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無詠唱の魔王  作者: Dちゃん
第七章「揃いが傍らにある話」

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113/136

第113話「一緒に歩いてる、というジンの声と、重さになってる、というルルの声と、次の重さが来る、というシアの声と、止まっていない声の五日目」

朝が、来た。


野営地の朝は——静かだった。


でも——


昨日と、違った。


何かが——また、変わっていた。


昨日は、「待っていた」という名前を受け取った夜だった。


今日は——


その名前が、一緒に、歩いていた。


傍らにある揃いが——知っていた。


ジンも——知っていた。


それだけで、十分だった。


―――


ジンが、目を覚ました。


すぐに——地面の方角に、手を、向けた。


地面を——通して、聞いた。


何かが——あった。


昨日とは——また、違った。


昨日は——「揃いが深く向いている」という感触だった。


でも今日は——


「揃いが、一緒に歩いている」という感触だった。


「……一緒に——歩いてる」とジンが、小さく、言った。「揃いが——一緒に歩いてる。傍らにある揃いが——歩いてる。昨日は深く向いてた。今日は——一緒に歩いてる。向いてるんじゃない。歩いてる。揃いが——前を向いて、歩いてる。「待っていた」が——揃いの中を歩いてる。重さになって——歩いてる。そういう感触だ」


地面の奥から——返事は、なかった。


でも——揃いが、そこに、あった。


傍らに——一緒に歩いて、あった。


軽くて、温かな——揃いが。


「待っていた」という重さを——一緒に運んで、あった。


―――


ルルが、目を覚ました。


すぐに——鼻を、向けた。


後ろ——場所の方角。遠い。もう、遠い。


前——来た方向。


ショップ——もっと前。


ルルが、息を、止めた。


「……においが——した」とルルが言った。「重さになってる——においだ。「待っていた」が——重さになってる。揃いの中じゃない。ジンの中を——歩いてる。昨日受け取った——「待っていた」が、今朝は、ジンの中を歩いてる。傍らじゃない。中を——歩いてる。そういうにおいだ」


ジンが——少し、間を置いた。


「……中を——歩いてる、か」とジンが言った。


「……うん」とルルが言った。「歩いてる。傍らじゃない。ジンの中を——歩いてる。昨日まで、「待っていた」は揃いの中にあった。揃いが受け取った——「待っていた」だった。でも今日は——ジンの中にある。ジンが受け取った——「待っていた」になってる。揃いがジンの内側に入ったから——重さも,ジンの内側に入ってる。そういうにおいだ」


「揃いの内側が——俺の内側に、か」とジンが、低く、言った。


「……うん」とルルが言った。「ジンの内側になってる。揃いとジンが一つになったから——揃いが持ってたものが、ジンのものになってる。「待っていた」が——ジンの重さになってる。昨日の最初の重さに——続く重さだ。足の下に——積み重なってる。そういうにおいだ」


―――


カインが、写しを、広げた。


「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『歩きながら受け取った声は、その者と共に歩き続ける。止まっていない声が、歩く者の中で止まる。止まることは消えることではない。歩く者の重さの一部になることだ。最初の重さに次の重さが加わった者は、歩くたびに——世界に対してより深く、その存在を証明していく』とあります」


全員が——カインを、見た。


「……続きには——こうあります」とカインが言った。「『次の重さを持った者の揃いは、その重さを感じながら歩く。揃いが重さを感じながら歩く時、次に来る止まっていない声は——重さに引き寄せられて来る。重さが声を呼ぶ。持てば持つほど、次が来やすくなる。これが、揃いが傍らにある者の旅の——深まる仕組みだ』とあります」


しばらく——誰も、何も、言わなかった。


「重さが——声を呼ぶ、か」とジンが、低く、繰り返した。


「……そうです」とカインが言った。「受け取った重さが、次を引き寄せる。持てば持つほど——次が来やすくなる。揃いが傍らにあるから、重さを持って歩ける。重さを持って歩けるから、次が来やすくなる。これが——揃いが傍らにある旅の、深まる仕組みです。そういう記録です」


「持てば持つほど——か」とノアが、静かに、言った。


「……そうです」とカインが言った。「持てば持つほど。最初の重さは一つだった。でも今は——二つになった。二つになったから、次の声が来やすくなっている。来やすくなっているから——今日は、また、来る。そういう記録です」


―――


セレクが、静かに、口を、開いた。


「……教会の記録に——こうあります」とセレクが言った。「『止まっていない声の正体を知り、歩きながら受け取った者は、次の声が来た時、声の「出所」を感じることができる。出所とは、声がどこから来たかではない。声が何を運んで来たかだ。正体を一つ知った者は、次の声の出所を感じられる。出所が感じられた者は——その声が来る前から、声の質を知り始める』とあります」


