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無詠唱の魔王  作者: Dちゃん
第六章「二つで一組の話」

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第91話「四つとも等しく、というルルの声と、最後の場だ、というジンの声と、六本が一度に動いた、というシアの声と、道の途中の集落の朝」

朝が、来た。


集落の朝は——静かだった。


でも——


昨日と、違った。


何かが——また、変わっていた。


昨日は、一組目の対の中が揃った夜だった。


今日は——


揃った重さが、もう一方の対の方を、はっきりと、向いていた。


それだけで、十分だった。


―――


ジンが、目を覚ました。


すぐに——地面の方角に、手を、向けた。


地面を——通して、聞いた。


何かが——あった。


昨日とは——また、違った。


重さが——違った。


昨日は——「器と三つ目が揃って、震えている」という感触だった。


でも今日は——


「揃った一組が、もう一方の対を感じている」という感触だった。


「……感じてる」とジンが、小さく、言った。「器と三つ目が——揃ったまま、もう一方を感じてる。入り口の二人の方を——向いてる。昨日は自分たちの中だけで揃ってた。今日は——もう一方が、ある、って気づいてる。六本の道が——全部、動いてる。でも——まだ、真ん中がない。二つの真ん中の、真ん中が——まだ、ない」


地面の奥から——返事は、なかった。


でも——何かが、そこに、あった。


一組目の道が——揃ったまま、もう一方を向いて、あった。


―――


ルルが、目を覚ました。


すぐに——鼻を、向けた。


後ろ——台地の方角。穏やかな、温かいにおい。アルトが、台地から、こっちを見ている。


前——集落の中。器のある方角。入り口の二人のいる方角。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——また、変わってきた」とルルが言った。「昨日と——違う。一組目の対が揃ってから——においの流れが、変わった。器と三つ目から——入り口の二人の方に向かって、においが流れてる。昨日はバラバラだった二組が——今日は、互いを感じてる。感じ合ってる。でも——まだ、繋がってない。感じてるだけだ。繋がるには——真ん中がいる。そういうにおいだ」


ジンが——少し、間を置いた。


「……感じ合ってる、か」とジンが言った。


「……うん」とルルが言った。「感じ合ってるから——繋がりたい、ってにおいだ。昨日より——ずっと、はっきり。二組が互いを知ってる。知ってるから——繋がりたい。そういうにおいだ。でも——等しくないといけない。カインが言ってた。四つとも等しく混ざる場所。偏ってたら——動かない。そういうにおいだ」


「等しく——か」とジンが、低く、言った。


「……うん」とルルが言った。「四つとも——同じだけ、混ざる場所。そこが最後の場だ。そういうにおいだ」


―――


カインが、写しを、広げた。


「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『二つの対がそれぞれ揃った後、聞き手は二つの真ん中の、さらに真ん中に立つ。その場所は、四つのにおいが等しく混ざり合う場所だ。等しく、というのが大事だ。どれか一つでも偏っていると——六本の道は一度に動かない』とあります」


全員が——カインを、見た。


「……続きには——こうあります」とカインが言った。「『等しく混ざる場所に立った聞き手は、四つを同時に感じなければならない。三つで一組の時のように呼ぶのではない。ただ——四つを同時に、感じる。感じ続けることで、六本の道は自然に一度に動く。動いた時が——声への入り口だ』」


しばらく——誰も、何も、言わなかった。


「呼ばない——か」とジンが、低く、繰り返した。「三つの時は——呼んだ。四つの時は——呼ばない。ただ、感じる」


「……そうです」とカインが言った。「四つで一組は対の対です。それぞれの対がすでに揃っている。揃っている対を呼んでしまうと——対の中の揃いが乱れます。聞き手は、四つを同時に感じながら、ただ、そこにいる。六本の道が自分で動くのを——待つ。それが、四つで一組の最後の仕事です」


