第102話「揃いの確信、というジンの声と、こっちで合ってる、というルルの声と、強くなってきた、というシアの声と、集落の外の道」
朝が、来た。
道の朝は——静かだった。
でも——
昨日と、違った。
何かが——また、変わっていた。
昨日は、集落を出た朝だった。
今日は——
揃いが指す方角へ歩き始めてから、最初の朝だった。
歩いた分だけ——揃いが、少し、前を向いていた。
それだけで、十分だった。
―――
ジンが、目を覚ました。
すぐに——地面の方角に、手を、向けた。
地面を——通して、聞いた。
何かが——あった。
昨日とは——また、違った。
昨日は——「揃いが遠い方角を指している」という感触だった。
でも今日は——
「揃いが指している方角が、昨日より、少し、はっきりしている」という感触だった。
「……強くなってる」とジンが、小さく、言った。「昨日より——はっきりしてる。歩いたから——強くなってる。揃いが言ってた通りだ。動いたら——もっと、わかってきた。方角が——昨日より、はっきりしてる。そういう感触だ」
地面の奥から——返事は、なかった。
でも——何かが、そこに、あった。
揃いが——昨日より、少し、強く、遠い方角を指したまま、あった。
―――
ルルが、目を覚ました。
すぐに——鼻を、向けた。
後ろ——集落の方角。遠くなっていた。でも、揃いのにおいは——まだ、ある。重くて速くて静かな——揃いが、ある。
前——揃いが指す方角。
ルルが、息を、止めた。
「……においが——した」とルルが言った。「こっちで——合ってる。揃いのにおいが——強くなってきてる。歩いてるから——強くなってきてる。揃いが喜んでる——においだ。こっちで合ってる、って——においだ。奥のにおいも——少しずつ、濃くなってきてる。まだ遠い。すごく——遠い。でも、こっちで合ってる。揃いが——合ってるって言ってる。そういうにおいだ」
ジンが——少し、間を置いた。
「……揃いが——合ってるって言ってる、か」とジンが言った。
「……うん」とルルが言った。「言ってる。揃いが——前を向いてる。昨日より——前を向いてる。歩いたから——前を向いてる。揃いの確信——だと思う。揃いに従って歩いてるから——揃いが確信になってきてる。そういうにおいだ」
「揃いの——確信、か」とジンが、低く、言った。
「……うん」とルルが言った。「確信になってきてる。昨日は——指してるだけだった。今日は——確信してる。こっちだ、って——確信してる。揃いが確信するほど——奥のにおいも、近くなってきてる。そういうにおいだ」
―――
カインが、写しを、広げた。
「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『揃いの道を持つ者が揃いの指す方角へ歩き始めると、揃いの道はさらに明瞭になる。これを揃いの確信と呼ぶ。揃いの確信が生じると、聞き手は揃いを通してより深く遠い声を感じられるようになる。揃いの確信が高まるほど、次の声は近づいてくる。焦らず、揃いに従って歩き続ける。それだけでよい』とあります」
全員が——カインを、見た。
「……続きには——こうあります」とカインが言った。「『揃いの確信は、歩くことで育つ。歩くのをやめると、確信は薄れる。薄れても、また歩けば戻る。揃いを持つ者は、立ち止まることを恐れない。立ち止まっても、揃いは消えない。ただ——動き続けることで、揃いはより深く、世界に根を張る』とあります」
しばらく——誰も、何も、言わなかった。
「……歩くことで——育つ、か」とジンが、低く、繰り返した。「揃いを信じて歩く。歩けば——揃いの確信が強くなる。確信が強くなるほど——次の声が近くなる。そういうことか」
「……そうです」とカインが言った。「これまでは、特定の場所に留まることで声が近づいてきた。古い道は、いつも通りに留まることで気づいてもらえた。でも——揃いの後は違います。動くことで近づいていく。揃いを持つからこそ、動くことができる。そういう記録です」