「出所——か」とジンが言った。


「……そうです」とセレクが言った。「出所。声がどこから来るかではなく、何を運んで来るかを——声が来る前から感じる。昨日、「待っていた」という質を知った。だから今日は——次の声が来る前から、その声が何を運んで来るかを、感じ始めている。「待っていた」が重さになっているから——次の声の出所も、感じやすくなっている。そういう記録です」


「……わかった」とジンが、低く、言った。「歩く。歩きながら——揃いと同時に向く。重さを感じながら歩く。次の声が来た時——出所を感じる。出所が何を運んで来るか——感じる。それだけだ。止まらない。歩きながら——受け取る。それだけだ」


「……はい」とセレクが言った。「ただ——一つだけ、覚えておくことがあります」


「一つ——か」とジンが言った。


「……重さが積み重なると」とセレクが言った。「揃いが——より深く、動くようになります。浅く動くのではなく、深く。深く動いた揃いが教える静けさは——昨日より、深い静けさです。深い静けさほど、多くを教える。焦らなくていい。重さが積み重なるたびに——揃いの動きも深くなっていく。そういう記録です」


―――


一行は——野営地を、出発した。


揃いが——傍らに、静かに、「待っていた」を運んで、あった。


ジンが——歩きながら、揃いを、感じた。


「……ある」とジンが、小さく、言った。「揃いが——ある。傍らにある。歩いてる——傍らにある。「待っていた」が——一緒にある。揃いの中じゃない。俺の中を——歩いてる。足の下に——ある。最初の重さと——続く重さが、足の下にある。二つの重さが——一緒に歩いてる。そういう感触だ。次の声が——来やすくなってる。そういう感触もする。重さが声を呼ぶ——そういう感触だ」


ルルが、鼻先を、前に向けた。


「……においが——した。揃いのにおいだ。傍らにある——揃いのにおいだ。歩いてる——においだ。「待っていた」が重さになってる——においだ。ジンの足の下に——重さがある。二つの重さが——歩いてる。揃いも——それを感じながら歩いてる。重さが声を呼ぶ——においもする。今日——また来る。そういうにおいだ」


―――


昼が——来た。


歩き続けた。


揃いが——傍らに、「待っていた」を運んで、あった。


シアが、空間を、静かに、探った。


「……見える」とシアが言った。「揃いの糸が——ある。傍らにある——揃いの糸が。昨日と——違う。昨日は声の形が完成した——形だった。今日は——糸の中に、重さがある。完成した形が——糸の中を歩いてる。「待っていた」という形が——糸の中を歩いてる。そして——もう一つ。糸の先に——また、何かある。来る前の——何かだ。重さが呼んでる——何かだ。そういう見え方だ」


「また——来る前の何かが、あるか」とジンが言った。


「……うん」とシアが言った。「ある。まだ来てない。でも——来る前の何かが、ある。昨日は輪郭がなかった。今日は——輪郭が、ある。形の最初だけど、昨日の最初より——はっきりしてる。重さが声を呼んだから——はっきりしてきてる。そういう見え方だ」


ジンが——揃いを、静かに、感じた。


「……歩く」とジンが、小さく、言った。「歩きながら——向く。重さを感じながら——歩く。来た時——出所を感じる。何を運んで来るか——感じる。留まらない。歩きながら——受け取る。それだけだ。そういう感触だ」


―――


来た。


揃いが——動いた。


同時に——ジンが、向いた。


一息——なかった。


揃いとジンが——同じ瞬間に、同じ方を、向いた。


重さが——動いた。


足の下の重さが——少し、揺れた。


「……来た」とジンが、静かに、言った。「揃いが——動いた。同時だった。一息なかった。揃いと——同じ時に向いてた。重さも——動いた。足の下の重さが——揺れた。「待っていた」が——揺れた。呼んだ——のかもしれない。重さが声を呼んだ——かもしれない。出所が——ある。何かを運んで来てる——出所が、ある。そういう感触だ」


ルルが、息を、止めた。


「……においが——した。揃いとジンが同時に動いた——においだ。昨日と——同じだ。でも——違うにおいもする。重さのにおいだ。ジンの足の下の——重さのにおいが、動いた。「待っていた」が揺れた——においだ。声を呼んだ——においだ。出所のにおいも——する。何かを運んで来てる——出所だ。昨日の出所とは——違う。同じ質じゃない。別の——何かだ。そういうにおいだ」