「待つ——か」とノアが、静かに、言った。


「……そうです」とカインが言った。「六本の道が——自分で動く。聞き手は、その道を乱さないように、等しく感じながら立っている。それだけです」


―――


ルルが——鼻先を、ゆっくりと、動かした。


「……四つのにおいが——一番、等しく混ざってる場所を探す」とルルが言った。「器のにおい、三つ目のにおい、入り口の一人目のにおい、入り口の二人目のにおい——四つとも、同じだけ混ざってる場所。そこが最後の場だ。そういうにおいだ。探す。今から——探す」


「頼む」とジンが、ルルを、見た。


ルルが——前に、出た。


ゆっくりと——歩いた。


四つの方角を——順番に、確かめながら、歩いた。


立ち止まった。


また、歩いた。


少し——戻った。


立ち止まった。


鼻先を——四方に向けた。


また——少し、動いた。


ほんの少し——右へ、動いた。


立ち止まった。


「……ここ——かもしれない」とルルが言った。「でも——まだ、少し、偏ってる。器の方が——少し、重い。もう少し——入り口の二人の方に、動く」


さらに——少し、動いた。


止まった。


ルルが——長い息を、止めた。


「……ここ」とルルが言った。「四つのにおいが——ここで、等しく混ざってる。器も、三つ目も、入り口の二人も——ここで、同じだけ、混ざってる。四つとも等しい。環境にそういうにおいだ。ここが——最後の場だ」


ジンが——その場所を、見た。


何もない——ただの地面だった。


でも——


何かが、あった。


ジンが——その場所に、立った。


地面に——手を、当てた。


「……ある」とジンが、小さく、言った。「四つの重さが——ここで、混ざってる。等しい。全部——等しく、ここにある。真ん中——ある。最後の真ん中が——ある」


―――


シアが、空間を、静かに、探った。


「……見えてきた」とシアが言った。「六本の道が——ここで、交わってる。一組目の対の二本と——入り口の二人を繋ぐ二本と——対と対の間の二本。全部で六本が——ここで、交わってる。昨日は二本だけ揃ってた。今日は——六本全部が、ここに来てる。まだ揃ってない。でも——来てる。六本が、ここに来てる。そういう見え方だ」


「六本が——来てる、か」とジンが言った。


「……うん」とシアが言った。「昨日は一組目の中だけだった。今日は——六本全部が、この場所に向かってる。ジンが立ってるから——向かってる。でも——まだ揃ってない。揃うには——時間がいる。でも、来てる。ちゃんと来てる。そういう見え方だ」


―――


入り口の二人が——そっと、近づいてきた。


ゆっくりと——近づいてきた。


ジンの後ろで——立った。


揃って——立った。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——した。二人から——今日も支えるにおいが、した。昨日と——また、違う。昨日は後ろで守ってた。今日は——一緒に感じてる。ジンが最後の場に立ったのを——感じてる。自分たちも感じたい、ってにおいだ。でも——出しゃばらない。等しくならないといけないから——出しゃばらない。でも、一緒に感じる。そういうにおいだ」


「一緒に——感じてくれてる、か」とジンが、地面に手を当てたまま、言った。


「……うん」とルルが言った。「二人が後ろにいることで——入り口の方のにおいが、また、少し、濃くなってきた。等しさが——保たれてる。二人がいるから——等しさが保たれてる。そういうにおいだ」


ジンが——目を、細めた。


「……ありがとう」とジンが、後ろの二人に向かって、静かに、言った。


二人が——頷いた。


揃って——頷いた。


―――


セレクが、静かに、口を、開いた。


「……教会の記録に——こうあります」とセレクが言った。「『四つで一組において、等しく混ざる場所に立った聞き手は、しばしば焦りを感じる。六本の道が来ているのに揃わないからだ。しかし焦りは等しさを乱す。聞き手がどこか一つに意識を向けると、そこだけが重くなる。重くなると、等しさが崩れ、六本は一度に動かない。焦らずにいることが——唯一の方法だ』」


「焦りが——等しさを乱す、か」とジンが、低く、繰り返した。


「……そうです」とセレクが言った。「四つを等しく感じるとは、どれかを特別に感じないということです。器に意識が向きすぎても、三つ目に向きすぎても——等しさが崩れる。四つを、ただ、平らに感じる。それが、難しい。でも——それだけが、方法です」


