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【完結】私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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アリスの本心

「くう兄、クレオ姉様、本日は呼んでいただき有難うございます。えへへ、遠慮なく遊びに来ちゃったよ、誘ってくれてありがとね~」


 キーランとの話を終えてから数日後。

 「偶には遊びに来ないか」とアリスをクオンとクレオの屋敷へ呼んだ。


 「絶対に行く!」と返事をよこしたアリスは、キーランを護衛役にし元気な様子で屋敷にやって来て、先日のような悲し気な顔が残っていないことにまずはホッとする。


 今のアリスは年齢通りの少女が浮かべるような楽し気な笑顔で、思い悩んでいる様子など微塵も見えない。


「えっと、実はさ、アリスに報告あって」


「えっ? なになになにー? くう兄が私に報告なんて、新鮮! ちょー気になるけど」


「あー、その、クレオと正式に結婚したんだ」


「えっ?」


「クレオにプロポーズしてオッケー貰った、僕たち本物の夫婦なんだ」


「え~~~っ!!」


 驚くアリスが面白い。

 こちらの世界の令嬢であればここまで感情を人前で晒すことは無いだろうし、アリスもクオンの屋敷だから気兼ねなく騒げているともいえる。


 まあ、今は聖女様としてではなく、クオンの姪っ子として屋敷に来ているので素が出ているのだろう。貴族令嬢としてはアレだが、元気なアリスらしくて可愛いと思う。


「お父さんたちにも、ちゃんと認めてもらった」


「ええっ! 早い、急展開だよ! くう兄、意外と肉食系だったんだね!」


 旅行の帰りにキンリー侯爵家へ二人で赴き、父に帰宅の報告と結婚の報告した際は「そうなると思っていた……」と言われクレオが驚いたぐらいだ。


 クオンへの気持ちは隠していたつもりだったけれど、何故かバレていたらしい……


 初めての恋、そして初めての恋愛経験で、クレオは何故自分の気持ちが家族にバレたのかはまったく分からないが、母も姉も大喜びではしゃいでいたので、結婚しないと言っていたころとは違い家族を安心させることが出来て、その上家族孝行も出来たようで、不出来な娘としてはそれも嬉しかった。


「えー! ちょっとまってー! くう兄の気持ちは分かってたけどさぁ。えー! クレオ姉様相手に上手くいったんだ! 凄いね、奇跡みたいじゃん! くう兄やっるぅ!」


「ハハハ、ありがと、誉め言葉だと思って、喜んどく」


「うんうん、おめでとう! クレオ姉様が本当のお姉ちゃんになってくれるだなんてすっごく嬉しい! みんなに自慢しちゃうよ! 私のお姉ちゃんはめちゃくちゃカッコいいんだぞって! へへへ」


 ニコニコ顔のアリスの言葉は本心からの様で、クレオはクオンの家族に認められてホッとする。

 女性らしくないクレオがクオンと結婚するだなんて、認めない! と言われるかもと、ちょっとだけ不安な気持ちになっていたことは仕方がないと思う。


 騎士としては自信があるクレオだけれど、女性としては全く自信がない。

 いや、貴族令嬢としては零点、そちらならば自信をもって答えられるだろう。


 だれどアリスが結婚を喜んでくれて、クオンも嬉しそうで、クレオは頬が緩むことを止められなかった。


「クレオ、良かった、これでずっと一緒ね」


「……クオン……」


 隣に座るクオンがクレオの手を取りニコリと微笑む。

 普段は可愛らしい印象のクオンだけれど、二人きりの時は思った以上に男らしく、突然触れられると色々と思い出してしまい、顔に熱が溜まるのが分かって俯いて頷くしか出来ない。


「もう、僕クレオ離さないよ、ずっとずっと一緒だからね」


「……はい……」


 目の前でアリスが「キャーッ」と小さな悲鳴を上げているが、それほど自分は酷い顔をしているのだろうか? 黙ったままのキーランの視線がどんどん冷たくなって行っている気がして、不安になってしまう。


「えっ……でも待って……クレオ姉様と正式に結婚したってことは……くう兄、ここに残るの? えっ? 二ホンに帰らないの? えっ? そうなの?」


 ニヤニヤしていたアリスが急に真面目顔になるとそんなことを言いだした。

 聖女の自分はともかく、二ホンへの帰り方が見つかったらクオンにはいずれ帰って欲しい、アリス()そう願っていたのだろう、心配げな瞳がクオンに向く。


「うん、クレオの傍が、僕の居場所。僕ここに残る、そう決めた」


「くう兄……それでいいの? あ、それかクレオ姉様を二ホンに連れて行けば……」


「それは無理。アリスだって分かるだろ? 王様が許可できる僕たちと違う。クレオ、戸籍持てない、この国だってあっちでは存在しない。それは凄く困る、結婚だって許可されないかもしれない」


「それは、そうだけど……」


 魔力が無く、毒にも襲われたことのあるクオンのことを、アリスはどうしても国へ帰したかったのかもしれない。クオンを見る心配げな様子は泣き出しそうにも見えて、クオンをこの世界に縛り付けてしまったクレオは胸が痛んだ。


