7 お出かけ
朝、着替えてリビングに下りた。
「おはよう、結」
「おはようございます、結さん」
二人が同時にこちらを振り返る。
しかし、私の姿を見た瞬間、母の動きがピタッと止まった。
私の服装を上から下までじっと見つめ、その明るい表情に少しだけ複雑そうな影が差す。
「結……今日は確か、宗一さんとお出かけなのよね?」
「……うん」
私は珍しく、動きやすいデニムパンツ姿を選んでいた。
(今日は歩くかもしれないし、これでいいよね)
いつになく静かな朝食を済ませ、私は玄関へと向かった。
靴を履き終えた私の頭を、母がそっと撫でた。
その手が少しだけ震えているような気がして、私は動きを止める。
「結」
母のトーンが、ふっと低くなった。
「母さんはね……あなたがこれから、どんな道を選んだとしても、あなたの味方だから」
一瞬、胸が詰まった。
そして言葉にできない安心感が広がっていく。
「……ありがとう、お母さん。行ってきます」
私が少しほっとして微笑むと、母はいつもの弾けるような笑顔に戻った。
「行ってらっしゃい!」
そう言って、私の背中をバシッと軽く叩いて送り出してくれた。
鳥居の先、敷地の外に停められた車の前で、宗一さんがいつもの笑顔で待っていた。
「おはよう、結ちゃん」
「おはようございます」
宗一さんは慣れた手つきで助手席のドアを開け、私を中に促してくれた。
「じゃあ、行こうか」
静かなエンジン音とともに、車が滑り出すように出発した。
車は街へ下り、そのまま郊外へ向かう。
宗一さんは、昔から本当に物知りだ。
「そう言えば、最近は神社巡りとか流行ってるらしいよ」
「そうなんですか?」
「御朱印を集める若い人も増えたみたい」
そんな話を聞きながら、私はどこか懐かしい気持ちに浸っていた。
高校に入った頃から、宗一さんは神護庁の仕事をはじめ色々と忙しくなり、あまり話す機会もなくなっていた。
けれど、こうして二人で話していると、まるで昔に戻ったような錯覚を覚える。
話に引き込まれるうちに、私も少しずつ笑みがこぼれ始めた。
助手席の私をチラリと見て、宗一さんも心底嬉しそうに目を細めて笑った。
「あの、今はどこに向かってるんですか?」
ふと気になって尋ねると、宗一さんは前を見据えたまま答えた。
「ヒマワリ畑だよ」
「ヒマワリ?」
「うん。今がちょうど見頃らしくてね。たくさん集まっている場所があるんだ。壮観だよ」
目的地に到着し、車を降りた瞬間、私は思わず息を呑んだ。
なだらかな小高い丘の向こうに、鮮やかな黄色が広がっていた。
陽ざしを浴びて、すべてのヒマワリが同じ方向を向いて咲き誇っている。
その時、ヒマワリが風に吹かれ、一斉に揺れ動いた。
まるで、黄色い海が波立つようだった。
「ふふふっ。確かに、これは壮観ですね」
「でしょ?」
私の反応を見て、宗一さんが少し自慢げに胸を張った。
目が合うと、私たちは思わず笑い合った。
私がスマホを取り出すと、宗一さんは「せっかくだし、一緒に撮ろうか」と自然に隣へ並び、「僕が撮るよ」とスマホを受け取った。
「はい、笑って」
カシャッ。
そう言ってヒマワリと一緒に二人で写真を撮った。
太陽の熱を吸い込んだヒマワリ畑の間を、のんびりと散歩する。
その途中で、一輪ずつ手渡しのヒマワリを売っている露店が目に留まった。
私が何気なく足を止めて見つめていると、宗一さんがすっと店員に声をかけた。
「これ、一輪ください」
宗一さんは受け取った大輪のヒマワリを、そのまま私へと差し出してきた。
「え……?」