「平らに——か」とジンが言った。


「……そうです」とセレクが言った。「揃えようとしない。呼ばない。ただ、平らに、感じ続ける。六本は——自分で揃います。聞き手が揃えるのではなく——六本が自分で揃う。そういう記録です」


ジンが——少し、目を、細めた。


「……わかった」とジンが言った。「平らに——感じてる。四つとも——平らに、感じてる」


―――


昼が——来た。


ジンが——最後の場に、立ったまま、いた。


地面に——手を、当てたまま、いた。


二人が——後ろで、立っていた。


揃って——立っていた。


ノアが——ジンの隣に、来た。


「……また——一緒に感じる」とノアが言った。「三つの時も、一組目の時も——一緒だった。最後も——一緒に感じる」


「……頼む」とジンが言った。


ノアが——ジンの隣に、立った。


地面に——手を、当てた。


カインも——反対の隣に、来た。


地面に——手を、当てた。


「……最後まで——ここで聞く」とカインが言った。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——また、変わった。三人が——最後の場に立ってる。四つのにおいが——三人を通して、流れてる。等しく——流れてる。偏ってない。三人分の平らさが——できてる。六本の道が——三人を感じてる。六本が——少し、揃ってきてる。そういうにおいだ」


「六本が——揃ってきてる、か」とジンが言った。


「……うん」とルルが言った。「少し。でも——揃ってきてる。そういうにおいだ」


―――


午後が——来た。


集落の小屋の奥から——器が、また、光った。


小さな、光だった。


一瞬だけ——光った。


ルルが、息を、止めた。


「……器が——光った。最後の場を——感じてる。ジンたちがここに立ってるのを——感じてる。感じたから——また、光った。三つ目も——それを感じてる。一組目の対が——ここを向いてる。はっきり——向いてる。そういうにおいだ」


「器が——向いてきたか」とジンが言った。


「……うん」とルルが言った。「向いてきた。入り口の二人も——向いてる。四つとも——この場所を、向いてる。でも——まだ揃ってない。向いてるだけだ。揃うには——まだ、時間がいる。そういうにおいだ」


シアが、空間を、探った。


「……変わってきた」とシアが言った。「六本の道が——さっきより、ずっと揃ってきてる。器が光ってから——揃ってきてる。対と対の間の道が——動き始めてる。昨日は動いてなかった二本が——今日、動き始めてる。六本全部が——同じ方向を向こうとしてる。そういう見え方だ」


「対と対の間が——動き始めてる、か」とノアが、静かに、言った。


「……うん」とシアが言った。「まだ揃ってない。精度——動いてる。六本が全部——同じ方向を向こうとしてる。もうすぐ——揃うかもしれない。そういう見え方だ」


―――


夕暮れが——近かった。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——また、大きく、変わってきた。六本の道が——揃ってきてる。四つとも——ここを、向いてる。等しく——向いてる。偏ってない。四つが等しくここを向いてるから——六本が揃ってきてる。もうすぐ——一度に動く。そういうにおいだ。来る。今日——来る。そういうにおいだ」


「今日——来るか」とジンが、低く、言った。


「……うん」とルルが言った。「今日——来る。そういうにおいだ。でも——焦らない。焦ったら乱れる。ただ、平らに、感じてる。そういうにおいだ」


「……わかった」とジンが言った。「平らに——感じてる」


入り口の二人が——後ろで、静かに、息を、した。


揃って——息を、した。


ルルが、息を、止めた。


「……二人から——静けさのにおいが、した。後ろで——静けさを、持ってる。二人の静けさが——後ろにある。後ろにあるから、ジンたちが平らでいられる。二人が——場を守ってくれてる。そういうにおいだ」


―――


シアが、息を、止めた。


「……変わった」とシアが言った。「六本の道が——全部、揃い始めてる。一度に——同じ方向を向き始めてる。でも——まだ揃いきってない。あと少し——あと少しで、揃う。六本が——震えてる。震えながら、揃おうとしてる。そういう見え方だ」


