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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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まさかの結婚

「クーオン様、結婚しましょう」


「「はああ?!」」


 こちらの意思など関係なく、聖女召喚され呼び出されてしまった国で、聖女に付きまとう『おまけの男』として毒を盛られたクオンは、王太子であるデーヴィッドに自分たちを守ってくれる味方が欲しいと相談をした。


 そしてそれから数日後。

 部屋にやって来たデーヴィッドに言われた言葉は、想像とは違うものだった。


『【けっこん】? あれ、俺ヒヤリング間違えてる?』


『ううん、くう兄あってるよ、私も結婚って聞こえたもん』


『だよなー』


 誰かを友人として紹介してもらえるとか、護衛の騎士を付けられるとか、そんな感じのことを想像していたクオンは驚きしかない。


 結婚。


 この世界に飛ばされる前、その内、いつか、たぶん、きっと、自分も結婚するだろうなーぐらいにしか考えていなかった、結婚。


 全く身に近いものではなく、遠い未来に想像していたものでしかない、そんな言葉。

 これまで深くも真剣にも考えてこなかった()()を提案され、クオンはただただ驚くしかなかった。


『えっ? 結婚? 結婚って、異世界人の俺とこの国の誰か、女の子が結婚するってこと? それは流石に相手に悪いだろう?』


 ヒヤリングは大分できるようになったが、正直今のクオンにこの世界の言葉で驚きを表現できるスペックはない。


 クオンの本心は、聖女としてこの世界に呼ばれ、どんな言葉も分かる特典持ちの姪アリスに通訳してもらう。


「いえ、相手に悪いなどということは無く……聖女様と縁を作れる結婚とあれば多くの貴族家が手を上げますし、喜んで娘を捧げる家もあるでしょう」


「娘を捧げるって、最低ー」

『?』


 デーヴィッドの話を聞きアリスの顔に嫌悪感が浮かぶ。

 自分(おまけの男)との結婚はそこまで酷いものなのか? と心配になっていると、デーヴィッドが咳ばらいをし話をつづけた。


「コホンッ、あー、ですが、私としてはそう言った欲まみれの家ではなく、信用できる家の令嬢とクーオン様には縁を結んでいただきたいと思っております。その第一候補として結婚相手は私の妹が良いと思うのですが、クーオン様いかがでしょうか?」


『えっ? デーヴィッドの妹って……王女様のアイラちゃんのことだろう? 絶対にダメだよ、アイラちゃんはありすと同じ歳じゃないか、頼むから俺を犯罪者にしないでくれよ!』


 デーヴィッドとしては側妃の娘アイラとクオンを結婚させ、側妃側の貴族を全てクオンの味方にし、いずれは王家から聖女の叔父としてクオン自身が爵位を賜り、王都の屋敷で暮らせばいいとそんな構想があるようだった。


 アイラ王女は今現在十六歳。

 この国では十五歳で成人となるので、クオンとの結婚には何も問題は無い。


 それに貴族女性は十代での結婚が当たり前、その上自身の意志は関係なく家の主(父親)が決めた指示に従うことも当然。


 なのでアイラ側には何にも問題ないと言われたのだが、クオンの常識が無理だった。


『ちょっとまってよ! 少し前まで中学生だったぐらい子と俺が結婚できるわけがないじゃないか!』


 デーヴィッドには白い結婚でもいいと提案をされたが、そういう問題ではない。

 十代半ばの女性を自分の妻にする。

 その価値観が常識が、クオンには無理だった。


『デーヴィッド、も~し訳ないけれど、結婚相手は絶対に二十歳以上にして欲しい! 俺はそこだけは譲れない! あと偽装結婚でも俺は全然かまわないから友達みたいに過ごせる相手が良い!』


 アイラとの結婚話のせいで、結婚自体に嫌悪感は無くなっていた。

 それにどのみちこの世界にいるのならば、見方がいなければまた何かに絡まれる可能性はある。

 聖女の力が効かないクオンは、自分自身で身を守るしかないのだ。


「容姿とかのご要望はございますか?」


『いや、容姿とかは俺が何か言う権利は無いと思う……それよりも俺との結婚の条件を無理矢理じゃなくてちゃんと呑んでくれる人なら、それだけで十分だから……』


「分かりました」


 結婚相手に求めるものは友好的な関係を築ける相手。


 デーヴィッドにそんな提案をしての数日後。

 クオンのお見合いの日取りがあっという間に決まり、遂にお見合いの日を迎えた。


 そして、かなりの緊張からドキドキしてお見合いの日を迎えたクオンの前に現れた女性は「カッコいい」としか言えない、騎士そのものな女性だった。


「初めまして、クレオ・キンリーと申します。キンリー侯爵家次女であり、騎士として男爵位も賜っております。どうぞ本日は宜しく願い致します」


 胸に手を当て騎士の礼をするクレオ。

 赤茶色の長い髪を後ろで一つにまとめ、濃い緑の瞳をしっかりとクオンに向ける。


 その姿勢が、声が、動きが、すべてに品があり、騎士らしいクレオの姿には感嘆しかない。


(凄い、凄い、カッコイイ系女子だ。めっちゃ美人だし、何より仕事できそう!)


