4 白光
カーテンの隙間から差し込む光が、目覚めたばかりの私の瞳を容赦なく刺した。
私は制服に着替えると、朝食をとるために一階のリビングへと向かった。
ドアを開けると、すでに家族全員がそろっており、いつも通りの賑やかでエネルギーに満ちた朝食の風景が繰り広げられていた。
「あら、結。今日は学校へ行くの?」
リビングに入ってきた私を見るなり、母が話しかけてきた。
「うん。テストも近いし……」
「二日前に退院したばかりじゃないか。まだゆっくりしていてもいいんだぞ?」
父が心配そうに眉を下げると、母が言い返す。
「何それ。いつもは『家にばかりいないで、学校へ行け』ってうるさいのにねぇ」
私はいつもの感じの会話に、少し声を出して笑った。
朝食が終わるころ、兄がジャケットを羽織りながら言った。
「学校に行くなら、俺が車で送っていくよ。ちょうど仕事に出るところだしね」
「あら、それがいいわね。雅臣、結をよろしく頼むわよ」
母に見送られて兄の車に乗り込む。
兄はお気に入りのアップテンポな曲を流し、最近のニュースや芸能界の話題を色々と楽しそうに話してくれた。
けれど、私はその声をどこか上の空で聞いていた。
すると、ふいに曲のボリュームが下がり、兄がバックミラー越しに視線を投げかけてきた。
「……なぁ、結。どうして急に、今日から学校に行こうなんて思ったんだ?」
「え? ……なんとなく、だよ」
兄は何か言いたそうに口を開きかけた。
けれど私が視線をそらすと、それ以上は何も聞いてこなかった。
本当は、何かを探していた。
何かは分からない……思い出せない。
けれど、それを失ったままでは生きていけない。
「そうか……」
兄はそれだけ言うと、いつもの彼からは考えられないほど、重苦しい沈黙に沈み込んでしまった。
幼稚園からずっと通っている女学園。
その高等部の校門前で、兄は車を止めてくれた。
「帰るときは必ず連絡しろよ。すぐに迎えに来るから」
「大丈夫だよ。ありがとう、お兄ちゃん」
どこか神妙な面持ちの兄に努めて明るい笑顔を返し、車を降りて教室へと向かった。
天井まで続く大きな窓から、朝の太陽が惜しみなく降り注いでいた。
この学園は「光を取り入れること」を理念に作られた場所だ。
教室に入ると、「斎木様、ごきげんよう」と、友人たちがすぐに駆け寄ってきた。
家族と同様、彼女たちもみんな一様に賑やかで、底抜けに明るい。
自分からあまり発言しない私の周りを取り囲み、今日も楽しそうに流行りの話をしてくれる。
私は相槌を打ちながら、ふと、ガラスの向こうの景色に目をやった。
(……ここじゃない)
直感が、冷ややかに告げていた。
私が必死に探しているものは、この光に満ちた場所には絶対にない。
すぐに帰るのも何だか気が引けたので、一限目の授業だけは席についていた。
けれど、室内に充満する光と熱に、だんだんとめまいがして吐き気が込み上げてくる。
耐えきれなくなった私は、体調不良を理由に早退することにした。
すぐに兄を呼び出すのは申し訳なくて、私は一人で電車に乗った。
ガタゴトと揺れる車窓から、街の風景を見つめる。
遠くには、太陽の恩恵を受けてぎらぎらと白銀に光るビル群。
目の前には、同じように光を反射する均一な家々。
光が痛い。
眩しい。
もう、見たくない。
押し寄せる光の暴力に耐えかねて、私は強く目を閉じた。
けれど薄い瞼を透かして、白い光が網膜に突き刺さってくる。
どこにも、逃げ場がない。
早く帰ろう。
ここではないどこかへ。
家の最寄り駅で降りると、強い光を受けて白く輝く空が目に入った。
「帰りたい……」
―――こんな時は、暗くて静かな「あの」場所へ
ふと、懐かしい風に包まれた気がした。
―――君の幸せを祈っている。
けれど……
光に満ちた世界が辛いのなら。
こちらへおいで。
また静かな夜を、一緒に過ごそう。