『ありす、ここからはニホン語で話すけれど……』


『えっ? あ、うん?』


『ありすの本心を聞かせて欲しい、ありすはこの世界に残る意思があるのか? それとも国へ帰りたいと思っているのか?』


『……私は……』


 アリスをこの屋敷に呼ぶと決めてから、アリスと話をするときはニホン語になるだろうと、予めクオンに言われていたクレオは急な展開に驚くことはない。


 この場でニホン語が分からないのはクレオだけ、だけど話の内容は後でクオンが教えてくれるはずだとそんな安心感があるため、分からない言葉でも驚きはしない。

 それに顔を見れば表情だけでも伝わるものがある。叔父らしい顔つきとなったクオンは言葉に詰まったアリスにまた問いかける。


『ここに残るということは聖女のありすの結婚相手はデーヴィッド()()()になるだろう。王太子を差し置いて他の子息が立候補する勇気は無いと思うし、今のデーヴィッドとありすの仲の良さであれば、そうなるように周りが動くはずだ。ありす、ありすに王太子の妻になる覚悟はあるかい?』


『……』


 王太子の妻ということは未来の王妃。

 本来ならばまだ学生のアリスに国を背負う覚悟などある訳がない。

 黙って俯くアリスのその姿こそが答えだった。


『ありすはデーヴィッドのことは好きなのか?』


『……うん、好きだけど、恋かは分からない……ディは優しいし、頼りになるし、尊敬はしてるけど、結婚とか考えたことも無いし……』


『そうだろうね。ありすはまだ十六歳なんだ……結婚したいなんて即答したら全力で止めるところだったよ』


『もう、くう兄の馬鹿! だったら聞かないでよ、そんな事……』


 口を尖らせアリスがプイッと顔をそむける。

 子供っぽいその姿こそ本当のアリスなのだろう。

 聖女様として無理をしている王城での姿を見ると、呼び出した国の者としてクレオはまた胸が痛んだ。


『ありす、二ホンへ……姉さんと義兄さんのところへ帰りなさい』


『くう兄?』


『浄化の旅は俺が行く、だからありすは両親の元へ帰るんだ。ありすにはまだ親が必要だ』


『何言ってんの! くう兄残してそんなこと出来る訳ないじゃん! くう兄は魔法が使えないし、魔力耐性がないんだよ! そんな状態で浄化に向かったりしたら……死んじゃうかもしれないんだよ!! そんなことさせられる訳がないでしょう!!』


 涙目になりクオンの危機を訴えるアリスは叔父思いの姪っ子だ。

 ずっとクオンの体を心配し、この世界に馴染めるようにと心を砕いていたアリス。


 自分が聖女だからクオンを巻き込んでしまった。

 あの時手を伸ばしてしまったから、助けを求めたからクオンを巻き込んだ。

 ずっとそう思っていたのだろう。


 だからクオンを残し帰るなんて選択肢はアリスの中には無かった。

 帰るのならばクオン優先。


 聖女の自分は何年かかってもこの国の浄化を行わなければならない。

 そう自分を追い込んでいたように見える。


『ありす、君は未成年で学生だ。アルバイトならともかく、危険な浄化の旅に出るなんて、俺は許せない』


『……くう兄……』


『アリスにしか浄化が出来ないならば仕方がないって思っていたけど、そうじゃない。俺の力でも浄化が出来るとハッキリ分かったし、頼りになるキーラン先生もいてくれる。それに俺には家族も出来た、守るべきものがこの国にあるんだ。だからありす、ありすは安心して帰りなさい、姉さんが首を長くして待っているよ』


『……くう兄……』


『それに俺がいれば百パーありすを二ホンへ帰せると思うしね。ねっ、キーラン先生』


 ええと頷くキーランを見て「どういうこと?」とアリスが首を傾げる。

 けれどキーランから魔力を弾くクオンの能力を使うのだと詳しい説明を聞き、アリスも納得したようだった。


『……くう兄……私、帰っていいのかな……? 聖女なのに……』


 二ホンに帰れる希望が出来たアリスだけど、まだ半信半疑なのだろう。

 クオンに似た顔で上目遣いに首を傾げ、パチリとした大きな瞳を叔父(クオン)に向ける。


 相手がクオンでなければ気の毒になる可愛さだが、本人は無意識の様だ。

 二ホンという国の女性がこうも可愛いものならば、クレオがクオンに選ばれたことは奇跡のようにも感じる。


 聖女の純粋さを見ても全くノーダメージなクオンは、アリスに向け笑顔で頷いた。


『帰りなさい、聖女の仕事は俺が引き継ぐよ、大丈夫』


『くう兄……』


『叔父の力をもっと信用しろって、俺って意外とカッコいいんだぞ、おまえのお兄ちゃんだからな』


『もう、くう兄のバカ……』


 そう言ってアリスの頭を撫で叔父らしい笑顔を見せたクオンは、とてもカッコいいのだと、流石私の夫だとクレオは惚れ直したのだった。



おはようございます、夢子です。

皆様台風は大丈夫でしたでしょうか?

こちらはまだ少し風が強いです。

皆様お気をつけてお過ごしください。


キーラン、空気。

存在感ゼロです。w

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