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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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クオンの仕事

 瘴気の浄化の旅へ自ら行くと決めたクオン。


 その準備のため、クオンは週三回王城へと足を運び、午前中にキーランの授業を受け、午後からは魔石を空にする作業を行うようになっていた。


 空の魔石には、どんな種類の魔法でも込めることができるという。


 クオンが魔力を抜いた魔石に、魔力の強いキーランとアリスが魔力を込める。この二人の魔法であれば魔力の純度が高く、より質の良い魔石になるからだ。


 光魔法の魔力注入はアリスが行い、そのほかの魔法はキーランが込める。


 これまでのキーランの実績や魔法の練度、そしてアリスの光魔法の強さを考えての配分なのだが、一番数をこなさなければならないのは、当然すべての魔石を空にするクオンだ。


 不測の事態に備えた攻撃魔法の魔石や、浄化に向かう者たちを守るための魔石。


 そして瘴気を浄化するための魔石も、多ければ多いほど良いとなれば、その数は物凄いことになる。


 魔石は腐るものではないため、いくらあっても邪魔にはならない。


 先日の遠征で人型の瘴気魔獣に出会ったこともあり、慎重に準備が進められる中、一緒に王城へ通うホセとジミーは胃を痛める毎日だった。


 平民が多い第六騎士団出身の二人。


 本来なら、こんなにも頻繁に王城へ通うことになるはずはなかった。


 クオンの護衛の仕事を始めた当初、二人が任されたのは、貴族の屋敷に滞在中の評判の悪い貴賓者の守りだと言われていた。


 誰も就きたがらない仕事で、本来要人を警護する第二騎士団さえも断った仕事。


 面倒ではあるけれど、問題があっても評判の悪い相手ならば大丈夫だろうと、二人は気楽に考えていた。


 それなのに今や、陛下や王太子殿下とも顔を合わせるほどの立場になってしまった。


 数か月前には考えられなかった出世だ。


 給料も段違いに上がり、階級まで王族の私有地に入れるほど上がってしまった。


 過去の自分たちに話しても、きっと信じないだろう。


 陛下から直接「クーオン様の守りを頼むぞ」と声を掛けていただいた時など、体が震えたほどだった。


 クオン自身がジミーになつき、ホセのことも弟のように可愛がってくれているため、陛下からの信頼も厚い。


 だからだろう。


 最近では「第六騎士団のくせに」とやっかむ声も聞くようになった。


 平民出身だから仕方がない。


 そう思っていた二人だったが、「胸を張りなさい。あなた達を選んだのはクーオン様自身なのですよ」とキーランに言われ、考えを改めた。


 自分たちが守る相手は、馬鹿にされるような方ではない。


 そして、自分たちはクオンに認められたのだ。


 文句があるならかかってこい。


 そう開き直れるようにもなった。


 残念ながら、見るからに弱そうに見えるクオンを未だに馬鹿にする者はいる。


 キーランの睨みで黙る者もいるが、聖女のおまけだと噂していた者たちの中には、未だに納得できない者もいるらしい。


 公にクオンを馬鹿にしていた者たちがどうなったのか気づきもしない愚か者たちだ。


 そんな輩の相手を正面からすることさえ馬鹿らしく、結局は陰口だけなのだろうと開き直れるようにもなった。




「クオン、すみません。今日はまだ仕事が終わらなくて……。物凄く残念ですが、一緒に帰れそうにありません……」


「クレオ、忙しい? 気にしないで。じゃあ僕、先に帰ってご飯の準備してるね。クレオ、お仕事頑張って。早く帰れるようにって応援してる」


「はい! 全力で頑張りますね!」


 王城へ通う日は、クオンは必ずクレオに声を掛け、一緒に帰る。


 もちろん毎回一緒に帰れるわけではない。


 クレオは女性であり若くもあるが、一隊を率いる隊長職についている。定時に帰れない日もある。


 そんな日は、クオンは人目を気にすることなくクレオを抱きしめ、ニコニコと笑顔を振りまく。


 そして二人を見つめる隊員たちに手を振り「クレオをよろしくね」と、いらぬ声掛けまでして帰路につく。


 きっとクレオのいる隊員たちの結婚相手への希望は、クオンを見るほど高くなるだろう。


男女(おとこおんな)」と馬鹿にされていたクレオが、見るからに優しそうで素敵な旦那様を手に入れたのだ。


 いつか自分たちにもそんな相手が……。


 と、叶わぬ願いを持ってしまっても仕方がないことだとホセとジミーは思う。


 彼女たちの結婚が遠のかないことを祈るばかりである。




「クーオン様」


「ん? ジミー、どうした?」


「あそこ、見えますか? 屋敷の門近くに車輪が壊れた馬車がいるんですよ。俺たち、ちょっと手伝ってきてもいいですかね。邪魔なんで」


「ああ、本当だ。大変そう。商会の馬車かな? 心配だね」

 

