立てた。金属が岩に食い込み、鈍い音が響く。彼女は深く息を吸い、吐き出した。肩の力が抜け、わずかに頭を垂れる。
「わかった。確かにおまえの言うとおりだな。この後のことはアルスさまに聞いてみるとするか」
ジュリは剣を収め、部下に視線を向ける。
「全軍、後退!負傷者を回収して後方へ下がる!」
弓兵が弓を背負い直し、負傷者を支えながら斜面を下りる。ジュリは最後に一度、頂上を振り返った。騎士団の旗が嘲るように翻り、エレーナの笑い声が遠くから聞こえた気がした。
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