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【完結】私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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★家族への報告

 二人きりの旅行を終えたクレオとクオンは、その足でキンリー侯爵家へ向かった。


 ()()()()()への許可をもらうための訪問だが、(もしかしたら認めてもらえないかもしれない)と心配するクオンは少し緊張気味だった。


 それもそのはず、クオンはこの世界の人間ではない。

 それにそもそもクレオとの結婚は偽装結婚だから許されたものだ。


 クオンは王城内で襲われ、城以外の場で守る必要があった。

 聖女の叔父を危険な場所にそのまま置いておくことはできない。


 キンリー侯爵家の家族がクオンに優しいのは、そんな背景もあってのことだ。

 聖女の叔父であるクオンを、純粋に守ろうと手を差し出してくれたのだ。

 それにキンリー家の家族が、クレオとクオンの結婚は偽装だから許してくれたということも、十分に分かっている。


(でもクレオを好きになっちゃったんだから仕方がないよね……)


 クレオを愛したことも、この世界に残ることも、クオンは決めていた。


 ならばあとはキンリー侯爵家の皆が認めてくれるまで頭を下げるだけのこと。

 ドルチェにまたがるクオンはいつものように握りこぶしを作り気合を入れる。


「クレオ、僕頑張る、ちゃんと認めてもらう」


「クオン、有難うございます。だけど大丈夫だと思いますよ、私には確証がありますし……」


「ん?」


 結婚を認めていなければ、あの父が二人きりの旅など許すはずがない。

 それにあの寝間着(ネグリジェ)だ。

 あんな卑猥な衣装を、わざわざ隠れてまで忍ばせるはずがなかった。


 だけどその理由をクオンに正直に話す勇気はなく。

 何となくと言ってクレオは誤魔化してみせる。


「クレオ、何か隠してる?」


「いいえ! 何も隠してませんよ!」


「本当? でもなんか怪しい、ほっぺ赤い、なんかあった?」


「いいえ! 全然! いつも通りの私です!」


「あやしー」


 昨夜の()()()があったばかりでジッと顔を見つめられると、色々と思い出してしまい心底恥ずかしい。その上あの寝間着のこともある。アレを自分が着たらクオンは喜ぶだろうか?と余計な考えにまで行きついてしまい、動揺する心が抑えられない。


「と、とにかく、まずは父に話しましょう! ね、クオン!」


「うん、そだね。まずはお父さん攻略、それ大事」


 乗馬で良かった。

 これが馬車の中だったら、きっとクレオはクオンの尋問から逃げられなかっただろう。


 それはそれで良いかもしれないけれど……


 煩悩が常に纏わりつく自分に慣れていなくて、クレオの頬の赤みはなかなか取れなかった。




「お父さん、お母さん、オーロラさん、僕、クレオを愛しています! クレオが世界で一番大事です! だから結婚認めて下さい! お願いします!」


「えっ?」

「まあ!」

「あら!」


 クオンは結婚の願いの言葉をキンリー家の家族に向けて吐くと、その場で土下座を行った。

 ニホン風の最上級のお願いに、慌てだしたのはキンリー侯爵であるクレオの父親アトラスだった。


「クーオン様、どうぞお立ち下さい! そんなところに這いつくばってはいけません!」


「いいえ、結婚認めてもらうまで、立ちません! 僕頼りない、分かってます。でもクレオ愛してる! 本当の家族なりたい! どうか許してください! お願いします!」


「分かりました! 許します! 許しますから、立ち上がってください!」


「えっ?」


 簡単に許しが出て驚き、クオンはその場に座ったまま顔を上げキンリー家の家族の顔を見る。

 クオンを立たせようと焦っているアトラスの顔色は悪く、普段とは違い動揺が丸見えだ。

 そして母グレースと姉オーロラは頬を赤くし、効果音としてはキャッキャッウフフといった音が聞こえそうな表情をしている。


 どうやらクレオの言った通り、結婚は本当に許してもらえたようだ。それも物凄く簡単に……


(え? なんで? あっさり過ぎない?)


 あれだけいろいろと悩んでいたクオンは正直拍子抜けだった。

 絶対に雷の一つでも落ちてくる、そう思っていたからだ。


「クオン、さあ、席に着いて下さい。ねっ、私の言った通り大丈夫だったでしょう?」


 床に座ったまま茫然としているクオンの手を取り、クレオは先ほどまでクオンが座っていた席へと誘導する。

 ポカンとした顔のまま席へとついたクオンはそこでハッとする。


(お父さんは優しいからクレオを泣かすことは出来ないんだ!)


