フランツ・アジル隊の急襲1
「急報、急報です!エレーナの軍勢が、ハイデ領内に深く入り込んでいます。焼き討ちを続けながら、こちらへ向かっている模様です!」
ニコラスは顔を青ざめ、机を叩いた。
「くそっ、くそおおお・・・・・・!!」
穏健派の貴族——クロード、ベルナルドを前線に送り出し時間稼ぎをしようとするニコラスだったが、ここで部隊の配置が裏目に出てしまった。ニコラスは信頼できない穏健派貴族を後方に配置。自らも含め、信頼のおける貴族を前線に配置していた。ニコラスは目前に迫るエレーナ軍に、穏健派の貴族を当たらせようとするも、彼らも土壇場で命令を拒否した。彼らは王の命令を伝える伝令に告げる。
「我々はハイデの民を守るために剣を取ったのであって、狂った教皇軍の餌食になるためにではない。陛下にはそう伝えよ」
クロードの言葉に、他の穏健派諸侯たちも頷く。もはや激怒するニコラスだったが、遂にハイデ軍と誓いの騎士団がぶつかることとなってしまった。ハイデが後方支援をするために立ち上げた軍は5万。それに対してハイデの街や村を焼き討ちしながらやってくる誓いの騎士団は12万5000。さらに、ハイデ軍は5万といっても、そのうち2万弱は穏健派である。つまり3万強の兵力で教皇軍と当たらなければならなかった。
戦場はハイデの中央平原に広がり、煙と炎の臭いが漂う中、両軍の旗が風に揺れた。ニコラスは丘から遠くを眺め、唇を噛んだ。
「これが・・・・・・俺の選択の結果なのか・・・・・・?くそ、くそ、くそっ!奴さえ、奴らさえ邪魔しなければ、こんなことには・・・・・・!!」
ハイデ軍の兵士たちは、過激派の指揮官たちに率いられ、必死に陣を構える。だが、数の差は圧倒的だった。誓いの騎士団の重装騎兵が地響きを立てて突進し、ハイデの槍兵たちが盾を構えて耐える。矢が飛び交い、剣が交錯する中、ハイデの前線は徐々に崩れ始めた。
エレーナの狂気が、ハイデの運命を飲み込もうとしていた。
――ミラン・キャスティアーヌ西方面。
ランス川を北上したフランツ・アジル軍は、夜の闇に乗じて西に大きく回り込みながら、一気にナザル率いる第二師団を目指した。第二師団の横に広がった陣を迂回しつつ、背後にある後方部隊に1万の軍勢が襲い掛かる。夜の見張りをしていた兵士数人が最初に気付く。
「なあ・・・、なんか聞こえないか?」
「何も聞こえんぞ?」
「そうか?俺には・・・・・・おい、やっぱり聞こえる!」
兵士は目を凝らすように暗闇を見つめるが、何もわからなかった。
「おまえ、まさかこっそり酒でも飲んだんじゃねぇだろうな?」
「んなわけあるかっ!ほら、聞こえるだろ?」
促されてじっと集中すると複数の足音が聞こえた。
「ほんとだ・・・。あれ?今日演習の予定なんてあったっけ?」
「敵陣の前で、しかもこんな時間にそんなことするわけないだろ・・・・・・」
「え、じゃあ・・・・・・?」
そこまで言った兵士の顔色がさっと変わった。
「敵襲だ!部隊長起こして来いっ!」
激しく銅鑼の音が鳴り響き、眠り込んだ陣が目を開き始める。
「奴ら、俺たちに気づいたっぽいな」
「このまま突っ込むでいいっすよね?」
アジルが走りながら背中にかけてある剣の柄に指をかける。
「当たり前だ。今頃気づいたってもう遅い。おまえら、ここが正念場だ、思いっきり暴れろ!」
「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」
ここまで来たらあとは勢いに任せるのみである。フランツとアジルを先頭に1万の歩兵はナザル軍陣地の後方に突っ込んだ。寝惚けていた教皇軍は、自分たちが来た西からファニキア軍が来るなど予想もしてなかった。フランツ・アジル軍は、フラフラと寝惚けてる兵士を槍で突き、剣で斬り倒しながら進んでいく。道中にあるかがり火を倒し、銅鑼の音がけたたましく鳴り響く。
その中で、先頭を走るフランツとアジルは化け物であった。近付く者は全て斬り裂かれ、あるいは衝撃波で木っ端微塵に吹き飛ぶ。混乱は渦を巻き始め、瞬く間にその渦は大きなうねりとなって第二師団を飲み込み始めた。第二師団は、組織だった抵抗をする前に混乱による同士討ちと逃亡が始まる。散発的な抵抗はあったが、指揮系統の乱れで本陣との連絡が一時的に遮断されてしまっていた。これは、誓いの騎士団の練度の低さもあったが、それ以上にフランツとアジルの桁違いの戦闘力によるものが大きい。恐れは、冷静な判断を狂わせる。
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