ジオの夢 幕間三話
彼女は、笛井漣、二十六才らしい。税理士と話し終わった後に聞いてくる。
『社員寮はありませんか、なにせ今日中に、今の寮をでなければならないので・・・』と、変わらず下を向いている。
『今日中ですか、それはまた急な・・・大変でしょう・・・もしここで良ければ、使って頂いて構いませんよ。私といるのが気にならなければですが。で、ゆっくりと探されたらいいでしょう・・・』と。
彼女が顔を上げられる。少し、明るい顔になった気がする。
『よろしいのですか?』
『はい。ベッドルームには使っていないベッドもありますし・・・何も入れていない部屋もありますから、そこをお使い下さい。あるものは自由にお使いになられて構いませんから。それと支度金をお出ししましょう。それで必要な物を揃えられるといいでしょう。』
『あの、空いているベットを使わせて頂いても良いの
ですか?』
『勿論、後で部屋に移しましょう。』と笑う。
『はい。』と笑われる。
初めて、しっかり笑われた顔を見た。切れ長の目に、厚からず薄からず、小さ目の唇。険の取れたお顔はなかなかに美しい。これは縁なのかもしれない・・・
彼女は一度会社に戻ると言われ、部屋を出て行かれた。予備の鍵は机の引き出しにあったので渡し、暗証番号も教えて教えておいた。
ただ、部屋に友達、家族を連れて来ないようには頼んでおいた。
『その様な者達は居ないので、ご心配はありません。』と、笑って答えられる。
・・・笑って答える様な事で無いと思うが・・・
そう云えば、私の親はどうしたのだろうか・・・まず住民票か、そして謄本を取ろう、それから生まれ地に行ってみよう・・・
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初めて顔をみた。話もした。思っていた人とまるで違った。お互い興味も無く、まるで、居ないかのような存在で有ったのに・・・
世の中には、不思議なこともあるものだ。今までのわたしであれば、何もせず、黙って辞去し、会社からも去っていただろ。そうした場合の私はどうなっていたのかと思うと、ぞっとするし、涙も出てくる。
あそこで、一歩踏み出し提案しみて良かった。これで、私の人生も少し良い方に変わるかも知れない・・・今日の事を、忘れずにこれからも、前に出てみよう・・・
しかし、今日のあの人は今までの為人が変わってしまったかのようだ。間違いなくいつものあの人だ。が、顔も穏やかになった気がする。税理士の方に入院していたといわれていたが、確かに、今まで連絡を怠られることはなかった・・・連絡の出来ない入院とは、大怪我であったのか・・・そうは見えないが・・・
部屋に大した物は所持していない。軽く清掃はしておこう・・・
会社に寄り、部屋の鍵と書類を管理者に渡す。特に何も言われない。所詮、私は正社員ではない契約社員だ・・・いや、あの管理者とその上にいる者の人間性の問題なのでろう・・・今日から私は自分を卑下せずに生きると決めた・・・
時生さんのマンションに戻る途中に、あの会社での嫌な出来事が色々、頭に浮かぶ・・・
突然、この鍵と暗証番号が嘘であったらと、冷や汗がでる。いやそんな訳はない、しかし・・・そうだ支度金を振り込むと言われた。口座を確認してみよう・・・
恐る恐る、スマホで口座の取引欄を見る。
『荒井AMC ¥ ☓☓☓,☓☓☓ー』
入金があったのは嬉しい。しかし、この金額は・・・
やはり鍵も暗証番号も間違いない。扉も開いた。扉を開け、玄関に入る。玄関の壁に姿見が掛けてある。その鏡に私が、写っている。撚れたジーンズにTシャツ。これを見た時生さんはどう思うのだろう・・・
『ただ今、戻りました。』と、時生さんはベランダの椅子に腰掛けている。
私は癖で、顔を伺ってしまう。
『お帰りなさい。』と微笑んでくれる。そして、不思議な顔で私を見られるが、優しい目だ。人を見下す目ではない。
・・・あれは家族を眺めるお優しい目だ・・・
『どうかされましたか?』と、ご心配いただく。
『何もありません。』と、思いっきり笑って見る。
『それは良かった。』と笑って下さる。
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