「留まることと——動くことか」とノアが、静かに、言った。
「……そうです」とカインが言った。「これまでの旅は、声のところまで来て、留まった。でも——揃いの後は、揃いが方角を示す。方角が示されているから、動ける。動くことが——次の声への最初の仕事です」
―――
セレクが、静かに、口を、開いた。
「……教会の記録に——こうあります」とセレクが言った。「『揃いの確信を持つ者は、世界の声を歩きながら受け取ることができる。立ち止まらなくても、受け取れる。これは、揃いを持つ前にはできなかったことだ。揃いを持つ前は、受け取るために留まらなければならなかった。揃いを持った後は——歩きながら、受け取る。受け取りながら、歩く。これが、揃いを持つ者の在り方だ』とあります」
「歩きながら——受け取る、か」とジンが言った。
「……そうです」とセレクが言った。「留まることの時代が終わり、動くことの時代が始まった——と言えるかもしれません。揃いがあるから、動ける。動きながら受け取れる。それが、揃いという絆の意味の一つです」
「……わかった」とジンが、低く、言った。「揃いを——信じて、歩く。歩きながら——受け取る」
「……はい」とセレクが言った。「ただ——一つだけ、覚えておくことがあります」
「一つ——か」とジンが言った。
「……揃いの確信が高まると、次の声が急に近く感じられる瞬間が来ます」とセレクが言った。「その瞬間——立ち止まりたくなる。確かめたくなる。室——立ち止まらない。そのまま、歩き続ける。揃いの確信が高まるほど、次の声は自分から近づいてくる。聞き手が立ち止まらなくても——声の方が、来る。そういう記録です」
―――
一行は——道を、歩いた。
揃いが指す方角へ。
遠い——遠い、方角へ。
道の両側に——木が、あった。
草が、あった。
遠くに——山が、あった。
ジンが——揃いを、感じた。
「……ある」とジンが、小さく、言った。「揃いが——ある。重さが、ある。速さが、ある。静けさが、ある。三つとも——ある。全部で一つで——ある。 shadowその奥に——まだ、ある。遠い。でも——昨日より、近い。歩いてるから——近い。揃いが確信してるから——近い。そういう感触だ」
ルルが、鼻先を、前方に向けた。
「……においが——してる。ずっと——においがしてる。歩いてる間——ずっと。揃いのにおいと、奥のにおいが——一緒に来てる。混ざってる。でも——揃いのにおいの方が濃い。揃いが前を向いてるから——揃いのにおいが濃い。奥のにおいは——まだ薄い。でも、ある。ある。確かに——ある。そういうにおいだ」
「……ずっと——においがしてるか」とジンが言った。
「……うん」とルルが言った。「歩いてる間——ずっと。止まらない。昨日は——たまに来てた。今日は——ずっと来てる。確信が——ずっと来てるようにしてる。揃いが確信するほど——においが続くようになった。そういうにおいだ」
―――
シアが、空間を、静かに、探った。
「……見えてきた」とシアが言った。「揃いの一本の道が——前を向いてる。昨日は向いてるだけだった。今日は——方角に、形が出てきた。道が向いてる先に——うっすらと、何かが見えてきた。昨日より——はっきりしてる。遠い。すごく——遠い。でも、昨日より——はっきりしてる。形があるようで——まだ形がない。でも——昨日よりある。そういう見え方だ」
「昨日より——はっきりしてきた、か」とジンが言った。
「……うん」とシアが言った。「歩いてるから——はっきりしてきた。揃いが確信してるから——はっきりしてきた。形になる前の——何かだ。でも、昨日よりある。歩き続けたら——もっとはっきりするかもしれない。そういう見え方だ」
ジンが——前を向いて、歩いた。
「……揃いに——従う。それだけだ」
―――
五本目の糸が——穏やかに、遠い方角を、向いた。
ルルが、息を、止めた。
