曲射
「させない!」
エミールは弓の弦を引き絞り、オーラを高めていく。高めたオーラを矢じりに集束させていった。エミールの使う矢じりには結晶石が使われている。結晶石が青白く輝き始めた瞬間、限界に引き絞った弓弦から指を離した。青白い軌跡を描きながら一直線に飛ぶ。斜面を登っているナタリア兵の盾に突き刺さった。と、同時に結晶石が爆発。盾を構えた兵は盾ごと吹き飛ばされて斜面を転がり落ちていく。爆風が周囲の兵を巻き込み、悲鳴が上がる。次々とエミールは矢を放つと、兵士たちは成すすべもなく爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。血と肉片が飛び散り、斜面が赤く染まる。
「全隊、私の背後に続け! 矢は私が対処する」
ナタリアは先頭に立ち、剣を構えた。エミールは今度は2本同時に矢をつがえる。今度も青白く輝く矢だったが、ナタリアは剣を横薙ぎに一閃。ナタリアの手前で矢は爆発し、届かなかった。爆風が彼女の髪を揺らすが、ナタリアは動じず前進する。
「――っ!それなら・・・・・・!」
今度はエミールは4本の矢を同時につがえて放つ。だが、それも破壊。ナタリアの斬撃波が空を斬り裂き、矢じりごと真っ二つにすると、一様に爆発四散した。騎士団の兵が彼女の背後に続き、斜面を登る。エミールは矢を思いっきり斜めにつがえた。矢じりが光り出し、矢が放たれる。
「はっ!いったい、どこへ向けて――!?」
今度は、ナタリアは手が出なかった。遥か左に逸れて射られたはずの矢は、曲線を描きながら強烈な角度で旋回。ナタリアの後方にいる兵士数人を爆発に巻き込んだ。爆風が斜面を揺らし、数名の体が吹き飛び、転落する。血の霧が広がり、辺りを染めていく。
「曲射・・・・・・だと!?」
ナタリアは、このとき初めて相手の弓士がとてつもない敵であると認識したのだった。彼女の瞳に、警戒の色が濃くなる。斜面の戦いは、さらに激しさを増していった。
ナタリアは、一旦軍を引き、考えた。あの弓士。奴だけは別格だ。あいつひとりで、下手したら弓部隊に匹敵する戦闘力だ。くそっ、このままでは・・・・・・。エレーナさまは、いったいどうやって頂上まで登った・・・・・・?ナタリアは山全体を見渡す。。頂上の弓影が陽光にちらつく。いや、奴ひとりの実力に私が気を取られ過ぎた。私自身が言ったばかりではないか。数ではこちらが勝ると。
「軍を三隊にわけるぞ!敵は少数で正面のような陣形でもない。敵の攻撃を散らして突破する。 全てが助攻で全てが主攻に成り得るようにな」
ナタリアは部隊長にそれぞれ兵1000ずつを率いさせて、三方から同時に登り始めた。歩兵で斜面を這うように進む。北側、中央、南側の三方向から小山を包囲する形だ。岩陰を活用し、盾を構えて矢を防ぎながら、ゆっくりと高度を上げる。こうなると、500で守るエミールの弓部隊では明らかに手が回らない。矢の射撃が分散し、隙が生まれる。三隊の足音が斜面を震わせ、兵の息遣いが迫って来る。
「まずい・・・。このままでは、時間の問題だ」
そのとき、山頂の裏側の様子を見ていたサンドルは、独断でガルダが守備する正面側に走った。斜面を駆け上がり、岩を跳び越え、ガルダの元へ急ぐ。ガルダは、師団長エレーナの驚くほどの剣速に苦戦していた。硬化させたオーラを前面に展開して、相手の威力を減殺することでなんとか凌いでいたが、反撃の糸口がまるで掴めない。
特にエレーナの、速度に全振りしたような剣裁きは、パワーで主導権を握る戦いを得意とするガルダにとって相性が悪かった。そもそも極度に軽くしたエレーナの細身の剣と、一撃必殺を目的としたガルダの戦斧である。パワーによる初撃で討ち取れなかったガルダは、完全に主導権をエレーナに奪われていた。エレーナの凄まじい速さの剣撃は、時折ガルダの防御を貫いた。そのたびに、ガルダの傷は確実に増えていった。
パワーに特化するガルダとは対照的に、エレーナは鋭い斬撃波に魔素を集中し、手数と技の多さで相手を翻弄する。エレーナの鋭い斬撃に対して、ガルダはなんとか斧の刃先や柄を使って器用に弾き返す。だが、エレーナは袈裟斬りに飛び込んだかと思えば、地をスレスレに這うマルのような剣筋で突き上げ、あるいは斬り上げてくる。そうなると、どこかで受け手のタイミングが僅かにズレる。狙いすましたタイミングで斬撃波を混ぜてくるエレーナの技量は、まさに神業だった。徐々にダメージが増えるガルダ。狂ったように攻めるエレーナ。剣が空を切り、斧が空を薙ぐたび、衝撃波が周囲の岩を砕き、血が飛び散る。ガルダの息が荒くなり、足元がわずかに揺らぐ。
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