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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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昔ばなし

「ペンダント、凄く綺麗ですね……魔石なのに宝石の様です」


 クオンにプレゼントされたペンダントの魔石部分を触り、クレオが嬉し気に呟く。

 気持ちが高ぶってクオンを抱きしめてしまったが、クオンの様子がいつも通りでクレオは内心ホッとしてもいた。


「クレオに似合うと思う」


 本当ならば君の方が綺麗だよとか、君の美しさの前では宝石もただの石だよとか、そんな気の利いたことを言えればいいのだが、クオンにそんなスキルがあるはずもなく「クレオ、綺麗」というのが精一杯。


 それでも「有難うございます」とクレオは嬉しそうに微笑んでくれて、お酒のせいか頬も赤く染まっているように見えて、クオンはプレゼントして良かったとホッと胸をなでおろした。


「キーラン先生と実験した、魔石空だと、魔法弾く、クレオ守れる」


「えっ? この魔石が魔法を弾くのですか? えええっ、それは凄い発見ですね」


「うん、キーラン先生凄い、良く気づいたよねー、そんけーする」


 凄いのはそんな魔石を作れるクオンの方なのだが、クレオがキーランを褒めていると勘違いしたようだ。

 それだけは絶対にありえないのに……クオンはどこまで行っても純粋なクオンのままだった。


「あの、クオン……良かったら着けてもらえませんか? せっかくなので……」


「えっ? うん、任せて、簡単だから、僕が着けるね」


 クオンがペンダントを手に取り、クレオの首にそっとかける。


 簡単な作りになっているペンダントは、クレオの騎士としての仕事を邪魔しないための気遣いだ。

 首にかけていてもすぐに取れるように、何かに引っ掛けても怪我を負わないように。


 そんなクオンの心遣いが装飾品からも見て取れて、まるでクオンの優しさに包まれているようで……


 お酒の力もあってか、クレオの本音がポロリと漏れる。


「クオンともっと早く、出会っていたかったです……」


「うん?」


「子供の頃からクオンの傍にいられたら……こんな私でも()()()()()になれたかもしれません……」


「クレオ?」


 小さな声で漏れた言葉は、両親にも姉にも相談できなかったクレオの秘密。


 それはクレオの心の傷であり、今でも思い出すと胸を痛める棘でもあって……


 クレオを縛り付ける呪いのようなものでもあった。


 でもだからこそ、クオンに、優しい彼に聞いて欲しいと、そう思ってしまった。


「クオン、少し、私の昔ばなしに付き合って頂いても宜しいですか?」


「うん……? うん、勿論いいよ」


「有難うございます……」


 様子が変わったクレオに心配げな視線を送りながらも、クオンはクレオの言葉を待ってくれる。

 優しいクオンの愛情を感じながら、クレオは誰にも言えなかった傷を今初めて口にした。


 クレオは侯爵家の次女。

 長女のオーロラは王家が持つ金色の髪を持ち、明るい緑色の瞳も持っていて、その上見た目も女性らしい顔つきで、文句なしに可愛らしく生まれたため祖母の自慢だった。


 少女に成長したオーロラは祖母の望み通り、令嬢らしく可憐で優しい子に育ち、微笑むその笑顔は妖精のように美しく、その上勉強も良く出来て、侯爵家の令嬢として立派な姿を見せていた。


 けれどクレオは生まれた瞬間に祖母に嫌われた。

 いや呆れられた、という言葉が正しいのかもしれない。


 クレオは平民のような赤茶色の髪を持ち、瞳の色は姉と同じ緑色だがずっと色が濃く、気の強さを感じさせるものだった。


 その上成長したクレオは、令嬢に必要な作り笑顔が苦手で常に仏頂面。

 女性にしては肩幅も広く、フリルの多いドレスはダボついて見えて似合わない。


 ピンクや黄色、若葉色など、令嬢が好む淡い色のドレスはどれもクレオには似合わず、落ち着いた色が一番しっくりくるという地味な容姿。


 何より祖母は、姉の次には男の子が欲しかった。

 望んだ跡取りが生まれたかと思ったら、出来損ないの孫娘。


 愛嬌も無く冷たく見えるクレオは、生まれた瞬間にハズレのレッテルを張られ、姉のように祖母のお気に入りにはなれなかった。


 だからだろう、祖母は誰も家族が見ていない、傍にいない時に、クレオのきつく当たった。


「……私と王太子であるデーヴィッド様の年齢差は二つ、私が()()()()()として生まれていたら、婚約者になれる未来もあったかもしれない……だから祖母は尚更悔しかったのだと思います、幼い私に当たらなければ我慢できない程に……」