 そんな当たり前のことに気付き、一人で願いに来るべきだったと反省をした。


「お父さん、僕の顔殴っていいです!」


「クーオン様! 何をおっしゃっているのですか、殴る訳がないでしょう?!」


「でも、「娘はやらん!」なかった。お父さん、我慢しない! 僕殴られてもいい! クレオとの仲認めてもらえる、それなら痛いの平気!」


「クーオン様……我慢などしていませんから……お願いしますよ……」


 クオンのいた世界では結婚の申込を行うと、どうやら相手の父親から殴られたり反対されるのが当たり前のルールらしい。


 もしかしたら一度ダメと断り、徐々に許していくのが異世界流の様式美なのだろうか?


 アトラスは異世界男性に対しちょっとだけ気の毒さを感じる。


 だがこの世界への耐性が弱いとされているクオンを殴ったりしたらどうなるか。

 ちょっとでも傷がつき、もしそこから大病に繋がり、命の危機に陥ったりしたら……


 クオンが望んでもアトラスには異世界の常識を執行する勇気はない。

 それに何よりクオンを溺愛するクレオの前で、クオンを殴る蛮行を犯す勇気など持てるはずがなかった。


「んんっ、クーオン様、とりあえずお茶を飲みましょう」


「えっ?」


「話はそこからです」


「ハッ! 分かった、僕覚悟する!」


「……」


 絶対に分かっていなさそうなクオンの様子に苦笑いになるアトラスの横では、グレースとオーロラが楽しそうに笑いを堪えている。それにクレオもクオンの可愛らしい様子に満足げな笑顔を浮かべていて……


(ああ、これが家族団らんというものか……)


 クレオが心を閉ざしていた期間は長く。

 理由(母の行い)を後から知った時は愕然とした。


 気づいた時にはもう遅く。

 クレオは家族に何も話さない少女に育っていた。


 だから尚更、クオンには感謝しかない。


 そんな相手がクレオを望んだのなら、反対などするはずがない。


 何よりクレオ自身がクオンとの結婚を願っているのだ。


 娘を想う父として、賛成以外の答えは出せなかった。


「クーオン様、私は最初からこの結婚に反対などしていませんよ」


「えっ……?」


「ですのでクーオン様、どうかクレオを、娘を、宜しくお願いいたします」


「お父さん……」


 お茶を飲み落ち着くと、アトラスがクオンに頭を下げた。

 それに倣い、グレースとオーロラも頭を下げる。


 クレオを頼む。


 そのたった一言で、クオンはこの結婚がずっと前から許されていたことを理解できたらしい。


 緊張が解けてやっとクオンらしい笑顔が浮かぶ。

 そしてクレオの手を握り見つめ合った後、キンリー家の家族に向かって二人一緒に頭を下げた。


「お父さん、お母さん、オーロラさん、僕絶対クレオ大事にします!」


「父上、母上、姉上、有難うございます、私は幸せになります」


 クレオとクオンはお見合いの時から不思議と気が合った。

 見た目も中身も、その上育ってきた場所も全く違うけれど、それでもお互いが無意識に運命というものを感じていたのかもしれない。


 偽装結婚の生活は、想像以上に楽しく、自然体の自分達でいられた。


 そうなれば当然異性として意識する。

 恋とは無縁だったクレオは、クオンの優しさや素直さ、それに何より可愛らしさとたまに見せる男らしさに癒されて……


 そして両親を亡くし、大事な人を失う怖さに怯えていたクオンは、クレオの強さとたまに見せる弱さに惹かれ、この世界に残るのだと決断した。


 そんな二人は、お互いこそが唯一無二の相手だと、結婚後も尊重し合っていく。


 どこでも繰り広げられる二人の()()()()()()は、オット夫妻劇場といつしか呼ばれるようになっていくのだが、当然二人の耳には届かなかった。




「クレオ? お部屋どうだった?」


「クオンっ!! いいえ、べ、別に変わったところは無かったですよ!」


 挨拶を終えたクオンとクレオは、キンリー家へ泊まっていくことになった。


 今もまだクレオの部屋はそのままの状態だと聞き、クレオは自室を見に来たのだが、そこで見てはいけないものを見つけてしまった。


 母と姉が気を回して用意してくれた寝間着はまだ何枚もあったらしく。

 色とりどりの衣装がクローゼットの最前列に並んでいて、今すぐ着てみなさい、いいえ着ろ! と命令しているようで、クレオは茫然と立ちすくしていたのだが、そんなところに案内された客室からクレオの様子を見に来たクオンが来てしまったのだ……


 沈着冷静と評判のクレオが慌ててしまうのも当然。


 これはクオンに見せてはいけない!