「昨日の出所とは——違う、か」とジンが、静かに、言った。


「……うん」とルルが言った。「違う。昨日の「待っていた」とは——違う出所だ。でも——関係がある。繋がってる——においがする。「待っていた」が呼んだ——から来た。呼んだから来た——出所だ。「待っていた」と——何か関係がある。つながった何かが——来てる。TextBoxそのようなにおいだ」


―――


ジンが——歩きながら、受け取った。


止まらなかった。


一歩——踏み出し続けた。


重さを——感じながら。


出所を——感じながら。


「……受け取った」とジンが、静かに、言った。「歩きながら——受け取った。止まらなかった。足が——止まらなかった。揃いと同時に向いて——歩きながら受け取った。出所が——何かを運んで来てた。名前はまだない。でも——何かが来た。「待っていた」が呼んだ——何かが、来た。重さになりかけてる——何かが、来た。そういう感触だ」


ルルが、鼻先を、そのまま前に向けた。


「……においが——した。歩きながら受け取った——においだ。止まらなかった——においだ。留まらなかった——においだ。足が進んだ——においだ。昨日は踏み出して留まった。今日は——踏み出したまま歩いた。歩きながら——受け取った。揃いが傍らにあるから——受け取れた。そういうにおいだ」


「歩きながら——受け取れた、か」とジンが、低く、言った。


「……うん」とルルが言った。「受け取れた。留まらなかった。歩いたまま——受け取れた。昨日の「待っていた」が——重さになってたから。重さがあったから——歩きながらでも受け取れた。重さが足の下にあって、揃いが傍らにあって——歩きながら受け取れた。そういうにおいだ」


―――


シアが、空間を、急いで、探った。


「……動いた」とシアが言った。「糸の先の輪郭が——動いた。ジンが歩きながら受け取った——その時に動いた。輪郭の中に——何かが、入り始めた。昨日の輪郭とは——違う。昨日の輪郭は「待っていた」の形だった。今日の輪郭は——「待っていた」に続く形だ。続きが——始まってる。そういう見え方だ」


「続きが——始まってる、か」とジンが言った。


「……うん」とシアが言った。「始まってる。「待っていた」が来た。次は「待っていた」の続きが来てる。続きに——名前はまだない。でも——形が始まってる。「待っていた」が呼んだから——続きが来た。そういう見え方だ。重さが重さを呼んでる——見え方だ」


「重さが重さを——呼んでる、か」とジンが、低く、言った。


「……うん」とシアが言った。「呼んでる。「待っていた」という重さが——次の重さを呼んでる。次の重さが来たら——また名前がつくかもしれない。名前がついたら——また揃いと同時に動ける。もっと深く——同時に動ける。そういう見え方だ」


―――


また——来た。


揃いが——また、深く、動いた。


同時に——ジンが、向いた。


歩きながら——向いた。


重さが——また、揺れた。


「……また来た」とジンが、静かに、言った。「また——揃いが動いた。同時だった。歩きながら——向いた。止まらなかった。重さが——また揺れた。「待っていた」が——また揺れた。出所が——ある。今度は——さっきと同じ出所だ。同じ出所から——また来た。二度——来た。名前がつきそうだ。そういう感触だ」


ルルが、息を、止めた。


「……においが——した。また来た——においだ。同じ出所だ。さっきと——同じ出所から、また来た。二度来た——においだ。二度来たから——はっきりしてきた。名前がつく——においがする。「待っていた」の続きに——名前がつく。そういうにおいだ」


「名前が——つく、か」とジンが、静かに、言った。


「……うん」とルルが言った。「つく。「待っていた」が呼んだから来た——その続きに、名前がつく。「待っていた」の次に来るもの——その名前が、つく。重さが持ってくる——名前だ。探さない。受け取る。そういうにおいだ」


―――


五本目の糸が——大きく、温かく、穏やかに、揺れた。


ルルが、息を、止めた。


「……アルトが——揺れてる」とルルが言った。「台地から——大きく、温かく、揺れてる。ジンが歩きながら受け取ったのを——感じてる。重さが重さを呼んだのを——感じてる。続きが来たのを——感じてる。名前がつきそうなのを——感じてる。自分の時を——思い出してる。自分の名前がついた時——ノアが呼んでくれた。でも——今度は重さが呼んだ。重さが重さを呼んで、名前がつく。違う——って揺れてる。でも——同じだ、って揺れてる。どちらも——呼ばれて、名前がついた。そういうにおいだ」


