デートか新婚旅行か
「クオン、すっかり乗馬になれましたね、素晴らしい上達ぶりですよ!」
「本当?! クレオにそう言ってもらえると嬉しい。練習、ホセとジミーにお願いして、頑張って良かった~」
乗馬を初めて二週間。
元々運動神経の良いクオンはすっかり馬に乗るのもなれ、家の庭だけでなくキンリー侯爵家の馬場でも問題なく馬に乗れるようになった。
これは教育馬としての自覚を持つドルチェの功績でもある。
彼はクオンを見た目通りの子供と思い扱い、大事に大事に教育した。それに大切な友クレオの頼みだ、必ず成果を出そうと意気込んでいた。
そんな馬心を知ってか知らずか、クオンも素直にドルチェの動きに従い成長を早める結果となった。
そしてホセとジミーの活躍もある。
クオンが乗馬を出来るようになることをクレオが楽しみにしていることに気付いた二人は、クオンがまず馬に乗ることになれるよう、何度も何度もドルチェを引いて歩き、時には走り、騎士の訓練よりも頑張ったと言える。
キンリー侯爵家の馬場では、キンリー侯爵家の馬の世話係達が「クレオお嬢様のお婿様の為だ!」と一致団結してクオンの教育に力を注いだ。
そのお陰もあっての今のクオンである。
決して一人では成し遂げられなかった成果ではあるが、無意識でイチャつく二人がどこまで陰の功労者に気付いているかは、誰にも分からなかった。
「クオン、せっかく馬に乗れるようにもなりましたし、次の休みは乗馬で少し遠出でもしてみますか?」
父に頼み陰の護衛を付けてもらえば、遠出も問題なく出来るだろう。
今はいろんなことが合って二人きりでのお出かけとはいかないが、それでもクオンとデートができる。
顔には出さず何でもない風を装っているが、人生初めての出来事に向けクレオの胸は既にドキドキと五月蠅かった。
勿論クレオはユーリとアンセルへの相談も終えている状態。
あとはクオンの返事待ち。
第一騎士団第五部隊長クレオ・キンリーは私生活でも抜かりは無かった。
「うん! 遠出したい! 僕、クレオとお出かけしてみたかった!」
喜ぶクオンはとても可愛い。
目を輝かせニコニコとする様子は胸にグッとくるものがある。
よし! 掴みはオッケーだ! と心の中で握り拳を作り、クレオは不自然ではないように声を掛ける。
「んんっ、では週末にでも近場の湖にでも出かけましょうか?」
「うん! あ……でも……」
「どうかしましたか?」
喜んだクオンが何故か突然俯いてしまう。
どうした湖は嫌なのか? と不安になっていると、もじもじと上目遣いに見つめられてしまい激しく胸が鳴る。
「あの、お出かけ、お泊りしたい!」
「えっ?!」
「クレオと新婚旅行、行ってない、だから、近くでもいいから、クレオとお泊りしたい!」
「と、泊り……?」
「うん、きっとクレオと一緒なら楽しい、夜まで二人でゆっくり過ごしたい、ダメ?」
「ーーうっ……」
瘴気による魔獣化の原因は未だ分かっていない。
それにクオンの力の希少さなど、出かけるにしては問題が多い。多すぎる。
何よりクオンはあの夜会の影響もあり貴族たちに注目されている。
だから泊りは危険、クレオはそんなことは十分に分かっている。
けれどクオンと新婚旅行に行っていないことも本当で、結婚当時はそんなことに興味は無かったけれど、今は違う。雰囲気の良い場所でクオンと二人きり。どう考えてもそれは至福でしかない時間だった。
(うん、誰にも言わずひっそりと出かければバレないのではないか?)
普段冷静なクレオであっても、そんな愚かな考えに行きついてしまうのは当然のことだった。
「んんっ、そ、そうですね、父に相談してみましょうか? 護衛を付ければ、泊りも可能かと……」
「本当?! なら、お父さん説得僕がする! クレオと想い出僕が欲しいから!」
「--くっ……」
楽しみだと子供のようにはしゃぐクオンを見れば、父も許可するしかないだろうと分かる。
こんなにも旅行を楽しみにしている可愛いクオンに「否」と言える人間などこの世界にはいないはずだ。
いや、もしいたらそれは心のない魔獣か悪魔ぐらいだろうか。
自分に似た父では絶対に「ダメ」というのは無理だろうなとクレオには勝算があった。
「クレオ、今から行く? お父さんとこ」
「フフ、そうですね、今から行って驚かせましょうか? ああ、そうだ、せっかくなので馬車ではなく乗馬で向かいますか?」
「うん! ドルチェで行く!」
クレオとクオンはルナリアとドルチェに乗り、キンリー侯爵家へと向かう。
軍馬であるルナリアの方が体躯が良いため少しクレオの方が高い位置となるが、クオンを見下ろす形は新鮮で、そんな普段とは違う小さなことでもで楽しいと感じてしまう。
(きっと旅行へ行ったらもっとたくさん楽しいことがあるだろうな……)
屋敷の外へ出て道を進めば、ドルチェに乗るクオンの顔は真剣なモノへと変わる。
人々が行きかう街中はまだ少し緊張するのだろう、肩に力が入っているようだ。
「ヒンッ」
「ドルチェ、何? どうした?」
「ヒヒンッ」
「えっ? 何だろ? 緊張するなって言ってる? それはちょっと無理。だっていつもはホセとジミーが横にいるんだもん、今日は僕一人だからね」
「ヒュン……」
まるで情けないとでも言っているようなドルチェの声色にクオンは苦笑いだ。
お前ならもう乗りこなせるはずだ。
クレオにはそう励ましているようにも見えるが、クオンは気づかず緊張気味だ。