「クレオ……」


 クレオは勉強は良く出来た。

 そこだけは姉に負けなかった。


 頭もよく、運動神経も良く、可愛らしさはないがそれなりに美人。


 だから祖母はますます悔しさが増したのかもしれない。


 クレオとオーロラの生まれが反対だったら良かったのに……


 そんな祖母の願いは言葉の刃となり、幼いクレオを傷つけた。


「はあ、オーロラならばデーヴィッド様のお心を掴めたのに……クレオでは絶対に無理ね。私でさえ女とは思えないもの……デーヴィッド様の目に止まるはずがないわ」


 そんな言葉を何度も口にされ、顔を見るたびに溜息を吐かれた。


 クレオの劣等感はどんどん積み上がり、尚更笑えなくなり、気の利いた言葉も話せなくなって行った。


「祖母は家族の前では優しく、私にも普通に接してくれました。贈り物も姉と差を付けることはありませんでしたし、笑顔で渡してもくれました」


 けれど贈り物に何が欲しいかとは聞いてもらったことは無く、常に姉が欲しい物を祖母は選び、その色違いをクレオに贈った。


 それに何かあれば姉のことは抱きしめ、祝いの言葉を述べても、クレオに同じことはしなかった。


 触りたくはない。

 汚らわしい。


 そう言われているような気がして、クレオは自分のことがどんどん嫌いになっていった。


「もしかしたら私は、強くなりたかったのかもしれません……」


 祖母にそんな扱いをされる日々の中、クレオは剣を持つ騎士に憧れを持った。


 運動神経の良かったクレオは剣を持ったその日に才能を見せることが出来、馬も姉よりもずっと上手に乗りこなし、クレオ自身が騎士になりたいと、いつしかそう望むようになった。


「キンリー侯爵家の娘が騎士になるですって?! 冗談じゃありません! これ以上私に恥をかかせないで頂戴!!」


 祖母はヒステリックに怒った。

 この時ばかりは人目を憚らずクレオを罵った。


 これまで普通じゃないと、可愛い女の子じゃないと、散々クレオを卑下していたくせに、男性に交じり騎士になることを祖母は頑なに許さなかった。


 両親も反対は同じで、クレオが傷つくのは見れないと、騎士の道を諦めるように言ってきた。


 けれど祖父は祖母の様子を見て、初めて違和感を感じたようだった。

 いや、祖父はもしかしたら前々から自分の妻の可笑しさに気付いていたのかもしれない。

 クレオへ向ける顔は笑顔で合っても瞳には憎しみが籠っていたのだ、ずっと傍にいる夫が気づかないはずがなかった。


 それに乳母であるエラが辞める前、祖父に「クレオが祖母に怯えている」と不信感を伝えてくれていたのだろう、祖父はクレオの為に動いてくれた。


「祖父は私が望む騎士の道へ進めるようにと、陛下にお願いして下さったのだと思います。未来の王妃(息子の妻)の護衛になって欲しい、陛下にそう言われてしまえばもう祖母も何も言えません。両親に認められ祖母が諦めてくれた瞬間、私はやっと自分の未来が見えた気がしました」


 そんなこともあり、騎士学校へ通いだしたころからクレオは実家へ戻ることが少なくなった。

 祖母と顔を合わせたくなかったし、怪我を心配する両親や姉の顔を見るのも辛かった。


 それに年頃になったことで、両親から結婚の話を持ち出されることも嫌だった。


「祖母が亡くなった時、私は泣きませんでした。正直ホッとして安堵する気持ちが強かったのを今でも覚えています……フフフ、本当に酷い孫ですよねぇ……祖母に嫌われて当然です。私は元々家族愛が乏しいのかもしれません……祖母のことは今でも好きにはなれませんから」


