3 家族
自室の障子から差し込む強い光に目を細めながら、私はいつものお気に入りの場所――庭が見下ろせる窓際へと、吸い寄せられるように歩いた。
私はここから外を眺めるのが好きだ。
けれど、何を求めて外を見ているのかは、自分でもよくわからない。
しばらくすると、自室の襖の向こうから、優しく落ち着いた声がした。
住み込みでお手伝いをしてくれている有明さんだ。
「結さん。お母様が、そろそろお食事にしましょうとおっしゃっています」
「ありがとうございます。すぐ行きます」
一階のリビングへ降りると
「さあ! みんなで食べましょ!」
有明さんと一緒に手際よく料理を並べていた母が、ひときわ大きな声で言った。
驚いたことに、テーブルの真ん中には退院祝いの大きなホールケーキまで用意されている。
「そのケーキ、有明さんが作ってくれたのよ」
私の視線に気づいた母が、嬉しそうに告げた。
「あ。お兄ちゃんも、もう帰ってきてたの?」
「もちろん!結が心配だから早く切り上げてきた。妹の危機だからね」
兄も少し疲れた顔で笑った。
私は、ふふっと小さく笑った。何だか少し照れくさい。
五人そろった食卓は、いつも以上に賑やかだった。
――けれど。
賑やかな笑い声が飛び交う食事の終盤、私はふと、壁に掛けられたカレンダーに目を留めた。
あれ……。
今日って……
何日眠ってたんだろう。
頭の中に、冷たい水がぽたんと落ちたような感覚。
「あ……お父さん」
父が不思議そうに顔を上げた。
「今日は月初めの月曜日……月の日じゃない?」
みんなを見る。
「『月の日』なら食事の後、『月の神楽』を舞う準備をしないと…」
その言葉を口にした瞬間。
それまで弾けるように明るかったリビングの空気が、ピキリと凍りついた。
家族全員の、そして有明さんの顔から、一斉に笑顔が消えていく。
「あ……いや、そうだけどね。今日は退院したばかりなんだから、そんなことはいいんだよ」
父が笑みを浮かべた。けれどその目はどこか緊張しているようだった。
「そうよ、今日はとにかくゆっくり休みなさい」
母が少し不安そうに、私の手を包み込むように握る。
兄も心配そうな顔で、何か言葉を飲み込んだ感じがした。
いいのかな……?
『月の日』は、斎木家の血を引く巫女が『月の神楽』を舞う。
それは、昔からの決まりだったはずなのに……。
明るい光が満ちる部屋。
誰もさっきの話には触れず、食卓にはまた笑い声が戻っていく。
何となくホッとした。
けれど底知れない沼の前に立たされているような感じがした……
何か大事なことを忘れている気がする。
形にならない冷たい不安が、私の胸を静かに侵食していった。