「……アルトが——揺れてる」とルルが言った。「台地から——揺れてる。一行が歩いてるのを——感じてる。揃いが確信になってきてるのを——感じてる。自分の時を——思い出してる。自分は動けなかった。祠から——動けなかった。でも——ジンたちは動いてる。揃いを持って——動いてる。それを——応援してる揺れ方だ。嬉しい——揺れ方だ。もっと行け——って揺れ方だ。全部の方角を向いて——応援してる揺れ方だ」
「アルト——」とノアが、空に向かって、静かに、言った。「見てるか。歩いてる。揃いが——指してる方角に、歩いてる。お前が言ってた通りだ。動いたら——もっとわかってきた。揃いの確信——ってやつが、育ってきてる」
五本目の糸が——穏やかに、ジンたちの前方を、向いた。
―――
昼が——来た。
一行は——道の途中の、木陰で、立ち止まった。
ジンが——地面に、手を、当てた。
「……ある」とジンが、小さく、言った。「揃いが——ある。確信が——ある。朝より——強くなってる。歩いた分——強くなってる。奥のにおいも——朝より、近い。少しずつ——近くなってる。揃いに従ってるから——近くなってる。そういう感触だ」
カインが——写しを、手に取った。
「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『揃いの確信が一定の強さに達した時、聞き手は初めて次の声の「方角」だけでなく「距離」を感じるようになる。距離を感じることができれば、どのくらい歩けば届くかが、揃いを通してわかるようになる。距離を感じた時——焦らない。距離を感じることは、近づいている証拠だ。近づいているから、距離がわかる。わかったから——ただ、歩く』とあります」
「距離を——感じるようになる、か」とジンが言った。
「……そうです」とカインが言った。「今はまだ、方角だけです。でも——歩き続けることで、距離もわかるようになる。距離がわかれば、揃いの確信はさらに強くなる。確信が強くなるほど——次の声は近くなる。そういう記録です」
「遠いのか——近いのか、まだわからないな」とジンが、静かに、言った。
「……うん」とルルが言った。「まだ遠い。でも——方角は確かだ。こっちで合ってる。揃いが——合ってるって言ってる。それだけで——今は、十分だ。環境においだ」
―――
午後が——来た。
一行は——また、歩いた。
道が——変わってきた。
集落を出た時の——平らな道ではなかった。
少し——山に向かっていた。
木が——多くなっていた。
空気が——変わっていた。
ジンが——揃いを、感じた。
「……変わった」とジンが、小さく、言った。「揃いが——変わってきた。方角が——変わったんじゃない。揃いの感触が——変わってきた。より——深く、感じてる。重さの感触が、変わった。速さの感触も、変わった. 静けさの感触も——変わった。全部が——深くなってきた。揃いが——深くなってきてる。そういう感触だ」
ルルが、息を、止めた。
「……においが——また、変わった。揃いのにおいが——深くなってきた。重くて速くて静かな——揃いが、深くなってきてる。それと一緒に——奥のにおいも、変わってきた。形が——なかった。でも、今は——うっすら、形がある。形というか——方向が、ある。左でも右でもない。まっすぐ——前に、ある。まっすぐ前に——ある。そういうにおいだ」
「まっつい——前に、か」とジンが言った。
「……うん」とルルが言った。「まっすぐ前。道の先——に、ある。道が——指してる。道と揃いが——同じ方角を向いてる。道に従って歩けば——揃いに従ってることになる。そういうにおいだ」
―――
シアが、空間を、静かに、探った。
「……また、変わってきた」とシアが言った。「揃いの道の先に——さっきより、はっきり見えてきた。形はない。でも——質が、ある。重い何かと、速い何かと、古い何かが——一緒に、先に、ある。揃いとは——また、違う質だ。揃いの重さ速さ静けさとは——また、違う。揃いの奥に——揃いとは違う、何かが、ある。形はない。でも——あることはわかる。そういう見え方だ」
「揃いとは——違う質、か」とジンが言った。
