クオンの訓練
王城訪問を終えたクオンは、ディーヴィッドとキーラン、そしてアトラスたちの話し合いの結果をクレオから詳しく聞き衝撃を受けた。
王城での披露会。
聖女であるアリスなら分かるが、正直(何故自分まで?)と思ってしまった。
魔石の魔力を弾くことが出来るクオンはとても珍しい存在らしく、能力はともかく貴族にはその存在を紹介する必要が出来たらしい。
本来ならばクレオとの結婚を境に、ひっそりと表舞台から消え身を隠す予定だったのだが、残念ながらそうは行かなくなった。
もしこのままクオンの能力を隠していれば、露見した際王家が苦境にさらされるのは目に見えている。
国の為に尽くす王家が、何故何も使わず報告も怠ったのかと、教会だけでなく、王家を支持しない貴族家からも必ず不満をぶつけられる、それが分かっていた。
『うん、分かるよ、分かるけどさー、ダンスって何だよ、それも人前で踊るのが人生最初って……俺からしたら拷問に近いお披露目会なんだけど……』
今ならパンダの気持ちが分かる。
人目にさらされても可愛らしさを失わない彼らは、クオンの中で英雄に変わった。
『俺は今日からパンダだ。パンダ様に乗り移っていただくんだ』
ぶつぶつと呪いの言葉を吐くクオンを見て、休日にダンスのパートナーを務めてくれるクレオが心配そうな顔をする。
「クオン、どうしましたか? 何か分からないことでも?」
「ん? ううん、何でもない、ダンスって難しいなって、思っただけ」
「そうですね、でもクオンは筋が良いですよ、ステップもすぐに覚えましたし」
「うん、足さばきちょっと【空手】に似てる、それだけがすくいー」
「フフ、そうですね、クオンは姿勢もいいですしね、すぐに踊れるようになりますよ」
「うん、ありがとー、頑張ってみる」
王城へ行ってから、クオンの「クレオと一緒にいたい」という気持ちが伝わったからか、クレオは笑顔が増えたし、前よりももっと優しくなってその上甘さも増した気がする。
クオンとの結婚は命を懸ける仕事なのに、クレオはクオンの望みを聞き白い結婚を続行してくれると言ってくれた。
同情や慈悲の気持ちもあるのかもしれないし、高位貴族家の使命みたいなものがあるのかもしれない。
それとおまけの男として注目される怖さを、クレオは理解してくれているのかもしれなかった。
それでも自分との結婚を選んでくれたことは、クオンからすると嬉しさしかなく。
クレオに好きな相手が出来ない限り、ずっとこのままでいたいとそう願っていた。
「キーラン先生もダンス教えてくれる、だからクレオもう休む、明日も仕事」
「……キーラン……様がクオンとダンスの練習をするのですか?」
「そう、キーラン先生何でもできる、背中とか、腰とか、使い方教えてくれた」
「ほう……それは初耳ですね……どういうことでしょうか……」
「? クレオ?」
あのキーランがクオンにベタベタべたと触ったかと思うと、クレオの中で怒りが沸く。
語学と魔法の家庭教師だからと言って、クレオがいない時間に屋敷にやって来るキーラン。
週一度の約束だった訪問が、最近では週三回だと言うのだから怒りしかない。
お披露目会をいい訳にしてクオンに近付いているのは勿論だが、クオンの料理目当てに来ている気もするし、クオン事態に興味を持っていることが分かるため、許しがたかった。
「クオンのパートナーは私ですから、今日は時間が許す限り練習を頑張りましょうね!」
「ええ? でもクレオ、明日仕事、疲れたら大変」
「クオン、私はこれぐらいで疲れたりはしませんよ、なんならクオンを抱えて踊れるぐらいです」
「ええええっ?! クレオ何言うの! 抱えるの僕、役目! クレオ軽い、任せて!」
「いえいえ、ダメです、私は重いですから、それに騎士の私はクオンを抱える役目も請け負っています」
「騎士仕事違う! クレオ重くない、抱っこして調べる」
お互い赤くなりながら、何故か手を繋ぎどちらが相手を抱えるかの戦いが始まる。
今日はクレオの休日の為、エラたちが誰もいない中での愚かな攻防。
バカップルとしか思えない戦いだが本人たちは真剣。
どちらも心の中では相手を抱えてみたいという欲があるため、譲れるはずがなかった。
「クレオ、僕、男の子! 力ある!」
「私は騎士、力でクオンに負けません!」
そんな楽しい日々の中、月日はどんどん進み、あと一週間でお披露目会を迎えるという日となった。
そしていつも通り仕事へ行ったクレオを見送ったクオンは、ホセとジミーを共に庭にいた。
「今日は実験します! ホセ、ジミー宜しく!」
「宜しくって……クーオン様、外で魔法使ったらキーラン様に怒られますよぉ」