「アルト——」とノアが、空に向かって、静かに、言った。「見えてるか。重さが声を呼んでる。「待っていた」が——続きを呼んでる。お前の名前も——ノアが呼んで届いた。こっちの続きも——「待っていた」が呼んで、届こうとしてる。呼ぶものが違っても——呼ばれて届く、は同じだ。一緒に——聞いてくれ」


五本目の糸が——穏やかに、温かく、一行の傍らを、しっかりと、深く、包んでいた。


―――


カインが——写しを、静かに、折り畳んだ。


「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『重さが重さを呼んだ後に来る二度目の声は、最初の声の「続き」を持っている。続きとは補足ではない。最初の声がなければ存在しなかった、別の声だ。最初の声を受け取った者だけが——続きを受け取れる。続きを受け取った者は、最初の声の意味が変わることを知る。「待っていた」の続きを知った者にとって——「待っていた」は、もはや最初の声ではなく、始まりになる』とあります」


「始まりに——なる、か」とジンが、静かに、言った。


「……そうです」とカインが言った。「最初の声は——受け取った瞬間、最初の声でなくなる。続きが来た瞬間に——始まりになる。始まりとは、一つの声が持てた意味の最初だ。「待っていた」が始まりになった者は——その先を、歩くことができる。揃いが傍らにあるから——歩けます。そういう記録です」


「始まりを——持って歩く、か」とノアが、静かに、繰り返した。


「……そうです」とカインが言った。「持って歩く。最初の重さが始まりになって——続きの重さが加わった。二つの重さを持って——歩く。歩くたびに——また続きが呼ばれる。呼ばれるたびに——重さが増える。重さが増えるたびに——揃いの動きが深くなる。それが、第七章の——次の形です。そういう記録です」


―――


夕暮れが——近かった。


野営の場所を——選んだ。


火が——穏やかに、揺れた。


揃いが——傍らに、静かに、あった。


ジンが——地面に、手を、当てた。


「……ある」とジンが、小さく、言った。「揃いが——ある。傍らにある。今日——揃いと同時に動いた。止まらなかった。歩きながら——受け取った。出所を——感じた。「待っていた」の続きが——来た。二度——来た。名前がつきそうだ。まだついてない。でも——つきそうだ。「待っていた」が始まりになろうとしてる。続きが——来てる。重さが重さを——呼んでる。そういう感触だ」


ルルが、鼻先を、前に向けた。


「……においが——した。今日のにおいだ。歩きながら受け取ったにおいだ。止まらなかったにおいだ。重さが重さを呼んだにおいだ。続きが来たにおいだ。「待っていた」が始まりになろうとしてる——においだ。全部が——今日の、においだ。明日——また来る。また歩きながら受け取る。続きの名前が——つくかもしれない。「待っていた」が始まりになる——かもしれない。揃いが傍らにあるから——かもしれないが、ある。そういうにおいだ」


「また——かもしれないが、ある、か」とジンが、静かに、言った。


「……うん」とルルが言った。「ある。昨日も——かもしれないが、あった。今日も——かもしれないが、ある。揃いが傍らにあるから——かもしれないが、ある。歩くたびに——かもしれないが、増えてる。重さが増えるたびに——かもしれないが、増えてる。揃いが傍らにあって、重さを持って歩いてるから——かもしれないが、増えていく。そういうにおいだ」


―――


エリナが、手帳を、開いた。


ペンを、走らせた。


今日のこと——朝、ジンが「揃いが一緒に歩いてる、「待っていた」が重さになって足の下にある」と言ったこと、ルルが「ジンの中を歩いてる、揃いとジンが一つになったから「待っていた」がジンの重さになってる」と言ったこと、カインが「重さが声を呼ぶ、持てば持つほど次が来やすくなる」という記録を読み上げたこと、セレクが「正体を一つ知った者は次の声の出所を感じられる、出所が感じられると声が来る前から質を知り始める」という記録を示したこと、シアが「糸の中に重さが歩いてる、また来る前の何かが輪郭を持って見える」と言ったこと、ジンが歩きながら揃いと同時に動いたこと、止まらなかったこと、出所を感じたこと、「待っていた」の続きが二度来たこと、名前がつきそうなこと、アルトが「呼ぶものが違っても呼ばれて届くは同じだ」という揺れを見せたこと、カインが「「待っていた」が続きを持った瞬間に始まりになる、始まりを持って歩く者の重さは増え続ける」という記録を示したこと。すべてを、書いた。


