ジオの夢 四十六話 ガイからレアンドロとシュペルゲン
『レイ。早いな、もういいのか?』とギル兄が言われる。
『実務においては、私は何の役にも立ちませんので。』と。
『そうか、レイは戦だけか・・・』と、笑われる。
『ギル兄、これは、コンスタンチン家より、戦勝の祝で頂きましたので、半分お持ちいたしました。』
『そうか・・・』と、ニヤリとされる。
ロンバニアの街に入るなり、ワーレン殿とシュバルツバルト殿が現れた。お二人は私の前に現れるとニヤリとされ、それぞれに荷を受け取ると、街の中へと消えて行った。
流石に、ギル兄の両腕だけの事はある。良くぞわかったものだ・・・
ギル兄もその事は知っていて、ニヤリとされたのだろう。
『そちらの火種は全て消したようだな。さて、いよいよこちらか・・・久々に楽しくなりそうだ。昔のように派手に大きくやるからな。』
と言われる。
今はガイと二人、屋上の湯殿に浸かっている。今は夜中だ。此処から見る夜空は美しい。空気が乾いている所以か、星の煌めきが特に美しい。そして聞こえてくる、波の寄せる音が心地よい。
『ガイ、兄の様子はどうだ?元気そうに見えるが・・・』
『ああ、大して変わらん。ただ、ベッドに横になっているだけで、何も言わんから分からん。』
『そうか。では仕方ないな。』
『なあ、カールは今後どうすると思う?』とガイが聞く。
『気になるか?』
『ああ。たった二人の同年代の対等な知り合いの内の一人だからな。』
『そうだな。カールは、領地を分けて貰ったから、そこから出ないように思うが。オレにはカールの気持ちはわからんからな。』
『そう思うのか?』
『ああ、カールはオレらとは違って、剣使いでないだろう。剣使いでない者の気持は剣使いには分からんと思う。』
『剣使いで無い者か・・・』とガイが考える。
『剣使いとか剣使いで無いとか大事か?』とガイが不思議そうだ。
『ああ、持っている者に持っていない者の気持ちはわからんだろう。例えば、母親だ。オレらには母親はいない。母親がいないという事がどういう事か居なくならなければ分からんだろう。周りに女性は沢山いるが、それは母親とは違うだろう。』とオレ。
『そうだな。早くから母親がいない俺等の気持ちは、母親がいる奴らには分からんな。』
『ああ、だから、カールはオレらの事をどの様に思っているかわからん。カールから来てくれればいいがな・・・』
『そうだな。』とガイが夜空を見上げる。
オレは三日、ロンバニアに居た。それから、西にある四つの自治領を回った。各総督は上手く治めてくれている。そして、西の山岳地帯を抜け、レアンドロ領に入る。
・・・すっかりご無沙汰してしまった。レアンドロ様はお元気だろうか?
オレは、レアンドロの街に入る。随分と人が増えている。家も新しく建っている。活気もある。皆、忙しそうだ。レアンドロ様の屋敷はこの辺りではと思ったが、壁を取り払ったのだろうか・・・随分と変わったものだ・・・
女性が通り掛かる。
『もし、お急ぎのところ申し訳ありませぬが、ご領主様の御屋敷は移られたのでしようか。確かこの辺と記憶しておりましたが。』と辺りを見回してから女性を見る。
・・・しまった、レアンドロ様ではないか・・・気づかぬとは・・・
『レイ殿のではありませぬか・・・暫く見ぬうちに大きく成られた・・・』と抱いて下さる。
『これはレアンドロ様、ご無沙汰しておりました。お元気でございましたか?』
『元気の有る訳はないでしょう。レイ様をお待ちしておりますのに、なかなかお越し下されず、私の事などお忘れかと思うておりました。』と泣かれる。
なんとかお泣きになるのを宥め、新しい屋敷にご一緒する。
私の顔をご存知の方々も喜んで下さり、ほっとする。
『一時、この街で影の薄い女性が通ったと噂になりました。私もお会いしたかったのですが・・・残念ながら適いませんでした。』と、レアンドロ様が言われる。
・・・あっ忘れていた・・・メトセラ様が通られたのか・・・
レアンドロ様には、私は大抵はゴドロノフにおりますからいつでもお越しください、歓迎させて頂きますからとお伝えする。おられなくても訪ねて良いかと言われるので、総督に歓迎するように申しておきますからと申し上げ、辞去する。