「そうです、クーオン様、いけません。それにクレオ様が知ったらなんとおっしゃるか……いい子ですからお家に戻りましょう、お部屋で大人しくしていましょうね」
「……魔法違うもん……」
「「……」」
二人に向け握り拳を作ったクオンを見て、ホセとジミーが困り顔になる。
実験とは何をするかは分からないが、キーランからもクレオからもクオンの行動はちゃんと見守るようにと言われている二人。
普段は家事に忙しく、最近はキーランとの勉強に忙しいクオンだったけれど、今日はまるでクレオとキーランの二人の目を盗んでの行動に見えて、確信犯に思えて仕方がない。
一体何をしでかすのかと不安になっている二人の前、クオンはいたずらっ子のようにニヤリと笑った。
「だいじょーぶ、二人言わなきゃバレない、僕たち三人秘密」
「クーオン様……」
「それ、尚更叱られるやつですから」
「フフフ、だいじょーぶ、危ないことしない」
「それ、ダメなやつですよ」
「子供の言い訳みたいですから」
「フフフ」
クオンになれてきたホセとジミーとのやり取りは、男兄弟が出来たようで楽しい。
クオンと年の近いジミーは兄の様で、クレオと年の近いホセは弟の様。
ただ二人ともクオンよりずっと背が高く、見上げるしかない体躯を持っているので、二人からはクオンこそが弟のように思えているかもしれないが、それでも楽しいやり取りであるのは確かだった。
「じゃーん、これを使います、エラに貰った」
「「……」」
革ひもと工具、そして細かい金具などを取り出し、庭にあるテーブルに置いてみせるクオン。
そしてどこにでもある小さな水の魔石、それも使いかかけのものを取り出すと、クオンが前触れもなく魔石に触りパチッと音をさせた。
「クーオン様!」
「お怪我は?!」
「だいじょぶ、だいじょーぶ、痛みなーい、フフフ」
心配するホセとジミーに笑顔を向け何でもないというクオンだが、その手の中には信じられないものが出来上がっていた。
透明な色の魔石。
なんの魔力も入っていないあり得ない魔石。
一瞬であり得ないものを作りだしたクオンに驚きながらも、ホセとジミーは護衛の為あたりを警戒する。
これを誰かに見られたら……
クオンがどうなるかは二人にも想像がついた。
「そしてこれを刺しまーす」
二人の心配をよそに、Tピンと呼ばれる金具を透明な魔石にぶっさすクオン。
そんな事出来るはずがないのにと言葉が出かかるが、先ほど見た出来事でその言葉は飲み込めた。
硬いはずの魔石にクオンは何の苦労もなくピンを刺す。
「そしてー、革ひもを結びまーす」
見ていてもどう結んでいるのか分からない複雑な動きをし、クオンが革ひもを綺麗に結ぶ。
するとものの数分でペンダントだと分かる装飾品が完成した。それも未知の品と呼べる装飾品。
二人の背に嫌な汗が流れた。
誰に渡したいのかは聞かなくても分かる。
非モテな二人は内心ちょっと羨ましかった。
「どう? クレオ、喜ぶ思う?」
「……絶対に喜びますけど……」
「なんで俺たちに見せたんですか……」
目を覆いたくなるような奇跡の出来事。
クオンの護衛であることは誇りでもあるが、少しだけ秘密の多い第一騎士団の苦労が分かる気がした。
「フフ、男同士の秘密、クレオ一緒に驚かそ、ね、ジミー、ホセ」
「「……」」
ワクワクした顔で可愛いことを言うクオン。
けれどクオンと秘密を共有していることをクレオに知られれば何と言われるか、それにクオンを可愛がっているキーランも怖い、魔法で攻撃されそうだ。
「……分かりました、男同士の秘密ですね」
「俺も黙ります、ってか、怖くて誰にも言えないですけどね……」
クオンがクレオに装飾品を渡したいという男心も十分に分かってしまうホセとジミー。
なので秘密の共有には頷くことしかできなかった。
「じゃあ、次、二人の作るね、賄賂」
「「えっ……?」」
「二人のは【キーホルダー】にするから大丈夫、クレオのとは別」
「「いやいやいや」」
なんでそんな希少なものを自分たちに作ろうとしているのだ。
というか賄賂なんて言葉誰に習ったんですか?!
悪の根源はキーランか? キーラン様なんですか?!
クレオに作ったペンダントを渡す前に、ホセとジミーには今日のうちにキーホルダーを渡すのだという。
すぐに見つかる未来しか見えない二人は、クオンを全力で止める。
「クーオン様、せめてクレオ様に渡してからにして下さい」
「クーオン様、お願いしますよ、俺まだ二十歳なんですよー、長生きさせて下さいよー」
「え~」
ホセとジミーのお願いに仕方がないと笑って頷いたクオンは、男同士の秘密を楽しんでいるようで、ちょっとどころかかなり厄介な護衛相手だとそう思った二人だった。
こんばんは、夢子です。
宜しくお願いします。




