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ジオの夢 十三、旅団

オレは女性達とレアンドロの街に向っている。白の面を、付け、白のフードを被っている。レアンドラ様もトニア様も一緒に行くと言ってついてきた。戦いには参加せず、遠くから見ているようにお願いした。レアンドロの街はそれほど大きく広くはないが、街とそれ以外の区別は特に無い。領館の壁が遠くからでもよく見える。領館の門の前で見上げる。歩哨が歩けるようにしっかりした丸太造りの壁だ。しかし歩哨は居ない。壊すのは簡単だが、後々使うので余り壊したくない。門を押してみる。動く・・・罠かも知れないが、構わず門を開いて行く。結構重い。半分を開けて中に入っていく。


『おい、何してるんだ?』と声が掛かる。多くの男達が玄関の前に立っている。やはり知られていたか・・・そこまで垂れてはいないか・・・

『あなた方こそ、ここで何を?ここはレアンドロ家の所有ですよ。勝手に入られていては困りますよ。出て行ってください。』とオレ。

『フザケた事を抜かすやつだ。今はなぁ、ヴァイス家からバッケル家が預かっているんだ。レアンドロ家なんか知った事か。』

『そうですか、ではヴァイス家がレアンドロ家を襲ったのですか?』

『ああ、そうだ。ヴァイスと、ここに居た奴らが組んで遣ったんだよ。ここの奴らは皆、死んだけどな。馬鹿な奴らだ。騙されてるのも知らずに死んでいきやがった。』と笑っている。

『あなた方はヴァイスの方々ですか?』と、怒りが湧いてくる。

『俺等は傭兵だよ。何でも有りのな。』と相変わらず笑っている。

『お前を殺って、次は女達だ。』と、他の男達も嬉しそうに笑う。

欲深い方々だ・・・欲に目が眩んでは長生き出来ないだろうに・・・

『傭兵の方が私を知らないなんて、もぐりなんですね。話をしても時間の無駄なのが分かりましたから、さっさと逝ってくださいね。』と。

二本の六角棒を繋ぎ、両穂の槍にする。男達は無闇に突っ込んでくる。近くに来た男達から、その首を落としていく。腕前の立つ者はいない。強盗崩れが傭兵を呼称している。まともに剣を振るえる者が居ない。その惨状を目の当たりにすれば、逃げ出す者も出てくるだろう。片が付くのも、そう時間は掛からないはずだ。


案の定、あちらこちらで声が上がる。

『あいつ、白衣の首切りじゃねか?』

『何だそりゃ?』

『知らねえのか、一年ほど前に魔女と組んで盗賊狩りしてたんだ。あいつが現れると首を落とすって恐れられてたんだ。魔女も消えて、首切りも消えたって、盗賊達が喜んでるって話だったはずだ。』

『俺は逃げるぜ!お前らも死にたくなかったらさっさと逃げろ。』

『あいつ一人で何百人もの首をとるんだ!逃げるぞ。』

『こんなとこにいらんねぇ!』

何だか酷い事になって来たな。傭兵とは名ばかりだな。


女性達が死体と血の片付けをしている。最初、女性たちが門の中に入って来た時には、転がっている多数の首と首のない同じ数の胴体を見て声も出ていなかった。流石に剣を習った者だ。暫くすると見慣れたようでさっさと片付け始めてくれた。

『レイ殿、お怪我は有りませんか?この度は、本当に感謝いたします。』とレアンドラ様。

『いいえ、思った程に簡単でありました。正規兵はおりませんでした。ヴァイス家の名を出しておりましたが、真偽のほどは何ともいえません・・・』

『・・・レイ殿、済んだ事は置いておいて、これからの事を考えようと思います。』

『まずは、街の住人が戻って来れるように致しませんと・・・』とレアンドラ様が微笑んでいられる。


ーーーーーー

皆で無事に戻って来れたのは良かった。シュニッツァーの街に戻って来てまず感じたのは、女性達の視線が痛い。男たちは気の毒そうに見る。

『カリーナ様!旦那様です。旦那様が戻られました。』と家にいる侍女の声が刺さる。

『無事にお戻りのご様子で良うございました。』とカリーナが笑っている。

『そうだね。遅くなってしまったが。』と。

『戻って来たのはいいんだが、女性達の視線が冷たいのだが・・・』と聞いてみる。

『それについては、御祖母様からお話がお有りであろうと思いますので、私からは止めておきましょう』と嬉しそうに笑う。うーん、婆様からだとすれば・・・大変だ・・・

まず婆様の部屋を挨拶で訪ねる。


『のう、ご当主殿、何故に直ぐに戻られませんでしたか?一族の事をどう考えられました?ましてや、一人前にならん者を何故に連れて行かれました?その者が亡くなりでもしたらどう責任を取るつもりであられましたか?』と婆様。静かに問われる。