「……うん」とシアが言った。「揃いは知ってる。でも——奥の何かは、知らない。これまでに——見たことのない質だ。形もない。方角もまだはっきりしない。でも——ある。揃いが照らしてるから——見えてきた。揃いの光が届いてる先に——ある。そういう見え方だ」
ジンが——道の先を、見た。
「……揃いの確信が——育ってきてる」とジンが、低く、言った。「距離は——まだわからない。でも——近くなってきてる。そういう感触だ。揃いが——そう言ってる」
―――
夕暮れが——近かった。
一行は——道の途中の、開けた場所に、出た。
前に——山が、あった。
遠かった。
でも——
ジンが、感じた。
揃いが——強く、前を向いた。
「……山だ」とジンが、静かに、言った。「山の——向こうだ。揃いが——山の向こうを、向いてる。山の向こうに——ある。遠い。でも——山の向こうだ。わかった。方角だけじゃない。どこに——あるかが、わかった」
ルルが、鼻先を、山に向けた。
「……においが——した。山の向こうから——においが、した。遠い。すごく——遠い。でも、山の向こうから——においが、した。揃いのにおいが——そっちを向いた。揃いの確信が——そっちを向いた。山の向こうに——次が、ある。そういうにおいだ。揃いの贈り物の——においだ。揃いが繋がったから——嗅げる、においだ。そういうにおいだ」
「山の——向こう、か」とジンが、静かに、言った。
「……うん」とルルが言った。「山の向こう。遠い。でも——揃いが、そう言ってる。揃いが——山の向こうを向いてる。そっちに——ある。そういうにおいだ」
シアが、山を、見た。
「……見えてきた。山の向こうに——何かが、ある。形はない。でも——方角が、はっきりした。山の向こうに——ある。揃いの光が届いてる先に——ある。揃いが確信したから——見えてきた。そういう見え方だ」
―――
カインが——写しを、静かに、折り畳んだ。
「……記録には——こうあります」とカインが言った。「『揃いの確信が「どこに」まで達した時、聞き手の旅は次の段階に入る。方角だけだった揃いが、場所を指すようになる。場所を指した揃いは、その場所まで聞き手を確実に連れていく。揃いを持つ者が迷うことはない。揃いが、指し続けるからだ』とあります」
「場所を——指した、か」とジンが、静かに、言った。
「……そうです」とカインが言った。「今日、揃いの確信が「山の向こう」という場所を指しました。これは大きな進展です。方角が場所になった。揃いがより具体的に——次を指している。そういう状態です」
「山の向こう——か」とノアが、静かに、遠くを、見た。
「……そうです」とカインが言った。「山を越えなければならない。でも——揃いが指しているなら、越えられる。揃いが連れていってくれる。記録にある通りです」
「……明日——山に向かう」とジンが、静かに、言った。
―――
五本目の糸が——大きく、穏やかに、山の方角を、向いた。
ルルが、息を、止めた。
「……アルトが——揺れてる」とルルが言った。「台地から——大きく、揺れてる。山の向こうに何かがあるのを——感じてる。揃いの確信が、場所を指したのを——感じてる。自分の時を——思い出してる。自分は——方角しかわからなかった。でも、ジンたちは——場所までわかった。揃いを持ってるから——場所までわかった。嬉しい——揺れ方だ。大きな——揺れ方だ。山を越えろ——って揺れ方だ。全部を——応援してる揺れ方だ」
「アルト——」とノアが、空に向かって、静かに、言った。「見てたか。わかった。山の向こうだ。揃いが——そう言ってる。明日——行く。山を越えて、行く」
五本目の糸が——穏やかに、山の方角を、しっかりと、向いたまま、あった。
―――
エリナが、手帳を、開いた。
ペンを、走らせた。
