屋敷の使用人とクオンの護衛
「クオン、明日からこの屋敷の通ってもらう使用人と、護衛との顔合わせを今日しますが大丈夫ですか?」
「かおあわせ……? あー、お見合い?」
「フフ、お見合いではありませんよ。そうですね、使用人と護衛の紹介と言えば分かりますか?」
「紹介! 【オッケーオッケー】 意味分かりましたー」
「フフ、良かったです」
クレオの休日最終日。
朝食の席でクレオから使用人と護衛の話を伝えられたクオン。
二人きりの生活にも丁度なれ、楽しむことが出来るようになってからの使用人と護衛の紹介に、キンリー家の気遣いが分かる。
王都にあるクレオとクオンの新居は、クレオの実家キンリー家が用意してくれたもの。
クレオはクオンとの結婚で伯爵位を賜る予定になっており、その結婚相手が婿養子のクオンという形になっている。
世間には白い結婚であることは当然公表されることはないが、『おまけの男』と『侯爵家の女性騎士』という相性が悪そうなこの二人の結婚を怪しむ者はいる訳で、出来るだけ人の出入りを少なくし、信用できるものを置くようにしようと、使用人はクレオの乳母だった女性夫婦と、護衛は王家が用意した実力のある者となっている。
その上屋敷の両隣にはキンリー家の用意した護衛一家と、王家が用意した護衛一家が住んでいるそうで、聖女でもない『おまけの男』と呼ばれているクオンは、自分に護衛が付くとあってと少し過剰すぎる守りのように感じていたが、当然そんな言葉は口には出さない。
毒を盛られた経験と、聖女の魔法が効かなかった経験から、死が身近にあることは十分に理解できたので、有難く恩恵を受け入れることにしていた。
「お嬢様、ご無沙汰しております」
「エラ、久しぶりだね、元気そうで安心したよ」
寄宿舎で生活し実家であるキンリー家にあまり戻ることのなかったクレオは、子育てが終わりキンリー家のメイドとして現役復帰していたエラと久しぶりに会った。
クレオの乳母としての役目が終わった後、エラは一度仕事を辞め子育てに専念していた。
クレオが剣に興味を持ったことで辞めさせられたのではないかとクレオは心配していたが、どうやら二人目を妊娠した後流産し体調を壊していたらしく、それが退職の理由だったそうで、詳しい話を聞いた時はホッとしていた。
久し振りに会ったエラは相変わらずクレオを想ってくれていて、優しい母親のような視線をクレオに向けてくれた。
「お嬢様こそご立派になられて……」
「アハハ、エラ、泣かないで、私は貴女の向日葵のような、元気をもらえる笑顔が好きなんだよ」
「まあ、お嬢様ったら……本当にもう、立派な騎士様なのですね」
クレオの手を握り目を潤ませるエラは昔から何も変わらず愛情深い。
子供の頃のことなど辛い思い出以外忘れていたが、こうしてエラに会うとちゃんと愛されていたことを実感できるのだから不思議だ。
「さあ、エラも皆も席に着いて、今クオンがお茶を淹れてくれているんだ。彼の淹れるお茶はとても美味しいから是非飲んで欲しい」
「まあ、旦那様が自らお茶を? そんな申し訳ない……」
「ああ、彼は……クオンは料理が上手なんだ。それに奥向きのことも働く私の代わりに基本は彼が担ってくれるから、エラには彼の良い相談相手になって欲しいとも思っている」
「まあ、お嬢様……そうなのですね……」
本人は無意識だけれどクオンの名を呼ぶ時だけ優しい笑顔になるクレオを見て、エラは感動をする。
お転婆で男の子のような子供だったクレオ。
騎士になったと聞いた時はやっぱり……としか思わなかったが、結婚したと聞いた時は、本当に? 大丈夫? と驚いたぐらいだ。
なのにお嬢様が幸せそうで、また目に涙が溜まり出してしまった。
「おまたせーしました」
銀のワゴンを押して、部屋に一人の青年がやって来た。
黒髪黒目に可愛い容姿の少年のようなその男性は、聖女様だと言われたら信じてしまいそうなほど可憐な容姿の青年だった。
エラだけでなく、隣の夫も息を吞んでいるし、護衛としてやって来た二人の男性もクオンを見て驚き目を丸くしているようだった。
「マシュマロティーとマシュマロサンド、アリスの好きなお茶、甘くて美味しいよー」
「ああ、昨日作ってくれたお菓子ですね。あのふわふわがこんな風になるだなんて、クオンは凄いですねー」
「そう、ふわふわ、クレオ、好き?」
「ええ、クオンの作る料理はどれも美味しくて、私は大好きですよ」
「ほんと、良かったー、なら嬉しい」
目の前にある見たことも無いお菓子とお茶に驚くよりも、エラは二人のやり取りに驚きしかない。
クオンという男性が空中で手を動かしふわふわのお菓子だとクレオにアピールしている。
とても成人した男性とは思えないその可愛仕草に隣の夫がウッと唸り、騎士二人は目を瞑り胸を押さえていた。
追い打ちをかけたのは「どうしましたー?」と首を傾げた仕草だろう。
クレオも自分の夫が可愛くて仕方がないのか、フフフと素で笑っていて普段の無表情さは何処にもない。