婆様の立て続けの指摘に何も言う事が出来ない・・・

全てに考えが甘かった。何時からだろう危機意識が失せたのは・・・

『レイゼン様は、シュペルゲンを取り戻した後に、此処にお越しになられ、今年は白魔が来ると仰せになられました。その為に一族を纏めねばならんと。

ご当主殿。白魔が来ればどうなるかはおわかりですな。』

『・・・』私は頷く。


昔から伝えられている。その辛さは・・・

街は豪雪に埋もれてしまい、弱い家屋は重みに耐えられず、雪に沈み、人は暖が取れずに凍え死ぬ。暖が取れた者でも餓えに堪えられなくなって倒れていくことになる。十分以上に備えよ、と。


『我らには、ご存知の通り、余裕は有りませぬ。それに対する十分な費用、材は用意できませぬとお伝えするしかありませんでした。レイゼン殿は笑って、それについては宗家にて全て用意するから心配されるな、其の為に私が来たのだからと仰っしゃられた。


今まで、我ら一族の者は宗家に身捨てられたと考えておりましたな。しかし、宗家は全ての事を考え、動かれておられました。我らの事も、勿論忘れておられた訳ではなかった。我らの事を、同族である、大切な家族ではないか、忘れていた事など片時もないと仰られた。先代、先先代に言えぬ事情があったとは云え、遅れた事は済まなかった、と詫びて頂きました。』


『またレイ様は、白魔を乗り切る為にはアゾフ平原を取り返さなければならぬ。其の為に兵を出す。取り返した後にも、平原に手を突っ込んで来る者がいるから、更に戦わねばならぬ。と、申されました。その時のレイ様は酷く苦しそうであられました。』


『戦えば、一族の中にも死ぬ者や大怪我をして一生それを背負っていかねばならぬ者が出る・・・

そうなると思うと真に悲しく、辛い。祖父や父が、一族の者が死す事や怪我する事が無いよう耐えて来たのに、それに反した方法しか取れない自分が情けない。と申され、戦をしなければならない事を謝られてもおられた。』


『我らの後に、レイ様は、多くの兵を連れてアゾフ平原に行かれました。そのアゾフ平原の戦においては、一族の者達に死者や怪我人が一人も出なかったと聞きました。

何故ならば、その戦においてレイ様が先頭に立ち、敵陣を切り裂き、粉砕し叩き潰されたとの事。そのお姿は、真っ白な装備が真っ赤な血に染まり、一人で業を背負うように感じられたと、それを見た方々はが涙が出たそうです。』

『・・・』


『我々もレイ様のお強さは分かります。何故ならば、此処で舞を舞って下さいましたから。私は見えませぬが、その踏み込みから出る音の素晴らしさは分かります。先代、先先代にも劣らぬ、いや、先代、先先代の素晴らしさ両方を受け継いだ美しい音の響でありました。』


『ただ、どんなにお強くても、宗家の当代様は十二なのですよ。その十二の子供が一族の為にと必死で戦っておられているのです。

当主殿、この街に戻られて、女性方の視線を感じられませんでしたか?』

『・・・はい、私を非難するような、強い視線でありました・・・』


『その視線は、何故シュニッツァーの、我らの当主は宗家をお助けして頂けないのだ、と云う思いであるのでしょう。その事の残念さ、無念さが分かりますか。特に女性の方々は母性が強いのですよ。レイ様は多くの女性にあっては大事な我が子なのであり、また想い人でもあるのです。』


『何処の何方かは分かりませぬが・・・おそらくレイ様が外に在られた頃にレイ様と知り合われた方と思いますが・・・レイ様は苦しんでおられる、助けてあげてくれ、と。それは、女性から女性への伝えであります。わがシュニッツァーの女性の者は、皆が気が付いておるのです。』


『レイ様は早くに母殿を亡くされ、祖父様、父様と続けて亡くされ、宗家を継ぐことになられました。まして、この状況に囲まれ、打開を迫られております。その耐えねばならぬ圧力はいかばかりでしょうか・・・その事を思い、重大さを鑑みれば、そのご境遇に涙が出てまいります。』と、婆様は涙を拭われている。