「クオン、目線をもっと前に、普段の乗り方を思い出して下さい」
「う、うん、そうだね……分かってるけど、人が多い時間、キンチョーする~」
「フフフ」
ドルチェならば人とぶつかることなどないのだが、それでも護衛のいない馬乗りは初めてで、クオンの緊張は乗馬で十分の距離にあるキンリー侯爵家へ着くまで解けなかった。
「二人で旅行? それは流石に危ないだろう……」
キンリー侯爵家へ着くと、父アトラスは丁度休みを取っておりすぐに対応してくれた。
最悪母と姉との長~いお茶会を行い、夜まで旅行の話は父には出来ないだろうなと思っていたが、屋敷に父がいてくれたことでクレオはホッとする。
クレオとは違いクオンは母と姉とはすっかり仲が良く、二人の話す令嬢らしい会話の内容に苦はないようだ。
きっと姪のアリスの影響からだろう、クレオに似合うドレスの話や似合う色の話を何度もされても飽きもせずに楽しそうに相手をしてくれるのだ、クオンには感謝しかない。
きっと二人の相手がクレオだったならば「何でもいいと思います」と答え、二人から長~いお説教を食らうところだ。
それに料理をするクオンは美に関する情報も持っていて、肌に良い食べ物の話や、顔面マッサージなど、二人に教え好評を得ていた。
そんなこともあるからだろう、クオンのお願いに二人は全面的に味方の様で、父が危ないと注意する姿を厳しい目で見ていた。
「お父さん、ダメですか? クレオのこと僕守る、怪我絶対にさせない、約束する」
「うっ……いや、その……」
クオンのお願いに父が一瞬で揺れるのが分かる。
クオンはその可愛い容姿を利用している訳ではなく無意識なのだろうが、お願いと手を組んで懇願する姿には胸を打つものがある。
それを正面で受けている父は物凄い衝撃だろう。
眉間に皺を寄せているが、見てはいけないと目が泳いでいるのが分かる。
クレオは笑いだしそうなところをグッと我慢した。
「あなた、いいではないですか、クーオン様の初めてのお願いですよ!」
「いや、グレース、だが外は危険が多くてだな……」
「まあ! お父様、そんなことを言っていてはクーオン様は一生外へ出られませんわ! 監禁するおつもりですか?」
「オーロラ、それはそうなのだが、それでも旅行は……」
「あら、あなたはキンリー侯爵家の騎士の力を信じていないのですか? 主ですのに……」
「そうですわ、お父様! クーオン様のことはキンリー侯爵家の騎士が守るのですよ! 何の危険があると言うのですか! それにクーオン様の傍には一流の騎士であるクレオがいるのですよ! お父様は娘のことも信じていないのでしょうか? あんまりですわ!」
「いや、それは……」
二人に責められてタジタジの父の姿は面白い。
クオンと結婚するまでは、自分の家族のこんな姿をクレオは知らなかった。
祖母のことがあり家族を避けていたという理由もあるけれど、クレオ自身が知ろうとしなかった。
父は厳格な男であり、母や姉は貴族らしい女性だと、そう決めつけ遠ざけていた。
だから今、家族との接点を取り持ってくれたクオンには感謝しかない。
家族の知らなかった一面を知れて、クレオもやっとキンリー侯爵家の娘に戻れたようだった。
「お父さん、ダメ? 僕、いい子出来るよ」
「うっ……」
クオンの最終奥義に父が言葉を失う。
潤んだ瞳は魅惑魔法。抗えないのだろう。
今こそ押し時だと、母と姉から視線による指示が入る。クレオはそれに頷き、父に再度願い出た。
「父上、旅行の場所は近場の湖を選び、キンリー侯爵家の別荘に泊まります。それとクオンとは部屋を同じにしますし、この旅行のことはここにいる家族以外誰にも伝えないと約束をします」
「ん? まて同じ部屋だと?」
「はい。それとキンリー侯爵家から派遣される騎士の言葉も守りますし、クオンを決して一人にはしないと、どんな時も離れないと約束も致します」
「どんな、時も?」
「ええ、ですから旅行の許可をお願い致します。クオンをこのまま小さな屋敷に閉じ込めておいては城を出た意味がない。キンリー侯爵家が全力でクオンを守ると王家に約束したのです。クオンの小さなお願いなど簡単に聞いて上げられるだけの、キンリー侯爵家の力お見せ下さい、お願いします!」
「お父さん、僕も、お願いします!」
「あなた」
「お父様」
クレオとクオンが頭を下げ、母と姉に願われては、父ももう駄目とは言えない。
大きなため息を吐いた後、仕方がないなと頷いてくれた。
「クレオ、クーオン様、必ず護衛の言葉を守ると約束して下さい、良いですね」
「はい、僕、約束する」
「父上、必ず守ります」
やったーと喜ぶクオンと共に嬉しそうに笑顔を浮かべるクレオを見て、娘の幸せそうな姿にアトラスの心の中には喜びが広がっていくものの、疑惑も広がっていく。
(白い結婚……のはず……だよな?)
ただその疑問を父親が娘に聞く訳にもいかず、かといってクオンを問いただす訳にもいかず、アトラスは笑顔を浮かべながらも、どうなのだろうか……と言えない悩みが大きくなるのだった。
皆様こんにちはー、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、良いね、評価など応援もありがとうございます。
クレオもクオンもお出かけを前にはしゃいでいます。
気持ちは分かる、私も出かけたい。