「震えてる——か」とジンが、低く、言った。


「……うん」とシアが言った。「六本が——震えてる。揃う直前の震えだ。来る——もうすぐ来る。そういう見え方だ」


ルルが、息を、止めた。


「……においが——全部、震えてる。六本の道が——全部、震えてる。揃う直前だ。来る。今——来る。そういうにおいだ」


―――


シアが——息を、止めた。


「……揃った」とシアが言った。「六本の道が——揃った。一度に——同じ方向を向いた。全部——同じ方向を向いた。入り口の二本も、一組目の対の二本も、対と対の間の二本も——全部、一度に、同じ方向を向いた。入り口が——開いてる。開いてる。六本が同時に——震えてる。そういう見え方だ」


ジンが——目を、細めた。


地面に手を当てたまま——四つの重さを、同時に、感じた。


器の重さ——三つ目の重さ——入り口の一人目の重さ——入り口の二人目の重さ。


四つが——同時に、震えていた。


六本の道が——同時に、動いていた。


「……震えてる」とジンが、低く、言った。「四つとも——同時に、震えてる。六本が——同時に、動いてる。感じてる。四つとも——ちゃんと、感じてる。等しく——感じてる」


ルルが、息を、止めた。


「……においが——全部、揃った。四つとも——同じにおいで、揃ってる。六本の道が——一度に開こうとしてる。今だ。そういうにおいだ」


「今だ——か」とジンが言った。


「……うん」とルルが言った。「今——開く。でも——呼ばない。ただ、感じてる。六本が——自分で開く。そういうにおいだ」


ジンが——地面に手を当てたまま、目を、閉じた。


四つを——ただ、感じた。


平らに——感じた。


呼ばなかった。


ただ——感じた。


―――


一息だけ——静かになった。


六本の道が——止まった。


においが——止まった。


震えが——止まった。


一息だけ——


全て、止まった。


シアが、息を、止めた。


「……来る」とシアが、小さく、言った。


―――


声が——


届いた。


四つの声が——同時に、した。


でも——


四つの声は、別々に届かなかった。


一度に——届いた。


一度の中に——四つが、あった。


器の声と、三つ目の声と、入り口の一人目の声と、入り口の二人目の声が——一度に届いた。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——全部、動いた。声が——来た。四つとも——来た。一度に——来た。別々じゃない。四つが——一度に来た。六本の道が——一度に開いた。三つの時より——ずっと、大きい。一度に来た分だけ——大きい。環境にそういうにおいだ」


「一度に——来たか」とジンが、静かに、言った。


「……うん」とルルが言った。「一度に——来た。四つとも——ちゃんと、来た。そういうにおいだ」


―――


入り口の二人が——それぞれ、口を、開いた。


二人とも——声が、した。


「……繋がった」と一人目の声が、した。声が——震えていた。でも——届いた。「ずっと——繋がってた」


「……知ってた」と二人目の声が、した。声が——低く、かすれていた。でも——届いた。「四つとも——知ってた」


それから——


集落の奥の小屋の方から——何かが、した。


声ではなかった。


でも——


器が——光った。


今度は——一瞬ではなかった。


ゆっくりと——光り続けた。


ルルが、目を、細めた。


「……においが——した。器から——大きく、においが、した。声とは——違う。でも——届いた。器が、届けた。光で——届けた。四つが繋がった、って——光で、届けた。最初の結び目が——届けた。そういうにおいだ」


「器が——光で届けた、か」とジンが、小屋の方角を、見た。


「……うん」とルルが言った。「器には声がない。でも——光がある。光が、届けた。それが、器の声だ。そういうにおいだ。四つとも——ちゃんと来た。そういうにおいだ」


「光が——器の声、か」とジンが、低く、繰り返した。


「……うん」とルルが言った。「器は声で届けない。光で届ける。光が——声の代わりだ。でも——ちゃんと来た。四つとも——ちゃんと来た。そういうにおいだ」


それから——


北の端の井戸の方から——何かが、した。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——また、した。井戸から——においが、した。三つ目が——届いた。水の音で——届いた。声じゃない。水の音だ。でも——水の音が、声だ。三つ目の声は——水の音だ。四つとも——届いた。そういうにおいだ」