『当主殿、レイ様とは今後についてどのような話をされたのですか?・・・我々はもう決めたのです・・・アラインバルトに残るつもりでおります。当主殿がどのような判断をされたかはわかりませぬが、それと反するかもしれませぬ。それでも、我々は残ります。』と婆様が言われる。


『婆様、この度の事に対しての言い訳は致しませぬ。しかしながら誰がなんと言おうとも、一族を抜けるなどとは一度も思った事はありませぬ。それだけはご信じください。』


『そうですか・・・それはよう御座いました。』

『これから如何いたしますか?』と婆様が聞かれる。

『本来、謹慎でもすればよろしいのでしょうが、それは誰かの二番煎じになりましょう。で、考えたのですが・・・お側で少しでも御気が晴れるように話し相手になろうかと思います。また、下知があれば、それに従おうかと。』

『それが良いな。二番煎じはいかん!』

ーーーーーー


オレはレアンドラ様の館に滞在中だ。この屋敷の露天湯はとても気持ちが良い。普通の湯ではないとの事、怪我の治療に良いそうだ。

『レイ殿、一緒させていただいてもよろしいか?』と声が掛かる。

誰だろう。聞いた事はあるが思い出せない・・・

『どうぞ。』とオレは答える。

『すみませぬな。』

入って来たのは髪の短いしっかりした身体の三十前後の男だ。オレが気が付いていないと思ってか、話を始める。

『シュニッツァーでございます。ご挨拶を。』

『シュニッツァー殿であられましたか・・・髪の短いのに見とれてしまいました。』

『レイ様は髪の長いのはお嫌いですか?』と笑う。

『はい、いざという時に、髪が長いのは気になりましょう。戦で不利になりませんか?』と答える。

『慣れではありませんか。』と笑う。

『そうでしょうか・・・。カリーナ様にはお会いになられましたか?』とオレ。

『はい。婆様に絞られました。レイ様の元に行くことで許して貰いました。』と困った様子だ。

『それは・・・怖そうです。』

『で、何かさせて頂ければ助かります。謹慎では二番煎じで駄目だと言われまして。』

『謹慎されているあの方は直ぐ飽きるでしょう』と笑う。


『実は傭兵組織を創って、皆が日銭を稼げるようにしてあげたいのです。で、誰に頭を頼むか迷っていたのです。で、シュニッツァー殿であれば真に適任であるかと。お願い出来ませんか。』

『適任かどうかはわかりませんが、精一杯努めさせていただきます。』と仰ってくれた。

『客人!まだ入浴中ですか?』と声が掛かる。

『今、出るところにございます。』

やはり、急かされるようだ。シュニッツァー殿は慌てて退出していく。


オレとシュニッツァー殿はベレンの街にいる。レアンドラ殿やトニア殿、他の方々からまだここにいればよい。と言われたが、ベレンの街は近いから、いつでも寄りますから、と説得するのに苦労した。


ベレンの街に住民はいない。今はジンツァー殿が五百の兵を率いて、滞在している。

『ジンツァー殿、ご苦労様です。』とオレ。

シュニッツァー殿を見ながら、

『レイ様、レアンドロ家の方は簡単に片がついたようで、よう御座いました。』

『昔の悪名がまだ効いておりました。』と笑う。

『ほう、どの様な悪名出御座います?』と。

『首切りと言われました。』と笑う。

『そのままで、芸の無い名で御座いますな。なあシュニッツァー殿?』

『確かに。しかし、私も、ここで首が飛び交う様を見せられた時には、度肝を抜かれましたな。レアンドロを占拠していた者達も、さぞや驚いた事でございましょう。』

『はい。大方の者は早々と逃げて行きました故、片付けも大分楽では有りました。』と。 


『ジンツァー殿、こちらはシュニッツァー殿がお引き受け頂ける事に成りました。ここの五百は私が預かりましょう。ジンツァー殿には領地の方をお願いいたしましょう。』

『その様に。』とジンツァー殿は下がっていく。


『レイ様、ジンツァー殿の扱いは良かったのでしょうか。私が来たばかりに、ここを去らねばならなくなりましたが・・・』とシュニッツァー殿が心配している。

『その心配はいりません。ジンツァー殿、ミュンツァー殿、ベルンハルト殿は私の守役なのです。私の指示のみに従います。彼らが一番に考えるのは私の命だそうです。その時は自己の判断で動かれるそうですが・・・。ジンツァー殿、ミュンツァー殿はアストリアス家の兵を訓練し、私の指示により動かします。しかし候家の方々の兵を動かす事は有りません。あくまでも、宗家の専者であり、表には出ないのです。しかし候家の方々には区別なくいずれの兵も動かして頂く事をお願い致しまする。』