 でもこんなにもカッコいい女性が、本当に自分(おまけの男)との結婚を受け入れてくれたのか? と正直ちょっと不安になる。


 自分の噂の中にはかなり悪意のある酷いものもあると聞いている。


 もしかして騎士として上司の指示に従っただけとか、親の命令に従うしかなかったとか、王家からのお願いに断りようがなかったから嫌々受けた、のではないか? とそんな不安がクオンの中に広がっていく。


「クレオ、良いの? あー、迷惑かかる?」


 クオンの心配はクレオも抱えていたようで、二人きりになるとどちらからでもなく、本当に結婚をしていいのか? と問いかけ合った。


「私は可愛い訳でも令嬢らしい訳でもありませんし……それに騎士として働く私はいい嫁にはなれないでしょうし……」


 こんなにもカッコいい女性のクレアが、自信なさげにそんなことを言う。

 どうもこの国の男性は女性を下に見る風習があるようで、クレアの自尊心も低い気がした。


 クレアは立派に自立したカッコいい女性でありながら、本当に自分が結婚相手で良いのかと不安そうだ。

 それに容姿も可愛くないだとか、女の子らしくないだとか……

 一体誰がクレアにそんなことを吹き込んだのかは分からないが、怒りしかない。


 それと完璧女子に見えるクレアが、控えめなことを言う姿が可愛くないはずがなかった。


「クレオ、カッコいい、素敵、美人、最高、問題ない!」


 この国の言葉がちゃんと喋れないことが悔しくて仕方がない。

 もっとちゃんとした語彙力があれば、クレアを一瞬で笑顔に出来るのにとそう思ってしまう。


 けれど視線が合ったクレオはどこまでも美しく笑っていて、笑顔で「有難うございます」と言われ、クオンの胸は何故か高鳴った。







『くう兄、クレオさん綺麗な人だったね』


『うん』


 夜になり、クオンはアリスと話をする。

 異世界に来てからのそれが当たり前の日常。

 お互いが不安にならないための行動ともいえる。


 けれどきっと、クオンとクレオが結婚すれば、今のようにアリスと気軽に会うことは出来なくなるだろう。


『正直、令嬢って感じの相手でなくてホッとしてるよ。あまり気を遣わずにシェアハウスが出来そうで良かった』


『ホントだねー、こっちの女の子達ってみんな大人しいもん、気を遣うよねー』


 異世界に来てそれほど令嬢に会ったわけではないが、城の中のメイドや王女であるアイラを見ていれば分かる。


 深窓の令嬢そのもの。


 そんな子たちと同居しろと言っても何を話していいか、どうしていいか、一般ピーポーなクオンには全く分からなかっただろう。


『ありすを一人にさせちゃうな……』


『ううん、私は大丈夫。デーヴィッドもいるし、アイラとは友達になったし、それに聖女様に手を出す人もいないしねー』


『ごめんな……』


 情けない叔父で申し訳ない。

 けれど『おまけの男』とは離れた方がアリスも安全で、何よりクオンを狙うものも減るはずだった。


 それにデーヴィッドはアリスがお忍びでクオンとクレオの屋敷に遊びに行くことを認めてくれている。

 その条件ならばアリスもそこまで寂しさを感じないだろうし、心細さもないはずだ。


 クオンが傍にいればいるほどアリスの迷惑になるのならば、今は離れて暮らすしかないとそう思っていた。


『ウフフ、新婚さんのお邪魔にならないようにしなきゃなー』


『新婚さんって……ありす、クレオさんと俺は偽装結婚だから、そんな気を遣う必要なんてないんだよー』


 クレオとクオンの結婚は、白い結婚で本物ではない。

 だから新婚だとか、甘い時間だとか、そんなものはないのだからと、そう姪っ子に伝えると、アリスの顔には明らかに呆れたものが浮かんでいた。


『はぁ~、くう兄、そんなんだからダメなんだよ。偽装結婚でもなんでも結婚は結婚でしょう? クレオさんがいない時に私を家に呼んだりしたらダメだからね! 絶対だよ!』


『えっ? なんで?』


『あのねー、たとえ姪っ子でも自分の家に知らない間に他の女の子が来てたら嫌なものなの。そういうとこ、ちゃんと気を使ってあげてよねー』


『アハハハハ、はいはい、分かった分かったよー』


『もう、くう兄、絶対分かってなーい』


 異世界に来てからというもの、言葉が分からないクオンは子供なアリスにずっと気を使ってもらっていた。

 意思疎通が上手く出来ないクオンにとって、アリスは心の支えだった。


 でも今後は騎士として働くクレオの支えにクオンがなる番だろう。


 それと聖女としての重責を担うことになったアリスの逃げ場に、自分の家がなればいいなとそう思う。


『俺も何か仕事を見つけないとなー』


 クレオと結婚したら、クオンが家事を担おうとは思っている。

 けれどそれだけではダメだ。


 言葉が分からなくても、何か自分が出来ることを見つけたい。

 それが制限がある中では難しいことは分っているが、どんなことでもいい。

 自分が出来ることを見つけたかった。


『でもまずは新しい生活に馴染めるようにしないとだな……』


 クレオと平等な立場で、同士でいたいなら、甘えるばかりではいけないと、クオンは予期せぬ異世界での結婚を前に、そんな決意を持ち始めていた。


こんにちは、夢子です。

今日も投稿できました。


このお話から「」が異世界のセリフ、『』がクオンたちの世界の言葉になります。

宜しくお願い致します。

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