色々続いたとは云え、大事な事を忘れているとは・・・段々に気が薄れているのかもしれ無い・・・
オレはシュペルゲンの街に入り執政館に向かう。
石造りの門から石造りの建物までは長い。建物に入り、二階の執政室に入る。
『これはレイ様、お早いお着きで。』とエルデンフリートが迎えてくれる。
『それは、嫌味と申してよいのでしょうか?』と睨む。
『レイ様。レイ様に嫌味を言う者は宗門内にはおりませぬ。誤解なき様に。』と言う。
喰えぬ男だ・・・
『メトセラ様はお越しになられましたか?』
『いえ、レイ様のご紹介のかたはお越しになられておりません。』
『そうですか・・・』
『一人で祠に行きます。』
『畏まりました。』
祠は北の山、絶壁に祀られている。人では、その遙か下から拝むことしか出来ない。行ける処まで行くが、祠はまだまだ上の方にある。祠を眺める。
・・・どのようにして祀られたのであろう・・・
『レイ殿、来られたか。お陰で無事に姉と再会出来た。それで記憶も戻った。少年には感謝する。我等は先に行くが、また会おうぞ。』
『私もそちらに行くことになるのですか?』
『ああ、しかし心配するな。少年は不変だ。』
・・・何を言っておられる・・・
『私はこちらで終わることはできぬのですか?』
『そなたが巡らねば、世は動かぬ。』
『では行くことにする。良いか、南じゃ。南に向かえ。さすれば会える・・・』
行ってしまわれたか・・・何を言わんとされたのか・・・
全て忘れそうだ・・・未だ何も終わっていないのに・・・
『お気づきになられましたか。』
『此処は何処でしょうか?山から降りてきたのは覚えておるのですが・・・』
『私が分かりますか?』とエルデンフリート殿が言われる。
『エルデンフリート殿。そなたの事はわかります。ここは執政館なのですか?』
『左様でございます。』
『どれ位寝ていたのでしょうか?』
『ほぼ、一日で御座います。』
『一日であれば病が発症した訳では無いようです。すると、単なる疲れか、それとも・・・ちっ、取られたか・・・』
『何を取られましたか?』と、エルデン殿が不審そうに聞かれる。
・・・しまった、言葉遣いが荒れたか・・・
『先程、最後のメトセラ殿とお会い致しました。その時に、ここを去るのに私の気を持っていかれたようです。』
『そうでしたか。それは良うございました。』
『・・・』と、不信な顔をする。
『いえ、病で無くてよかったと思いまして。』
『あっ、確かにそうではありますね。』と、微笑む。
『湯殿は有りますでしょうか?』
『いま。湯殿に浸かられますと、余計にお疲れになられると思いますが・・・』
『はい、確かに一人で浸かりますと、そうなのですが、どなたか女性もご一緒ですと、包まれるようで癒やされるのです。』
『・・・聞くだけ、聞いてみますが、もしいない場合には私の妻でよろしければ・・・』と困った顔をされる。
『大丈夫です。その時には、シュニッツァー家に参りますので、お気遣いはいりませんから。』と。
・・・普通であればどこのものともわからぬ男と湯殿に入る女性はいない・・・今までがおかしかったのだ・・・
『レイ様、湯殿のご用意が出来ました。レイ様がお越しと分ればご用意しておきましたものを。男共という者は気が利かぬのです。申し遅れました。私はエルデンフリートの妻でアンナと申します。皆、用意しておりますので。どうぞ。』と言われる。
・・・やはり、おかしい・・・
オレは、女性の多くの皆さまと湯殿につかる。やはり、失せた気が戻り、心の覇気も蘇った心地だ。多くの女性の方々に感謝する。湯殿で食事は如何かなさいますかと聞かれたので、お願いした。
オレは、執政官の一階の食事処で、多くの女性に見守られながら、食事をしている。
『エルデン殿、あの様に多くの女性がいらっしゃり、驚きました。お手数をお掛け致しました。』と。
『いえ・・・レイ様が湯殿に入って下さるのは、女性の為なのだと叱られました。今まではともかく、ここはレイ様の領地なのです。レイ様の為に女性を多く配置し、湯殿は常に用意すべきです、と言われました。他に行かれてしまっては、私達女性が困るのです。また、これからは定期的にお越し下さるようにお願いするようにと。』と、汗を拭かれている。
