アジルの苦戦
一方、アジルは7000の歩兵を率いて、敵の本陣へと突き進んでいた。道中で出会う敵兵は、容赦なく斬り捨てる。アジルの剣は、まるで生き物のように舞い、近づく者を次々と血飛沫に変える。部下たちもそれに鼓舞され、吼え声を上げながら進む。だが、敵の抵抗は徐々に組織化され始めていた。ナザルの指示が届き始めたのだ。
「来たな。あれが奴らの精鋭か」
聖盾隊長ステファンは、盾兵を前面に押し出して陣を固めた。重装の盾兵たちは、巨大な鉄の盾を構え、壁のように並ぶ。ステファンの直属部隊は、教皇軍の中でも屈指の防御力を持つ。ロスティス聖騎将は、その横で騎兵を整列させていた。馬のいななきが響き、槍の穂先が月光を反射する。練度が低い他の兵と、彼ら直属部隊は一線を画す。この混乱でもざわめきひとつなかった。
鉄の盾が連なり、まるで動く城壁のように迫る。盾の表面には教皇の紋章が刻まれ、かがり火の光を受けて鈍く輝く。アジルは低く唸り、魔素を全身に巡らせる。体内で爆発的に膨張する力が、血管を熱く焼き、剣先に青白い光を集中させる。
「邪魔だ・・・・・・どけ!」
一閃。
剣が空を裂き、衝撃波が盾壁を直撃する。鉄板が悲鳴を上げてひしゃげ、盾ごと兵士の体が爆ぜる。肉片と血が飛び散り、盾兵の列にぽっかりと穴が開く。アジルは止まらず、穴を突いて突進。剣を振り回すたび、盾兵が薙ぎ払われ、地面に赤い軌跡を描く。
「怯むな、囲んで圧し潰せ!」
盾を前面に押し出しながら迫る盾兵に、アジルは全速力で突っ込み、飛び込みざまに身体強化した脚力で盾ごと蹴り潰す。前衛が吹っ飛び、三列四列と並ぶ兵士の顔の骨が衝撃で砕ける。
「周りを削れ!」
ステファンの命令に盾兵がアジルの隊を囲もうとするが、アジルの剣が一閃。鋭い斬撃波で前衛の盾兵4人が盾ごと真っ二つに斬り裂かれる。さらに反転、近くにいた3人は衝撃波で吹き飛ばされた。
「やらせるかよっ!」
「くっ・・・・・・!こいつ」
ステファンは歯を食いしばり、剣を構えて前に出る。
「こいつを討ち取れ!こいつさえ倒せば後はどうとでもなる!」
ふたりの剣が激突する。金属の絶叫が響き、火花が散る。アジルの斬撃は重く、ステファンの防御は硬かった。互いの刃がぶつかるたび、衝撃が地面を震わせ、周囲の兵士がよろめく。
「構わん、周囲を削りつつ囲んで殺せ!」
アジルはステファンと最初に斬り結んだ瞬間に理解した。ステファンの剣筋は防御に徹している。勝つことは捨てて、アジルの剣を何とか受け流しつつ集団でなぶり殺しにするつもりなのだろう。
(面白い、やれるもんならやってみろ!)
一騎打ちの最中でも、アジルは湧き出る盾兵を斬撃波で吹き飛ばす。波状の衝撃が広がり、数名の盾兵が吹っ飛び、骨が砕ける音が連続する。だが、次から次へ補充される盾兵の数は尽きない。アジルの足が徐々に止まり、隊列全体の勢いが削がれていく。
「くそっ・・・・・・数で圧し潰すつもりか・・・・・・!」
その時――遠くから、轟音のような馬蹄の響きが迫る。
「騎兵隊、突撃!横っ面を叩き潰せ!」
ロスティス聖騎将の声が夜を切り裂く。戦馬が一斉に加速し、アジル隊の側面に雷鳴のようにぶつかる。槍の穂先がファニキア兵の胴を貫き、馬の体当たりで体が吹き飛ぶ。隊列が一瞬で裂け、後方部隊が完全に分断された。
「くっそ、完全に塞がれた!アジル隊長の姿が見えねぇ!」
「ヤバいぞ、こりゃあ。敵陣のど真ん中で足を止められちまった・・・」
分断された後方で兵が騒ぎ始めるが、部隊長たちが臨時で指揮を取って場を繋ぐ。
「盾で防ぎながら、馬を狙え!」
「そうだ、騎馬兵の正面から当たろうとするな!今は耐えろ、耐えていればうちの大将が必ず戻って来る!」
この掛け声で、低下していく士気を辛うじて保つ。アジルの額に汗が滲む。呼吸が荒くなり、視界がわずかに揺れる。部下たちの悲鳴が耳に刺さる。
アジルは舌打ちし、後方を救うために反転しようとする。だが、そこへステファンが決死の突進をかける。盾兵を従え、まるで鉄の楔のようにアジルに迫る。アジルは剣を振り上げ、ステファンを迎え撃つ。ふたりの刃が再び激突し、衝撃で周囲の空気が歪む。アジルはステファンを押し返しながらも、背後から迫る盾兵の槍を斬撃波で薙ぎ払う。だが、数が多すぎる。隊全体の身動きが取れなくなり、足が重くなっていく。
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。