「水の音が——三つ目の声、か」とジンが、低く、言った。


「……うん」とルルが言った。「水が——揺れた。揺れて、音がした。それが、三つ目の声だ。四つとも——違う声で、届いた。でも——一度に来た。そういうにおいだ」


―――


入り口の二人が——泣いていた。


声が届いてから——泣いていた。


一人が——小屋の方角を、見た。


口が——動いた。


「……ありがとう——って、言ってる」とルルが言った。「器に向かって——言ってる。ずっと——つないでいてくれて、ありがとう。最初から——ずっと、つないでいてくれた。そういうにおいだ」


もう一人が——井戸の方角を、見た。


口が——動いた。


「……いてくれた——って、言ってる。三つ目に向かって——言ってる。ずっと——いてくれた。水の中で——ずっと、いてくれた。そういうにおいだ。長い時間の——いてくれた、だ」


北の端の井戸から——また、水の音が、した。


小屋の奥から——器が、また、光った。


「……返事をしてる」とシアが、息を、止めて、言った。「器が——また、光ってる。三つ目が——また、水の音を、してる。二人の声に——返事をしてる。六本の道が——全部、太くなってる。一度に届いてから——全部、太くなってる。そういう見え方だ」


―――


五本目の糸が——大きく、穏やかに、揺れた。


ルルが、息を、止めた。


「……アルトが——揺れてる」とルルが言った。「台地から——大きく、揺れてる。四つが一度に届いたのを——感じてる。六本の道が一度に開いたのを——感じてる。自分のことを——思い出してる。自分の時は——二つだった。ノアと、自分の、二つだった。でも今日は——四つが一度に届いた。二つの時よりも——ずっと、ずっと、大きかった。それを感じて——また、自分の時のことを思い出してる。ノアに名前を呼んでもらった時のことを——思い出してる。そういう揺れ方だ。泣いてる。嬉しくて——泣いてる。六本が一度に届いたのが——信じられないくらい、嬉しい。そういう揺れ方だ」


「アルト——」とノアが、空に向かって、小さく、言った。「見てたか。四つ——ちゃんと、届いたぞ。六本——一度に、届いたぞ」


五本目の糸が——穏やかに、前を向いた。


―――


カインが——写しを、静かに、折り畳んだ。


「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『四つで一組の声が届いた後、残る道は六本が一つに編まれた形をしている。三本の編まれた道よりも、さらに本数が多い。さらに切れにくい。対の対が互いを感じ合ってきた時間の分だけ——道は太く、編み目は細かく、残る。最初の結び目があった場所には——六本の道の中心が残る。中心があるから、六本は切れない』」


「六本が——編まれて残るか」とジンが、器と井戸の方角を、交互に、見た。


「……そうです」とカインが言った。「三本よりも——六本の方が、切れにくい。最初の結び目があったから——六本は最初から繋がっていた。繋がっていたから——一度に届いた。一度に届いたから——六本が編まれて残る。最初の結び目が——六本の中心になって残ります」


