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誰が為の神楽  作者: 空蝉
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11/28

11 月影

 

 私たちの前を、蛍の淡い光がひとつ、ふたつと、まるでどこかへ導くように先を駆けていく。

 その軌跡はあまりに幻想的で、まるで夢の隙間に迷い込んでしまったかのようだった。

 

 やがて、視界が一気に開けた。

 

 さわさわと、夜風に揺れる草葉の音が耳を優しく撫でる。

 目の前に広がっていたのは、見渡す限りの夜の草原だった。

 

 ――なのに、決して暗闇ではない。

 

 月影がそっと私の顔を覗き込み、しなやかな指先で夜空を指さした。

 

「……あ」

 

 見上げた先には、息を呑むほどの満天の星が、瞬きを忘れるほどきらきらと輝いていた。

 

「わあ……っ」

 

 言葉にならない歓声が、胸の奥から溢れ出す。

 私は吸い寄せられるように草原へと一歩踏み出し、ぐるりとあたりを見渡した。

 どこを向いても、光の粒が夜空を埋め尽くしている。

 

 興奮に胸を弾ませながら振り返ると、少し後ろで立ち止まっていた月影が、私へ蕩けるような笑顔を向けていた。

 

 彼の真後ろの空には、ぽっかりと、真円には少しだけ欠けた銀色の月が浮かんでいる。

 

 冷たくも優しい月の光を背に浴びて佇む、彼の神聖な姿。

 

 なぜだろう。

 初めて見るその姿を、前にも見たような気がする。

 

 それを見た瞬間、頭の奥で何かが弾け、せきを切ったように『景色』が駆け巡った。

 

(――『真名を教えるわけにはいかないんだ』)

 

(――『じゃあ……『月影』ってのはどう?』)

 

(――『……ふふふ。いいね』)

 

 脳裏に響いたのは、あまりにも優しく懐かしい声。

 

 これは……本当に私の記憶?

 

 信じられない。

 

 彼を『月影』と名付けたのは――私?

  

 激しい混乱の波が押し寄せ、心臓が痛いほどに脈打った。

 ――分からない。

 何もかもが、霧の彼方に消えてしまいそうだ。

 

 呆然と立ち尽くす私を見つめながら、月影様が一歩、また一歩と近づいてくる。

 

 月の光を背負ったその姿は、どこまでも神々しく、息をすることさえ忘れてしまいそうだった。

 気づけば私は、彼の瞳に吸い寄せられるように見入っていた。

 

 彼はそっと手を伸ばした。

 しなやかな指先が私の髪に触れ、優しい手つきでゆっくりと頭を撫でる。

 

 不思議だった。

 彼の手に触れられているのに、なぜか恐怖はなかった。

 

 心地よい温もりに包まれた瞬間、張り詰めていた体からふっと力が抜けた。

 

 誘われるように、そっと目を閉じる。

 

 ――真の暗闇が広がっていた。

 

 

「結!!!」

 

 

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