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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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クオンの誘拐

 王城での仕事を終えたクオンは、屋敷に戻るとキッチンへ向かった。

 いつもならば夕食の準備に取り掛かっているはずの時間なのに、エラがキッチンにいない。クオンは疑問を感じた。


「エラ、どっか行ったのかな?」


 屋敷に入り、「ただいま」と声を掛けても、そういえばエラからの返事はなかった。


 足りないものでもあって、買い出しに出たのだろうか? そんな疑問が湧く。


 そういえば、洗濯物は?


 今日は天気が良かったのでシーツを洗うと、そう言っていたエラ。

 キッチンの窓から外を見てみれば、もう夕方だというのに、洗濯物は外へ出しっぱなしだった。


 あのしっかり者のエラではありえない失態。

 なんだか変だなと、ここで初めてクオンは違和感を覚えた。


「取り敢えず洗濯物、アルマンにも声かけてみよ」


 上着を脱ぎ、椅子に掛ける。

 袖をまくり、裏口へと足を向けた。


 その瞬間、ぞわっと背筋に悪寒を感じた。

 クオンが素早く振り返ると、そこにはフードを被った見知らぬ男が立っていた。


「おや、気づかれましたか」


「誰?!」


 ニヤリと笑った男が手を伸ばし、クオンを拘束しようとする。

 当然、クオンはそれを避けた。


 これまで異世界に来てから、空手をもう一度復習しておいて良かった。

 相手の驚く顔を見ながら、クオンも初手を打つ。


 まさか、見た目が幼く頼りなさそうなクオンから、素早く強烈な一打が来るとは思ってもいなかったのだろう。男はよろめき、その場に倒れそうになった。


(大きな声を出さなきゃ! 両隣に聞こえるぐらいに!)


 そう思い、息を吸った瞬間――魔法の紐がクオンを縛る。


 敵はもう一人いたようで、クオンはそのまま口まで塞がれてしまった。


「おい、何をやっている!」


「少し油断しただけです!」


 きっと薬を嗅がされたのだろう。

 そんな会話と共に、眠気が襲ってくる。


「目的は果たしました、行きましょう」


「アイツらはどうする?」


「放っておきます。雇った者などもう必要ありませんから」


 二人の男が話す会話を聞きながら、アルマンも襲われているのではと心配になる。


(お守りが無事に発動していれば良いけど……ああ、そういえば自分のお守りは何も作ってなかったなぁ……)


 そんな間抜けなことに気付きながら、クオンは意識を失った。





 クオンが目を覚ますと、真っ暗な闇の中だった。

 縛られたままだが、だんだんと目が慣れてくると、箱の中だと分かる。


(あれ? 棺桶? いや、揺れてるから馬車の荷物台の中とかか?)


 ガタゴトと、馬車に乗っている時と同じ振動が伝わってくる。


 どうやら異世界の魔法薬があまり効かなかったことが功を奏したようで、クオンは薬を嗅がされてから、そう時間を置かずに目を覚ましたらしい。


(声、聞こえる? んん? 大丈夫そう)


 馬車の中からの声は、クオンのところまでは聞こえてこない。

 つまり、クオンの声もあちらには聞こえないということだろう。

 もし何か喋ってしまっても大丈夫だと、まずはホッとする。


 緊張して固くなっていた体から力が抜ける。

 取り敢えず、命は奪われなかった。

 それにも安心する。


 自分の()()が犯人の目的なのだろう。


 魔力を弾く能力か……それとも、未だに聖女のおまけだとクオンを妬む者の仕業か……いや、王家の力を望む者かもしれない……。


 犯人の当ては、いくらでもありそうだ。


(エラは大丈夫かな……)


 きっとクオンよりも先に、エラは敵に捕まっていたはずだ。

 屋敷には争ったような跡はなかった。

 そう考えると、エラもクオンと同じように魔法薬を嗅がされ、拘束されている可能性が高い。


 ホセとジミーは、きっとあの馬車を助ければ屋敷に戻るはず。

 それにしっかり者のアルマンもいる。

 アルマンならば、家の様子がおかしいことにすぐ気づくはずだ。


 何よりアルマンなら、敵に襲われても切り抜けることが出来るはず。


 だからきっとエラは大丈夫。

 自分の家族たちは皆大丈夫。


 クオンはそう願っていた。


(さて、これをどうにかしないとな)


 体を縛っている紐は、魔法でできた物。

 本来のクオンならば弾くことができると思うのだが、もしかしたら魔道具と人間の使う魔法では、何か違いがあるのかもしれない。


(うーん、やっぱり自分のお守りも作っておくべきだったな……アホすぎる)


 きっとお守りがあれば、魔道具による魔法も弾いていたと思う。

 そんなことに気づかなかった自分が情けなくて仕方がない。


(どうにか逃げ出すべきだよね?)


 街中を走る馬車の速度は、三十キロぐらいだろうか?

