表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

クレオの出勤

「クオン、私は今日から仕事に行かなければなりませんから、留守の間は十分に気を付けて下さいね。もう間もなく護衛のジミーとホセも来ますが、ちゃんと二人の言うことを聞いて、勝手に外に出ないと約束して下さい」


「フフ、うん、分かってる、クレオ心配しすぎ。その話もう四回目ー」


「……」


 クスクス笑うクオンの前、クレオの頬は少し赤くなる。

 クオンが言うように多少過保護に心配していることは分っているが、それでも心配は尽きない。


「ゆびきりする?」


「指、切り?」


「そう、破ったら針千本飲むの」


「針、千本、飲む……?」


「うん」


 笑顔で恐ろしい拷問を提案をするクオン。

 どうやらクオンの国では気軽な約束でも破れば騎士であるクレオが恐ろしいと感じるほどの罰則があるようだ。


 だからだろう、クオンは自身の危機にもさほど恐怖を感じていないように思える。

 きっと誘拐や尋問程度では心が揺らぐことがないからだろう。


(王城で毒を飲まされたのにクオンは怖くはないのだろうか……? いや、針を千本飲まされるほどの国なのだ、毒など大したことではないのかもしれないな……)


 両隣の屋敷には安心できる身内もいるし、クオン付きの護衛も傍にはいる。

 それに屋敷内にはエラとアルマンもいて、クオンが一人きりになることは無い。


 けれどクオンののんびりとした雰囲気を見ていると、子供を一人家に残して仕事に行くような、そんな気持ちになるのだから不思議で仕方がない。

 

(母性本能というのは本当に厄介だな……)


 自分よりも年上の相手に対し庇護欲が沸くのだから、異世界の男性というのは不思議な生き物だ。


「ふんふんふーん、お仕事、お仕事、ふんふふーん」


「……」


 朝食を終えお皿を共に洗いながらクオンの呑気な鼻歌を聞いていると(仕事に行きたくない……)と、そんな気持ちを持ってしまうクレオだった。





「クレオ、これ、【お弁当】……あー、ランチ? お昼、パンとスープだけ言うてたから」


「ランチって……クオン、私にためにお昼を作ってくれたのですか?」


「うん、クレオに作ったよ」


「クオン、嬉しいです、有難うございます」


 布に包まれたお昼を、クオンから受け取る。

 まだ少し温かく、まるでクオンの心のようだと愛情を感じてしまう。


「開けて見てもいいですか?」


「いま? えっ、うん、良いけど、なんか、ちょっと、はずい……」


「フフフ」


 照れて頬を掻くクオン。

 そんな仕草も可愛いのだから、だいぶ見慣れたとはいえなんだか心がくすぐったくなってしまう。


 チラチラと目を泳がし心配げにクレオを見つめるクオンの前、クレオはクオンが用意してくれたお昼ごはんを開いてみた。


「うわぁ、凄い、綺麗です! クオン、こんな色鮮やかなお昼が作れるだなんて、凄いのですねー」


「う、ううん、普通、全然、凄くない、ふつーの【お弁当】!!」


 色どり鮮やかに作られたお昼は、まるで宝石箱の様。

 卵とレタスのサンドイッチと、ハムとレタスのサンドイッチ。

 それにサラダと果物までついている。


 他の騎士に見つかったら取られてしまいそうな出来栄えなのに、クオンは「ふつー、ふつー」とどこまでも謙虚だった。


「【ピック】とか【型抜き】とかあれば、もっと可愛く作れるし、【ばえる】の作れる。あー、そう、デーヴィッドにお米貰ったら、もっと頑張るから、期待して」


「クオン……」


 もう十分のことをしてくれているのに、クオンはクレオの為にもっと美味しいお昼を準備したいようだ。

 健気な心にまた母性本能をくすぐられ、どこまでも愛おしさを感じてしまう。

 

「クオン、無理しないで下さいね、私は今でも充分に貴方との結婚を楽しんでいますから」


「うん、無理しない、僕、クレオの為になんかしたい、それだけなの」


「クオン」


 ニコッと笑うクオンを見て、何故かまた心が掴まれたような気持ちになる。

 二人は白い結婚で、愛情なんか何もなく、ただの同居人でしかないはずなのに、クオンはどこまでもクレアに尽くそうとしてくれる優しい人だった。


「有難うございます……クオン……」


「うん、クレオ、お仕事頑張って」


 この結婚は王命であり、騎士であるクレオは強い決意を持って『おまけの男』を守ると決断している。

 それに相手が聖女の叔父であるクオンだからこそ受けた結婚でもある。


 けれどクオンは女性であるクレオに対し、白い結婚をさせてしまったことで申し訳なさと恩義を感じているようで、夫として出来る限りのことをしたいとそう思ってくれているようだった。




「クーオン様、クレオ様、おはようございます」


 クオンと見つめ合い喜びから思わずハグをしてしまいそうになっていたが、エラの声を聞きクレオはハッとする。


 時間を見ればそろそろクレアの出勤時間。

 どうやらエラ夫婦もまた、初出勤に落ち着かず早めに来てくれたようだ。

 護衛の二人の挨拶の声も聞こえてきたので、彼らも同じ気持ちのようだった。


「クオン、じゃあ、行ってきますね」


「うん、クレオ、頑張って、僕、良い子にしてる」


「フフフ、はい、約束ですね、クオンはいい子にですよ」


「うん」


 胸の前で手を握り、グッと拳を掲げるクオン。

 相変わらずの可愛い仕草に愛馬に乗るクレオの口元は自然と緩んでしまう。


「夕食は一緒に摂りましょうね、クオン、出来るだけ早く戻りますから」


「うん、美味しーの準備しとく、クレオ、ビックリさせるから」


「はい、有難うございます、楽しみです」


 結婚初日は食事を侯爵家が用意し届けてくれていたが、その量の多さと残してしまう申し訳なさから、クオンが自分が料理は担当すると言い出し、今は食材だけを侯爵家から届けてもらっている。