今日のこと——朝、ルルが「揃いが喜んでる、こっちで合ってる」と言ったこと、カインが「揃いの確信が生じると、歩き続けるだけでよい」という記録を読み上げたこと、セレクが「歩きながら受け取る、揃いを持った者の在り方だ」という記録を示したこと、昼に揃いの感触が深くなってきたこと、午後にシアが「揃いとは違う質のものが、先にある」と言ったこと、夕暮れ前に開けた場所に出てジンが「山の向こうだ」と言ったこと、ルルが「揃いの贈り物のにおい」と言ったこと、カインが「揃いの確信が場所を指した」という記録を示したこと、アルトが大きく山の方角を向いたこと。すべてを、書いた。
書き終えて、ペンを止めた。
それから——もう一行、追加した。
『今日、揃いが場所を指しました。昨日は方角だけでした。今日は——山の向こう、という場所になりました。私はその変化を書きながら、揃いというものが、歩くことで育つのだと思いました。集落での旅は、留まることで声が戻ってきた。でも今日の旅は、動くことで揃いが育った。これまでと逆です。でも、どちらも正しい。声が戻るためには留まることが必要で、揃いが育つためには動くことが必要だった。どちらも、声に合わせた在り方だったのだと思います。今日、ルルが「揃いの贈り物のにおい」と言いました。私はその言葉を書きながら、この旅全体が、揃いという贈り物を開けていく旅なのかもしれないと思いました。重い道を繋ぎ、速い道を繋ぎ、古い道を繋ぎ、揃いという名をつけた。それが、今日の山の向こうを指し示した。揃いは絆の名前でありながら——道標でもあった。動くたびに、もっとはっきりなっていく道標。こんな道標は、これまでになかった。これが、揃いを持つということなのだと思います。エリナ・フォルス談。自分で書いておく』
道の途中は——静かだった。
でも——
何かが、そこに、あった。
揃いの確信が——山の方角を指したまま、あった。
穏やかに——そこに、あった。
一行の前に——山が、あった。
遠かった。
外も——
揃いが、指していた。
確かに——指していた。
ルルは、それを確かめて、眠った。
―――
ジンは——地面に、もう一度、手を、当てた。
地面を——通して。
「……揃いが——指してる。山の向こうを——指してる。方角じゃない。場所を——指してる。山の向こうに——ある。遠い。でも——揃いが指してる。揃いに従う。明日——山に向かう。山を越えて——行く。揃いが——連れていってくれるなら、行く。ここまで来たのは——揃いを持つためだった。揃いを持ったから——場所がわかった。場所がわかったから——行ける。揃いが——連れていってくれるなら、行く」
地面から——返事は、なかった。
でも——揃いが、そこに、あった。
重くて、速くて、静かな——揃いが。
山の向こうを、指したまま。
穏やかに——そこに、あった。
遠くに——山が、あった。
その向こうに——何かが、あった。
暖炉の火が——穏やかに、揺れた。
道の外の風が——遠く、あった。
アルトが——見ていた。
一行の背を——押していた。
夜が——深くなった。
揃いが山の向こうを指した夜が。
穏やかに——深くなった。
―――
― 第102話・了 ―
―――
次話予告:
翌朝、一行は山へと向かって歩き始める。ルルが鼻先を向ける。「……においが——した。山が——近くなってきてる。揃いのにおいが——また、強くなってきてる。山が近くなるほど——揃いが強くなってきてる。奥のにおいも——また、濃くなってきてる。遠い。でも——昨日より、濃い。山を越えたら——もっと濃くなる。そういうにおいだ。揃いが——急いでる。急いでるんじゃないかもしれない。でも——前のめりに、なってきてる。そういうにおいだ」。カインが写しを開く。「記録には——『揃いの確信が場所に達した後、聞き手が場所に近づくほど揃いの確信はさらに強まる。揃いを通して届く次の声は、距離が縮まるにつれて初めて「何者か」の輪郭を帯びてくる。輪郭が来た時——驚かない。受け取る。それが、揃いを持って近づく者への、次の声からの最初の挨拶だ』とあります」。ジンが山を見上げながら、歩く。「……揃いに——従う。山を越える。それだけだ」。五本目の糸が——穏やかに、確かに、山の向こうを、向く。