 人の多いところでは徐行運転といったところだけれど、馬車道がある場所では、ある程度スピードも出せる。


(よくアニメとかで、目印みたいなものを出すよね、車から)


 ハザードランプを壊し、そこからハンカチを振って助けを求めたテレビを見たことがある。

 アニメでも、主人公がトランクを開けて助けを求めていた気がする。


 クオンは荷物台の蓋を足で押してみる。

 残念ながらびくともしない。


 もしかしたら、鍵が掛けられているのかもしれない。ホセやジミーみたいな体だったらと無駄なことを考えてしまう。


 非力な自分が情け無くもなる。

 だけど、嘆くより手を動かせ! だ。


 クオンは他に手立てはないかと考えるが、いい案は思いつかない。


(魔石でもあれば、ピカピカ光らせるんだけどなぁ)


 そんなことを考えていると、ピタリと馬車が止まった。

 クオンは慌てて目をつむり、死んだふりをした。


 ガチャリと蓋が開き、明るい光が瞼に映る。

 身動きも取らず、体から力も抜き、とにかく死んだふり。

 そう自分に言い聞かせる。


「作戦は成功したようですね……皆さん、よくやりました」


「ありがとうございます」


「ふむ、クーオン様に傷一つ付けていないようですね。では、このままお部屋に運びましょう。丁寧にお願いしますね」


「はい、畏まりました」


 誰かに抱え上げられ、クオンは運ばれていく。

 その手は確かに丁寧で、クオンを大事にしていることが分かるものだった。


 そして部屋に入ると、ベッドらしきものにそっと寝かされた。

 縛られていた紐が外され、クオンは「よし!」と心の中で歓喜する。


「薬は何時間効くのですか?」


「はい、普通であれば、あと三時間は目を覚まさないかと……ただ、クーオン様はお身体が弱いと聞いています。もしかすれば、明日の朝まで起きられないかもしれません」


「そうか。では、レオを側に付けておきましょう」


「レオをですか?」


「ええ、クーオン様はレオに興味を示していました。きっと側に置いておけば、慰めになるでしょう。レオ、分かりましたね」


「は、はい。お側でお世話させていただきます」


「では、我々は報告へ参りましょう」


 そんな会話を終えると、ぞろぞろと部屋を出ていく音がする。

 そして、ぱたんと扉が閉まると、鍵がしっかりとかかる音がした。

 その後、静まりかえった部屋の中、少年のような子供がため息を吐く音が聞こえてきた。


「どうか目を覚まさないで下さいね……」


 神に祈るような小さな声が聞こえる。


(レオって誰だっけ? どこかで会ったことがあった?)


 外へあまり出ないクオンの交流は少ない。

 そう思えば、レオと呼ばれる少年が誰なのか思い出せた。


(ここは教会か……)


 城で会った、レオと紹介された少年。

 あの子はクオンを見て怯えていた。


 まるで、何かを強要される――そう思えるほど怖がっていた。


 クオンは薄っすらと目を開ける。

 クオンの顔をじっと見ていなければ分からないぐらい、ほんの少しだけ。


 クオンの予想は正しかったようで、ベッドから少し離れた場所に、レオと呼ばれる少年が自分を抱きしめるような姿勢で座っていた。


(この子、俺に襲われると思ってるみたいだよね……いや、そうなるようにしろって命令されている感じかな……)


 クオンの結婚相手が男装令嬢であるクレオだからこその勘違いだろうか。

 どうやらクオンは少年好き、そう思われているらしい。


 ならば、やり方によってはこの少年を味方につけられるかもしれない。

 クオンはそんな決意をもって、目を開ける。


「こんにちは」


「――っ!」


 クオンが声を掛けると、レオはびくっと大きく肩を揺らし、一気に顔色が悪くなった。

 誰に何を吹き込まれたかは分からないが、本当に失礼すぎる!


 クオンはできるだけレオを怖がらせないように、笑顔と優しい声色を心掛け、もう一度声を掛けた。


「レオ、僕ね、妻が大好きなんだ」


「えっ……?」


「妻以上に素敵な女性はいないと思ってるし、妻以上に夢中になれる相手もいない。だから、レオに何もしないから安心して」


「そ、そうなんですか……でも……僕は孤児だから……言われた通りにしないと……」


 それはそれで困るのか、小さく呟きレオは俯いてしまう。


 子供になんてことをさせてるんだ!


 それも孤児という弱みを使うだなんて!


 心の中では沸々と怒りが湧くが、レオの前だ。クオンはどうにか耐えてみせる。

 そして、近づいて良いか声を掛けてから、レオと視線を合わせた。


「レオ、レオはここが好き?」


「……わ、分かりません。でも、ここではご飯が食べられる……それだけでも有難いです」


「そうか。そうだよね、お腹がすくのは辛いもんね……」


 見目のいいレオを拾い、食事を与えて恩を売り、何をさせようとしていたのか。

 教会の行う闇は、どこまでもクオンを怒らせる。


「じゃあ、ここから一緒に出て、僕の家においで」


「えっ……?」


「僕の家、使用人少ない。だから、レオが来てくれると助かる」


「……」


 信じてもいいのだろうかと、レオの目がクオンに向く。

 このままここにいればどうなるのか、レオも分かっているのだろう。


 甘言で誘惑しているような心苦しい気持ちになるが、クオンは止めない。


 大人として子供を守る。


 クオンはもう、この国の貴族だ。


 遠慮など、かなぐり捨てた。


「僕、料理得意なんだ。だからね、レオ、ウチに来たら美味しい物をたくさん食べさせてあげるよ。約束」


 そう言って手を差し出せば、レオの喉がごくりと鳴った。


 そしてレオは恐る恐るだがクオンの手を取ってくれたのだった。

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、良いね、評価など、応援もありがとうございます。


ああ、今日から満員電車が始まるのですね……

皆様頑張りましょう。


レオは年齢よりも小柄で天使イメージの男の子です。

黄色い髪でくるっとカールしているかな。

目は濃い青かな。

と勝手にイメージ。

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