 今後はエラもいるしクオンの負担もだいぶ減るだろうけれど、それでもクレオの為、家事一切を担おうとしてくれているクオンのことを頑張りすぎているような気がして心配なクレオだった。





『あー、行っちゃった……』


 馬に乗り王城へ向かうクレオを見送り、クオンは寂しさを感じていた。

 ここ一週間、クレオとの新婚生活は思った以上に快適で楽しく、異世界での結婚生活に対し不安だった気持ちはどこかへ飛んで行ってしまっていた。


 クレオの落ち着いた雰囲気と、異世界の女の子女の子していないところがクオンとは合ったのだろう。

 話をしていると楽しいし、まだ満足に話せないクオンの言葉もクレオはちゃんと聞いてくれて、笑ってもくれる。

 優しいクレオに異世界に来た恐怖や緊張を解いてもらった気がして、クレオがいない心細さが自分でも分かるぐらいだ。


「さあ、クーオン様、お屋敷に入りましょうね。お茶をお淹れしますから、少しお休みいたしましょうか?」


 立ち尽くすクオンを心配してエラが声を掛けてくれる。

 そんなにも心細そうな顔をしていたかと、ちょっとクオンも恥ずかしくなる。


(俺、母親に置いてかれた子供みたいに思われてるのかも……)


 自分へ向けるエラ、アルマン、ホセ、ジミーの視線はどこまでも温かで、その上心配していることが分かるものでもあり、なんだか居た堪れない。


(やばい、しっかりしないと、小学生ぐらいに思われていそうだ……)


 苦笑いを飲み込み、クオンは笑顔を作る。

 自分が今できることをちゃんとやろう。それが大事だ。


 クオンは異世界に来て誰かに頼ることが多く、お荷物状態で情けなさを感じる毎日だったけれど、クレオのお陰で守る家が出来て、やることも出来た。


「ううん、お茶いい、まず、仕事やる」


 ふんっと握り拳を作れば、エラ、アルマン夫妻には優しい笑顔で微笑まれ、ホセ、ジミーの騎士コンビには何故か目をそらされてしまった。


 クオンのジェスチャーも、もしかしたら子供っぽいのかもしれない。

 既に手遅れだが、今更そんなことに気付くクオンだった。


「クーオン様はゆっくりしていて下されば宜しいのですよ?」


「ううん、クレオのため、頑張るの」


「あらあら、まあまあ、そうですわねぇ。ウフフ、新婚さんですものねー、何かしてあげたいですわよねー」


「うん」


 エラの言葉に正直に頷けば、エラの笑みはとても嬉しそうなものに変わる。


「ウフフ、ではまずお二人の寝室のお掃除を致しましょうか? 乱れているでしょうし……」


「? うん、掃除、頑張るよ、任せて」


 何故寝室からなのかは分からないが、クオンは腕まくりをしエプロンを付けるとエラと共に寝室へ向かう。


「あら、まあ、寝室は別々なのですか? 新婚ですのに……それに、その、あまり使った様子もない感じですが……」


「えっ……」


 ここに来てやっとエラに何を心配されているか、その理由が分かったクオン。

 クオンとクレアの結婚が白い結婚であることは、一部の者しか知らない事実。


 なので新婚でありながら寝室が乱れていないことや、二人一緒に寝室を使っていないことに疑問を持たれたらしく、クオンは自身の顔に熱がたまるのを感じながらも、何とか良い言い訳をしなければと焦り出す。


「クレオ、騎士、体が資本、無理できない!」


「ああ、そうですわね、今日から出勤ですものね、クレオ様を疲れさせるわけにはいきませんものねぇ、オホホホ」


 ホッとしたように笑顔になったエラは、クオンの足りない言葉でもどうにか納得してくれたようで、うんうんと頷いている。


「ベッド、掃除してた! シーツ、クレオ、一緒洗った、だから綺麗!!」


「まあ、そうですの?! オホホホ、それは失礼いたしました。クレオ様も恥ずかしかったのでしょうねぇ。では簡単な片付けだけ致しましょうか、オホホホ」


 オホホと笑うエラにホッとしながらも、クオンは何故か居た堪れない気持ちになる。


 クレオに手は出していません! 安心してください!


 そう声を大にして言いたかったが、言えるはずがない。


 クオンとクレオの間に甘い雰囲気など全くないが、そう言う訳にもいかず。

 なんだかもどかしいような恥ずかしいようなそんな気持ちが込み上げ、クオンは掃除に全てをぶつけることにした。


「クーオン様はお掃除も手慣れていらっしゃいますわねー」


「ありがとっ、僕に任せて!」


「あら、まあ、そんなに張り切られて、オホホホ」


 今後もこういった誤解をされることが多くなるだろうか。

 ならばクレオと相談し、お互い相違点がないようにしなければならないだろう。


(でも……クレオになんて相談するんだよっ?!)


 夫婦の営みのことなんて令嬢であるクレオに相談できるはずがない。

 だからと言ってクレオの両親に聞くのもなんか違う。


 迷える子羊となったクオンの掃除は、これまで生きてきた人生の中一番熱のこもったものとなっていた。

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、評価、良いねなど、応援を下さった皆様、ありがとうございます。


エラたちは白い結婚を知りません。

なのでクオンとクレオが恥ずかしがって部屋を掃除し、お互い別の寝室を使っていると偽装していると思っています。w

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