祖母から締め付けられることもあったクレオがやっと幸せを手に入れたのかと思うと、エラは本気で泣き出しそうだった。
「クオン、紹介しますね、私の乳母だったエラとその夫のアルマンです」
「旦那様、エラと申します」
「旦那様、アルマンです、宜しくお願い致します」
「はい、エラ、アルマン、覚えましたー。クオンでーす、宜しくでーす」
笑顔で手を差し出してくるクオン。
主の手を握っていいのか悩んでしまうが、エラはそっとその手に触れた。
「どーか仲良くしてくださーい」
「は、はい、勿論でございます」
「是非、よろしくお願いいたします」
「うん」
親し気に微笑むクオンに傲慢な様子はない。
聖女のおまけの嘘が噂だということは侯爵からあらかじめ説明があり聞いてはいたが、正直半信半疑だった。
聖女召喚に無理矢理割り込み付いてくるような男だ、きっと身勝手な男だろうそう思い込んでいたのだが、まさか想像とここまで違うとはと驚きしかない。
それにクオンのその手に触れまた驚く。
そこら辺の令嬢よりもよっぽど綺麗で美しいその手は、これまで苦労もない大事にされていることを容易く想像できるもの。
なのにエラたちを想い、自らお茶を淹れてくれる優しさには正直心打たれてしまった。
「クオン、こちらの二人は貴方の護衛です。二人とも名前と所属を」
「ハッ、第六騎士団所属、ジミー・ルイスです、宜しくお願い致します」
「同じく第六騎士団所属、ホセ・ロドルです、宜しくお願い致します」
護衛二人が立ち上がり、クレオとクオンに向け騎士の礼を取る。
第一騎士団所属のクレオの前だからか、それとも聖女のおまけであるクオンの前だからか、緊張の面持ちを浮かべる二人は、試合前のスポーツ選手の様だった。
「ジミさーん、ホシェさーん、クオンです、どうぞ宜しくねー」
「クオン、ジミーとホセです。ホセ、言えますか?」
「ジミーとホシェ? ホ、ホセ?」
「そう、ホセ、言いにくいですか?」
「んん、だいじょーぶ、名前大事~」
「ジミー、ホセ」と二人の名を何度も呼びながらこれで合っているかな? とでも言っているかのように、視線を二人に向けこてんと首を傾げるクオン。
その可愛らしさに口元がにやけそうになってしまいジミーとホセはどうにか耐えるが、今息を吸ったら吹き出しそうだった。
笑ったら死刑決定。
クレオの剣の錆になる。
高位騎士のクレオの前、二人はそんな緊迫した気分だった。
「四人には基本、私が仕事で家にいられない時間、通いでこの屋敷に来てもらいます。エラは内向きのことを、アルマンは外向きのことを、そしてジミーとホセには屋敷の警護とクオンの護衛を頼んでいます。四人ともクオンのことをお願いしますね、私の大事な人なので」
「「はい、お任せください」」
「「必ずお守りいたします」」
クレオに返事を返し、皆で頭を下げる。
それを見てクオンが「よろしくー」と答えているが、幼い子供の様で可愛いらしい。
(これが『おまけの男』……噂は嘘だったのか……)
ジミーやホセが所属する第六騎士団でも、聖女の『おまけの男』の噂は流れていた。
中には声に出して言えない程に酷いものもあり、今回秘密裏に護衛の話が来た際、二人ともハズレを引いてしまったと悔やんだほどだった。
けれど目の前にいるクオンを見て考えを改める。
噂は結局噂でしかなく、本物の『おまけの男』は思っていた人物とまるで違う、噂とは正反対の男だった。
常に無表情で、己にも他人にも厳しい女性騎士だと言われるクレオの甘い顔を見れば、それが分かるというものだ。
きっと『おまけの男』であるクオンは、聖女とは違う意味で守るべき対象なのだろう。
王家がクオンを危険視し、護衛を用意する理由がハッキリ分かった気がした。
「みんなー、お茶をどうぞ、お菓子も、どうぞ、あっ! 甘いの大丈夫?」
クオンが用意してくれたお茶に口を付ける。
少し冷めたお茶はとても甘く、まるでクオンのようだなと思う。
「とても美味しいです、クオン様」
「そう、良かった、明日はお昼、一緒しようねー」
ニコニコ顔が標準なクオンに、皆の顔にも笑顔が浮かぶ。
それは妻であるクレオも例外ではなく。
クオンに向けどこまでも甘い笑顔を向けていた。
「クオン、皆の言うことをちゃんと聞いていい子でいて下さいね」
「もちろーん、僕いい子、クレオ、心配しすぎー」
少し口を尖らせ拗ねるクオンは魅力的で、エラたち四人の心も無事掴めたようだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
出来る範囲ですが、夫君の方を中心に投稿いたします。
ホセ20歳、ジミー30歳
エラ45歳、アルマン、46歳
ぐらいの年齢設定です。w
ちなみにホセは二メートル近い身長です。
二人ともアメフト選手っぽいイメージです。
(↑すべてそんな感じで曖昧に済ませる作者です)




