モード・アングレ
「そりゃそうだ・・・・・・まあ、お互いせいぜい死なないように頑張ろうぜ」
サンドルは小さく頷き、ふたりは平原の敵を睨む。再会を懐かしむ間もなく、戦いの緊張が再びふたりを包んだ。
その頃、リュドミラは歩兵部隊を率いて小山を攻め始めていた。聖盾隊の盾兵を前面に押し出し、斜面を登る。盾が陽光を反射し、槍の穂先が揃う。彼女は自ら盾を構え、部下を鼓舞する。
「登れ!山頂の陣を奪え!」
騎士団の歩兵は山の斜面を前進したが、エミールは最強の防御布陣モード・アングレを敷いていた。頂上の縁に沿って弓兵をV字型に並べる。山の斜面が自然の防御壁になるため、弓兵は上から下への射撃角度を確保しつつ、敵の接近路を複数に分断できる。エミールは弓兵を二列に分け、一列目は膝立ちで射撃、二列目は立ってリロード&射撃のローテーションを組んだ。これにより、連続射撃が可能になり、敵の盾壁が近づいても途切れなく矢の雨を降らせることが出来る。
弓隊とガルダの歩兵隊を交互に配置し、山の地形を活かした陣形を敷く。頂上から弓が放たれ、斜面を登る騎士団の兵を次々と射抜く。矢が風を切り、盾の隙間を突き、血が斜面を流れ落ちる。ガルダの歩兵は弓の援護を受け、槍や戦斧で迎え撃つ。リュドミラの部隊は四度攻め上がったが、ガルダ隊の損害はほぼゼロ。完全に跳ね返された。
一度目の攻勢では矢の雨が先頭の盾兵を崩し、二度目はガルダ隊が突っ込んでくる兵を薙ぎ払う。三度目はエミールの指示で角度を変えた射撃が敵の側面を突き、四度目は歩兵の反撃で槍が敵の喉を貫く。
そして、陽も落ちる寸前――五度目となる攻撃・・・。
リュドミラの聖盾隊が五度目の攻勢を仕掛けた瞬間、小山全体が息を呑むような静寂に包まれた。頂上では、エミールが弓の弦を引く指に力を込め、息を止めて叫んだ。
「全弓隊、交互連射!矢を途切れさせるな!」
数百本の弓弦が同時に震え、矢が風を裂いて斜面を覆う。空が一瞬、黒く染まったように見えた。矢の雨は容赦なく降り注ぎ、リュドミラの先頭盾兵の肩、首、膝を次々と貫いた。金属の盾に当たる乾いた音と、肉を裂く鈍い音が連続して響く。盾兵のひとりが矢を額に受け、血を噴きながら後ろに倒れ、列を乱す。次の瞬間、ガルダの隊が岩陰から飛び出し、斧を振り下ろす。重い刃が盾を叩き割り、兵の腕を根元から斬り落とす。血が噴き出し、悲鳴が山にこだました。
リュドミラは歯を食いしばり、オーラを全身に巡らせて前進した。彼女の盾は矢を何本も弾き返し、槍を構えたまま斜面を駆け上がる。聖盾隊の残存兵が彼女の背後に続き、盾を重ねて壁を作り上げる。だが、アングレ布陣の真髄はここにあった。エミールのV字配置により、弓の射線が十字に交差し、敵の盾壁の側面と隙間を容赦なく抉る。右翼の岩陰から放たれた矢がリュドミラの右肩を掠め、血が鎧を伝う。左翼からは別の矢が盾の継ぎ目を突き、兵のひとりが喉を射抜かれて倒れる。
「くっ・・・・・・!このまま引き下がれるか!」
リュドミラの声が荒れる。彼女は自ら盾を押し出し、頂上まであと10トゥルクと迫った。ガルダが岩の上から飛び降り、戦斧を両手で振り上げる。リュドミラは全身纏わせたオーラを盾に集中させた。斧の軌道が空気を切り裂き、リュドミラの盾に直撃。オーラの防御層を突き破り、鈍い金属と金属が衝突する音が山に響いた。
「ぐっ・・・・・・!」
衝撃で彼女の体が後ろに弾かれ、盾に深い亀裂が入る。ガルダの斧は止まらず、回転しながら次の兵の胸を叩き割る。血と骨片が飛び散り、聖盾隊の列が一瞬で崩れる。エミールは冷静に次の指示を飛ばす。
「第二波、集中射撃!斜面中央を封鎖!」
弓隊が一斉に膝立ちになり、矢を放つ。矢は弧を描いてリュドミラの頭上を覆い、彼女の周囲に降り注ぐ。盾で防いでも、隙間から矢が刺さり、部下たちが次々と膝をつく。リュドミラは立ち上がり、前面でオーラを展開しつつ側面で槍を振り回して矢を弾くが、安定しない足場に足がもつれる。ガルダの斧が再び迫り、彼女は咄嗟に盾を構えて受け止める。金属の悲鳴が響き、衝撃でリュドミラの腕が痺れる。ガルダの目が彼女を捉え、低く唸る。
「周りを見てみたらどうですかな?」
ガルダの声に促され、チラッと視線を移動させる。彼女の周りの盾兵は、先ほどの集中射撃で7割が山の斜面に転がっていた。
リュドミラは歯を食いしばり、部下に叫ぶ。
「くそうっ、退却だ・・・・・・!全員、下がれ、下がれぇぇ!」
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