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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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3/3

お見合い

 遂にクレオと『おまけの男』と呼ばれる青年とのお見合いの日を迎えた。


 王太子デーヴィッドに連れられ聖女と共にやってきた『おまけの男』は、聞いていた噂やクレオが想像していた相手とは全く違った。


「はじめまして……『大音久遠』……あー、クオン・オオオトです。どうぞ、よろしく」


「「「「……」」」」


 挨拶を行う『おまけの男』を見て、クレオだけではなくキンリー侯爵家の全員が笑顔で驚きを隠す。

 貴族として平静を装う教育を受けていて良かった、家族皆そう思ったことだろう。


 『おまけの男』の肌の色は、透明感があり瑞々しさまである不思議な象げ色の肌。

 そして髪の色は聖女の象徴ともいえる艶やかな漆黒色。


 成人した男性でありながら体の線は細く、少年がそのまま大人になったかのよう。

 黒く水晶のように透き通る瞳は、どこまでも美しく見ているだけでも酔ってしまいそうだった。


(これは……色んな意味で危険な男性だ……)


 異世界の男性だ、当然こちらの世界の男性とは違うと頭では分かっていた。

 歴代の聖女の書物を読めば、成人しても少女のような可愛らしさがあったと書いてあったのだ、それが男でも同じであっても可笑しくはない。


 手を差し出し、クレオに向けて柔らかに笑う笑顔はどこまでも優しいものだ。

 その上たどたどしい言葉が庇護欲をそそる。


 『おまけの男』ではなく『清らかな青年』。

 その言葉がピッタリな容姿は、人を惹きつけるすべてを持っているかのようだった。


 

「クーオン・オット様、初めまして、クレオ・キンリーと申します。キンリー侯爵家の次女であり、国を守る騎士として男爵位も賜っております。どうぞ本日は宜しく願い致します」


 差し出された『おまけの男』の手を軽く握る。

 その手は手入れが行き届いて白魚のよう。

 クレオが本気で握れば潰れそうで怖いぐらいだ。


 クレオは視線だけで父と会話をする。

 なぜおまえに話が来たか分かっただろう? と父の目がそう言っているようで頷くしかない。


 これは命を懸けて守らなければいけない、ある意味聖女よりも危険な人物だ。


 クレオはクオンを一目見ただけでそう感じていた。



「キンリーさーん、あー、僕のことは、【久遠(くおん)】と気軽によんでください」


「はい、有難うございます。では、クーオン様もどうぞ私のことは()()()とお呼び下さい」


「ありがとー、あー、クレオは、とても、かっこいいですねー」


「「「「えっ?」」」」


 突然の誉め言葉に、クレオだけではなく案の定家族全員驚いた顔となる。

 この国の男性の誉め言葉は何かに例える比喩がほとんど。

 今回ばかりは貴族の習慣で驚きを隠せはしなかった。


 騎士であるクレオに向ける褒め言葉としては「森の静けさのよう」だとか「月夜の明かりのような」などが多い。率直な言葉で本心を隠さずかっこいいとハッキリ答えるクオンに対し、クレオは益々危険さを感じてしまう。


(見た目は大人なのに子供のような無垢さがある……)


 聖女と同じような顔でニコニコと笑うクオンに動揺しながらも、クレオは一つ咳ばらいをすると家族の紹介を行う。


「んんっ、クーオン様、えー、こちらがキンリー侯爵である私の父アトラス・キンリーと、そして母のグレース、姉のオーロラでございます」


 キンリー侯爵家の皆がクレオの紹介と共にクオンに向け頭を下げる。

 それを見て聖女とクオンも何故かぺこりと頭を下げた。


 怠慢な性格だと言い出したのはいったい誰なのか。


 王と同じ立場だと言われる聖女とクオンの平身低頭な動きはそっくりだった。


「キンリーの皆さま、はじめまして、あー、めいの、【井道ありす】、アリス・イドウ、あー、僕の、大事な、家族です」


「初めまして、聖女のアリス・イドウです、宜しくお願い致します」


 聖女とも初めて顔を合わせたがとても可愛らしい少女だ。

 クオンの姪だと聞いていたが、やはり顔つきが似ている。


 黒髪黒目は当然だが、愛らしい雰囲気は聖女らしい風貌。

 歴史の中に残る言い伝え通り、無垢な少女そのものだ。


 だからこそ手に入らない聖女ではなく、クオンへと手が伸びるのも当然で、国王が危惧する気持ちにクレオは頷けた。


「では、二人での時間を楽しんで下さい」


 デーヴィッドがそう言い、クレオとクオンを残し皆が部屋から出て行った。

 聖女が心配そうにクオンのことを見ていたが、クオンは笑顔で「大丈夫」だと頷いて見せた。


 まだ言葉も完璧ではなく、この国の風習にも馴染めておらず、その上この見た目ならば心配するのは当然。クレオも聖女の気持ちが分かるようだった。




「お見合い、ムリ言いました、すみません」


「いいえ、理由はちゃんと理解しておりますし、陛下や王太子殿下のお気持ちは分かっておりますので……」


「ありがとー、クレオ、優しいねー」


 愛想よくニコリと微笑むクオン。

 この国の男性は仏頂面が標準なので、その可愛らしい笑みには脅威まで感じてしまう。


(教会の者がこの笑顔を見たら何をするか……)