『ベルンハルト殿は私を直接守って下さっています。しかし、今は私が動きませぬ故、何方かに出ておられます。』


ベレンの街の道を拡幅し、家屋を整理、移設している。作業は順調に進んでいる。五百の兵は残してある。少しづつ傭兵希望者と入れ替えて行く予定だ。

オレは十二歳だ。作業はしない。やる事は無いので、日々、舞を舞っている。今日も団長館の庭で舞っている。作業の無い者はオレの舞を見ている。心得のある者は一緒に舞っている。


今日は人が来る予定は無いはずだが、馬車がこちらに向かって来るのが見える。馬車が近づいてくる。馬車に家紋が見える。シュニッツァー家の紋のようだ。シュニッツァー殿が慌てて駆け寄っていく。オレは身なりを整える。おそらく婆様であろうと思いながら馬車に向かって歩く。


『レイ殿、済まぬな。冥土の土産にゴドロノフを感じてみとうてな。タリオンがこちらに参るというので、無理を言って付いて来たわ。』と婆様が言われる。

嬉しそうで何よりだ。

『婆様、お元気で何よりでございます。ゆっくり、ご覧になっていって下さい。』と嬉しげに答える。

『ああ、そうさせてもらうぞ。それと、タリオン!』

『はっ!レイ様、あの時には大変失礼を致しました。この通りでございます。』とタリオン殿が頭を下げられる。

『タリオン殿、お止め下され。タリオン殿にも他の皆様にも何の隔意も有りませぬ。誤解無きようお願い致しまする。』とオレ。

何故、謝られているのか分らないぞ。


『レイ殿、イルゼがレイ殿に突っかかった時じゃ、地団駄を踏まれたそうではないか。』と婆様が言われる。

『あれでございますか。成る程・・・』

『あれは、学院に居た時に知り合う事になりました御婦人が教えて下さったのです。何事も自分を責めてはならぬ。思いを心の内に溜めてはならぬ。世の中はままならぬ。だからこそ、怒りであろうが、悲しみであろうが表に出せと、地面を蹴ろと。

それで自分の不甲斐なさを罵りながら蹴っていたのです。他意はないのです。誤解をさせてしまい、申し訳有りませぬ。』

仲々に難しいな・・・

『そうであったか。すっきりされたか?』と婆様に言われる。

『はい、気が塞ぐ事が少なくなりました。その御婦人には色々、世間の事を教えて頂き、とても感謝致しております。』

『それはようございましたな。・・・イルゼ!』


『はい。』十七、八の女性が呼ばれて、陰から出てくる。

見た事があるような、ないような女の方だ・・・

『剣を向けてしまい、気になっておりました。申し訳御座いませぬ。』と言われた。

ああ、タリオン殿と一緒に居た女子か・・・

『ああ、あなたでしたか。そんな事は大した事ではありません。気にする必要はありませんよ。』


『それより、気になるのは、あなたは舞の修練が足りていませんね。それではこれ以上、剣の腕前は上にはいけません。』とオレ。

その女子イルゼとタリオン殿が驚いている。

『アラインバルトに伝わる舞は投術、体術、剣、槍などの型を合理的に身につける術なのです。』

『あなたは、剣は腕で振るうものだからと一緒懸命振るう練習をされているようですが、剣は本来、足捌きによる腰で振るうのです。聞いた事は、ありませんか?しっかり舞を舞える方であれば言う必要の無い事なので皆が忘れてしまうのでしょう。』とタリオン殿を見る。

タリオン殿も気付かれたようだ。指導は向き不向きがある。項垂れているが、此ればかりは仕方ない。


『口だけでは納得がいかないでしょうから、実演を見せましょう。』と、両刃の剣の表舞を普通の速さで、攻めは表舞、守りは裏舞と呼ぶ、を見せる。皆が唸っている。

『では、次はゆっくり舞いますね。』


『如何ですか、攻めに入った時の剣の安定感、速さ、正確さが。腕を動かすのといかに違うか。』と説明する。

いつの間にか人が増え、回りに人集りが出来ている。まぁ、いいか・・・

『次は裏舞を同じ様にいたします。』と。

二度舞う。ゆっくり舞うのは集中がより必要だ。













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