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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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登城

 今日、クオンは王城へと登城していた。

 勿論クレオも一緒だ。


 一般貴族なら緊張しそうな場面だが、クレオがいるというだけでクオンは安心できる。

 それほどクレオのことを頼りにしているということだが、クレオが嫌な顔をしないので遠慮なく甘えさせてもらっている。


 本日のクオンは普段城へ上がる時のような、アリスに会うためのお忍びでの登城ではなく、国王から招待された正式な登城だ。


 それも陛下の()()を治したことで、多くの貴族の前で褒賞を受けるのだという。


 正式な衣装をキンリー侯爵家に用意してもらったクオンは、成人式ではなく七五三のお祝いのようだと自分の姿に苦笑いを浮かべながらも、同じく正装に身を包んだクレオと共に夫婦で城へと向かった。


「クレオの騎士の正装、カッコいいね、僕とは違う」


「そうですか? 褒めていただけて嬉しいですが、クオンもとても可愛……んんっ、カッコいいですよ、似合っています」


「……そう? ありがと、じゃあ、半分信じる」


「フフフ、半分なのですか? 妻である私の言葉なのですから全面的に信用して下さい」


「……はい……前向きに検討します、ありがとー、ございます」


「アハハハ、また変な言葉を使ってー」


 クオンの正装が似合っていることは噓偽りなく本当のことだが、クオンが可愛いのも事実である。

 

 大人の夜会に少し背伸びした青年が出席するような初々しい姿のクオンを見て、クレオの頬が自然と緩む。


(私の夫が可愛い、可愛い、可愛すぎる)


 クレオの脳内が急に語彙力に乏しくなるが、そこは仕方がない。

 可愛すぎるクオンがいけないのだと、クレオは開きなおった。



「クオン着きましたよ、さあ、お手をどうぞ」


「ううう……ありがと、クレオ無駄にカッコいい……」


「フフ、また言ってますね……さあ、胸を張ってください、私の夫殿」


「はい、頑張ります、僕、クレオの自慢の夫になる!」


「フフフ、その意気ですよ」


 今日はクオンが主役ということで、騎士のクレオがクオンをエスコートし城の中へと進んで行く。

 これまでさんざんクオンの悪口や陰口を言っていた貴族は、今日城にはいない。


 クオンの立場がしっかりとしその能力が認められため、何かを言うものは居なくなった。いや居られなくなった……というのが正しいかもしれない。


 寄り親貴族に倣いクオンを下に見ていた使用人たちは、デーヴィッドの手によって既にクビを切られている。

 城を解雇された使用人に新しい就職先など見つかるはずもなく、彼らの未来は暗いものとなっている。当然の結果だ。

 そしてそんな彼らがどう動くかは、王家の手の者に見張られてもいる。


 城内で悪い噂を流せと指示をした貴族家へ向かえば、どこが王家と敵対する家なのかがハッキリと分かるだろう。


 それも狙っての首切り、王家がどれ程怒っているか分かるもの。


 聖女の叔父であるクオンを、何も知らないまま蔑み笑い者にしたのだ。

 それも国王が弱っている時を狙っての所業。

 許せるはずがなかった。


 クオンについた「おまけの男」という不名誉なあだ名を心優しいクオンが気にすることはないが、聖女を呼び出した責任がある王家は、後手に回ってしまったことを深く反省している。


 ヒューイットの()の件があったからとはいえ、もっとクオンに寄り添うべきだったと後悔ばかりだ。


 だからこそ最初に言い出した「敵」を王家は探している。

 毒を盛ったとされる教会の「大司祭ルキウスの勝手な行い」という言い訳を、そのまま鵜呑みになどしてはいなかった。




「クーオン・オット様のご入場です」


 クレオのエスコートでクオンが謁見の間へと足を踏み入れる。

 国中の貴族が注目する中、クオンはどこまでも落ち着いていて、王の座に座る国王ヒューイット・ウィズダムを見つめたまま前へと進む。

 

