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誰が為の神楽  作者: 空蝉
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14/28

14 決意

 

 父と兄、そして私の三人だけの話し合い。

 

 それは息が詰まるほどの沈黙の中で行われた。

 奥座敷に立ち込める空気はひどく重く、冷ややかだった。

 

 二人の口から語られたのは、およそ信じがたい話ばかりだった。

 

 けれど、苦しげに視線を落とす父や兄の表情を見れば、それが残酷なまでの真実なのだと分かってしまう。

 嘘だと言って笑い飛ばすことなど、できるはずもなかった。

 

 同時に、胸を刺したのは激しい自己嫌悪だった。

 

 一番重い責任を負わされているはずの私だけが、何も知らずに、家族に守られて生きてきた。

 

 十八歳の成人の儀式。

 私が神楽を舞えば、『夜の神』は完全に封印される。

 すでに、一刻の猶予もない。

 

 けれど、頭の整理がまるで追いつかない。

 

「……気持ちを、整理する時間が欲しい」

 

 絞り出すようにして、やっとそれだけを告げた。

 

「お願い」

 

 すがるような視線を向けると、父も兄も、それ以上は何も言わずにただ黙って頷いてくれた。

 私は二人をその場に残したまま、逃げるように自室へと戻った。

 

◇

 

 いつもの、お気に入りの窓辺に腰を下ろす。

 膝を抱え、明るい庭の奥に広がる「境界の森」を見つめた。

 

 父の言葉が耳の奥で何度も蘇る。

 

 『夜の神』というのは、きっと、あの暗闇の中で私を優しく包み込んでくれた、月影様のことに違いない。

 

 神楽を舞えば、世界は救われる。

 けれど引き換えに、あの優しく切ない月影様は、冷たい闇の底へ封じ込められてしまうのだろうか。

 

 声にならない嗚咽が喉をせり上がり、私はただ音もなく、いつまでも涙を流し続けた。

 

◇

 

 翌朝。

 家の中に漂う空気に耐えられず、私は制服に着替えて部屋を出た。

 

 リビングには、いつも通り家族全員が揃っていた。

 けれど、テーブルを囲む空気はどんよりと重く、食器が触れ合う寂しげな音だけが響いている。

 

「……送っていくよ」

 

 朝食を終え、兄がぽつりと呟いた。

 私は小さく頷き、兄の車の助手席に乗り込んだ。

 

 唸りを上げるエンジン音の中、しばらく走ったところで、兄が静かに口を開いた。

 

「あー……宗一のことなんだけどな」

「うん」

「あいつが、本当にお前を心配しているのは……嘘じゃないんだ」

「うん」

「やり方は、確かに強引で間違ってた。それは俺からも厳しく言っておいたから」

「……だけど、あいつなりにお前を守りたかったんだと思う」

「うん……分かってる」

 

 それきり、会話は途絶えた。

 車の窓から差し込む朝日は、今日もじりじりと肌を焼くように眩しい。

 

 学校の校門が見えてきたところで、車が静かに止まった。

 兄は私を送り出す際、いつもより心細そうな、ひどく真剣な目で私を見つめ、私の肩に手を置いた。

 

「帰りも必ず迎えに来る。今度は……勝手に帰ったりしないで、ちゃんと待ってろよ」

 

 それは、ただの心配というよりも、焦りの混じった警告のようにも聞こえた。

 

「うん、待ってる」

 

 私が答えると、兄は少しだけ安心したように表情を緩め、仕事場へと車を走らせていった。

 

 校舎に入れば、そこにはいつもと何も変わらない、眩しすぎる「光の世界」が広がっていた。

 

 教室のドアを開けると、「結さん、ごきげんよう」と、友人たちが底抜けに明るい笑顔で駆け寄ってくる。

 

 その歪なほど明るい笑顔を見つめながら、ふと、胸の奥に冷たい疑問が浮かんだ。

 

 みんなは本当に、平気なのだろうか。

 この、どこにいても太陽の熱から逃れられない、痛いほどの光に満ちた世界を、辛いと感じているのは私だけなのだろうか。

 

 予鈴のチャイムが鳴り、授業が始まる。

 席についた私は、何気なく教室全体を見回した。

 

 こんなに教室は広かったっけ?

 それに……少ない。

 

 三十人学級のはずなのに、今日いるのは十四人。

 そういえば毎回顔を合わせる子は、せいぜい五、六人程度。

 他の生徒たちは、「体調不良」で休んでいる。

 

 この前の宗一さんの言葉が脳裏によみがえる。

 

 『この光に満ちた「昼の世界」において、夜に惹かれることは明確な「異常」なんだ』

 

 大人たちが狂信的に繰り返すその言葉は、本当に真実なのだろうか。

 もし、夜を求めることが絶対的な悪であり、ただの異常なのだとしたら――。

 

 どうして、あの暗闇の中。

 あんなにも優しく私を包み込んでくれる『夜の神様』が存在しているの?

 

 何が正しくて、何が異常なのか。

 誰の言葉が嘘で、どこに真実があるのか。

 

 この目で、調べなければならない。

 

 私が歩む道を、自分で選ぶために。

 

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