 大型の馬車が道の端に寄り、立ち往生している。


 屋敷まではもうすぐ目の前で、門も見えている。


 だから自分は心配いらないと、クオンはホセとジミーに「助けてあげて」と声を掛けた。


 流石に屋敷まであと数秒という距離で、襲ってくる者はいないだろう。


 このまま通り過ぎてもよかったが、あの屋敷の者が不親切だと、クオンやクレオの評判を下げる可能性もある。それは避けたかった。


 それに、クオンの屋敷の両隣には王家の守りとキンリー家の守りがいる。


 クオンは御者役のアルマンと共に屋敷へ戻る方が安全であり、それは本人も納得の判断だった。


 何より、クレオが帰ってくる前に美味しい料理を作っておきたいという気持ちがクオンは強かった。




「おい、大丈夫か?」


 ホセが商会の馬車の責任者らしき男に声を掛ける。


 馬車には街の商会の看板が掲げられており、作為的なものではないことを再度確認する。


「ああ、騎士様。お声掛けありがとうございます。急に車輪が外れてしまいまして……」


 荷物が重すぎたのかもしれない、と責任者は続ける。


 ジミーは頷き荷台の荷物に視線を向けた。


 確かに荷物は多い。


 だが馬車自体はそれほど古くはない。

 簡単に車輪が外れるとすれば整備不良だ。


 ホセも同じ結論に至ったのだろう。

 馬車全体を確認してみると視線でジミーに合図を送ると、馬車へ近づいた。


「最後に点検したのはいつだ?」


「はい。長旅の前には必ず点検しておりますので、一週間前ですかね。急にガクッとしたので、大きな石でも踏んだのかと思ったのですが……こんな場所に石など落ちているはずもありませんしねぇ」


「ジミーさん!」


 話の途中でホセがジミーを呼んだ。


 ジミーは責任者に断りを入れ、ホセのもとへ向かう。


「ホセ、どうした!」


「これ! これ見てください!」


「これは……」


 車輪には鋭利なもので傷つけられたような跡があった。


 普通に走行していてできるものではない。


「あの、こんなのが近くに落ちてまして」


 御者が差し出したのはナイフだった。


 もしこれを投げて車輪を止めたのだとすれば、相当な手練れだ。


 しかも、今日この時間にクオンがこの道を通ると知っていた上で、狙った可能性が高い。


 商会は利用されただけであり、だからこそ不審な点がなかったのだ。


 ホセとジミーの顔から一気に血の気が引く。


「「クーオン様!!」」


 二人の意識から、目の前の馬車は完全に消えた。


 すぐさま馬に飛び乗り、屋敷へと駆ける。


 馬なら一瞬で着く距離。


 それなのに、その時間が異様に長く感じられた。


「アルマン! いるか?! アルマン!!」


 門に到着するが、いつも門を開けているアルマンの姿がない。


 馬車を片付けに奥へ行っているのだろうか。


 そうであってほしいと願いながら、自分たちで門を開ける。


「クーオン様! いらっしゃいますか?! 返事をしてください! クーオン様!」


 屋敷へ駆け込み、大声でクオンの名を呼ぶ。


 しかし返事はない。


『ホセ、ジミー、お帰り。馬車はどうだった?』


 いつもなら、そんな声が返ってくるはずだった。


 だが、今は何もない。


 屋敷の中は静まり返り、まるで主の不在を嘆いているかのようだった。


「ジミーさん! 留守番していたエラは?!」


「そうだ! エラも探せ! アルマンと馬車も無事か確認するぞ!」


「はい! 俺は馬車を見てきます!」


 ホセは外へ走り、ジミーはクオンの部屋へ向かう。


 勢いよく扉を開ける。


 整然と片付いた、クオンらしい部屋。


 出かける前と何一つ変わっていない。


 それが逆に恐ろしい。


「クソッ、俺たちのせいだ!」


 部屋を探るが、クオンの痕跡は何もない。


 自責の念に駆られながら階段を駆け下りる。


「クーオン様! エラ! アルマン!」


 屋敷中を叫びながら探す。


 怪しい点はほとんどない。


 ただ一つ、キッチンにクオンの上着が置かれていることだけが異様だった。


「エラ!」


 掃除道具置き場の扉を開けると、女性の足が見えた。


 近づくと、それがエラだと分かる。


「エラ、エラ! しっかりしろ!」


 頬を軽く叩くと、エラはゆっくりと目を開けた。


「ジミー……?」


「何があった?! クーオン様は!?」


「城の……使いの方が来て……」


「城の使い?」


「ええ……クーオン様が忘れ物をしたと……でも、その後から記憶が……」


 薬を嗅がされた可能性が高い。


 クオンとクレオの穏やかな生活を守るため、屋敷の人員を減らしていたことが裏目に出た。


 まさか留守中に侵入を許すとは。


 両隣の守りも、クオン不在で油断していたのかもしれない。


 城の使いの証明書も本物だった可能性がある。


 ジミーは歯を食いしばった。


「ジミーさん! アルマンがいました!」


 ホセがアルマンを背負って戻ってくる。


 アルマンの顔には戦闘の痕が残っていた。


 クオンからもらったお守りのおかげで命は助かったらしい。


 ドルチェが敵を蹴り飛ばしたことも幸いしたようだ。


 まずは無事を喜ぶべきだが、今はクオンの行方が最優先だ。


 それを理解したアルマンはジミーが問う前に答えてくれた。


「申し訳ございません、クーオン様は、先に屋敷に入りました」


「クソッ! クーオン様!!」


 ほんの数分。


 目を離した一瞬。


 その隙に、クオンは攫われた。


「ホセ、隣に知らせるぞ!」


「はい!」


 だが、嘆いている時間はない。


 ホセとジミーはクオンを取り戻すため、両隣に住む王家の守りとキンリー家の守りへ向かって駆け出した。

おはようございます、夢子です。

お盆休みが最終日の方も多いと思いますが、夢子は今日から仕事です。涙

どうぞ一日無事に頑張れますよう皆さま夢子にパワーを下さい。


クオン消えました。

さあ、クレオが活躍する場が待っていますよ。w

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