 そんな危険信号がクレオの脳内で鳴り響いていたのだった。


「クレオ、なんか隠した?」


「いいえ! 何も隠してませんよ!」


 あからさまに怪しいクレオをクオンが見逃すはずがない。

 黒い大きな瞳がスッと細められクレオに向く。

 

「嘘! 今日朝からおかしかった! クレオ、僕に秘密ある!」


「ク、クオンに秘密なんてある訳がないじゃないですか! 気のせいですよ!」


「ふーん」


 クローゼットを背に、声が大きくなるクレオ。

 超絶怪しいとクオンは思ったけれど、そこはいったん引くことにする。


 直接的な戦いで騎士のクレオに勝てるとは思えない。

 けれど兄期間が長いクオンは知っている。


 姉が大事にしていたお皿をアリスが割った時。

 姉の化粧品をアリスが勝手に使い酷い顔になった時。

 姉を喜ばせようとアリスが初めてケーキを作った時。


 常に後始末をしたのはクオンだ。


 だから、一歩離れ、様子を見るふりをする。


 たとえクレオがクローゼットの中に死体を隠していようとも、騎士ならば、とクオンは納得するだけの余裕のある男でいたかった。


「クレオ、ごはんだって、行こっか」


「あ、はい、行きましょうか」


 あからさまにホッとしたクレオから力が抜ける。

 やっとこの危機的状況から逃れられる。そんな安堵が前面に出てしまう。


 その瞬間をチャンスととらえ、クオンはクレオの背を取るとクローゼットを開けて()()


「クオン!」


 ピンク、赤、緑、黄色、紫。


 女性のクローゼットだ、色とりどりの衣装が並んでいても当然。

 けれどその衣装は明らかに透けていて、服なのに服ではない、そんな印象を受けるものばかりだった。


「クレオ、あの、これは?」


「違います! 私じゃなくて! 母と姉が用意したもので! 私の趣味とかではなくてーーんっ!」


 クレオの言葉はクオンによって塞がれてしまう。

 クレオがこの衣装を見て、動揺していたと思うと可愛くて仕方がなかった。


 もう抱きしめるしかない。

 そんな感情が溢れてしまう。


「クレオ、今度、これ、着てみせてくれるの?」


「……」


「クレオならきっと似合う……僕、ちょ~っと見てみたいな……」


「……ちょっと、ですか……?」


「んん! 物凄く見てみたい! クレオ、絶対綺麗だもん! 僕分かる!」


「……」


 真っ赤な顔で俯くクレオはハチャメチャに可愛らしく。

 クオンはこのまま押し倒したいという衝動に駆られる。


(クレオ、くっそ可愛い! 何でこんなに可愛いの! 絶対に結婚する! いやもうしてるけどっ! 可愛いとカッコイイを兼ね備えてるって! 俺の妻、最高でしょ!)


 理性と誘惑との戦いにクオンが心を痛めていると、クレオが小さく頷き、囁いた。


「家に帰ったら……」


「えっ……?」


「最初はクオンの色がいいので……あの、黒の寝間着は家にあるんです……」


『ああ、これもう無理でしょ!』


 その後、クオンとクレオはちょっとだけ夕食に遅れてしまう。


 そしてキンリー家に泊まる予定だったのだが、やっぱり家が気になると言って夕食を終えるとさっさと家に帰ってしまった。


「まあ、新婚だからな……」


「ええ、新婚ですものね……」


「ウフフ、私もああなるのかしら……」


 その理由に家族が気づいていることを、クレオとクオンは知らない。


 クレオが黒の寝間着を着たかどうかは、二人だけの秘密となるのだった。

おはようございます、夢子です。

閑話第一話です。

クオンとクレオが旅行を終えて実家へ挨拶に行くお話です。

旅行へ持って行った荷物(寝間着)は自宅へ送っているので、クレオは家に帰ってから着ると言っています。

全くこの二人はけしからん!朝から何を見せつけるのでしょうか!皆にバレバレですけどね。w


楽しんでいただけたら嬉しいです。

後二話もよろしくお願いします。


あ、あと最終話のホセとジミーの恋のお相手はクレオの隊の誰かです。(私の中では決めています)

クオンの家へ遊びに来ることがあったり、城で顔を合わせることがあったりで……

恋の花咲く日が来るのかは……ご想像にお任せします。w

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