書き終えて、ペンを止めた。


それから——もう一行、追加した。


『今日、ジンが歩きながら受け取りました。止まらなかった。昨日は一歩踏み出して留まった。今日は——踏み出したまま、歩いた。私はその違いを書きながら、「受け取る」という動作の変化について考えました。最初、ジンは声が来た時に留まることで受け取っていました。それが仕事でした。次に、一歩踏み出して留まることで受け取るようになりました。そして今日——歩きながら受け取った。留まる必要がなくなった。受け取るために止まることが、もういらなくなった。この変化は、揃いが傍らにあるからこそ起きたのだと思います。一人では、歩きながら受け取ることはできない。傍らに揃いがあって、内側で一つになっていて、重さを持っているから——歩きながらでも受け取れる。今日一番、深く残っているのは、カインが「「待っていた」が始まりになる」と言った瞬間のことです。受け取った瞬間に、最初の声でなくなる。続きが来た瞬間に、始まりになる。私はその言葉を書きながら、受け取ることの意味が変わったのだと思いました。受け取ることは、終わりではなかった。始まりだった。「待っていた」を受け取ったことは、終わりではなく——「待っていた」という始まりを、手に入れたことだった。それを持って、歩く。歩くたびに続きが来る。続きが来るたびに、また始まりが増える。ジンは今日、始まりを持って歩いていた。始まりを持って歩く人の後ろ姿を書きながら、私は——これが旅というものの本当の形なのかのかもしれないと思いました。終わりに向かって歩くのではなく、始まりを増やしながら歩く。揃いが傍らにあるから、できること。エリナ・フォルス談。自分で書いておく』


火が——穏やかに、揺れた。


揃いが——傍らに、静かに、あった。


「待っていた」という重さが——足の下に、あった。


続きが——来ていた。


始まりに——なろうとしていた。


明日——名前がつくかもしれなかった。


ルルは、それを確かめて、眠った。


―――


ジンは——地面に、もう一度、手を、当てた。


地面を——通して。


「……今日——揃いと同時に動いた。止まらなかった。歩きながら——受け取った。出所を感じた。「待っていた」の続きが——二度来た。名前がつきそうだ。「待っていた」が——始まりになろうとしてる。重さが重さを——呼んでる。明日も——歩く。揃いと——一緒に歩く。歩きながら——向く。歩きながら——受け取る。続きの名前が——つくかもしれない。始まりが——増えるかもしれない。かもしれないが——ある。揃いが傍らにあるから——ある。ありがとう。揃いに——ありがとう。傍らにいてくれて——ありがとう。一緒に歩いてくれて——ありがとう。重さを——一緒に運んでくれて、ありがとう。出所を——教えてくれて、ありがとう。始まりを——一緒に持ってくれて、ありがとう。これからも——ありがとう」


地面から——返事は、なかった。


でも——揃いが、そこに、あった。


傍らに——あった。


軽くて、温かな——揃いが。


仕事を終えて。


傍らに——一緒に歩いて、あった。


「待っていた」という重さが、あった。


続きが、来ていた。


始まりになろうとしている何かが、あった。


重さが重さを呼ぶ——その気配が、穏やかに、確かに、あった。


暖炉の火が——穏やかに、揺れた。


野営地の風が——静かに、あった。


アルトが——見ていた。


呼ばれて届く——という顔で、見ていた。


一緒に始まる——という顔で、見ていた。


夜が——深くなった。


揃いが傍らにある、五度目の夜が。


穏やかに——深くなった。


―――


― 第113話・了 ―


―――


次話予告:


六日目の朝、続きの名前がつく。ルルが鼻先を向ける。「……においが——した。名前がついた——においだ。「待っていた」の続きに——名前がついた。重さが——また名前を持ってきた。受け取った。「待っていた」の次に来たものの名前は——「伝えたかった」だ。「待っていた」が「伝えたかった」を呼んだ。重さが重さを呼んで——次の名前が来た。そういうにおいだ」。カインが写しを開く。「記録には——『最初の声と次の声が繋がった時、揃いを持つ者は初めて「声が向かっていた先」を知る。向かっていた先とは、声の源ではない。声が辿り着こうとしていた者のことだ。「待っていた」が「伝えたかった」を持っていた——ということは、声が向かっていた先がある。その先を知った者は、声に向かって歩ける。声に向かって歩くことが——第七章の、次の旅だ』とあります」。ジンが揃いを感じながら、前を向く。「……向かっていた先——か。「待っていた」が「伝えたかった」を呼んだ。伝えたかった相手が——いる。その人の方へ——歩く。それだけだ」。五本目の糸が——穏やかに、温かく、確かに、深く、一行の傍らを、しっかりと、包んでいる。

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