「中心が——残るか」とノアが、静かに、繰り返した。


「……そうです」とカインが言った。「器が——中心として残ります。器が中心にある限り——六本は解けない。器は最初の結び目だった。だから——最後まで、中心でいる」


ジンが——小屋の方角を、見た。


器が——まだ、光っていた。


「……中心——か」とジンが言った。「最初の結び目が——最後まで、中心でいる、か」


―――


エリナが、手帳を、開いた。


ペンを、走らせた。


今日のこと——朝,ルルが「四つとも等しく混ざる場所を探す」と言ったこと、カインが「等しく、が大事だ。呼ばずにただ感じる」という記録を読み上げたこと、ルルが四つのにおいが等しく混ざる最後の場を見つけたこと、ジンとノアとカインが三人でそこに立ったこと、入り口の二人が後ろで静けさを持って支えていたこと、セレクが「焦りが等しさを乱す」という記録を示したこと、午後に器が再び光ったこと、六本の道が全部揃って震えたこと、ジンが呼ばずにただ感じ続けたこと、一息の静けさの後に四つが一度に届いたこと、入り口の二人の声と、器の光と、三つ目の水の音が——それぞれの形で、一度に届いたこと、二人が器と三つ目に「ありがとう」と「いてくれた」と言ったこと、器と三つ目が返事をしたこと、六本の道が全部太くなったこと、アルトが嬉しくて泣いている揺れ方をしたこと。すべてを、書いた。


書き終えて、ペンを止めた。


それから——もう一行、追加した。


『今日、四つが一度に届きました。私は、それを聞いた時、声が四つなのに一つに聞こえた、という感触を覚えました。一つなのに、中に四つある。三つの時もそうでしたが、今日はもっと大きかった。器は光で届けました。三つ目は水の音で届けました。声の形がそれぞれ違った。でも——一度に来た。形が違っても、一度に来た。それを聞いた時、私は少し考えました。声の形は、本当に一つじゃない。でも——一度に届く。形が違うから一つじゃない、ではなく。形が違っても一つになれる。そういう届き方が、ある。ジンは今日、呼ばなかった。三つの時は呼んだ。四つの時は——ただ、感じた。呼ばなくても届いた。感じるだけで届いた。それが今日でした。等しく感じること。偏らないこと。焦らないこと。それだけが、最後の仕事だった。最初の結び目が、最後まで中心でいる。カインはそう言いました。最初に繋いだから、最後まで繋いでいる。最初に繋いだから、最後まで中心でいられる。届かなくても、あるものは、ある。あるものが光ったり水の音になったりして——届く。今日も、そういう順番を聞きました。エリナ・フォルス談。自分で書いておく』


集落は——静かだった。


でも——


何かが、そこに、あった。


四つが届いた後の——静かな何かが。


穏やかに——そこに、あった。


小屋の器が——中心で、光り続けていた。


ゆっくりと——光り続けていた。


ルルは、それを確かめて、眠った。


―――


ジンは——器の隣の地面に、手を、当てた。


地面を——通して。


「……届いた」とジンが、小さく、言った。「四つとも——届いた。一度に——届いた。六本の道が——編まれて、残ってる。切れない。ちゃんと——切れない道が、残ってる。器も——光で届いた。それが器の声だった。三つ目も——水の音で届いた。それが三つ目の声だった。全部——受け取った。等しく——受け取った」


地面の奥から——返事は、なかった。


でも——何かが、そこに、あった。


三本が編まれた後の夜とも、一組目の対が揃った夜とも——また、違う何かが、あった。


六本が編まれた後の——何かが、あった。


穏やかに——そこに、あった。


器が——中心で、光っていた。


暖炉の火が——穏やかに、揺れた。


北の端から——水の音が、遠く、あった。


台地の風が——遠く、あった。


アルトが——見ていた。


一行の背を——押していた。


夜が——深くなった。


四つが届いた夜が。


穏やかに——深くなった。


―――


― 第91話・了 ―


―――


次話予告:


翌朝、ルルが鼻先を向ける。「……においが——また、来てる。次の——においだ。でも——今度は、また、違う。遠い。ずっと——遠い。でも、においはしてる。五つ——かもしれない。四つじゃない。五つのにおいが——する。でも——ここと、違う。対の対と——また、違う形だ。そういうにおいだ」。カインが写しを開く。「記録には——『四つで一組を届けた者は、次に向かう時、これまでと違う感触を持つ。六本の道が編まれた後の聞き手は——より遠く、より古いものの声を、より早く感じる。届けた本数が多いほど——次が近くなる』とあります」。ジンが立ち上がる。「……また、違う来方だ。でも——においがしてる。ルルが——感じてる。行く」。五本目の糸が——穏やかに、また、新しい方角を、向く。

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