 クレオにはクオンが攫われる未来しか見えない。

 このままでは人の出入りの多い王城にいれば、クオンはその内簡単に誘拐されてしまうだろう。


 クレオは覚悟を決めた。


「クーオン様、白い結婚で良いと仰っていましたが、その言葉に間違いはないですか?」


「白? 結婚? あー、偽装結婚のこと、ですね? 【オッケー、オッケー】 間違いないです」


「そうですか……分かりました。でしたら私は今回のこのお話をお受けしたいと思います。ただ、その、クーオン様は結婚相手が私で本当に宜しいのでしょうか?」


「えっ?」


 騎士であり高位の令嬢でもあるクレオには、そもそも断る選択肢はない。

 王命ではないが、王命に近いこの結婚。

 家の為に尽くすことが令嬢の役目。

 そして王の為に身を盾にするのが騎士の役目だ。


 けれどそれより何より、今日クオンと会ってクレオの決意は固まった。

 この国の為にも、聖女の為にも、家族であるクオンを守ることは必須。


 きっと聖女はクオンが攫われ、他の国に連れていかれた場合、どんなことをしてでもそこへ向かうだろう。

 それは教会相手でも一緒のこと。

 聖女をこの国に留めておきたいのならば、クオンの安全は不可欠。


 騎士として侯爵家の娘として『クオンを守る役割』をクレオは担う覚悟を持った。


 ただしそれはクレオの勝手な決意、クオンはどうかは分からない。

 可愛らしい令嬢を相手にと望んでいたのに、大柄で全く可愛げのないクレオがお見合い相手として現れた。

 それは断るには十分の要素だった。


「クレオ、良いの? あー、迷惑かかる?」


「迷惑だなんてそんなことはありません、キンリー家としても聖女様と縁が繋がれることは喜ばしいことですので」


「ほんと? いい? クレオ、無理してない?」


「無理をしてなどおりません、クーオン様の方が、その、こんな見た目の私で本当に良いのか……」


「見た目?」


「はい、私は可愛い訳でも令嬢らしい訳でもありませんし……それに騎士として働く私は良い嫁には絶対になれないでしょうし……」


 自虐でもなんでもなく、クレオの言葉は世間の評価だ。

 男性社会と言える騎士の中、数少ない女性騎士のクレイは結婚相手としては望まれない。


 それに王族の女性を守る役目を担うことの多い女性騎士は、女性だからと、実力で取ったものではないと、そう卑下されることも多いのだ。


「いい、ヨメ?」


 それをそのままクオンに伝えれば、言葉が分からないのか、それとも意味が分からないのか、クオンはキョトンとした子犬のような顔をしていた。


「クレオ、カッコいい、素敵、美人、最高、問題ない」


「クーオン様……」


「クレオ、真面目、いい人、信じられる、あー、デーヴィッドも同じ、信じられる、言ってた」


「……有難うございます」


 覚えたての言葉で精一杯クレオを褒めようとしてくれるクオンの優しさが、胸に広がっていく。


 きっとこの結婚は上手くいくだろう。


 何故ならクオンはクレオを一人の人間として見てくれる。


 今日初めて会ったはずのクオンの傍は、どこまでも温かだった。






「クレオ、本当にこの話を進めていいのだな?」


「はい、父上、クーオン様との結婚に異論はありません。彼のことは私が必ずお守りいたします、クーオン様はそれに値する方です」


「そうか……お前が決めたのなら反対はしない。そもそも話を持ってきたのは私だからな……」


「はい、父上、宜しくお願い致します」


「ああ」


 帰りの馬車の中、クレオは父の問いかけに正直に答えた。


 悪い噂を聞きあれだけ心配していた姉や母も異論はないらしく口を挟まない。


 クレオの気持ちを尊重してくれているのだろうが、クオンを保護対象者だと思った気持ちはクレオと同じだったらしく、頷いてくれている。


「聖女様は当然ですけれど……クーオン様もとても眩い方でしたわねぇ……」


「ええ、悪い噂が立った理由も嫉妬や羨望からでしょうか……クーオン様が気の毒でしかありませんわ」


「ああ、そうだな。聖女様はともかく、おまけのクーオン様ならばどうにかすれば手に入れられる、そう思った者も多いのだろう……ならば悪い噂を流し本人が城から出たくなる状況を作るのが一番手っ取り早い、ここだけの話、クーオン様は毒を盛られたこともあるそうだ」


「毒!」

「そんな」

「なんてことでしょう……」


 あの幼さが残るような笑顔からは、そんな危険な目に合ったような影は見えなかった。


(クーオン様は思っているよりも強い方なのかもしれないな……)


 恐ろしかったはずだし、この国を怖がっても可笑しくはないはずだ。

 けれど今日会ったクオンはどこまでも穏やかで、クレオへ気遣いを見せる鷹揚さも見せていた。


(あの若さであれだけの包容力を持つ人間など他にはいないだろう)


 クレオの中クオンの株がまた一つ上がった瞬間だった。


「とにかく、家族全員であの方を守らなければな」


「はい、必ず」

「ええ、私たちも協力いたしますわ」

「ええ」


 聖女のおまけと言われる男は、こうして運命の出会いを果たし、安心できる後ろ盾を手に入れたのだった。


こんばんは、夢子です。

今日も投稿できました。


明日は魔法塔を投稿します。

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