 余裕顔のクオンが心の中で「これは卒業式、いや、表彰式だぞクオン」と自身に言い聞かせているなど誰にも分からない。


 実は今日のこの日を迎える前、クオンは国王ヒューイットから直接お礼を言われ頭を下げられた。

 気にしなくていい、自分は出来ることをしただけ。

 慌ててそんなことを言うクオンの前で、ヒューイットは暫くの間頭を上げることは無かった。


 そして聖女アリスの癒しとキーランの治療により、ヒューイットの体はすっかり元に戻り、あともう少し太れば健康な男性、そう見えるほどに回復をした。


 瘴気に襲われた原因は、ヒューイット自身にも分からないようだ。

 いつどこで感染したのか、それはきっとクオンを蔑み王家を窮地に追い込もうとした犯人が見つかれば自然と分かることだろう。


 そんなヒューイットだがクオンの手によって体中の瘴気が払われたことはよく覚えており、クオンのことを命の恩人だと、何度も頭を下げて礼を述べた。


「あの、本当に、陛下が元気になって良かったです、僕はそれだけで嬉しいです」


「クーオン様……」


 何か礼を望むことも無く、笑顔でそう答えたクオンを見て、ヒューイットも笑顔を浮かべた。


 そして本来ならばクレオがいずれ爵位を受け貴族家を起こす予定だったところを、感謝の気持ちを込めクオンに爵位を授与し、家を興すことが急遽決まった。


 それにこの先クオンが瘴気を浄化をし、国を回ることは決まっている。

 その為クオンはもう隠れている身分ではなくなった。

 自らが貴族家の当主となり、瘴気から国を守る。


 それは王家の後押しにもなる行為。

 国民皆がクオンに感謝すれば、自然と王家の評価も上がる。


 統治者として当然の考えだが、それはクオンを聖女と同じ立場だと分からせるための処置でもあった。


「陛下、有難うございます、僕にも仕事出来ました。僕、それが嬉しいです」


 クレオと住む屋敷内の仕事を担当しているクオンだけれど、ニホンで社会人として働いていたクオンからすれば、エラのお手伝い程度の家事は仕事という感覚がない。


 子供が母親を手伝う程度の仕事しか出来ず、外で働くクレオに甘え切った生活。

 そこから抜け出し、やっと社会人として働ける。


 真面目で仕事熱心な国民性の血はクオンにもしっかり流れているようで、異世界での社会人としての居場所を見つけた、それが何よりのご褒美だった。


 だからこそヒューイットにここまで感謝されることもなんだか違う気もしていた。

 それに何より、クレオという女性との仲を取り持ってくれた王家には感謝しかない。


 頭を下げ礼を言いたい立場であるのはクオンの方だった。



「陛下の病を癒し、奇跡の魔石を作り出したクーオン・オット様に対し、伯爵位を授与します!」


 司会者の声掛けでクオンとクレオが陛下の前で頭を下げる。

 壇上には国王ヒューイット、王太子デーヴィッド、そしてアイラと、キーラン。

 それと聖女であるアリスが並んでいる。


 ここで本来は感謝の意をクオンが述べて終わるはずだった。

 けれどヒューイットは国中の貴族が集まる前、壇上から降りてクオンの前へと進む。


(あれ? 俺段取り忘れてる? お礼言う前になんかあったけ?)


 笑顔だけれど内心クオンは焦りまくりだ。

 

「クーオン様」


「は、はい」


 名を呼ばれ笑顔を向けられ、クオンは困惑しかない。

 王様へのお礼はいつだっけ?

 台本を忘れた役者のような心境だ。


 だがこのヒューイットの行動は、クオンに話せばきっと断られる、そう思っての未承認での行動だった。


「私を病から救って頂き、有難うございました」


「い、いえ、僕は……いえ、私はこの国に来てから、陛下にはたくさんの恩を頂きました。妻、クレオに会えたことは幸福以外の何物でもありません、なので当然のことです」


 謙遜するクオンの様子に会場内がザワつき始める。

 城内で悪い噂が流れていたことを知る貴族たちは、クオンが王家に感謝していると知って驚いたようだ。


 それに行き遅れに足を踏み入れていた、男女(おとこおんな)と呼ばれる令嬢との結婚をも喜んでいる。


 クオンは正直に答えただけなのだが、この国の貴族には理解できない言葉と行動に映った。


 うちの娘をクーオン様に……

 あの男女よりはウチの娘の方がマシだ。


 クオン相手にそう思い始めていた貴族たちだったが、クオンの言葉によって娘を紹介するなど無理だと悟る。クレオのような娘を簡単に用意できるはずもなく、ヒューイットの行動は貴族家への牽制も兼ねていた。


「伯爵位ではお礼には全く足りませんが、()()()()()()これ以上の物は貴方の足枷になってしまう。だがその時が来たら、貴方との縁を強固なものにさせて下さい、約束ですよ」


「? はい、有難うございます、今後も精進いたします」


 取り敢えずヒューイットの言葉が終わったのでクオンは予定通りの礼を言う。

 ヒューイットの言葉は少し早口で聞きづらく、その上知らない言葉もあって意味の分からない部分もあったが、取り敢えず台本通りに答えられたので大丈夫だろう。


 いずれクオンがこちらの生活になれたころに、ヒューイットが公爵位を受けてもらいたいと、そうと思っていることにクオンは気づいていない。


 今のクオンはこの世界の生活で精一杯。

 けれど伯爵位を受け、伯爵としての仕事を予行練習とし、公爵位に繋げる。


 浄化の旅を考えれば十年先の話になるかもしれない。

 それほど先の話だ。


 そもそも歴代の聖女は国王と同じ地位だと言われ、結婚後は公爵位を賜っているのだ。

 クオンがこちらの言葉をきちんと理解出来ていれば、今すぐにでも与えられていた爵位だろう。


 ヒューイットの言った通り今のクオンには重荷になる。

 だからこその伯爵位にとどめた。

 王家の心遣いをクオンだけが分かっていなかった。




「ねー、クレオ、なんか可笑しかったよね? えっ? これ【ドッキリ】?」


「フフ、可笑しくないですよ、クオン。凄く立派でした」


「そう?」


 疑問を抱えたクオンはクレオにそっと声を掛けたが、クレオは微笑み褒めるのみ。


 中級の立場である伯爵位ならば強気に出れると思っていた貴族家も、ヒューイットの言葉を聞いた今、気軽にクオンに手出し出来なくなるだろう。


 クオンを守るためのヒューイットの行動と言葉に、クレオは感謝しか無い思いだった。

 

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

また良いね、ブクマ、評価など、応援もありがとうございます。


最近執筆中はゆーちゅうぶを垂れ流ししています。w

話や音楽が流れていますが全く聞いていません。

だけどつけている方が集中できる、不思議ですねー。

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