フランツ・アジル隊の急襲2
一方、ナザル本陣は度重なる急報の報せと援軍の要請が止むことがなかった。ナザルが指示を出しても、現場の指揮官である部隊長の所在が分からず指示が通らない。ナザルは思わず舌打ちをした。
「こうなることがわかっていたから、私は何度も上奏したというのに・・・・・・」
ナザルは少し考え、聖騎将ロスティスと聖盾隊長ステファンを呼んで矢継ぎ早に指示を出し始めた。
「後方の部隊長と連絡が取れません。我が軍の弱点を、敵に上手く突かれましたね。そこで、あなたには後方を抑えてもらいます。聖盾隊長ステファンと組んで、それぞれの直属部隊を率いて抑えてください」
ロスティスは黙って頷き、ステファンは直立不動の姿勢で聞いている。彼らにとってナザルは信頼の出来る上官であり、誇りに思っていた。
「盾兵を前面に押し出して、敵軍の頭を左右から磨り潰してください。ロスティス聖騎将、あなたは騎兵を率いて歩兵の横っ面を叩くのです。恐らく敵は数日前に出た部隊です。数からして1万ほどのはず。冷静に対処すればなんとでもなります」
「カロル師団長――第二師団はどうなったのでしょう?追って出たはずでは・・・?」
ナザルの眉間に皺が寄る。
「私も斥候を出して動向を探ってました。第二師団は、ファニキア遊軍を追って川沿いに南へ南へと進んでいったようです。ですが、ある時を境にファニキア軍の動向が掴めなくなりました。かなり、南へと下って行ったはずです。本来なら歩兵がこんな短時間で戻って来れるはずはありません・・・・・・」
ナザルは、粗末な机の上に広げられた地図に視線を落とした。西にハイデ、東にファニキア。ランス川を境にして睨み合っている。カロルとファニキア軍はランス川に沿って南へと・・・・・・。そこまで思考を進めたとき、ランス川に目が留まった。川・・・・・・!?ナザルは、目を瞑り天を仰いだ。
「なるほど、敵は川を下って来たのですね。カロルはまんまと誘き出された・・・」
「川を!?しかし、川は南の海に向かって流れるのが普通では!?」
「そうとは限りません。この辺りは僅かに低地になってるんでしょう。それが証拠にこの川の北にはロシュ湖があり、そこに流れ込んでるのですから。得体の知れない防御砦といい、やはり敵は優秀ですね。とにかく、今は急いで対処を。これだけ周到な戦略、私ならこの機に――」
「急報、急報です!」
ナザルが思考を前に進め始めたとき、伝令兵が息を切らしながら天幕に入ってきた。彼は、伝令の顔を見ると先を促すように顎を上げた。
「東にてファニキア軍が、橋を渡り始めました。既に前衛と交戦状態に入ってます!」
「・・・・・・っ!」
「閣下!」
ステファンとロスティスが驚いた表情でナザルに視線を移すが、ナザルは表情ひとつ変えてない。代わりに小さく息を吐いた。
「やはり、来ましたか。あなた方は手筈通りに。私は前衛の指揮を取ります」
フランツ・アジル軍の後方奇襲は、まるで嵐のように教皇軍の陣地を蹂躙していた。夜の闇を味方につけ、ファニキアの精鋭歩兵1万は、眠りから覚めきっていない敵を次々と薙ぎ払う。かがり火の炎が揺らめく中、剣の閃光と槍の突きが飛び交い、悲鳴と金属の衝突音が響き渡る。フランツは先頭を切って進みながら、周囲の状況を鋭く観察していた。
「おい、アジル。あそこだ。食糧庫が見えるぞ」
フランツが低く声をかけると、アジルはちらりと視線を向ける。陣地の奥、粗末な天幕に囲まれた一角に、大量の木箱と袋が積み上げられた倉庫らしきものが浮かび上がっていた。教皇軍の後方部隊は、ここに糧食を集中させていた。フランツの唇がわずかに吊り上がる。これは好機だ。敵の補給を断てば、戦いの流れをさらに有利に傾けられる。
「よし、俺は3000連れて焼き払う。おまえは残りの7000でそのまま本陣を目指せ」
アジルは頷き、剣を軽く振って合図を送る。フランツは即座に部下を振り分け、3000の兵を率いて食糧庫へと迂回した。アジル隊は勢いを落とさず、直進を続ける。後方から聞こえる叫び声が、教皇軍の混乱を物語っていた。フランツの分隊は、食糧庫に近づくや否や、警備の兵士を素早く排除した。槍が喉を貫き、剣が首を落とす。抵抗は散発的で、夜襲の衝撃から立ち直れていない。
フランツは自ら剣を抜き、倉庫の入り口を斬り開く。内部には小麦の袋、干し肉、ワインの樽が山積みになっていた。ファニキア軍の兵士たちは、松明を投げ入れる。乾いた木箱が瞬時に燃え上がり、炎が天幕を舐め始めた。煙が立ち上り、火の手が広がる。フランツは部下に命じ、周辺の天幕にも火を放つ。爆発的な炎が夜空を赤く染め、教皇軍の兵士たちはパニックに陥った。「火だ!火事だ!」という叫びが飛び交う中、フランツの隊は任務を果たし、素早く引き揚げ始める。だが、彼はまだアジル隊の状況を気にかけていた。
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