 騎士学校での生活も、王城での騎士としての生活も、どんなに辛いことがあっても心は楽だった。

 陰口を言われることはあってもそれは女らしくないと言われるだけ、散々祖母に言われ続けてきた言葉だっただけに、そんな事始めから知っていると開き直ることが出来、もう何を言われても傷つくことは無かった。


「でもクオン……あなたに会って、私は自分の心に気付きました。私は本当は祖母に可愛いと、可憐だと、女の子らしいと、そう言って貰いたかったのかもしれません……」


「クレオ……」


 クオンは初めて会ったその日から、クレオを女性扱いし、カッコいい()()()だとそう言って褒めてくれた。


 その上自分の前でだけはクレオは「可愛い女の子」でいいと、そうも言ってくれた。


 それがどれほど嬉しかったか……


 クオンを好きになるには十分な言葉だった。


「私が結婚をしたくないという気持ちが強かったのも、私を女性扱いしてくれるような人はいないと、諦めていたからかもしれません」


 学生時代からの友人、アンセルやユーリだってクレオを女性扱いなどしない。

 それが楽であったけれど、やっぱり自分は()()()()()()()()なのだと、祖母に言われた言葉を肯定させられた気がした。


「フフ、きっと私は我儘なのでしょうね。可愛くなんて出来ないくせに、心の中では女の子扱いされたいとそう思っているのですから、質が悪いのです……」


 クスッと小さな笑みを浮かべるクレオはとても儚げで美しく、クオンには綺麗な女性にしか見えない。


 けれどきっと祖母の言葉はクレオを苦しめ、自信が無くなるほどの棘を刺し続けたのだろう。


 幼いころのクレオを想うと、クオンの心も酷い痛みを感じた。


「クオン、私と結婚してくださって有難うございます。貴方と出会えて、私はとても穏やかで楽しい生活を送れています。貴方がエスコートして下さる度、私も守られるべき令嬢のように感じられますし、貴方が美味しいご飯を用意してくれる度、私のことを想ってくれていることを実感出来て、嬉しいのですよ」


「クレオ……クレオ、僕……」


「フフフ、そんな顔をしないで下さい、クオン。祖母の話が出来るようになったことも、クオンのお陰なのですから」


「……」


 泣きそうな顔になっているクオンの頬に、クレオはそっと触れる。

 この優しい夫君は偽物の妻であるクレオのことを、どこまでも心配し癒してくれる。


 両親や姉に打ち明けられなかった秘密をクオンに話せた理由だって、クオンが絶対に自分の心に寄り添ってくれる、そんな自信があったからだと思う。


「クオン……私の夫になってくれて有難う。貴方のお陰で心が救われました。私は今、とても幸せです」


「クレオ、僕の方、僕の方が、救われた。クレオが僕に居場所作ってくれた。僕の価値、見つけてくれた。クレオがいて幸せ、僕の方!」


「クオン……ーーっ!」


 お酒の力があったからだろう、クオンはクレオの手を引き抱きしめた。

 クレオも嫌がることなく引き寄せられ、クオンの肩に甘えるように頬を乗せる。


「クオン、ありがとう、大好きですよ……」


 小さな小さなクレオの呟きは幼い子供の泣き声の様で、二人きりのテラスではその声は良く聞こえ、クオンの腕に力が入る。


「クレオ、僕もクレオ好き……クレオ大事……」


「ええ、知っています、フフフ……」


 月夜の下、二人の想いは重なった。

 暫く二人は抱き合ったまま、お互いの存在を大事なものだと確かめ合い、忘れられない時を過ごしたのだった。

おはようございます、夢子です。


クレオの過去のお話でした。

告白し合っているように見えますが、恋の告白ではなく友人としての「好き」だとお互い思っています。


実はクレオは祖母に似ています。

だから尚更祖母は許せなかったのかもしれません。

コンプレックスを見せつけられている気がしたのでしょうねー。

クレオは十分に美人で、優秀な令嬢です。

祖母がいなければもっと可愛らしい令嬢に育っていた可能性はありますが、その場合クオンとは結婚していなかったと思います。

それでは作者が困るので許して下さい。

クレオのことは幸せにしますから。

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