『確かに、そうなのです。ここは宗家の領地なのですから、頻繁に顔を出さなければいけなかったのです、しかし、忙しさにかまけ、疎かになっておりました。・・・ここの執事殿はエルデンフリート殿お聞きしたはずですが、どなたか、他に司る方が居られるのですか?』
『宗家において、ご当主様のお世話をする者は、このシュペルゲンにあっては、執事の妻と決まっております。例え、どのような事であろうと、ご当主様につきましては勝手な事はしてはならないのです。ですから、これからは、レイ様は、私アンナに御命じ下さい。』とアンナ様が言われる。
なるほど、それが不文律で、エルデン殿は忘れていたのか・・・
『はい、アンナ様。よろしくお願い致します。』と微笑む。
『はい。お任せを。これからは、ここが駄目ならシュニッツァーになどと、言われること無きよう致します。』と笑われる。
少々、ご不快であられるようだ・・・エルデン殿は下を向いたままだ・・・良かれと思ったが・・・気を付けねば・・・
『バルツァーには妻がいないのですが、その場合は如何為りましょうか?』と、話を逸らす。
『そうでありましたね。気がつきませんでした。お付きの女性がおられるでしょうが、何かお困りの時は私にご連絡を。直ぐに参りますので。』
『はい、アンナ様。その時は、ご連絡致しますのでお願い致します。』と微笑む。
『エルデン殿、困ります。女性を不機嫌にされては。』
女性の方々が退出されて、エルデン殿と二人になってから文句を言う。
『ええ、うっかりしておりました。しかし、女性の皆が、あれ程望んでいるとは・・・最近の不機嫌が分かった気がいたします。』
『しかし、レイ様は女性の扱いがお上手でございますね。』
『エルデン殿。その様な心根では。また不快にさせてしまいますよ。よろしいですか、私にとっては女性は全て母なのです。子は母には愛情と尊敬と感謝を持って接するのでは無いですか?私はその様に接しているに過ぎません。』
『私を抱いてくだされる女性は私に母性の力で癒して下されるのです。そして私を抱かれた女性は私からの気により癒されるらしいのです。ゆえに。女性の皆様が抱いてくださるのです。勿論、宗家の当主が全てそうだと云うわけではありません。私の場合は亡き母の力なのでしょう。』
『レイ様。それは・・・で皆が私を睨んだのですね・・・その大事な機会を潰そうとしたと・・・』
『はい。どの様な言葉の使い方をされたのかは分かりませんが・・・アンナ様の仰り様ではそう感じました。』
アンナ様が部屋に入って来られる。
『レイ様。お帰りになられるのでしょうか?』と難しい顔で言われる。
『アンナ様。ここは私の領地と仰られましたが、帰るなどと申されませんように。』とアンナ様を見る。
『まだ、ここに家敷がないのですが・・・、用事が出来るまでは残る心算なのでが、如何したら宜しいでしょうか?』アンナ様に微笑む。
『レイ様。お泊まり下さいますか。勿論用意しております。あな嬉し。お泊まりくださるとは皆喜びます。打ち合わせが終わりましたら、お声がけくださいな。』と、抱いて下さり、うきうきと部屋を出ていかれる。
『レイ様。神業でございますな。とエルデン殿。
・・・なんだ神業とは・・・オレは微笑むしかない。
アンナ様に連れてこられた。高台にある家々の集まり一つの屋敷だ。よく見ると北の都にある屋敷と同じだ。
『アンナ様。東の屋敷と似ておりますが?』
『はい。同じ方が、心落ち着かれ、生活できるのではないかと考えてでございます。』とアンナ様が言われる。
『それは、お気遣いいただき嬉しいです。』
『おお、ご満足いただき嬉しゅうございます。』
『では、ゆっくり休ませて頂くといたしましょう。』
『あの、レイ様・・・お休みの際は、ご一緒させて頂く事は出来ましょうか・・・』と不安そうな顔で言われる。
『アンナ様。私に取りまして、母様と同衾致しますのはいつもの習いでございます。そうして頂けるとは有り難い事です。』




