11 月影
私たちの前を、蛍の淡い光がひとつ、ふたつと、まるでどこかへ導くように先を駆けていく。
その軌跡はあまりに幻想的で、まるで夢の隙間に迷い込んでしまったかのようだった。
やがて、視界が一気に開けた。
さわさわと、夜風に揺れる草葉の音が耳を優しく撫でる。
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの夜の草原だった。
――なのに、決して暗闇ではない。
月影がそっと私の顔を覗き込み、しなやかな指先で夜空を指さした。
「……あ」
見上げた先には、息を呑むほどの満天の星が、瞬きを忘れるほどきらきらと輝いていた。
「わあ……っ」
言葉にならない歓声が、胸の奥から溢れ出す。
私は吸い寄せられるように草原へと一歩踏み出し、ぐるりとあたりを見渡した。
どこを向いても、光の粒が夜空を埋め尽くしている。
興奮に胸を弾ませながら振り返ると、少し後ろで立ち止まっていた月影が、私へ蕩けるような笑顔を向けていた。
彼の真後ろの空には、ぽっかりと、真円には少しだけ欠けた銀色の月が浮かんでいる。
冷たくも優しい月の光を背に浴びて佇む、彼の神聖な姿。
なぜだろう。
初めて見るその姿を、前にも見たような気がする。
それを見た瞬間、頭の奥で何かが弾け、せきを切ったように『景色』が駆け巡った。
(――『真名を教えるわけにはいかないんだ』)
(――『じゃあ……『月影』ってのはどう?』)
(――『……ふふふ。いいね』)
脳裏に響いたのは、あまりにも優しく懐かしい声。
これは……本当に私の記憶?
信じられない。
彼を『月影』と名付けたのは――私?
激しい混乱の波が押し寄せ、心臓が痛いほどに脈打った。
――分からない。
何もかもが、霧の彼方に消えてしまいそうだ。
呆然と立ち尽くす私を見つめながら、月影様が一歩、また一歩と近づいてくる。
月の光を背負ったその姿は、どこまでも神々しく、息をすることさえ忘れてしまいそうだった。
気づけば私は、彼の瞳に吸い寄せられるように見入っていた。
彼はそっと手を伸ばした。
しなやかな指先が私の髪に触れ、優しい手つきでゆっくりと頭を撫でる。
不思議だった。
彼の手に触れられているのに、なぜか恐怖はなかった。
心地よい温もりに包まれた瞬間、張り詰めていた体からふっと力が抜けた。
誘われるように、そっと目を閉じる。
――真の暗闇が広がっていた。
「結!!!」




